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駄菓子屋ヤハギ 異世界に出店します  作者: 長野文三郎
第三部

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ジェノスブレイカー


「ユウスケ、起きて」


 ミシェルの声で起こされた。

場所は二人の寝室で部屋の中に明かりはない。

窓の外もまだ暗いようで、ミシェルの輪郭がかろうじて見えるくらいだ。


「どうしたの、もう朝?」


 俺の寝起きはいい方だが、体はまだ睡眠を求めている。

きっとまだ早い時間なのだろう。

でも、ミシェルが俺を起こすなんて珍しいな。

大抵は寝顔を見守っているらしいのに……。


「ユウスケ、聞いて。ほら、雨が降っているわよ!」


 雨? 

雪じゃなくて雨……。

なるほど、パラパラと屋根を打ち付ける雨音が響いている。


「そうかあ、いよいよ春だなあ……」


「それだけじゃないの。よく聞いてみてよ」


「ん~…………」


 ゴロゴロゴロゴロ……。


 俺はベッドの上で跳ね起きた。

微かだったが遠くで雷の音が聞こえたのだ。


「ついにきたか!」


「ええ、ユウスケは千里眼を。バックアップは私がするから」


「了解!」


 ベッドの上で胡坐をかき、すぐに魔法を発動した。

半径十キロ以内の落雷地点でいちばん作業がしやすそうなポイントをリストから選んでいく。


「こっちは森の中で人が入れない。こっちは……ダメだ、時間が足りない。じゃあこっちなら……いける! ここに決定だ!!」


 最適な場所を選んだ俺は千里眼を解いた。

心臓に痛みが走りうずくまりそうになってしまう。


「ユウスケ!」


「大丈夫だ。俺のことよりも合図の鐘を鳴らしてくれ。三時間後に東の森の一本杉だ。マニさんの祠の近くの」


「わかったわ」


 ミシェルはあたふたと走り去った。

ルガンダの住民にはあらかじめ協力をお願いしてある。

雷が落ちそうになったら報せるので、そのときは駆けつけてくれるという約束を取り付けてあった。


 カーン! カーン! カーン!


 窓の外でミシェルの叩く警鐘の音が響きだした。

ここからは時間との勝負だ。

そして絶対に失敗は許されない仕事になる。

痛みをこらえながら着替えを済ませて広場へと向かった。



 まだ暗い広場には住民のほぼ全員が集まってくれていた。


「みんな、早い時間から集まってくれてありがとう。ついにゾリドの封印を解く日がきた。協力を頼む!」


 ゾリドが動くとあって人々は興奮した様子で俺の指示を待っている。


「まずは東の森の一本杉にゾリドを運ぶんだ」


 簡単に言っているけど、これはとんでもない作業なんだよね。

ゾリドの重量は百三十トンある。

例えていうなら戦車三台分だ。

これを人の力で運ぼうって言うんだからとんでもない。


 だけどここは異世界であり、俺は不思議な駄菓子屋だ。

無理は承知の相談も異世界だからそれでオッケーなのだ。


「今、ジャンボカツ入りの焼きそばを作っているから、皆はそれを食べてことに当たってくれ」


 ジャンボカツ入りの焼きそばはパワーブーストの継続時間が12分に延長されるのだ。


「それから、こちらの新商品も食べてくれな!」


 商品名:どんどこどん焼き

 説明 :ソース味のスナック菓子。

   食べるとチーム間の連携が上がる(およそ一時間)

 値段 :30リム


  このお菓子の歴史も古いよな。

祭囃子まつりばやしを楽しむ人々の様子が描かれたパッケージは子どもの頃から変わらない。

お酒にも合いそうだから、ゾンダーにもすすめてみようかな。


 みんなにはこれを食べてもらい、一本杉までジェノスブレイカーを運んで行ってもらう計画である。

荒っぽいプランではあるが駄菓子の力を信じてみるつもりだ。


「ユウスケさん、マニさんを連れてきました!」


 ミラがぽわーんとしているマニさんの手を引いてきた。

警鐘がなったらミラはマニさんを連れてくる、これもあらかじめ決めておいた手順だった。

相手がミラならマニさんも素直に言うことをきいてくれると思ったけど、予想は的中したようだ。


「どうしたのだ、ヤハギ? みんな大騒ぎをしておるのぉ。祭りか?」


「そんなところだよ。ついにゾリドが復活するんだ!」


「おお、ゾリド! ……って、なに?」


 今日はダメな日か! 

こうなったら無理にでも思い出してもらわないとならない。

ゾリド復活の鍵はマニさんにかかっているのだ。


「ミラ、何とかしてくれ」


 懇願するとミラはにっこりと笑った。


「ほら、マニさん。あれがジェノスブレイカーだよ」


「おお! また凶暴なゾリドを掘り出したな。大昔のゴルゴドンくらいにしておけばいいのに……」


 あんたが出したんだろうが! 

心の中でツッコミを入れたが、ミラの邪魔をしないように口には出さなかった。

ふむ、もう記憶が戻ってきたようだな。


「今から雷を利用してエネルギーパックに魔力を注ぎ込むんですって」


「うむうむ、それはいい。じゃが、このゾリドは凍結中のようじゃぞ」


「そうなのです。だから時間になったらマニさんに解凍してほしいのです」


「解凍して三十分以内に魔力を循環させてやらないとゾリドの金属細胞が深刻なダメージを受けてしまうのじゃが、大丈夫じゃろか?」


「ユウスケさんが占いで雷が落ちる場所を特定してくれましたよ」


「そうか、そうか。では時間を合わせて解凍することにしよう」


 よっしゃあ! マニさんの方はクリアだな。

ミラについていてもらえば何とかなりそうだ。


 ジャンボカツでパワーアップ、どんどこどん焼きで連携を取り、俺たちはジェノスブレイカーを一本杉のところまで運びきった。



 一本杉からケーブルを引いてエネルギー変換装置に接続した。

そこからまた線を引いてエネルギーパックを装填したジェノスブレイカーにつなぐ。

これで雷のエネルギーが魔力に変換され、1.21ジゴマットという大量の魔力がジェノスブレイカーに流れ込む仕組みだ。

すでにジェノスブレイカーは解凍済みで、すべての準備は整った。


「全員、一本杉とジェノスブレイカーから離れるんだ。感電する恐れがあるぞ!」


 住民たちは青い顔をして後ろに下がるが、家に帰ろうとする者は一人もいない。

バリバリと轟く雷の音に首をすくめながらも、興奮しながらゾリド復活のときを待っている。


 雨は時間とともに激しさを増し、風もどんどん強くなってきた。

まさに千里眼で見たビジョンと同じだ。

これならきっと……。


「そろそろ時間だぞ!」


 ブーンという耳鳴りがして、肌にピリピリとした感触が走った。

いたるところに帯電の兆候が表れている。


 だがそのとき、太い枯れ枝が一本杉と変換器をつなぐケーブルの上に落ちてきた。

そしてあろうことか変換器からケーブルが外れてしまったではないか。


「もう!」


 ミシェルは変換器に向かって走り出した。

俺も慌てて後を追う。


「無理だミシェル! もう時間がない」


「ダメよ! 必ずつなげてみせる!」


 ミシェルはケーブルの端を持って変換器へと取り付けようとしているが、のしかかっている枝が邪魔をしていている。

時間がないことは明らかだった。

こうなったらこのお菓子で!


 商品名:ダラダラしてんじゃねえよっ!

 説明 :魚のすり身を使ったお菓子。食べると体が金属化する。

 値段 :50リム


 魔物の強力な攻撃に対処するときに食べる冒険者が多いそうだ。

体が鉄の塊のようになるのでドラゴンのブレスに晒されてもびくともしなくなると聞いた。

これさえ食べれば雷だってしのげるだろう。

金属なら電気をうまいこと流してくれるかもしれない。


「ミシェルっ!」


 こちらを向いたミシェルに口移しで駄菓子を食べさせる。

驚いた表情のままミシェルが金属化していくぞ。

俺ももう動くことはできない。


 次の瞬間、凄まじい音と光の奔流が空気を切り裂き、稲光が一本杉を縦に裂いた。

怒涛のエネルギーがケーブルに流れ込み、俺たちの体を介して変換器に注がれた。

そして変換された魔力がジェノスブレイカーに注ぎ込まれる。


 熱のためだろう、変換器もジェノスブレイカーも赤く燃えているようだ。

人々が恐怖の叫び声を上げる中でジェノスブレイカーの目が光った。


 ギャオーーーーンッ!!


 ジェノスブレイカーの咆哮に森の針葉樹が震えている。


「ついに、復活したのか……?」

「ふぉっふぉっふぉ、久しぶりじゃのぉ……」


 誰もが恐れおののく中で、マニさん一人だけが満足げな笑みを顔にたたえていた。


「やったね、ヤハギさん!」


 メルルが祝福してくれる声が聞こえたけど、俺たちは動けなかった。

住民全員が注目する中でキスをしたまま鉄の塊になっていたから……。


 もうね、恥ずかしくて死にそうだよ。

ただ、絶対にミシェルは喜んでいる気がする。


 ギャオーーーーンッ!!


 雷鳴がとどろく雨の中でジェノスブレイカーは元気だった。



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― 新着の感想 ―
[一言] ジェノスブレイカーに恐れ戦く冒険者たちは異次元の天使だった……?
[良い点] 遂にジェノブレイ···じゃなかったジェノスブレイカー復活ですね! きっとこの世界ではバーサー○フューラーの噛ませ犬にはされず、その鋏で駄菓子屋ヤハギの敵を真っ二つにしてくれるに違いない!
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