そろいつつある素材
ドロップアイテムの買い取りが始まり冒険者たちが目の色を変えている。
特に高額のメタルゴーレムの心臓は人気があるようだ。
おかげでこんな駄菓子がよく売れる。
商品名:コンパスチョコレート
説明 :粒チョコレート入りコンパス。
方角がわかるだけでなく、巨大な金属が動くと針が振れて居場所がわかる。
振動で反応を伝えてくれる他、手元を照らすランプ機能付き。
値段 :100リム
いろいろな機能がついて100リムという安さもあり、非常によく売れている。
食べるだけでなく入れ物で楽しめるというのが受けるポイントだろう。
色やデザインも複数あり、熱心なコレクターは全種類をコンプリートしているようだ。
メタルゴーレムは強力なモンスターだけど、みんながこぞって探している。
必要な素材が集まる日もそう遠くないだろう。
だが救護室の先生は文句たらたらである。
「まったく、怪我人が増えて迷惑な話よ。自分たちの実力も考えずに挑むバカが多くて困るのよね。治療するこっちの身にもなってほしいわ」
メタルゴーレムは強力だが動きは緩慢だ。
チャンスがあるかもしれないと挑戦するルーキーは後を絶たない。
大抵は手に負えず逃げ帰ってくるのだが……。
「そう言うなよ、ティッティー。メタルゴーレムの心臓が手に入ればジェノスブレイカーだって動くんだから。後で焼きそばを差し入れしてやるから頑張れ」
「そんなジャンクなもの……。飲み物もつけてよね」
「わかった。ミカン水でいいか?」
「うん、ありがと……」
こんなことを言ったら二人とも怒りそうだけど、照れ方が少しだけミシェルに似ている気がする。
ティッティーは忙しくなってしまったようだが頑張ってもらわなくてはならない。
差し入れの焼きそばは大盛りにしてやることにした。
お昼が近くなったのでティッティー先生に焼きそばを差し入れにいくことにした。
救護室は地下二階の中心部にあるので、一人で行くことに一抹の不安がよぎった。
今からダンジョンへ潜る冒険者がいたら同行させてもらおうと思ったけど、こんな日に限って一人もいない。
ミシェルもすでにダンジョンの奥地だ。
「仕方がない、一人で行くか……」
ぼやきながら簡易プロテクターを身につけた。
それから駄菓子やおもちゃも各種用意する。
モンスターカードやロケット弾もあるから大丈夫だろう。
万全の態勢で救護室へと向かった。
地下二階の通路を歩いていると、不意にポケットの中で何かが振動した。
入れっぱなしにしてあったコンパスチョコレートが反応しているようだ。
確認すると、近くにメタルゴーレムがいるようで振動はかなり強くなっている。
そういえばメタルゴーレムは見たことはないんだよな……。
好奇心がむくりと頭を持ち上げた。
手持ちのモンスターカードはブラックパンサー(R)が一枚ある。
素早い動きと強靭な牙と爪を持つ強力なモンスターだ。
ブラックパンサーと一緒ならメタルゴーレムを討ち取れるだろうか……?
勝算はなくはない。
それにこのまま通路を進めば他の冒険者にだって出会えるかもしれない。
とりあえず様子を見に行こう。
メタルゴーレムの心臓はドロップ率が低く、必要な個数がなかなか集まっていない。
普段なら臆病なくらいリスクをヘッジする俺だけど、今日は欲望が勝ってしまった。
コンパスチョコレートを頼りに通路を進むと、少し広くなったホールに佇むメタルゴーレムを見つけた。
他の冒険者には出会えず助っ人はいないが、やつは完全に無防備な状態でこちらに背を向けている。
抜群の攻撃と防御を誇るメタルゴーレムだが、転ぶと起き上がるのに時間がかかるという弱点もあるのだ。
ここはひとつ勝負をかけてみるか……。
俺は鞄からジャンボカツを取り出して食べた。
素早さを上げる大玉キャンディ―も忘れない。
立て続けに食べたので口の中でソースとソーダの味が混ざってしまったけど、そんなことは気にしていられなかった。
背後からメタルゴーレムに忍び寄り「パワーブースト!」の掛け声とともにタックルを決めた。
バランスを崩したメタルゴーレムは地響きを立てて地面に倒れる。
予定通りうつ伏せに倒れてもがいているぞ。
「モンスター召喚、発動! 行け、ブラックパンサー。こいつの左腕を封じるんだ!」
ブラックパンサーの爪は鋭いけどメタルゴーレムを行動不能にするほどの威力はない。
だけど、敵の攻撃をひきつけておいてくれるだけでじゅうぶんだ。
俺はとっておきの2等ロケット弾を取り出して、メタルゴーレムの股の関節部分に差し込んだ。
「退け、ブラックパンサー!」
俺たちが飛びのくのと爆発はほぼ同時だった。
小さな破片が頬をかすめたけど、たいした傷じゃない。
それよりもメタルゴーレムはどうなった?
よし! 霧となって消滅していくぞ。
後に残されたのは3万リム分のコインと魔結晶、それから……。
「おお、これがメタルゴーレムの心臓か!」
ドロップ率はかなり低いと言われるアイテムが残されていた。
高さが四十センチくらいの円筒形で、ボイラーみたいに管がいくつかついている。
側面の窓からは内部の機械構造が見えていて、いくつもの歯車やカムが動いていた。
持ち上げてみるとかなりの重量があったけど、俺には負担でもなんでもない。
天秤屋台の箪笥の上に置いて、そのまま次元の狭間に収納する。
これでジェノスブレイカーの復活にまた一歩近づいたぞ。
戦闘の興奮が冷めてくると体のあちらこちらに痛みを覚えた。
自分でも気が付かない内にいろんなところを負傷していたようだ。
ヤレヤレ、ティッティー先生に焼きそばを届けて、ついでに治療してもらうとしよう。
きっと文句を言われてしまうんだろうな。
でも、レアアイテムを手に入れられてよかった。
体は疲労で重かったけど、俺の心は軽かった。




