モンスターチップスを食いまくれ
血のように赤い夕陽が西の空を染めている。
今日は朝からずっと落ち着かない日だった。
どういうわけか悪い予感がして、胸が騒いでしかたがないのだ。
開店したばかりの天秤屋台を足で蹴ってせっかくのディスプレイを崩したり、お釣りの額を間違えて多く渡したりもした。
こういう日はろくなことが起こらない。
いつもと違うという点の極めつけはメルルで、大玉キャンディーと10リムガムで立て続けに当たりを出し、モンスターチップスではレアカードを引き当てたりもした。
「うおおおおおっ! ゴーストナイトのカードが出たぁっ!」
ただのRカードだけどメルルにしては奇跡とも言える。
「すごい……。メルル、明日死んじゃうかもよ」
「ひどいこと言わないでよね、ミラ。今日は一生に三回だけ来ると言われているラッキーデーが訪れているのよっ!」
そんな大切な日を駄菓子屋で過ごすなよ……。
それにメルルのラッキーデーというよりも俺のアンラッキーデーの気がしてならない。
「ユウスケさん、次は10リム玉チョコね! 日頃の損を取り返してやるから!」
「損って、人聞きが悪すぎるぞ!」
そんなやり取りをしていたら広場が騒がしくなった。
なにごとかと見ていると兵士の一団がこちらにやってくるではないか。
「これより鑑札の確認をする。商人たちは自分の鑑札を提示するように!」
その言葉を聞いて冷や汗が流れた。
鑑札って商売の許可証みたいなもんだよな?
俺は勝手に商売していただけなのでそんなものは持っていない。
これはまずいことになったかな?
『閉店』で天秤屋台を消して逃げることも考えたけど、メルルやミラの前で違法なことはしたくなかった。
「鑑札を見せろ」
やってきた兵士に俺は正直に打ち明けた。
「申し訳ございませんが、持っていません」
「なんだと? お前はいつからここで商売をしている?」
「かれこれ八日ほど前からです」
「本当か?」
俺だけではなく周りの常連たちも一緒に頷いてくれた。
「本来なら牢屋に入れるところだが、正直に申告したのは殊勝な心掛けだ。今回は特別に罰金を払うだけで許してやろう。今後もこの町で商売を続けたければきちんと鑑札を買うように!」
なんとか罰金刑だけで済んだ。
「世間知らずだとは思っていたけど、鑑札を持ってなかったなんてね」
メルルが呆れたように言う。
「いやあ、この地にはまだ来たばっかりだから……」
日本ではきちんと納税していたけど、異世界ではコロッと忘れておりました!
「でも鑑札料ってどれくらいなんだろう? 罰金でほとんどお金は残っていないぞ」
「たしか、露天商ならひと月12000リムでしたっけ」
そう教えてくれたのはミラだ。
「12000!? どうしよう、あと4200リムしかない……」
「あらぁ、困りましたわねぇ……」
ボッタクーロに泊まって、飯を食うくらいの金はある。
だけど明日から商売ができないのでは、いずれ干乾しになってしまうではないか。
「いい手があるよ」
「ほんとか? メルル」
「うん、この町には鑑札がなくても商売ができる場所が一つだけあるんだよ」
「なるほど、その手がありましたね」
ミラもウンウンと頷いている。
「おお、そんなところが! 教えてくれ、メルル。それはどこなんだい?」
メルルはニッと笑って大地を指さした。
何を言ってるんだメルルは?
「いやいや、ここでは無理だろう! たった今、罰金を取られたばかりだぞ」
「地上ではね」
「地上ではって……、まさか、ダンジョンの中で商売をしろってこと!?」
「そういうこと」
そういうことって言われても、俺は武器ひとつ持たない一般人だぞ……。
「なあ、ダンジョンってやっぱりモンスターが出るんだよな?」
「そらそうよ、ダンジョンだもん」
「不安だなあ……。でも入り口近くで露店を広げれば危険は少ないか」
いざとなれば外へ逃げ出せばいい。
ところが、ミラがそれはダメだと教えてくれた。
「入り口付近で商売をするのは法律で禁止されています。通行を妨げると他の冒険者からも叱られますよ。露店をするなら第二区からです」
第二区というのは入り口から500メートルくらい奥に入ったところらしい。
そこでさえたまにモンスターは現れるそうだ。
「なあ、メルルかミラが俺の護衛をしてくれるってわけにはいかないかな?」
「私でも一日に5000リムくらいは稼ぐんだよ。それ以上くれるって言うんなら考えるけど」
5000リムも払ったら俺の取り分はあまり残らない。
お客が少ない日だったら赤字になってしまうくらいだ。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。第二区のモンスター程度ならモンスターチップスのカード召喚で何とかなるはずだから」
そういえば俺はフライングスネークのカードを持っていたな。
今夜は夕飯代わりにモンスターチップスをたくさん食べて、明日の商売に備えるとするか……。
10枚くらいそろえれば一日を切り抜けられるかもしれない。
「なあ、ダンジョンに入るときは一緒についていてくれないか? 好きなお菓子を上げるからさ」
メルルとミラは顔を見合わせてからほほ笑む。
「それくらいなら任せておいて」
「途中までなら送ってあげますよ」
はじめてのダンジョンが独りぼっちでは怖すぎる。
でも、気心の知れたこの二人がいてくれれば安心だ。
鑑札がないのでこれ以上店を続けることはできない。
俺は早々にボッタクーロへと引き上げた。
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