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駄菓子屋ヤハギ 異世界に出店します  作者: 長野文三郎
第三部

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129/141

地下六階


 お昼前に店へミシェルが駆け込んできた。

冒険者はみんなダンジョンに潜っているので店には誰もいない。

普段のミシェルなら脇目もふらず俺の胸に飛び込んでくるのだが、今日はいつもと様子が違っていた。


「ユウスケ、大変よ!」

「どうした? ダンジョンで何かあったのか? ひょっとして怪我人が?」

「そうじゃないわ。でもダンジョンエレベーターがおかしいの。地下四階までしかいけないはずなのに、六階で止まっていたの。たまたま私が見つけたからよかったけど、どういうことかしら?」


 制御装置が誤作動したのか? 

それとも、誰かが設定をいじった? 

でも、設定を変更するには一定の順番でボタンを押さないとならない。

正しいコードを知っているのはごくわずかな人間だ。


 マニさんと一緒にダンジョンエレベーターの説明を受けたのは俺とミシェル、それからメルルとミラ、あとはガルムとティッティーだけである。

この中の誰かが危険を冒して地下六階へ向かったのだろうか? 

なにもなければいいが……。


 心配しているとチーム・ガルムの面々がぞろぞろとやってきた。


「腹減ったあー、ヤハギさん焼きそばの大盛りを頼んます!」


 ガルムたちは鉄板の前に陣取り、無邪気にヘラを振り回している。

もしかして地下六階から帰ってきたところか? 

俺は探りを入れる。


「おう、今日は早いんだな。もう探索は終わりかい?」

「そうじゃないんだ。さっきまで地下三階でコカトリアスを討伐してたんだけどさ、あいつ肉をドロップしたんだよ!」


 モンスターは討伐されるとお金と魔結晶を残して消えてしまう。

しかし、まれにアイテムをドロップする場合もあるのだ。


「ダンジョンエレベーターのおかげで地上に上がってくるのも楽になっただろ? だから昼飯は上で食おうってことになったんだ。コカトリアスの肉入り焼きそばにしようと思ってさ」


 俺はそっとミシェルに耳打ちする。


「エレベーターの設定をいじったのはガルムではないみたいだな」

「うん。そもそもガルム君じゃパスコードを覚えていられないわよ」


 それもそうか……。

ガルムは豪快な性格で細かいことは気にしない。

粗野だけど性格は素直だから、六階へ行きたいのなら俺に相談してくるはずだ。


「ところでガルム、チーム・ハルカゼを見かけたかい?」

「ん、メルルたちかい? あいつらなら地下二階にいるぜ」

「地下二階?」


 おかしいな。普段は地下三階より下で活動しているのに。


「今日はマルコがおやすみなんだって。安全のために二階で仕事だって言ってたぜ。そういえば救護室にティッティーもいなかったから、マルコと二人でどこかへしけこんだんじゃないか?」

「ヒュー!」


 冒険者たちはガヤガヤと盛り上がっていたが俺はそれどころじゃなかった。

まさかとは思うけど、二人で地下六階に行ったってことはないだろうな。


「ユウスケ、何かあってからじゃ遅いわ……」

「わかっている。マルコとティッティーがどこにいるか奥で確認してくるよ。店の方を頼む」


 千里眼を使うためにステッキチョコレートを掴むと、奥の座敷に入った。



   ティッティーside


 もう、なんなのよ! 

地下六階のモンスターがここまで強いというのは想定外だったわ。

私一人だったらとっくにくたばっていたかもしれない。

マルコがついてきてくれたおかげで本当に助かった……。


「ティッティー、これ以上は無理だよ。いったん引き上げよう」

「……」


 拒否の意味を込めて無言でモロッコグルトを渡した。

私の決意は固い。


「どうしても黄金像が欲しいのかい?」

「そうよ……。賛成できないというのなら、もうマルコは帰って。どうせマルコにとっては1リムにもならないことよ」


 分け前を渡すつもりはない。

だからこそ誰も誘わずにここまでやってきたのだ。


「わかったよ、ティッティー。君の好きにしていいから、最後まで付き合わせてくれ」


 マルコは私の返事を待たず、伝説の釘バットを構え直して歩き出した。

その背中に私は首を垂れる。

こんなときにさえ私は素直になれない。

死と隣り合わせの状況にありながら「ありがとう」さえ言えないなんて、やっぱり私は私が大嫌いだ。


 地図に記された部屋にたどり着くころには私もマルコもヘトヘトだった。

傷は魔法で治せたけれど、魔力はもう枯渇寸前だ。

幸い部屋にモンスターはいなかったので、ドアを封鎖すると私は床にへたり込んでしまった。


「ティッティー、最後の10リムガムだよ」


 大量に買った駄菓子だったが、そのほとんどをもう食べ尽くしている。

腕が重くて、駄菓子を受け取ることさえままならない。


「悪いけど、マルコが食べさせてくれる?」

「え? うん……いいけど」


 男って本当にバカ。

ちょっと甘えたくらいで喜んじゃって……。

でも、マルコの照れ笑いが私を幸せにする。

甘いガムが少しだけど魔力を回復して気分も楽になった。


「さあ、お宝とご対面といきましょう」


 下半身に力を込めてなんとか立ち上がり、周囲を見回した。

ちょっと見ただけでは無数に存在する普通の部屋と変わりはない。

だけど、地図通りにやってきたのだ。

ここで間違いはないはずである。


「ティッティー、見て! ここに小さな紋章が彫られている」


 マルコの見つけた紋章は指の先ほどの小さなもので、歯車の意匠だった。

宝の地図にも同じものが描かれている。


「間違いないわ。絶対にここよ……」


 何か手掛かりはないだろうか? 

私は半分も読めない古代文字をもう一度ていねいに見返して読める単語を拾い出す。


「黄金のゴーレム像……、祭壇……。これは……回転?」


 回転……、ひょっとしてこの歯車が回るのかしら? 

これは罠かもしれない。

だけど、ここまできて躊躇っていることもできなかった。


「マルコ、少し下がっていて」

「いいけど、どうして?」

「何でもないわよ。いいから言うとおりにしてよ」


 マルコを向かいの壁際まで下がらせて、歯車の紋章に指を這わせた。

犠牲になるのは私一人でじゅうぶんだ。


 まずは右回転……。

ダメだ、なんの反応も起こらない。

次は左回転……。


 ゴ……ゴゴゴゴゴゴ……。


 やったわ! 

壁がスライドして隠されていた奥の間が姿を現した。そしてそこには――。


「うわー、これ、本物かな?」


 低い台座の上に六十センチはある黄金のゴーレム像が鎮座していた。

形は丸みを帯びたロックゴーレムだけど、全身が金色に輝いている。


「ふ、ふふ……」


 ついに私はやったのだ。

疲労と達成感がない交ぜになり、乾いた笑いが口の端からこぼれた。


「す、すごいな……。ティッティー、これの価値ってどれくらいなの?」

「そうね……金の値段だけでも3億リムはくだらないと思う。芸術的価値や歴史的価値なんかを付加したらもう少しいい値段がつくかもね」


 台座を慎重に調べたけどトラップのようなものは仕掛けられていないようだ。

問題はこれをどうやってエレベーターまで運ぶかである。

重さを確認するために両手を使って持ち上げてみたがかなりの重量があった。


「ふぅ、これは一苦労ね」

「うん、こんなに小さいのにティッティーと同じくらい重いよ」

「デリカシーのない言い方をしないで」


 私はもう少し軽いはずよ。

だけどどうしようかしら? 

私もマルコも体力の限界が来ているのだ。


「ティッティー、やっぱりいったん戻ろう。戻って助けを呼ぶんだ」

「いや! 引きずってでも帰るわよ」

「そんなことをしたらせっかくの金がすり減ってしまうよ。ミシェルさんなら、事情を話せばわかってくれるはずさ。相談してみよう」


「絶対にダメ。姉さんには頼りたくないの! マルコには手伝ってもらっているけど、本来これは私が一人でやらなきゃならないことよ。予定通り、私はこの黄金像を国庫に納めるわ。そのために仲間を集めずにやってきたんだから!」


 そのためにここまで苦労したのだ。

今さらミシェルに力を借りるなんてできない。


「ティッティー、本当にいいの? これさえあれば外国で楽に暮らすことだってできるんだよ」

「ふんっ、私が王妃時代に使ってしまったお金は数十億リムよ。いまさら数億リムくらいなによ。それに、少しくらい借りを返したいのよ。この程度じゃ埋め合わせにはならないけどね……。マルコこそ怒ってない? こんなに苦労して1リムの得にもならないのよ」

「俺は、ティッティーが満足するのならそれでいいんだ」


 マルコは決して私に嘘をつかない。だからこそ胸が痛んだ。


「ごめんね、私なんかと関わったばっかりに……」

「俺、すごく幸せだよ」

「マルコ……」


 それ以上は気持ちが言葉にならなくて、私は感情の赴くままマルコの胸に飛び込んでいた。


   ヤハギ side


 濃厚なキスシーンが始まってしまったので千里眼を解いた。

それにしても驚いたな。

ルガンダダンジョンの下にあんな黄金像が眠っていたなんて。

そしてそれ以上に驚いたのはティッティーの言葉だった。

ふむ、なんとか気が付かれないように助けるしかないか。

そう覚悟を決めて、俺は押入れの扉を引いた。



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― 新着の感想 ―
[一言] なんて言うか、古き良き日のガキ大将みたいな奴だなティッティー
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