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駄菓子屋ヤハギ 異世界に出店します  作者: 長野文三郎
第三部

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御殿が建つまでの物語


 ルガンダダンジョンの探索は順調に進んでいた。

これは最前線で強敵を撃退するミシェルと、救護ポイントで治療にあたるティッティーの功績が大きい。

この姉妹のおかげで、今のところ死者を出さずにやってこられているのだ。


 ゾリドに組み込む大型のエネルギーパックの材料もそろいつつある。

ミシェルによれば進捗率は46%くらいとのことだ。

むしろ問題は俺のレベルアップの方だろう。

まあ、焦って販売網を広げるのもよくないので、のんびりとやるつもりでいる。

雷がいつどこに落ちるかさえ分かれば苦労はないんだけどなあ……。


「マニさんは神様なんだから、雷がいつ落ちるかわからないの?」


 店舗の座敷でのんびりとお茶をすするマニさんに聞いてみた。


「儂は機械神だからそんなのは知らん。そういうのは姉ちゃんの……姉ちゃんの……。あれ、姉ちゃんの名前はなんだったかな?」


 だめだ、こりゃ。

マニさんには期待できそうもないから、やっぱり俺が頑張らないとな。

レベルを上げて千里眼で未来を垣間見られるようにしないと。


 時刻はそろそろお昼くらいになろうとしていた。

この時間は客もなく、俺も暇を持て余している。


「そういえばマニさんは機械神だけど、この世界では機械ってあんまり見かけないよね」


 ちょっと思いついたことを口にしたら、マニさんは悲しそうな顔になってしまった。


「機械文明は数千年前にほろんだのじゃよ」

「そうなの!? それはこの地で?」

「なんのことじゃ?」

「滅んだ機械文明だよ」

「機械文明があるのか!?」


 いつものマニさんに戻ってしまったか……。

でも、ゾリドみたいなものがあるのだから、発掘したら大昔の機械とかが出てくるのかもしれない。

文明が滅んでいるからマニさんはこんなに元気がないのかも。

ゾリドが復活したら若返るかな? 

機械文明を広めるなんていうのは面倒だけど、マニさんが喜んでくれるなら少しくらいはお手伝いしたい。


「そのうちにゾリドが動くところを見せてあげるからね」

「ジェノスブレイカーが動くのか? 久しぶりにあれが飛ぶところを見たいのぉ」

「あれ、飛ぶの!?」

「当然じゃ」


 機嫌よさそうにお茶をすするマニさんの背筋がさっきより伸びた気がする。


「マニさん、姿勢がよくなってないか?」

「ふぉっふぉっふぉ、そうかのう? この地に住む人が増えているからかもしれん。それからマニ四駆の人口もな」


 信者が増えると力を増すって感じか? 

マニ四駆が走れば走るほど力を取り戻したりするのかもしれない。


 二人でお茶を飲んでいたら、酒場の主のゾンダーが訪ねてきた。


「いらっしゃい。どうしたの?」

「つまみのカレーせんべいとイカ串を仕入れにきたんですよ」


 ゾンダーはポットごと買ってくれる、いいお得意さんだ。


「商売繁盛みたいでよかったね」

「まあそうなんだけど、最近お客がどんどん贅沢になっているんですよ」

「冒険者たちが?」

「そう。やれ酒の種類を増やせだの、もっと腹にたまる食い物を用意しろだの、うるさくってしょうがねえ。こちとら元冒険者で、ろくに料理もできないっていうのによ」


 ゴールデンシープにある酒はエールとバクスチ、つまみはカレーせんべいとイカ串しかない。

客から多少の文句が出ても仕方がない気がするが……。


「今日は違うお菓子を買っていくか? 種類が増えればあいつらも喜ぶかもしれないぞ」

「そうだなあ。安くて食いでのあるものは……。お、あれは何だい?」


 ゾンダーは棚の一角を指し示した。


 商品名:たこせんべい

 説明:たこ粉などが練りこまれた大きく薄いせんべい。

    食べると手や足にできたタコがとれる。

 値段:20リム


 たこせんべいは一袋二十枚入りでバラ売りもしている。

一枚がでかいから、これなら腹ペコ冒険者も満足してくれるかもしれない。

だけど、どうせならこれを使ったいい食べ物がある。


「そうだ、たませんを作ろう!」

「たません? 俺に難しい料理は……」

「大丈夫さ。これだったらゾンダーにもできると思うぜ」


 たませんというのは名古屋地方発祥の食べ物だそうで、材料にたこせんべいを使うのだ。


「まず鉄板でちょっと潰した目玉焼きを焼くんだ」


 焼きそば・もんじゃ用の鉄板に火を点けて卵を落とした。


「卵を焼いている間に、たこせんにソースとマヨネーズを塗るぞ」


 ソースは焼きそば用を流用する。

マヨネーズはミシェルが作り置きしたものを使った。


「たしかネギも入れるんだけど、ミライさんが山で採ってきてくれたノビルで代用しよう」


 ノビルは日当たりの良い場所に生えている山野草だ。

茎の部分は分葱わけぎと同じ味がする。

本当は天かすも入れたいのだけど、今日のところはなしで済ます。


「ソースとマヨネーズを塗ったたこせんに焼き上がった卵を乗せて、刻んだノビルを振りかける」


 ゾンダーがごくりとつばを飲み込んだ。


「最後にたこせんべいを二つに割って具材をサンドすれば……できあがりだ! 三つ作ったからみんなで試食してみようぜ」


 俺たちはたませんにかぶりついた。


「うめえ……」

「ホッホッホッ、初めて食べる味じゃのぉ」


 二人とも顔をほころばせながらたませんを頬張っている。

気に入ってくれたようで、食の細いマニさんも完食してしまったくらいだ。

どっしりとした目玉焼きがパリパリのせんべいに挟まっているので食べ応えがある。ソース&マヨとの相性も抜群だ。


「これならゾンダーにも作れるだろう? 特別にソースも売ってやるから店で出してみなよ」


 ルガンダの店がグレードアップするのなら多少の協力は惜しまない。


「ありがてえ! それじゃたこせん二袋とソースを一瓶たのんます。帰ってさっそく作ってみますよ」


 ゾンダーはその日の夜から「たません」をメニューに加えた。

新商品は冒険者たちに大人気で、ゴールデンシープの看板メニューになっていく。

やがて、たません愛に目覚めたゾンダーはマヨネーズを自作し、天かすをも作るようになる。

そしてついにはオリジナルソースまで作り出し、果てはチーズ入りたません、焼きそば入りたませんなどを開発していくのだ。


 夜は酒場で、昼は屋台で「ルガンダダンジョン幽体離脱体験ツアー」の客たちにたませんを売るゾンダーは一代でまとまった財産を作り、のちにルガンダの地に瀟洒しょうしゃな家を建てることになる。

人々は身を粉にして働いたゾンダーに敬意を込めて、その屋敷を「たません御殿」と呼ぶのだった。


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