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駄菓子屋ヤハギ 異世界に出店します  作者: 長野文三郎
第三部

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駄菓子屋ヤハギ・ベッツエル店


 入居の準備ができたと、ライマスさんからグライダーが飛んできたのは、ベッツエルを訪ねてから一週間後のことだった。

さっそく支店長候補を連れてベッツエルに行かなければなるまい。

朝の仕事にかかる前に、道で支店長候補の少年に声をかけておいた。


「バット、昨夜ゆうべベッツエルから連絡がきたよ。いよいよ出発だ」


 バットはナカラムさんの助手をしている子どもたちの一人だ。

子どもといってもバットはもうすぐ十六歳になるので、この世界ではすでに成人扱いされる。

くりくりとよく動く瞳とそばかすが印象的な元気な男の子で、ぼさぼさの茶色髪は邪魔にならないように後ろでくくられていた。


「やっときましたか!」


 バットは待ちかねたとばかりに元気よく立ち上がった。

駄菓子屋の支店長を募集したところ、いちばん最初に手を上げるくらい活発な子である。


 この一週間露店を手伝ってもらったけど、バットは物覚えがよく、商品の値段や内容をすぐにおぼえてしまった。

会計の計算にも間違いがない。

ナカラムさんも真面目ないい子だと太鼓判を押している。

彼なら駄菓子屋ヤハギ・ベッツエル店を任せられそうだという結論に至った。


「とりあえず俺も一緒にいくから心配しなくていいよ」


「それなら怖いことはないですね」


 バットが慣れるまで俺もベッツエルで寝泊まりして、その後は三日に一度ほど商品を補充するために通うことにした。



 駄菓子屋ヤハギのベッツエル支店は大きな通り沿いの、背の高い倉庫を改装して作られていた。

レンガ造りの重厚な建物で、予想外に立派である。

案内をしてくれたライマスさんは会心のドヤ顔を決めてくれたけど、俺としては恐縮しっぱなしだった。


「いかがですかな、ヤハギさん。これだけの広さがあればいくらでも商品を置けますぞ」


「ありがとうございます。でも、ちょっと広すぎませんか? こんなに立派な店舗を用意していただくなんて……」


 しかも家賃は格安なのだ。


「いやいや、ご心配はなさらずに。奥の方はモバイルフォースの闘技場やマニ四駆のコースが設置されているのですよ。いつでも私が……みんなが遊べるように」


「それはけっこうなことですね……」


 中に入ってみると、床面積の半分以上は闘技場やコースだったので、この広さにも納得だった。


 ライマスさんが帰った後、さっそく店の準備に取り掛かった。


「開店、駄菓子屋ヤハギ!」


 ブース型の店舗を倉庫の前面に設置した。


「あれ、本店より品数が少ないですね?」


 バットが棚をチェックしながら首をかしげている。


「ここは子どもも多いだろう? 対モンスター用の危険なオモチャなんかは売らないことにしたんだ」


「なるほど。でも、持久力が上がるお菓子や、素早さが上がるお菓子はあった方がいいと思いますけど」


「そうかな?」


「農家とか旅人には欠かせないおやつになるはずですよ」


「それもそうか。だったら蒲焼さん助は目立つところに置いておかないとな」


 あーだこーだと話し合いながら、俺とバットは店のディスプレイをしていく。


「明日はオープンだから、夕方までに終わらせるぞ」


「はーい。でも、大丈夫ですか。お客さんが多すぎて手が足りなくなったりしないかな?」


「宣伝してないから、お客なんてそんなに来ないさ。俺が初めて王都で店を出した日なんて、来てくれたのはメルルだけだったんだぜ」


「メルルさんとはそんなに古い付き合いなんですか?」


「そうだな。ここへやってきて、最初の友だちがメルルだったよ」


 思えばメルルが10リムガムを買ってくれたのが最初だったんだよなあ。

それからミラが来てくれて、ガルムもやってきて……。

あっという間に時が過ぎた感じがする。


「明日はライマスさんが出店のお祝いに来てくれるそうだけど、客はそんなに多くはならないだろう」


「だったら、来店祝いのこの粗品も五十個あれば足りますかね?」


 商品名:チョコケーキ

 説明 :素朴な味のスポンジにチョコレートがたっぷりかかっている。

     食べるとリッチな気分になりパーティーが盛り上がる。

 値段 :50リム(二枚入り)


 これさえ食べてもらえれば、店内が閑散としていても盛り上がってもらえるだろう。

お菓子を食べて、おもちゃで楽しく遊んでもらえればそれでいい。


「一日で三十人も来てくれれば御の字さ」


「ヤハギさん、俺のお給料は大丈夫ですか?」


「安心してくれよ、そこはきっちり払うからさ」


 原価は俺の魔力だから赤字になることはない。

俺とバットは早めに夕食を済まし、明日に備えてそれぞれの部屋に引き上げた。

バットの部屋は店舗の二階にあり、今後はそこで生活してもらうことになる。

俺はといえば、事務所のソファーが今夜の寝床だ。

別にバットと同じ部屋でもよかったんだけど、ミシェルが「ユウスケが少年愛に目覚めたら死んじゃう!」とか、わけのわからないことを言うので、このような仕儀になっている。

ミシェルの心配性にも困ったものだ。

横になって本を読んでいると眠気は十ページもしない内に訪れた。



 翌朝はやけにざわついた気配で目が覚めた。

店舗スペースに入っていくと、バットはもう起きていて窓から外を覗いている。


「おはよう、バット。おもしろいものでも見えるのかい?」


「何を落ち着いているんですか、ヤハギさん。これを見て下さいよ!」


 やけに興奮しているバットが体を避けたので、俺もカーテンの隙間から外を見てみた。


「うげっ、マジか?」


 そこにあったのは開店を待ちわびる人々の行列だ。


「もう二十人くらいはいるな」


 家族連れ、カップル、ソロ、と様々な単位の人がいる。


「さっき会話が聞こえてきました。どうやらモバイルフォースとマニ四駆が目当てのようです」


 きっとライマスさんが自慢したのだろう。

そうじゃなきゃこんなに人が集まるわけがない。


「どうします、開店を少し早めましょうか?」


「そうだな。これじゃあ外が気になって朝飯も喉を通らないよ」


 バットが小さな看板を持ち上げた。


『駄菓子屋ヤハギ・ベッツエル店』


「これを出してきます」


 嬉しい誤算だったけど、忙しい日になりそうだ。

増援を寄こしてくれるようナカラムさんにグライダーを飛ばしてから、俺とバットは店の扉を開けた。



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