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駄菓子屋ヤハギ 異世界に出店します  作者: 長野文三郎
第三部

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レベルアップを目指す


 すべてのヤングドーナッツを食べたマニさんだったけど、見た目に変化は現れなかった。

しわも白髪もそのままで、相変わらず枯れ木のように細い身体のままである。


「やっぱりダメか」


「この世界の始まりから生きているのだとしたら、二十年なんてほとんど関係ないんでしょうね。私たちが五時間分だけ若返る程度……、ひょっとしたらそれ以下なのかも知れないわね」


 俺とミシェルは同時にため息をついた。

肩を落とす俺たちをマニさんはニコニコと慰めてくれる。


「どうしたのじゃぁ? 悲しそうな顔をしておるのぉ」


「何でもないんだ。ちょっとあてが外れただけだから」


「おお、そうかい。まあ、諦めないことが肝心だぞい」


「そうだな。いつかはエネルギーパックの出力を上げてゾリドをよみがえらせることだってできるかもしれないもんな」


 俺の言葉を聞いたマニさんはにんまりと笑った。


「なんじゃい、ヤハギはエネルギーパックの出力を上げたかったのかい」


「えっ、できるの?」


「どれくらい上げたいんじゃ?」


「い、1・21ジゴマット」


「それは難しいのぉ……」


「やっぱり無理なの?」


「いんにゃ、これを使えばいい」


 マニさんが右足で大地を蹴ると、金属の箱が大地から現れた。

大きさは業務用の冷蔵庫くらいある。


「ほれ、エネルギー変換装置じゃ。こいつを使って雷のエネルギーを魔力に変換してやればいい」


「すごい……」


 エネルギー変換装置を調べているミシェルが感嘆している。


「ただ問題もあるぞ」


 マニさんは眉間の皺を深めた。


「問題と言うと、どういった?」


「これはエネルギーパックをゾリドに装着した状態で使わなければならないのじゃ」


 エネルギーパックを装着するにはゾリドを解凍する必要がある。

しかし、一度解凍してしまえば三十分以内に魔力を循環させなくてはならない。

さもないとゾリドの金属細胞が深刻なダメージを受けてしまうからだ。


「つまり、タイムリミットはたったの三十分ってこと?」


「そういうことじゃ」


 そばで話を聞いていたティッティーが騒ぎ出した。


「そんなの不可能じゃない。雷なんてどこに落ちるかわからないのよ!」


 高い樹のてっぺんに金属の棒でもつけておけば確率は上がるかもしれないけど、正確な時間までは予測できない。

下手に解凍して失敗すれば、ゾリドは死んでしまう。

安易な賭けに出るわけにもいかなかった。


「今日のところはこれで解散しよう。ゾリド復活の方法については考えておくよ」


 俺はミシェルに目配せをして閉店の準備を始めた。

ミシェルも俺が考えていることに思い至ったようで、複雑な表情をしている。


 雷がいつ、どこに落ちるかだが、俺ならそれがわかるかもしれない。

モバイルフォースの訓練によって開花した俺の魔法、『千里眼』があるからだ。

いまのところ千里眼の存在を知るのは俺とミシェルだけだ。

国家権力などにこき使われないように秘匿ひとくしてきたけど、これの出番がついに来たようだ。


 ただ、これまで過去や現在は見てきたのだが、未来を見た経験はない。

未来を観るためには莫大な魔力が必要だし、肉体への負担がかなり大きそうだったからだ。

最近は駄菓子屋としてのレベルも上がり、保有魔力量も増えてきている。

だが、未来を垣間見るにはまだまだ俺の魔力は足りない。


 夕飯後にリビングで寛ぎながら、ミシェルと千里眼の可能性について話し合った。

いつもなら隣で甘えかかってくるミシェルだけど、今日は怖い顔をして少し離れて座っている。


「やっぱり心配よ。千里眼を使うとユウスケはいつも体調を崩すじゃない」


「そうだけど、他に方法はないだろう?」


「だけど、今回は未来を見るのよ。心身への負担はこれまでの比じゃないはずだわ。とてもじゃないけど耐えられるとは思えない」


 それは言えるんだよなぁ……。

ステッキチョコレートというお菓子の力を借り、魔法の威力を増大させて、ようやく千里眼を使えるのが現状だ。


「でもさ、俺のレベルがさらに上がれば、危険なく千里眼を使えるんじゃない?」


「保有魔力量が上がれば可能性はあるけど……」


「だったら、まずは腰を据えてレベルアップを頑張ってみるよ。焦ってゾリドを復活させることもないしね」


 開発はのんびりやっていけばいいのだ。

最終的にルガンダが少し住みやすくなればそれでいい。

無理をする必要はないと考えている。


「でも、最近はレベルの上がるスピードが落ちているんでしょう?」


「まあね」


 俺のレベルは売り上げが関係しているようだ。

王都を離れてから駄菓子屋の売り上げはだいぶ落ちてしまった。

そのせいかレベルの上りは鈍調だ


「いっそベッツエルあたりに支店でも出そうか?」


「それ、いいんじゃない!」


 軽い気持ちで言ったのだがミシェルは予想以上に賛成してくれた。

ベッツエルにも子どもはいっぱいいるから、支店を出せば喜んでくれるかもしれない。

近いうちに、ライマスさんに相談してみるとしよう。


 俺が無茶をしないとわかって安心したのか、ミシェルはいつものように甘えかかってきた。

今は指で俺の髪をクルクルして遊んでいる。


「そういえば、ヤングドーナッツはもったいなかったなぁ」


 マニさんに食べさせた分か。


「別にいいさ。賞味期限も近かったしさ」


「どうせならユウスケに食べてほしかったもん」


「なんで?」


「そうしたらさ、年下のユウスケとイチャイチャできたわけでしょ? それはそれで新鮮かなって……」


 また変なことを考えついたな。


「でもでも、私はやっぱり年上の方が好きなのよね。ねえ、ユウスケ」


「なんだ?」


「オールドドーナッツってないの?」


 オールドファッションなら知っているけど、歳を取らせる駄菓子はウチのラインナップにはない。


「俺をおじいちゃんにしたいのか?」


「そうじゃないけど、ロマンスグレーのユウスケもステキかだって思うの。ちょっと見てみたいじゃない」


 ミシェルは照れくさそうに視線を逸らした。

中年の俺なんて、そう遠くない未来で見られるというのにミシェルはせっかちだ。

もっとも、十代の俺は二度と見せられないか。

若い頃の写真はすべて向こうの世界に置いてきてしまったもんな。


「レベルが上がったら、そんなお菓子も出てくるかもしれないぞ。ほら、食べたら十分だけ若返るとか、歳を取る、みたいなやつ」


「ほんとに!?」


「いや、出るかもなっていう空想の話でさ――」


「それ、いい! 今のユウスケもショタのユウスケもミドルのユウスケも愛したい放題じゃない!」


「だから仮定の話だってば」


「ユウスケ、明日はベッツエルへ行きましょう。大至急、支店の話を進めなきゃ!」


 やれやれ、ミシェルの妄想にも困ったものだ。

でも、ハイティーンのミシェルか……。

それに三十路のミシェル……。

どちらも、ちょっと見てみたいな。

そんな駄菓子が出てくるかはわからないけどね。


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