しゃんとして、マニさん!
ダンジョンの横でメカ生物ゾリドはオブジェのように動かない。
その姿は迫力ある鉄のドラゴンそのものだ。
深紅の機体は重厚で、鋭い爪や牙に加え、用途不明な鋭い刃をいくつも装備している。
無機質なボディーからは想像もつかないけど、このジェノスブレイカーは生きているそうだ。
「こいつは生物じゃからな、そのままにしておけば死んでしまう。だから今は凍結してあるのじゃ」
まともになったマニさんが教えてくれた。
「それじゃあ、エネルギーパックを充填する前に解凍しないとダメなんですね?」
「そのとおりじゃ。解凍して三十分以内に魔力を循環させてやらないと、金属細胞が深刻なダメージを受けてしまう。しかも、一度解凍したら再凍結は不可能じゃ」
失敗は許されないわけか……。
「それで、エネルギーパックの容量を上げる方法ですが――」
「エネルギーパック? なんじゃ、美味いんか、それ?」
いきなり忘れた!?
ちょっと記憶が戻ったかと思ったらすぐこうなる。
まともな話を聞きだすには相当苦労しそうだな。
最初は怖がっていた住民たちもジェノスブレイカーが動かないと知って近寄ってきた。
好奇心の塊であるメルルは先頭に立って見上げている。
「ふえぇ、機械仕掛けのドラゴンかぁ。これが動くかもしれないんだね」
ミラもジェノスの細部を確認している。
「大きな鉤爪ですねえ。これなら大木の切り株も簡単に掘り起こせそうです」
「道づくりや護岸工事だって楽になるだろうなあ。俺としてもこいつを動かしたいけど……」
問題はマニさんの状態だ。
マニさんは記憶を取り戻したと思ったら、その三分後には忘れる、なんてことを繰り返しているのだ。
「これじゃあ大容量のエネルギーパックなんていつまでたってもできないぞ」
「う~ん、要はじいちゃんの記憶が元に戻ればいいんだよね?」
メルルがいたずらっ子の目をしてニマニマ笑っている。
「何かいい考えでもあるのか?」
「子どもたちがそのままブドウを食べさせたら、じいちゃんは正気に返ったって聞いたよ。だから大きな刺激を与えればいいんじゃないかな?」
「ドドンパッチでも食べさせるか?」
口の中で弾けるキャンディーなら何かを思い出すかもしれない。
ところが、メルルはチッチと指を振る。
「その程度の刺激じゃ足りないわよ。やっぱりここはハイパーレモンを一気食いしないと」
「それは……」
商品名:ハイパーレモン
説明 :とてつもなくすっぱいキャンディー。
あまりのすっぱさに、食べると嫌なことを一つ忘れる。
値段 :10リム
気持ちの切り替えにはうってつけのお菓子なんだけど、これで記憶が戻るかはあやしいものだ。
冒険者の間ではハイパーレモンを口いっぱいに詰める遊びがあるようだが、そんなことをマニさんがしてくれるとも思えなかった。
「じゃあどうするの?」
「そうだなあ……」
不意にミラが手を上げた。
「ヤングドーナッツを食べてもらうのはどうでしょう?」
「若返らせて記憶を取り戻す作戦か。でも五年くらい若くなったところで、たいした違いはないかもしれないぞ」
ヤングドーナッツを一つ食べれば肉体は五歳若返る。
一パックは四個入りだから、全部食べればニ十歳は若くなる計算だ。
でも、悠久の時を生きる神様に二十年程度では効果はない気もした。
「やるだけやってみましょう」
「いいけど、マニさんは食べてくれるかな?」
マニさんは異様に食が細いのだ。
神様だから食べなくても問題ないだろうけど、先日焼きそばを食べて以来まともな食事は口にしてはいないはずだ。
それでも一向に平気な顔で、ご飯は欲しくないと言っていた。
「私に任せなさい。こうすればいいのよ」
しゃしゃり出てきたのはティッティーだ。
ティッティーは妖艶な笑みを作りながらマニさんの隣に腰を掛けた。
「ねぇ、マニさん、美味しいお菓子があるのよ。食べてみません?」
ところがマニさんはプイッと横を向いてしまう。
「要らない。モソモソしていそうだから……」
「でも、一口くらいどう? とっても美味しいのよ。はい、あ~ん」
しなをつくったティッティーが食べさせようとしたけど、マニさんはまたもやそっ
ぽを向いてしまった。
「もう、強情なおじいちゃんねっ!」
プリプリと怒るティッティーからミラがヤングドーナッツを受け取った。
「マニさん、嫌ならいいですけど、ユウスケさんのお菓子は本当に美味しいんですよ。いかがですか?」
すると、マニさんはミラとヤングドーナッツを何度も見比べてから口を大きく開けた。
「はい、どうぞ」
ミラはヤングドーナッツを半分にちぎってマニさんの口に放り込んでいる。
まるで親鳥みたいだ。
「ムグムグ……うん、美味い」
「でしょう!」
「なんなのよっ! 態度が全然違うじゃない!」
ティッティーは怒っていたけど、ミラとマニさんはほんわかとヤングドーナッツを食べ続けている。
「もっと食べます?」
「うん」
「次は自分で食べてくださいね」
「あいあい」
けっきょく、マニさんは一パックすべてのヤングドーナッツを食べてしまった。
これでニ十歳は若返るはずだけど、さてどうなることだろう?
俺たちは固唾を飲んで経過を見守るのだった。




