「28」キメラ対策
「ふむ、報告は受け取っている」
とある司令室で、指令服を着た30代の黒の短髪の男性が席に座り、反対側の席にはチサトとカクが座っていた。
「月村町の住民が捕まり、その3人の少女が暁丘のデバッグ基地でホムンクルスにされたと…」
「はい。その後ホムンクルスの1人…坂野くれはちゃんは基地から飛び出したキメラを追いかけ、日野森町に引っ越してきた神埼りお君と協力し、日野森公園にてキメラを撃退したそうです。秦野指令」
と、チサトの話を聞きながら秦野と呼ばれた指令服を着た男性はテーブルに置かれた資料を手に取り、目にした。
取った資料には、クレハ、スズナ、ルカ、そしてリオに関するデータがまとめられていた。
「確認されたホムンクルスはこれで4人…この様子だと、デバッグはホムンクルスの存在に気付いているか?」
「どうでしょうね…仮にホムンクルスの存在を知っていても、主力として出す可能性は低いと思います。そもそも彼らには従いやすいキメラがいるため、自我を持って従えられないホムンクルスを使うことは無いはずです」
チサトはデバッグがホムンクルスを使う事は無いと秦野に伝える。
「彼らに取ってホムンクルスを手駒にするメリットは無いというわけか…」
「そしてホムンクルスとは別に、神埼りお君の事ですが、彼はドラゴンのキメラ…ツインヘッドとの初戦闘との際に光学シールドと光弾を使用しました。分析の結果、リオ君の放った電脳術の性能がセキュリティアに所属するアルケミスト達の倍近い数値をたたき出しました」
と、チサトはリオとカク、他のアルケミストの使った電脳術の波長をそれぞれグラフに表した資料を前に押した。
「なるほど…波長グラフも異なっている所を見ると、リオ君の電脳術は魔法に近い性質を持っているというところか」
「あと、リオ君の持っているフォトニウムは出力が少し高めの原石だったので、それ以外は全く同じでした」
「考えられるとすれば、リオ君自身の力という事か…カク君、君は何か思い当たるところがあるかね?」
秦野がカクにリオに関する質問をしてきた。
「……特にありませんでした。5年前までは家族と一緒に暮らしてましたが、リオに関係する事件は1つも起きてません。リオ自身も真面目で優しい子で、いつも母の手伝いをしてくれてます」
「なるほど…私も彼からは君の言った通りの子だと思った。そして彼の瞳には、強い意志を感じ取った」
「え?指令はリオ君と1度会ってるんですか?」
「ああ。霧ノ崎町での単独調査から帰る途中リオ君に会ってな。引っ越しの手伝いをしたのだ」
「また危ないことを…次からは護衛を連れてくださいね?」
チサトから単独行動を控えるよう注意された秦野。
「わかった、善処しよう。報告はこれで以上かな?」
「はい」
チサトの報告はこれで全部である。
「うむ。報告ご苦労だった。現在スタッフが試験の準備に取りかかっている。彼女達とリオ君のお迎えは別の者に任せて君達はゆっくり休んでくれ」
「いえ、このまま次の任務に…」
「カク君、気持ちはわかるが、いついかなる時も万全の状態でなければその反動は必ず自分に返ってくる。無理をするな。この後君達に任せたい任務があるからな」
秦野はカク、チサトの事に気を遣って休ませようとしている。
彼にとってこの2人は1番信頼できる存在でもあるのだ。
だからこそ無理をさせたくない。
隊長の頃の彼はそうやって死者を出さずに任務をこなしていた。
他の隊員達にも当然気を遣っている。
その為隊員達から信頼を多く受けている事から、彼は司令官という職務を努めているのだ。
過去にあったキメラ襲撃事件では部下を失ってしまった己の未熟さに1度は降格を希望したが、仲間からの励ましで、彼は今も司令官を続けてられるのだ。
「司令、任せたい任務とは?」
チサトが質問をしてきた。
「昨日私が探索した霧ノ崎川で、デバッグ基地を発見した」
「「!」」
「ドローンで調査したところ、霧ノ崎川の最も霧が濃く、視界の悪い場所で見つけた。守備は前回の基地よりさらに厳重になっている。君達にはアルケミスト2人を連れて敵の町への移動経路を潰して欲しい」
「経路を潰す?基地の制圧ではなくて?」
「本来ならそうだが、あの基地には黒い凶鳥の姿をしたキメラが保管されている」
「キメラ…!?」
アルケミスト達が苦戦したあのキメラが基地にいるという情報を聞き、2人は驚きを隠せなかった。
「キメラが相手となれば、仮に倒せたとしても、犠牲は免れない。それだけは絶対に避けたい」
「確かに…ですがこのままキメラを野放しには出来ません」
キメラの力はアルケミスト達を圧倒し、まともに張り合えばかなりの被害を受け、最悪…死者が出る。
だからと言って放っておくと、いずれデバッグの連中がキメラを隣の霧ノ崎町に放ち、壊滅的な被害を受けるだろうとチサトは言う。
しかし秦野は対策を考えていた。
「それは私も同意見だ。そこで私は移動経路を封じた後、キメラの討伐を決行するため、いくつかの対キメラ対策を考えた」
「対キメラ対策?」
対キメラ対策という言葉が秦野の口から現れ、2人は気になった。
すると秦野は2枚の資料をテーブルに並べる。
1枚目はカクが身に付けている強化スーツに似た新しいスーツの写真とデータが載っていた。
2枚目は剣のようなワイヤーフレームで構成されたモデルの写真とデータが載っていた。
秦野は一枚目に右手の人差し指を置く。
「1つは新型スーツ…アルケミーmarkⅡの投入だ。これは前に戦ったキメラとの戦闘データを参考にして作った攻撃に特化したアルケミーの改造服で、電脳術の効果を飛躍的に上げるために複数のフォトニウムを使ったコアを内蔵している」
「複数のフォトニウム…って、それって制御出来るんですか!?」
「難しいだろうな。テストメンバーが着てみたところ、数分で倒れてしまった」
「倒れたって、体に掛かる負担が大きいという事ですか!?」
「うむ。そしてこのアルケミーmarkⅡは生産こそ難しくないが、コントロールの難度からこれを扱えるのはカク君しかいない。その場合キメラとは1人で戦うことになる」
秦野の言うとおり、現在一番電脳術を扱えるのはカクのみで、このアルケミーmarkⅡもカクの為に作った物だろう。
そしてキメラは他のアルケミストでは危険を招くため、実質カクのみで戦うことは予想できる。
「一応、もう一つはリオ君と3人の少女にキメラの相手を任せることだ。映像を見た限り彼女達の力に疑いの色は無い」
「確かに、彼女達の魔法はキメラに効果的ですし、リオ君の電脳術も強力でしたね」
「正直まだ中学生の子達に任せるのは心許せないが、彼女達の意思は尊重しなければならん。クリーチャーはアルケミスト達で対処し、キメラは彼女達に任せる。経験を積んでいけばキメラへの阻止力になり、被害も大きく減るだろう。だがこれは他の策が通用しなかった時の保険だ。悪魔でな」
基本はセキュリティアで対処し、危なくなったらクレハ達の力を借りるという方針で秦野は話を進めた。
そして秦野はもう1枚の資料を前に押した。
「そして最後の1つは特殊な鉱石…ディスタイトを内蔵した近接用の武器だ」
「ディスタイト?初めて聞く名前ですね」
「当然だ。この鉱石を知ってるのは私しか知らない。デバッグにこの鉱石の存在を知られたくなかったからな」
「そのディスタイトがキメラと何の関係が?」
「君達はなぜキメラに電脳術が効かないのかわかるか?」
「え?」
「キメラの体内にはコアとなるフォトニウムが埋め込まれており、そのフォトニウムから発するフォトンエナジーがキメラの身体を包み、防御力を向上させていると…まさか…!」
チサトは答えに気付いた。
「わかったのか?」
「ディスタイトは、フォトニウムの力を遮る能力が備わっているのよ!」
「正確には、フォトンエナジーを消し去る特性を持っている」
「消し去る力!?」
「キメラには天敵と言える代物だ」
そう言うと、秦野は横長い大きなケースをテーブルの上に置き、ケースを開けると長さ45㎝の近未来的なデザインの大きな両刃の剣が入っており、2人の目に映った。
「そしてこれが3ヶ月前に私が手に入れたディスタイトを組み込んで作った試作品、名前はフォトンイレイザーだ。この武器ならキメラを覆っているフォトンエナジーを無力化し、ダメージが入るだろう」
「凄い…!」
「そんな武器があるならなぜ今まで出さなかったんですか?」
「最大の欠点を抱えているからだ」
「その欠点と言うのは?」
「このディスタイトには常に特殊な力場が発生し、半径50センチメートルまで広がっている。持っているフォトニウムも機能しなくなる。つまり、これを持っていたら電脳術が使えなくなるという事だ」
「電脳術が使えなくなる…!?」
ディスタイトのデメリットに気付くチサト。
そこへカクが続けて言う。
「アルケミストの身体能力はほとんどフォトンエナジーで強化されている…それが無くなったら…そこそこ強いだけの人間と変わらない…ということですか?」
「そう。フォトニウムの力無しではキメラはおろか、クリーチャーとの戦闘は厳しい。このフォトンイレイザーも、フォトンエナジーを使った攻撃は防げるか、物理的な攻撃に耐性はない」
フォトンイレイザーで戦うことは、電脳術が使えなくなる事。
今まで電脳術に頼ってきたアルケミスト達にとっては厳しいものとなる。
クリーチャーとキメラは物理攻撃がほとんどな為、フォトンイレイザーのフォトンエナジーを使った攻撃を無力化する能力は役に立たない。
防御能力は実質ゼロということになる。
「確かにこれは大きな欠点ですね。何か対策はありますか?」
「実は同時にフォトニウムとは別の動力を搭載した物も用意してある」
そう言うと、秦野は新たな資料を置いた。
画像には体のあちこちにスラスターが取り付けられた灰色のフルアーマーの姿が載っていた。
「高機動のアーマーですか?」
「バッテリーを搭載した強化アーマー…スチールスターだ。キメラの攻撃をある程度耐えられるレアチタン製の装甲とアルケミストと同等の機動性を持つスラスターを搭載している。更なる防御力向上の為にアルケミーのスーツの上から装着出来るようにしてある。アルケミーmarkⅡと違い、身体への負担はないが、こちらの問題は稼働時間だ」
「どのぐらい稼働するんですか?」
「最低2分弱だ。このスチールスターは各部の稼働に負荷がかかるほどの高重量で、動力が無ければまともに動けない。組み込んでるバッテリーは大容量の物を使ってるが、下手に数を増やせばその分機体の負荷が大きくなり、更に時間が短くなってしまうからな。稼働時間の方は専用の発電車に充電して貰うことで連続運用を可能としている」
「充電完了までの時間は?」
「冷却もかねて5分だ。その間はアーマーは使えなくなる」
「5分…ですか…そして稼働時間が2分半…」
「この性能と時間制限の都合、このアーマーは1対1の戦闘を推奨している。もしキメラが2体以上の場合は対処が困難なものになるだろう。その場合は2つの策を使う。片方がアルケミーmarkⅡを装備し、もう片方はスチールスターで運用する戦法…これは今出来る戦法になるだろう」
「指令、1つ提案があるんですが…」
カクが提案があると、秦野に話す。
「話してくれ」
「アルケミーmarkⅡはスチールスターに対応していますか?」
「カク、まさかあなた…!」
「アルケミーmarkⅡを着た俺がアーマーを着用し、時間になったらアーマーを外して対処すれば時間もキメラとの戦闘時間を伸ばせるはずです」
カクが新型スーツと強化アーマーを同時に使ってキメラとの戦闘時間を延ばす案を秦野に話した。
「よい案…と言いたいところだが、それはおすすめできん。アルケミーmarkⅡとスチールスターの2つの着用は推奨されていない。それは同時に着用者の体に大きな負担が掛かる。下手すれば君自身の身に危険が生じるぞ。スチールスターは他のアルケミストに使わせて貰う」
「しかし、剣が得意な者は他に…」
フォトンイレイザーは大剣の形状をした武器。
剣の扱いが得意な者でないとキメラとの戦闘は厳しい。
「私のことを忘れてない?」
「!?」
女性の声が聞こえた。
すると、ドアが開き、カクと同じぐらいの背がある20代前半の青髪の美女が入ってきた。
服装はチサトと同じ形状の軍服だが、違いはメインカラーが青一色ぐらいである。
「「静流さん!?」」
カク、チサトはその女性の名前を口に出し、驚く。
「剣の扱いなら、この私しかいないでしょ?」
と、右目をウィンクして自身をアピールするシズルだった。




