「22」魔法少女としての能力確認
部屋に入ったクレハ達。
中は既に布団が3つ用意されていた。
枕もちゃんとある。
洗面所には3人分の歯ブラシと歯磨き粉、コップとタオルが置かれていた。
これらを見た3人の出した言葉がこれである。
「旅館ですわね」
「ホテルでしょ」
「どっちでもいいよ!」
初めてクレハがツッコミに回った瞬間だった。
「おっと、2人にこれを渡すのを忘れてましたわ。はい」
と、ルカがスカートのポケットから取り出したのは、桃色のカバーと青いカバーが付いた2つの携帯であった。
「これ、私達の!」
「どうしてルカがこれを?」
「基地を出る前に探った所を見つけて、魔法少女のスカートのポケットに入れましたわ。流石に持っていないと不便でしょうし…」
「「…………………………………え?」」
何か引っかかるような会話を聞いた2人。
「今なんて?」
「魔法少女のスカートのポケットに入れたと…」
「いやいやいや、今、制服のスカートのポケットから取り出したよね?」
ルカはデバッグの基地から脱出する際、取り上げられていた2人の携帯を魔法少女姿のスカートのポケットに入れていたのだ。
しかし、ルカは制服の姿にも関わらず、制服のスカートのポケットから入れておいた2人の携帯を取り出していたのだ。
しかもスカイクラウド内で取り出した素振りはなかった。
ルカはその理由を話した。
「実は使用したモデル、スカート裏を作ってありませんでしたの」
「「作ってない!?」」
実はルカが作ったモデルには、スカートの中だけ作っていなかった。
本来このモデルはゲーム用の物で、ゲーム中にスカートの中が覗かれないようカメラアングルを調整するならわざわざスカートの中を作る必要は無いと判断し、作らなかったのである。
「まあその辺はAIが最適化してくれましたし、その代わりポケットの中身が変身前と共有してしまいましたけどね」
「…………後下着も」
「ちょ、今重要なことを耳にしたんだけど、今なんて言ったの!?」
とんでもないことを耳にしてしまったスズナは嫌な予感がした。
「何でもありませんわ」
「言ったよね!?まさか下着も共有してるとか?」
今の話を誤魔化そうとするルカと、真相が聞きたいスズナ。
そして…
(今度風呂に入るとしたら水着着た方がいいかな…?)
対策を考えてるクレハであった。
「それはさておき、クレハ、一度魔法少女に変身して下さいませ」
「え?」
「唐突すぎるわね!ホムンクルスじゃないの?」
「それは進化した人間の名称…今のわたくし達の種族名であって、変身後の名称ではありませんわ。それに、魔法少女という響き…これを呼ばずとしてなんと呼ぶ!」
ルカは右手を握りしめ、力強い言葉でスズナに話す。
「もう分かったわよ。それでいいわ」
「後、クレハを変身させる理由はありますのよ。デバッグと戦う以上、私達はこの力を知り、いつでも戦えるようにしないといけませんわ」
今後デバッグと戦う以上、戦い方を覚える必要がある。
「なるほどね。変身後の特徴をある程度把握するって訳ね」
「そういう事ですわ」
スズナはルカの言葉の意味を把握した。
「でも、どうやってなればいいのか…」
「変身後の姿を思い浮かべて念じてみてくださいませ。先程魔法少女姿から元の姿に戻った時にやった要領でやればいいですわ」
「う、うん…」
ルカに勧められつつ、クレハは強く念じた。
すると、クレハの身体が光り、それらは弾け飛び、魔法少女姿のクレハが姿を現す。
その間は約1秒ジャスト。
改めで見ると、クレハの魔法少女姿は、胸元を隠した露出の無い桃色の縦のラインが3つ入った白のドレスで、肩から腕首まで隠れるほどの桃色の長袖を着けている。
手は白い手袋を付けてる。
ドレスの下には横に桃色のラインが入った白いシンプルなミニスカート。
足は太股まで伸びた白いハイソックスに桃色のシューズ。
首まで伸びた栗色のボブカットは桃色に変わり、そのクレハの髪には白のカチューシャが付けられていた。
見るからにシンプルな魔法少女服を纏っていた。
「変身出来た…!」
「うん、1秒なら問題ありませんわね」
「どういうこと?」
「変身中は1番隙の生まれる場面ですわ。敵と遭遇する前に変身すれば問題ありませんが、敵との接触の際にはその場で変身しなければいけませんわ。この時変身を終えるまでの時間が長かったら敵からの妨害を受ける可能性がありますわ。例え1秒でも油断は禁物ですわ」
ルカの言うように、いついかなる時でも戦える準備は大事である。
「確かにそうね。あり得ない状況に遭遇したら対応出来ないなんてことが無いようにしなきゃね」
「一応変身中は、見えないバリアのようなモノで守ってくれますが、あまり過信はしない方がいいですし、注意は必要ですわ」
変身まで約1秒に加え、バリア持ちと邪魔される心配はないように思えるが、それでも注意は大事だとルカは語る。
「ん~…………」
ルカがクレハの魔法少女姿を見つめてきた。
「る、ルカちゃん?」
「ワタクシが考えた衣装…やはり花を彩った衣装の方がよかったか…」
「目的が違うでしょ」
スズナがツッコむ。
「ねえルカちゃん、戦ってて気にならなかったんだけど、この服装、なんかサイズがピッタリなんだけど…というか、どうやって脱ぐの?」
「クレハ!?さらりととんでもないことを言ったわね!」
今度はクレハのとんでもない発言にスズナがツッコむ。
「服はデザインの都合上脱げませんわ。ゲーム用のモデルを使用したせいなのか、服自体はほぼ肌と密着してるようですし、脱ぐことは不可能ですわ。例えるなら、服自体が身体を守る硬い鱗みたいなモノですわ」
「仕様はともかく、どうして脱げない服にしたの?」
「口では言えない事をされるのを防ぐ為、といっておきますわ」
「……深く聞かないでおくわ」
大体予想が付いたスズナは聞かないことにした。
「そんなぁ、それじゃあこの服洗濯出来ないの?」
「洗濯!?」
「だって、戦ってたら汚れるよね?次に変身したときに汚れたままだったら…」
「どうでもいい……いや、よくない。確かにそれは大問題だわ」
クレハの話を聞き、どうでもいいと思ったスズナだが、汚れたままという危機感を感じ、前言撤回した。
「まさか自ら洗濯機の中に入るとか?」
「それはそれで嫌だわ」
「その心配もいりませんわ。どうやら元の姿に戻る際に服に付いてた汚れは分解されて地面に落ちますわ」
「そうなんだ…よかった…」
「それは逆に絵的に嫌な気が…」
複雑な気持ちになるスズナだが、服装の問題はこれで問題ないだろう。
「最後は魔法少女の時の戦闘能力ですけど、服を含めてワタクシ達の身体はアルケミストの戦闘スーツ以上の防御力を持っていましたわ」
「そうね。熊に似たクリーチャーの爪や大きな昆虫のクリーチャーの炎をルカが自ら盾になって受けたけど、服に傷1つ付かなかったわ」
デバッグの基地から脱出した2人は道中のクリーチャーと戦っており、ルカはこの時点で敵の攻撃をわざと受けて事前に調べていたのだ。
話をまとめると、魔法少女姿の防御機能はアルケミストのスーツ以上であるという。
「次に身体能力。こちらは通常より5割近く上がっていますわ。腕力、脚力、体力が、2階建ての建物なら楽々と飛び移れるので、移動の時はこれが早いですわ」
「飛び移れるって、クレハは空を飛べるからそこまで重要じゃないような…」
スズナの意見の言うように、空を自由に飛べるならわざわざ建物の上を飛び移る必要はない。
「次が重要ですわ」
「?」
「戦いでもかなり重要になる要素…魔力量による魔法の強弱ですわ」
ルカが真剣な顔で説明してきた。
「魔法の強弱?」
「スズナ、道中のクリーチャーを相手に貴女は魔法を連発してましたわね?」
「ええ。数が多かったから」
「ワタクシ達の中に宿っている魔力は、言い換えれば乾電池1本の電力ですわ。魔法を使えば魔力を消費するように、繋げた豆電球を光らせると電池の電力が減っていく」
「確かにそうね」
「では電力がほとんど残ってない電池を豆電球に繋げたらどうなります?」
「それは、豆電球が少し光る…まさか!」
スズナは気付いたようである。
「そういうことですわ。ワタクシ達が使える魔法は、ワタクシ達の持つ魔力の量によって威力が変化するのですわ」
「どういうことなの?ルカちゃん」
「魔力が満タンの時は本来の威力が出せますが魔力が消耗していると、放った魔法の威力は弱くなりますわ。スズナが放った魔法が徐々に弱くなっていくのをワタクシは見逃してませんでしたわ」
「そうか…途中からクリーチャー相手に魔法が効きづらかったのもそれが理由だったのね」
「じゃあもう魔法は使えないってこと?」
「必要な魔力が無かったらそうなりますわ」
「回復の手段はないの?」
「ありますわ。失った魔力は魔法を使わない内に微弱ながら徐々に回復しますし、数時間使わなければ魔力は全開しますわ。だからといって、ワタクシ達が持てる魔力にも上限がありますし、持てる魔力以上の回復はしませんわ。例えるならコップに入れた水がこれ以上入らないのと一緒ですわ」
自身の持つ魔力を水とし、持てる最大魔力量をコップに入る水の量だと例えれば分かりやすいだろう。
「なるほど」
「じゃあもし、魔力が底ついた場合は?」
スズナが魔力が無くなった場合に付いて質問する。
「良い質問ですわ。こちらは魔力を消費する魔法は一切使えなくなりますわ」
「それだけ?」
「デメリットはそれだけですわ」
「魔力が切れて、変身が解けるとかは?」
「大丈夫ですわ。クレハのその身体も自身に宿る別個体のようなモノで、変身というよりは身体を入れ替える感じだと思えばいいですわ。唯一デメリットがあるとすれば、魔力が無いと変身も元に戻るのもしばらく出来ないというところですわね」
「地味に嫌ねそのシステム…」
「そういうシステムだから仕方ありませんわ。とにかく今後はクリーチャー相手には低消費の魔法で対処し、キメラといった強敵にはここぞというときに最大火力の魔法を使いましょう。クレハも浮遊魔法はいざという時意外には控えてくださいませ」
「うん」
「それが賢明ね」
今後の戦いの方針を決めた3人。
魔力の管理は彼女達にとって戦闘を大きく左右される要素。
魔力を消耗したままでは苦戦は免れない。
これは魔法少女達にとって大きな課題になるだろう。
「さて、お次はワタクシ達の魔法少女姿の時のコードネームを決めなくてはいけませんわね」
と、ウキウキ気分のルカ。
「コードネーム?それって名前の事?それ必要なの?」
「必要ですわ!魔法少女姿でいるとき、流石に本名で呼んでたらその場にいる人達にバレてしまいますわ。だから変身後はそのコードネームで呼ぶようにしないといけませんわ」
「……そうね」
もし正体がバレて、それが街全体に広がれば大変なことになる事をスズナは理解した。
「というわけで、まずはクレハのコードネームを考えますわよ」
「え、私?」
「分かったわよ。クレハのコードネームは……」
スズナは名前を考える。
クレハの魔法少女姿を見て、桜を連想した。
と、ここで名前が浮かんできた。
「マギアピンクとか?」
「戦隊物っぽいですわね。却下」
「マジカルクレハ」
「本名が入ってますわ。論外」
「コメットハート」
「イメージと違いますわね」
「あのね……」
スズナの案は全てルカに却下された。
「名前が安直ですわ。シンプルでその人のイメージに合う名前でないといけませんわ」
「それならルカは何か思い付いたの?」
「愚問ですわね。なら言いますわ」
ルカがクレハの魔法少女名を発表する。
「クレハの魔法少女の姿の名前は、フローリアンですわ!」
「フローリアン?」
「ラテン語で花、または開花という意味を持っていますわ。その名の通り、魔法の才能を開花させたクレハにはピッタリの名前ですわ!」
「なるほど、確かにクレハといったらお花のイメージがあるし、高い魔力と簡単に空を飛べるようになったのを考えると、その名がしっくりくるわね」
ルカの出した魔法少女名にはスズナも納得していた。
「フローリアン…うん、とても良いかも!」
クレハもフローリアンという名前にお気に入りのようである。
「ではクレハのコードネームは決まりですわね。次はスズナですわ」
今度はスズナのコードネームを決めるルカ。
「え、私も?」
「当然ですわよ。もちろんちゃんとした名前に致しますわ」
「私も考えていいかな?スズナちゃんのコードネーム」
「よろしいですわよ!2人で考えてスズナのコードネームを決めましょう!」
2人が意気投合した。
「そ、それなら私はルカのコードネームを考えるわ!」
「ならお願いしますわ。特に先程みたいな名前は却下ですわよ」
「分かってるわ」
と、スズナはスマホでルカのイメージに合う言葉を検索する。




