『1』月村町
「行ってきまーす!」
住宅地にある2階建ての家の玄関から栗色のボブカットの少女が藍色の学生服を着てカバンを持ち、家の外へ出る。
身長は145㎝で童顔である。
彼女の名は坂野くれは。
中学一年の真面目で優しい性格。
「クレハ、気を付けてね」
「うん!」
普段着にエプロンを着けた母の声に見送れながらクレハは家を出て道を走る。
住宅街の歩道を走りながら遠くから見える時計塔が建てられている場所を目指すクレハ。
彼女がいるこの町の名前は月村町。
日野森半島の中央都市、日野森町から山を越えた先にある海が近い町で人口は約3000人。
田舎町なのだが、担当の建設社が京都風の街並を再現するために建てられており、田舎というイメージが感じられず、町全体の4割が川や湖であり、人達から水の都と呼ばれる位である。
ここ…日野森半島は、主国である日野森町を中心に三つの町が存在する。
世界のあらゆる物が集まり、巨大倉庫のある森星町…
日野森半島の中の田舎と言われ、人気の温泉街、霧ノ崎町…
そしてクレハがいる月村町…
クレハはこの町で生まれ、不自由なく暮らしていた。
歩くこと10分…時計塔が建てられた場所が近くなっていき、学校の校舎等々が見えてきた。
目の前には川の上に建てられた橋があり、その先には左右の道路と校門が見えた。
そして橋の入り口横には黒の長髪の少女とウェーブの入ったセミロングの金髪の少女が待っていた。
服や右手に持ったカバンはクレハと同じ学生服であるが、靴下は前者が短く、後者は長かった。
「スズナちゃん、ルカちゃん遅れてごめん!」
クレハが橋の入り口にいる二人に声をかける
「謝らなくていいわよ。私達も丁度来たばかりだし…」
黒髪のロングの少女は成宮鈴菜。
努力家でしっかりものな子で、たまに負けず嫌い。
一生懸命なせいか、クラスメイトと絡むことがなかったが、小学生時代にクレハと友達になってからは他のクラスメイトとも話すようになり、今や頼れる優等生と思われている。
クレハが困った時に助けたりと仲間思いな所もある。
「まだ時間に余裕がありますし、歩いてもお釣りが来ますわよ」
ウェーブのかかった金髪のセミロングの少女は宝道寺瑠花。
宝道寺財閥の次女で天才プログラマーである。
気品や上品さに溢れる外見とは裏腹に普段はおとなしいが、行動するときは積極的になったりと、時々暴走したりする。
しかし場合によっては冷静になる事も…
小学生時代、月村町に住みたいという彼女の要望に親は応え、日本列島から引っ越してきたが、本当の理由は、前の学校でみんなからお嬢様扱いされるのが嫌だったという事である。
学校で出会ったクレハとスズナからはお嬢様としてでなく友達として接され、対等の関係として仲良くなった。
ちなみに彼女にはとある趣味を持っていた。
「早速ですが、ほぼ完成しましたわ!」
「もう出来たの?って、ほぼ?」
完成したのにほぼ?という言葉にスズナは疑問を感じた。
「完全ではありませんが、最後まで遊べますわ」
「……ああ、成る程」
「え、何々?」
ルカの言葉に、何か理解したスズナと、何なのか分からず教えてほしいと聞くクレハ。
「これが一年掛けて製作したゲームですわ!」
そう言ってルカはカバンから光ディスクの入った透明のCDケースを取りだし、二人に見せる。
光ディスクの表面には、開発番と黒ペンで書かれてた。
「……開発番…ねぇルカちゃん、ゲームのタイトルは?」
「今のところはステラ・ハーツを候補に入れておりますわ」
「……趣味炸裂の作品ね」
何かを察したスズナはため息をついて思ったことを述べた。
ルカは大の魔法少女好きであった。
それを知ってるのはクレハとスズナだけである。
「ルカちゃん、魔法少女が好きだからね…」
「当然ですわ!愛と希望を振る舞いながら困ってる人達を助ける正義のヒロイン!幼い頃に魔法少女アニメを見た瞬間、体に電流が走ったように…ワタクシは一瞬で虜になりましたわ!」
と、ルカの熱弁を聞きつつ、スズナは2年前、ルカがクレハとスズナに魔法少女の話をしてきた事を思い出す。
当時は興味が無かったものの、次第に魔法少女の内容にのめり込み始め、更にはルカが録画で溜め込んだ魔法少女アニメのビデオ全話を丸一日泊まり込みで見たりと、すっかり魔法少女に詳しくなった。
またルカは去年からゲーム作りを始めたと言っており、それから一年後の現在にようやく完成したことを2人に伝えてきた。
内容は恐らく魔法少女物だろうとスズナは思った。
「これって…ジャンルは何なの?」
「もちろん、ビジュアルノベルですわ!」
クレハの質問にルカは自信気に答える。
「ビジュアルノベル?」
「効果音、エフェクト等の演出を取り入れたノベルゲームの事よ」
「詳しいんだね」
「まあね」
ビジュアルノベルについてクレハに教えるスズナ。
スズナも実はアドベンチャーゲームをいくつかプレイした経験があったため、詳しかったりする。
「所でルカ、これ何かのツール無しで作ったの?」
「その方が手っ取り早いでしたが、さすがに満足のいく機能が無かったので1から組み直しましたわ」
「1から!?」
「本当ルカはプログラミングが得意よね…ツールを使わずに自力で組み立てるんだから」
スズナの質問にルカはツールを使わず、プログラミングで組み立てたと答え、それに驚くクレハ。スズナはルカのプログラミング能力に感心した。
「一応プログラミングを一通り終わらせてテストプレイも済ませ、ようやく試作品が出来ましたわ」
ルカはゲームのデバックはほぼ終えてると説明する。
「そうね。始業式が終わったらルカの家で試しにやってみようかしらね」
「私もプレイしていいかな?」
「もちろんですわ!興味があれば後で同じものを用意して差し上げますわ」
ルカは二人が遊んでみたいと言うと喜んで既に作ったゲームをコピーしたディスクを後で渡す事を話した。
そんな中スズナは学校の時計を確認した。
時間は…8時半を指していた。
「二人とも、そろそろ学校に行くわよ。始業式で遅刻なんてしたらカッコ悪いわ」
そう言ってスズナは先に正門へ入っていく。
「あっ、待って!」
「ふふっ、楽しみですわね」
スズナの後を追いかけるクレハを見つつ、自作ゲームのプレイを楽しみにして微笑むルカも徒歩で二人の後を向かうのだった。
彼女達の話は2話置きに公開します。
次の話はメイン主人公の少年の話になります。
お楽しみください。




