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辺り一帯全てを焼き尽くす炎。
轟々と燃え広がる様を、ただぼんやりと見つめていた。
手を伸ばせば、触れてしまいそうな距離。
しかし、不思議と熱さは感じない。
音が、まるで水の中に居るかのように聞こえてくる。
視界が暗転する。
目を開くと、そこはどこかの部屋の中。
四方の壁は既に火の手が回り、床一面には不思議な模様が描かれている。
中心には揺り籠が置かれ、その中から泣き叫ぶ赤ん坊が覗いていた。
「......」
それは、赤ん坊を見下ろし佇む。
人の様な形をした何か。
その身体は靄のようにぼやけた姿をしており、人かどうかすら定かでない。
時折ノイズのよなものが走り歪む姿は、存在が曖昧なように感じた。
何かは赤ん坊へ近づき、右腕を伸ばす。
伸ばした指先が、赤ん坊の額へ触れる。
「...ッ」
ぼやけた姿がゆらめき、後退り掛ける。
見えない筈の顔が、苦悶の表情を浮かべているように思えた。
それでも触れるのをやめない。
震える右腕を片手で支え、体勢を保つ。
すると、ぼやけた足元から、次第に色が薄れていくのが見える。
それは足先から足首、脹脛と、徐々に大きく浸食していった。
それが浸食していくにつれ、自分の意識も遠のいていく。
視界が薄れ、ぼやけていく。
思考が覚束なくなり、なにも考えていられなくなる。
やがて視界が完全に途切れ、意識も途絶える時。
「ごめんね」
薄れていく意識の中、そう聞こえたような気がした。