日替わりシェフのレストラン
長らくテナント募集中だった駅前の店舗が、新装オープンした。
今度は、洋食屋が入ったらしい。
しばらく様子を見ていたが、通勤のたびに気に場所にあるので、帰りに寄ってみた。
少し前から後輩社員の間で人気になっていたこともある。
流行にすっかり鈍感になったものだと自虐しつつ、目当ての店の暖簾をくぐる。
すると、その日は還暦過ぎらしきコワモテのシェフの日だった。
その日は、とわざわざ断りを入れたのは、曜日によってシェフが替わる店だったからだ。
それからは物珍しさも手伝い、曜日を変えて何度か足を運んだ。
初日のシェフの他に、起業を夢見る学生、脱サラした中年、子育てが一段落した主婦などが勤めていた。
メニューも、イタリアンだったり、フレンチだったり、様々だった。
シェフだけでなく、ステージで演奏したり演芸したりする演者も日替わりだった。
何だかんだで、半年くらいは通っただろうか。
ある金曜日に店に入ると、初日と違う若い女性がシェフをしていた。
ポルトガル料理の親父さんはと訊くと、独立したみたいですよと、レジの横にある名刺を持って来た。
トマトスープを飲みながら、名刺を背広のポケットにしまった。
その頭の中では、今度の日曜は妻とバカリャウを食べに行くかと考えていた。