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女王の試練は異世界!?

             *投稿直後(未完)→(一応完成です)



選定者……世界の存亡を判断する者。又は目印となる者。



1.嵐の前の明るさ



その日、ユーデン国は、どこもかしこもある話題で賑わっていた。

「いよいよ今日ですなあ、シーラ王女とシン王子との婚約日!いやあ、めでたい!!」

「これでユーデン国も安泰ですなあ。亡くなられた王妃も喜んでいることだろう」

皆の微笑ましい声が聞こえる中、王宮の一室に悲鳴のような声を出している者がいた。

話題の中心人物の一人、当のシーラ姫である。この美姫とも名高い姫がなぜこの晴れの日に頑張っているかというと、、、、

「お嬢様頑張ってください!!あと1㎝は何としても短くしないと!」

「わかってるけど、痛いー!綺麗にドレス着るためとはいえ、ここまで細くしなくてもいいんじゃない?」

絶対にお腹の部分、赤くなってるわよ。毎回のウエスト引き締めだけは勘弁してほしい。

シーラは柱にへばりつきながら、メイドたちはシーラのウエストを紐で締めあげているところだった。

「レイ様は美容のためにこのウエストをキープしてらっしゃいます!!姫様も頑張って!!」

「レイのウエストは筋肉でしょーイタイィィィ」

美しく周囲に魅せるためにウエスト部分をメイドたちと一緒に行励んでいた。

そして、もう一人の主役は………王の庭の木陰でこれから義父となるであろうユーデン国の国王と共にチェスを行っていた。

「むむむむむ、なかなかしぶといのコンフォート国のシン王子は」

今日行われる婚約の儀式が終了すれば、シン王子はこのユーデン国で結婚式までの間にこの王国内で暮らすというのに、この国王はなかなかにして意地が悪かった。

「王もなかなかですよ。これほどの手腕とは思いませんでしたよ」

シン王子も前回、王がシーラをシンが守るよう体裁を整えたことを暗に攻めていた。

「フフフそう攻めるな。アレは強い。レイが鍛え、守っているからな。だから勝算があって行かせたのだ」

「それでも厳しい局面には変わりはありませんでしたよ。ほい、」

シンはチェスの駒を一つ前に進めた。これで、この勝負はシンに傾いたはずである。

「うお、待て待て」

「待ったなしです」

遠くから見ていると微笑ましい二人の盤上の戦いを遠くから見守っている影がいた。

「あいつも、素直に婿にきたシンを歓迎してやったらどうなんだろうな。婿にきたシンに手ほどきを教えろなどと遠回しに言うとは」

シン王子の父であるカリスであった。この王はシン王子の見た目とは違って顔、体格も2頭身では?というくらいにポヨンポヨンした人物だった。そして、その王の隣にいる人物が、、

「仕方ないですわよ。15年以上も前に結婚の約束をした二人が、とうとう婚約するなんて、わたくし、嬉しいくて、感動しちゃう」

シン王子の母親である、ルーナである。

シーナの国、ユーデン国と、第三王子のシン王子は、隣国という間柄、同じ年に生まれたために幼い時から許嫁として、お互いの国を行き来するなど交流があった。ユーデン国は女王君主国家であるため、次期女王の婿としてシンがユーデン国に行くことが昔交わした約束事であった。そして、冬季という農作物が育ちにくいため、比較的に落ち着いた民衆や王宮内が落ち着くこの冬に、宇極左局を経て、とうとう婚約の日を迎えたのであった。

「ママンもシンを大事に大事にしてきたからな」

「あらあ、シーラ姫も幼いころから可愛がってるから一層喜んでいるわよ。セレネ様の亡き形見ですもの」

セレネはシーラの母親である。つまり、ユーデン国の王妃だった人物である。

「そうですねえ、お嬢が幼いころに王妃様、亡くなられたから。一番式典にご臨席したかったことですわね」

隣国、コンフォート国の国王夫妻の隣には、レイが優雅にお茶を飲みながら座っていた。レイは、シーナ姫の教育係兼、武術の師であり、その強さから、途中シン王子の武術の面倒も見ていたため、シンの国王夫妻とも親しく面識があった。

「まあ、これにて、あいつも肩の荷が下りたもんだろう。我が両国の友好も万々歳だしな」

「そうですわね、オホホホ」

こうして、ユーデン国では、隣国の国王夫妻や周辺国家の伝令者、臣下、貴族を招いての、穏やかな時間が流れていた。



まずこの国での婚約の儀であるが、教皇となる人物の前にポセテリア教本を説いているのを婚約する二人、近親者がも臨席する中厳かにしめなわれる。両極にはそれぞれの父母、シーラの母親はなくなっているが、父である国王も出席していた。

その後、教皇が面前で二人に渡す紙にお互いの名前を書くのだった。そして、教会を出たあとは、そのまま宴会の準備がされていた。

長い教皇の説法も終わり、「これにて、この二人はこれから一年間は、夫婦になる準備として生活することを教皇アブガトザ二世が証人となる」

教皇の言葉は、聖堂に大きく響き渡り、周囲から割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

「シーラ様、ご婚約おめでとうございます!」

「お二人に幸あれ!」

長年お互い幼馴染だった二人だが、ようやく一緒になって暮らせるのだ。シン、シーラにとっても、今日のことは嬉しいことだった。

お互いに顔を見合わせて、眼でお互い、今何を考えているのか見つめ合っていたが、ぷっ、とおかしくなって笑い合っていた。そのときだった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

突如として、立っていられないほどの地響きが聞こえた。

ドオオオオオオオオオオ――――――――――――ンンンンンンンンンン

すぐに横、縦と、激しく聖堂が揺れていた。聖堂内に垂れ下げているランプはすぐに倒れ落ち、ガシャーンと大きい音が聞こえる。

「シーラ、危ない!床に伏せろ!!」

「きゃあ」

シンはすぐさま異常を察知して、シーラを床に伏せさせ、その上から覆い被さった。

臨席していた女性陣からキャー―という叫び声と、床に伏せろー。

という声で、聖堂内は、一瞬にしてパニックとなった。

まだ揺れは続き、聖堂内から何かバリリリッリイゴオオオォォォンンンン、パリ――――ん、ガシャアアアーンンという音が聞こえる。この聖堂内にいる者たちは、死の恐怖を味わったが、しばらくして揺れが収まった。

「おい、揺れがおさまったゾ。外へ出よう」

皆がやっとのことで顔をあげた。

「な、なんだあ!?黒い岩だぞ!!」

誰かが叫んだ先には、見たこともないような大きい黒い岩が、数刻まではなかった場所に威風堂々と存在していた。上を見上げれば、聖堂内のシンボルである、光を指す大きなステンドガラスが割れて、床に無残に粉々と落ちていた。

そして、黒い岩は小さい物から、大きい物まで数えきれないほどあり、その振ってきた岩に当たったのか血を流している臨席者もいた。それを見た者はまたキャー―――。と悲鳴を上げるのだった。

「はやく、、、はやく、王家の皆様を安全な場所へお連れしろ」

「どうしたというのだ。外だ、はやく外に出よう!!」

「シーラ、大丈夫かい?」シンが心配そうに聞いてきた。

「ええ、大丈夫よ。けど、いったい何が起こったっていうの」そうつぶやいた。

「大変です!!!大陸の中心にあるカルディア剣山が、、、爆発しました!!」

外を守衛していた兵の一人が、聖堂内に叫んだ。

「な、なにぃ!!!」

「あの剣山が!爆発しただと!!??」

シーラと、シンが伏せていた場所は、ちょうどステンドグラスがあったが、目線をうつすと先ほどの激しい揺れで割れており、外からの景色が見れ、そして、その窓からは遠くにそびえたつカルディア剣山が黒く、おおきな煙を吐き出しながら、なおも火玉を吐き岩が各所から被弾している姿だった。

その、あまりの異形の光景に、二人は息をのんでただ立ち尽くしたのだった。




2.急転直下


カルディア剣山は、このカルディア大陸の中心に位置しており、もし剣山が爆発したとなれば、各国周辺に多額の被害が出るはずだと国お抱えの科学者たちから言われてきていた。

そして、最悪なことに、このシンとシーラの婚約の儀式の日に、大爆発を起こしたのであった。

世界の中心にそびえたつ剣山からは、大きく黒い煙が空を覆い隠し、火花さえも見えるほどの悪天候へと変貌した。周辺には大きく炎がついた黒い岩石が黒い雨のように轟轟と降り注ぎ大勢の死者、負傷者を出していた。

王宮内も例外ではなく、大きな岩石が城の塔の一部に当たり、その塔が崩れ落ちることも見舞われた。宴のために準備していた大ホールはすぐさま負傷者が運ばれ、食事は救援物資へと変貌を変え、各国の主要人達は傷の応急処置が終わり次第、帰国の準備へと取り掛かった。自分たちの国の被害状況を一刻も早く知るためである。

ユーデン国、国王は臣下たちにげきを飛ばすべく言い放った。

「これは未曽有の大災害として、一刻も早く復興するよう全員務めよ!」

「ははは!!」

臣下、側近の貴族たちは王宮内で各自国の調整に当たっていた。しかし、次々に報告される悲惨な状況に遺憾たる思いであった。

剣山周辺では火の海が流れてきて、とても水の消化活動はできず、家財、思い出が詰まった家が無残にも静かに焼かれていくのを見るしかできなかった家族もいたとシーラ達、王宮内では報告を受けていた。

しかし、それ以上に頭の痛いことに、噴火後に大量に上空にまき散らしている灰によって、冬とはいえ収穫前の作物等が枯れ始め、冬が明けたら凍っている飲み水も上空に降り続く灰により飲むことが困難だと予想された。そのため、動物たちが食べる物がなくなり強盗、略奪も増えているということだった。犯罪が増えると国が傾く前兆と言われており、不吉なことだらけだった。

「これは、建国以来の非常事態ではないか。このままでは国が亡びるぞ」

外の異常な光景は、最初、誰の目にも甚大な被害を出していることは明らかだったが、噴火後も長期的に困窮するような事態があまりにも多く発表された。

「わが国だけでなく、カルディア剣山に近い諸国は我々と同じように被害が甚大らしい、、。あの帝国も頭を抱えているそうだぞ」

シーナは国王の傍で、一刻も早く安静の地に戻そうと奮闘して城下町や剣山の周辺の被害状況も、馬を走らせ間近で見に行ったが、どれも復興には気の遠くなるような惨状だった。

「この前ここを通りがかったときは森が、、たくさん生い茂ってたのに、、」

そこは、この前、シーらがシンに会いに行くためにレイと一緒に歩きながら通った森の近くの場所だった。ここの森も、以前は緑豊かに木々が生えており、小さな動物もみられたが、今は大きい岩石がゴロゴロと岩の山が出来上がっており、高く壁となって、シーラ達に聳え立っていた。ときおり森で生計を立ている森人もいたが、全く見かけないか、もともと家が建っていたと思える場所には流れてきたのだろうマグマの黒い海が、いまや石の化石となって固まっていた。

以前は子供の遊び道具が置かれていたのだろう、小さい人形が黒い岩石の中に飛び出ていたが、シーラが掴もうとした手に触れるとボロボロと崩れ落ちた。

「これを、、直すのに何年かかるのかしら」シーラは愕然としていた。

「我が国もひどい惨状らしいが、ここは近いから特にひどいな」

シン達の国王夫妻は噴火直後挨拶を済ませた後はすぐにコンフォート国に帰り、被害にあった場所の対応にあたっていた。そして故郷の国を心配するシンに、我が国のことを手紙で知らせていたのだった。

シーラとシン、レイは他の場所も視察したが、どこも酷い有様だった。

頑張らなきゃ、ここまでいい国がこんな姿なんて、わたし耐えられないわ。

しかし、シーラの思惑とはいかず、難しかった。

国の立て直しに当たっていた国王が倒れたのだった。


国王の間の中央に大きなベットがあり、そのなかで王は横たわっていた。

「すまんな、もうこれ以上無理するとまた倒れると言われてなあ」

「大丈夫よ、わたしたちが頑張るからね」

シーラの他に、シン、レイも傍で控えていた。

「お前たちは婚約した直後だというのに、こんなことがなければなあ」

「私たちの婚約よりもみんなの生活の方が大事よ。大丈夫よ」

シーラは机上にふるまうが、それは嘘だった。だが、父である国王が以前よりもやせ細り、疲労が見える顔色を見れば自然と出た言葉だった。

「そうです、王はゆっくり休んでらっしゃらないと」

シンもさすがに心配そうに言う。

「そうなんだが、シーラ、お前にはきついことになるだろうが、今後はお前が指揮をとれ。」

国王はシーラに瞳を見つめたまま言った。

「ユーデン国は女王君主だが、母親がいない以上、私が国王としていたが、このような状況ではシーラが女王として国を動かすのがふさわしいだろう。シン王子はまだこの国に婿としてきたばかりだしな。」

「お父様…」

「そして、レイ。このような状況、お前はどう考える?」

傍に控えて立っていたレイは、静かに答えた。

「世界を揺るがすような動乱が起こることが指し示すことは一つです。国王。神との対峙がきたと思われます」

シーラ、シン達に静かに衝撃が走る。以前、帝国と剣の戦闘になった時があり、レイが私をかばい剣に当たり、レイは胸を刺されたのだ。

私はレイが死んだと思って居たのだけれど、そのあとで、この世界の秘密にしていることをレイ、シンから聞かされていたのだった。けれど、、、。

こんなにはやくも神と対峙するようになるとは思わなかったのだ。

「そうか……。レイ、すまんが、その準備をお前に任せるぞ」

「わかりました。お受けいたします」

レイは一礼して頭を下げた。

「それと、シン王子。娘をよろしく頼む」

「わかっております」

そして、シーラ達は国王の間から退出して、国王ただ一人だけとなった。

シーナも大きく成長した。もうこの国の席を譲ってあの二人に任せられる。だが、やはりあの選定者としての役目までも背負うことは早すぎる。

広い室内で王はポツリと言葉を口にした。

「やはり運命は変えられんのか………なあ、セレネ」

国王の部屋に飾られた大きな肖像画、シーラの母親である、緑色の瞳をしたセレネに問うが、絵はただ静かに見ているだけだった。


「レイ、これも、、この世界の決まり事なの?」

シーラ、シン達はレイが向かう方へ後をついて歩いていた。レイがある場所にきて欲しいというのだ。

「はい、世界は必ず試練が来るようになっています。そして、神がその住人たちの動きを見定め、選定者の意見も聞いて、定めを決めるのです」

「けど、急すぎるわ。選定者として会うなんて…王の代わりに皆を引っ張るのも、今更になって怖いし、、、」

「試練というものは、いつも急におこるものです。いつの世も。ですが、お嬢が神と合わせることに私も不安がないというわけではありません」

「それなら、、」

シーラは、レイも一緒にきてよと言おうとした瞬間だった。

しかしー。

「お嬢が女王として、いずれこの地を納めるにも、最終段階がきたようです」

「最終段階?」

レイの歩きがとうとう止まった。

「着いたのかレイ。初めて来るが、ここはどんな場所なんだ?」

レイが止まった場所は、この国がつくられた初期の遺跡が残る場所だった。王宮とは少し離れた王宮の広大な庭にある小高い丘であり、瓦礫のようなものが数多く積み上げられつるの緑の植物が絡まっており小高い丘のように見えるのだった。

「シン王子、ここはお嬢が、貴方を鍛え上げることへの最後の授業が詰まっている場所ですわ」

シーラはレイの言葉がわからなかった。

「こんな場所で授業するの?レイ、そんなことよりも、神と対峙するんじゃないの?」

「それに、国の復興をしなくちゃ、仕事が山済みだな」シンも言葉を添えた。

レイは背筋を伸ばして、ニッコリとほほ笑んだ。

「お嬢、そしてシン王子はお手伝いとしてある場所に行っていただきます。遥か昔の遠い場所で、国の内乱を収めるのです」

「ええええ!?どうやって。それに、レイ、あなた、不死の身体である以外は何も特殊な能力ないって、言ってたじゃない」

「確かに私は何も使えませんが、守護する者として記憶を治めた水晶を持っております。お嬢、これを持って行ってください」

レイが渡してきたのは、ただ透明な水晶にみえた。

「え、ちょっと待ってよレイ。内乱を治めろってどういうこと?」

「貴方にはまだ女王として、選定者として足りないことがあります。今から、身一つで行ってもらうのです。もちろんシン王子は婿殿として付き添いを許可しますが」

レイの言葉はなおも続いた。

「今まで貴方様を、姫としては異例の剣として、野外活動も鍛えたのは全てこのためです。」

「内乱を治めろろって、、、他国では女で身分もないなら、私ができるわけないじゃない!おかしいわよ。レイ、そんなために私を今まで王宮で鍛えてきたの?そんなのひどいわ!」

シーラは悲しかった。レイと一緒に楽しみながらしていたことが、レイとしては選定者としての役目の一つでしかないことに……。

「ですが、お嬢、貴方はこのユーデン国の王女として生まれたわ。そして、選定者の血も。誰も、どのように生まれるかは、できないのよ。たとえ、その道が困難で、いばらの道であってでも!!!」

泣いているシーラに、レイは、辛抱強く説明を続けた。

「この国だけじゃない、帝国のあのチビだって、シン王子も、そして、私もです」

「レイが……?」

「はい。私がいた世界でも生まれてくる世界、場所は選べませんでした。生まれてくる場所が、荒野であればすぐに命を落とす赤子もいる。例え生き延びられたとしても、他の生命、生き物に喰われたり、悪に染まる者もいました。けど、それでも、みな、悲しみを乗り越えて生きてきたのです。それを、今回、私がシーラ王女に対して、最後の授業として行うものがあります」

「レイ?」

「遥か昔、この世界ができたばかりのころ、貴方のご先祖様であられる方がいますので、しっかりと学んできてくださいね。お嬢には、世界の誕生の地へ、行って貰います」

「え、レイ、待って。この光って、なに!?」

「レイ、もっと説明しろ」シンが叫ぶ。

「シン王子はオマケとして見に行くんですよー♡」

「オマケ!?どういう意味だ」

「私はいつまでも貴方たち二人の成長を見守っています」レイがほほ笑んでいると、ブワッと白く光がシーラの周りを囲い、そしてもうシーラ、シンの身体はどこに向かって落ちているのかも、飛んでいるのかもわからない、空間の中で浮いていたのだった。そして、空間の奥に、声が聞こえてきた。その声に吸い寄せられるように、声がする方角へシーラとシンの身体は飛び込んでいた。


ジャリ。

う、ううん。なんだろう。口の中になにか……。

シーラはモグと口を動かすと、今度ははっきりとジャリジャリ!と口の中に響いて、飛び起きた。

ちがう、これ、砂だわ。え、何で口にぃ!?

「ぺ、ぺ、なによ、砂がたくさん……」

起き上がりながらあたりを見渡すと、手元には水晶が転がっており、外の風景は土、砂、山だろうか、遠くには塔と、大きな剣山が見えていた。茶色であった。私たちがよく目にするカルディア剣山とよく似ているわね。

植物の気配は全くなく、ましてや、人ひとりもいない荒野にシーラはいたのだった。そして、強い風が吹き荒れており、シーラは横になっているときに口に風で飛ばされた砂利が入ってきたらしかった。

ここは……。いったい……。

そう思ったときだった。シーラの傍に立っているリスがいたのだ。ちょこんと立っているだけでも可愛らしかった。

「わ、びっくりした。なんでリスがここに?」

シーラがそういった瞬間ー。

「シーラ、俺だ!俺だよ!レイのやつ俺をリスに代えやがった!!」

「え!!シン!?中身シンなの!?」

「そうだ!!気がついたときにはリスの身体で、ショック受けてたらシーラが起きてきて………て、おい、なに笑ってやがる」

「アハハハハハハハ。だって、そんな可愛い顔で難しいこと言うんだもの。大きい難しそうな表情のシンがそんな可愛い動物って、、シン可愛すぎるよー」

シーラはお腹を抱えて笑っていた。

シンであるリスはムカついているよな雰囲気をだしていたが、突如として話を変えた。リスであることに討論することを諦めたらしい。

「それよりシーラ、ここはどこだと思う?何にもない場所なんだが、あのデカい山といい、馬鹿デカく伸びたあの塔も気になるな。」

リスであるためか動きが機敏になったシンは、シーラによじ登り方にとまった。そして、シンが言う塔とは、細長く雲まで届きそうなくらい細く、大きい塔が遠くからでも見てとれた。

「え、ああ、そうよね。あきらかにさっきの場所じゃないけど……」

シーラはそこまで考えたが、ふと、レイについて頭がよぎると怒りが湧き上がってきた。

そういえば、私、レイにできないわと言ったら、光に包まれて、まぶしくて……どこかに飛ばされたんだわ!!ぐぐぐぐ、何にも持たせずに異世界へと送る馬鹿がどこにいるっていうのよ。

「ここ、どこなのよー!!!!レイのアホたれーーーーーー!!!!!!」

「わ、シーラ、急に叫ぶなよ」

シンはリスの耳を抑えて言う。

荒野に力の限り叫んでも、全く変化はなかった。レイが出てくる気配さえない。

あースッキリしない。一応叫んでみたけれど、風が強くて飛ばされてきた砂が、口に砂が微かにはいってくるだけだった。

どうしよう。そう思ってシーラが涙ぐみながら後ろを振り返った瞬間だった。

眼以外は、頭、口元を白い布で巻き付けている一人の男性がすぐそこに立っていたのだ。

げ、さっきの叫びきかれちゃった!!!!、ううん、それより、こんなとこに人いたーーーーー!!

リスであるシンはすぐさまシーラの髪に隠れた。

「す、すみません、あの、道をお尋ねしたいんですけど、というか、ちょっと、お聞きしたいことがあるんですけど……」

男はジーとシーラを見つめていたが、

「貴方はどちらから来たのか。みたところ、見かけない変わった服装をしているが……」

不愛想に質問してきた。ふと、男の服装を改めて良く見たシーラだったが、なるほど。確かに、シーラ達がいた世界では見かけない意匠の服だった。男もシーラが着ている服が珍しいのか、脚の先から頭までジーと見ている。

「あ、いえ、ユーデン国というところなんですけど。」

「ユーデン国?知らぬ。何も持っていないようだが、この場所で夜を明かすと死ぬぞ。」

なんにもない荒地だから、見たまんま、そうでしょうね。そんなとこに移動された私達って……悲しいわ。

「あ、あの、私、連れとはぐれてしまったんです。すみませんが、一緒に街でもいいので、連れて言って貰えないでしょうか?」

シーラはこの際、なりふり構ってるわけにもいかないので、連れとはぐれたと嘘を言って、薄汚れた布を巻いている格好の、この男について行って、何とかこの荒野から離れようとした。

そうしなきゃ、ごはんなんてない。飢え死に決定よ!冗談じゃないわ。

「お前……」

そのときだった。

「おーい、シュデリア。空から落ちてきたもんはあったかよ。って、お前、そのチビどうしたんだよ」

声をかけながら歩み寄ってきたこの男の服装も最初に出会ったこの男と同じように眼以外は布で覆った服装をしていた。名前らしきことを言っており、仲間であることは間違いないようだ。

「ん。…………………………拾った」

こうして、ユーデン国王女シーラ、リスのシンはシュデリアという男に拾われ、その御一行と出会ったのだった。



3。バベルの塔


「わー静かなとこですね」

「外出ても静かだと思うぞ」

「ええっと、火が暖かいですね!」

「暗いから足元照らさないとな。ここ、洞窟だしな」

ですよねーーーー。入るよう案内されたときはびっくりしたけれども!!まさか初の洞窟潜入が、こんな別世界で、知らない人たちと一緒なんてーー。

きつ過ぎるわよ。レイ。

シーラとリスのシンは男たちに「とりあえずここは危ないから、何も起こさなければ安全な場所に案内する」と言われ、洞窟内をすすんでいた。

「おい、ちゃんと前向いて歩けよ。危険だからな。」

「あ、はい。」

幸いなことに、この人たちは布で顔を覆っていて表情はみえないが、慣れない洞窟内で何かと気遣ってくれる。悪い人たちじゃなさそうだけど……。

「あ、あの、本当にこの洞窟の先に都があるんですか?」

安全な場所を目指しながら、シーラ達は覆面の男たちと会話していた。というよりも、一方的にやけに明るいカスペルという男がペラペラと話してくれただけなのだが……

「ああ。安心しろ。夜が明けたらお前たちを安全な場所に案内させる」

男たちが言うには、あの場所は地上は食べるものはなく、大河を超えていかないと木や動物はいないらしい。そして、、

「それよりも、お前たちはなんだってあんな場所にいたんだ?」

う、どうしよう。正直にメイドに異世界へ飛ばされました。て、言っても信じられないし…。

すると、肩に乗っていたシンが、「身売りに出されて、馬車の事故で外に放り投げられたと言えシーラ。それしか納得させるしかないだろ」囁いてきた。

「あ、え、と、身売りに出されて馬車の事故があって外に放り出されたの」と苦し紛れに言った。

私達を拾ってくれて、話を聞いた覆面の二人は、「そうか……」とじーと見ていた。

う、言い訳としてきつかった?シーラ、シンは冷や汗をかいた。

「それはそうと、お前シーラだったか?珍しい眼をしてるんだな。俺たちのところにもお前とおんなじ眼の色をしたお嬢様がいるんだけどな」

え?

「あんまりにも珍しいから、あの方だけと思ったぜ。そういえば、おまえ、よく見たら顔も似てるな。なあ、お前も思わないか、シュスイ」

ええ!?私とおんなじ瞳の色?え、それって、、、?

「話はあとだ。着いたぞ」

シュスイがそういうと、岩壁のあいだからこぼれ出る眩い光が見えてきた。

ブワっと光で、わ、まぶしいいいと思って思わず眼を閉じそうになったが、すぐさま眼が慣れると、カスペル達が言ったとおり、そこには洞窟内だというのに水が湧き上がっており、多くのかごがあり、その中には衣服と思われる布がはみ出ていた。洞窟の上から垂れ落ちてくる水の対策なのだろうか、布で仕切った天井も作られていた。そして布を巻き付けた衣装に身を包んだ多くの人たちが食べ物だろうか食材を囲って食事をしており、ガヤガヤと賑やかだった。

見れば見るほどシーラ達がいた世界とは異なっていた。

「わ、ほんとだわ。すごい。」

「だろ?けど、その前に、お前たちに会わせないといけないからな」

振り返ると、覆面の男たちは顔に巻き付けていた布を取っており、顔がようやく見えた。

カスペルという男は、黄金の太陽のような色の髪で浅黒い色をしており、イメージ通り元気そうな若者だったのに対して、寡黙の男ー、シーラ達を拾ったシュスイという男は黒色の髪に銀色の鋭い瞳の男だった。

カスペルは、驚いて凝視しているシーラ達をよそに、周囲をきょろきょろとして誰かを探しているようだった。

そして豪華な布で仕切られた屋根がついた場所にいた少女を見つけると、「おう、ヂュラン!見回りから戻ったぜ!」手を振りながらその少女の前へ近づいて行った。

「遅かったじゃない。どこほっつき歩いてたのよ」

シーラはヂュランという人を見ようとしたが、カスペルの背は高く、その先の人物がすっぽり隠れており、顔もみれず、身体の一部の腕、脚が話すたびにチラッと見えるだけだった。

「まあそう言うなよ、シュデリアが拾ってきた子がいるんだよ。何も防護する服持ってなかったから、洗って、なんか着替えさせてやってくれ」

「もう、そう言ってお世話させる」

そしてようやくシーラに気づいて顔を見ると、お互いに驚いた。

同じ緑色の瞳を持っていたのである。そして、なんといっても顔。顔が似ているのであった。明らかに血縁者と思うような姿であった。

どーなってんの?世界には一人だけの選定者だって聞いているのに。やっぱり別の世界に飛ばされちゃったの私!?

「緑の瞳……。あ、あなた、もしかして、選定者……」

わ、間違いない!この人も選定者なんだわ!!

「ちょっと、シュスイ!あなたこの状況説明して!!どうゆうこと!?」

急にヂュランという少女はカスペルとは違って後ろで控えていたシュスイの方へと声を張り上げた。

「俺もわからん。とりあえず、今からこいつらと話をする。お前もついてこい」

そう言って、奥の布で仕切られた場所へと入っていった。


私たちはシュスイの案内で、大きな布で仕切られた、洞窟内で作られた部屋の前に座るよう言われた。ヂュラン、カスペル、ゴビラが周りにいるという状態だった。

まあ、尋問されて当たり前か、、、。変わった服を着ている人間がきたらね詳しく調べるわよね。

「まず、はっきり聞こう。お前たちはどうやってここに来た?」前方の中央に鎮座する老婆のゴビラがきいた。

うう、どう説明したらいいんだろう。そう思っていると

「私たちはユーデン国という所からきました。しかし、私達も地上であのような何もない場所で生活するのは難しいので、この洞窟内でしばらくの間いさせていただけたらと思っております」リスのシンが言うと、

「「リスが喋った!!!」」

驚いて部屋の壁(?)に後づさりするカスペルとヂュラン。そして、冷たい水のごとく、眉を(ひそ)めるだけで何も言わないシュスイ、ゴビラ。

「そのユーデン国という国だが、、、選定者はお前か?」

「………はい」

さっきヂュランと会った時に選定者の言葉が出てたし、なにより今回は最初から緑の眼を隠していなかったのだ。選定者について知っている者ならばすぐバレるはずである。

「ならば、守護する者がいるはずであろう、誰だ?」

「ええっと、レイという人なんですけど…」

そう言うと、シュスイは頭を抱えていた。「あいつか……!!」

シュスイが口を開いて話をしてくれた。

「お前たちはここにきて警戒しているかもしれないが、レイと俺は知り合いだ。残念ながら。だから、ありのまま正直に話しをしてくれないか?いま、こっちも大変なことで手一杯なんだ」

レイは、無茶なことをする師だが、悪い人ではなかった。そのレイと知り合いなのだから帰れる糸口が見つかることは十分にある。また、あのレイと知り合いなんて、この人も苦労したんだなという同情の気持ちが生れ、シーラ、シンの二人は親近感を持って事情を説明したのだった。

「ふむ、お前たちの事情はわかった。神に会う前の試練としてここへ送られたというのだな」

老婆のゴビラがシーラ達の説明を聞き終わって話した。

「ここにいるヂュランもつい先日選定者として神と対峙したばかりであるし、よし、わかった。お前たちの力になりたいが、いまは難しいの」

やっぱりこの人も選定者なんだ!!

「難しいとはどういうことでしょうか?」

リスのシンがゴビラにきいた。

「いま、ここの地は一つの国家であったが、次の王と決まっていた姉のヂュランの弟君が反乱をおこしたのよ。それで本当の王を守るために、この洞窟で王座奪還の機会を伺っていたのだ。それが、近いうちに行う予定じゃ」

「その王座奪還後に私たちを元の世界へと返してくれたらいいんですけど?」シーラは伝えた。

「しかしな、、」

「おばば様が難しいというには訳がある。お前たちを返すには、一番高い場所へと行って、その隠している水晶を天にかざすしかない」

「じゃあ、一番高い場所はどこにあるの?」

「あるにはあるが、、、、、行くのが難しいんだ。」

「大丈夫よ、わたし、高い山でも行くわよ」

シーラがそう言っても、シュスイは言いにくそうに口を動かした。

「いや、山じゃないんだ。この世界で一番高いのは、バベルの塔なんだ。お前達は塔に行くしかないんだ」

「バベルの塔?」

「弟君のライディンが今建設中の塔のことだ。塔は永遠に建設され続けて、空まで届く塔を建設している。弟君は神に対峙するためだそうだ。選定者であるヂュランに対抗して、その塔を造ってこの国の王になるつもりなんだろうが、この国の後継者はヂュランと決まっているんだ。しかし、そんなことをしてどうなる?人間が神に近づきすぎる、大それたことすると破滅することを意味しているというのに。」

シュスイは続けて言った。

「だが、皮肉なことにその塔でしかお前を元の世界に戻す方法はない。そして王座奪還の際には少量ではあるが火薬も危ない時には使われるだろう。俺たちのもめごとが終わった後にお前たちを元の世界へと返そうにも、塔自体が残っているかは難しい」

「わかったわ。じゃあ、その塔に行くから、道を教えて欲しいの。」

「それはダメだな」

「どうして?」

「お前はあまりにも姉のヂュランと似すぎている。お前がもし、弟君に会ったところで、姉のヂュランとは関係ないと主張したところで、聞きいられず捕虜か殺されるのがオチだぞ」

「そんなのイヤー!!絶対に帰るのよ!!やりたいことたくさん残してるんだから!!」

「一つだけ方法がある。」

嫌な予感しかない………。

「つまり、、、」

シュスイの言葉は続いた。

「お前は我々と協力してこの戦いに勝って、バベルの塔に登らねば難しいということだ。」

やっぱり……。ううう。やっぱり泣きたいわ。


それからというもの、シーラは洞窟内で生活するようにと、この世界で選定者を見守っているというシュスイに言われた。

シーラは、レイから花嫁修業としてだったり、メイドとしての潜入捜査で身の回りのことが王族出身としては異常にできていた方なので、簡単だったのだが、、、、問題は夜である。そして、問題を抱えていたのはリスになったシンであった。

さすがに「可愛いリスですが中身は大人の男です」と言って、従者たちがシーラのために作られた一人分用の寝床に対して、新しく寝床を作ってもらうにもいかず、最初の夜は同じ布団の中で、間に仕切りの布を敷いて寝るという形になった。

普段のシンの姿であればシーラも、同じ寝ると言えば初夜と思わずにはいられないほど緊張していただろうが、今は手のひらサイズのリスが「お前には恥じらいという物がないのか」と言われても愛らしかった。

「リスなんだし、緊張するほうがおかしいわよ」

「ううう。」

シーラは全く緊張せずに、「おやすみー♡」と言って、さっさと寝息を立てていた。

結局、シーラは疲れもあって爆睡、シンは寝不足といういつもの状況となった。

そして、眼の下にクマをはやしたリスのシンを肩に乗せて、シーラは洞窟の中を探索することにした。

珍しい物を見るのはシーラにとって大好きなことだった。

しかし、洞窟内を歩いて早々に大きな男から声をかけられた。

「お前もこの戦に参加するってほんとかよ」

「ほんとよ。私は塔に用があるから」

「しかしなあ、ヂュラン様に似ているとはいえ、剣技まで強いわけじゃあるまい?戦に出るのはやめとけ」

「大丈夫よ。これでも強いのよ?何なら試してみる?」

「こいつは面白れぇ。おい、誰が勝つか賭けようぜ!」

「なんだ、決闘か?おい、まだ始めるなよ、決闘は久しぶりなんだ。みんなを集めてからだぜ!」

洞窟の中は場所も狭く、動ける場所は限られているため、若い衆はそのあり余ったエネルギーを持て余している。だからここでは決闘、かけ事が大人気だと、シーラはこの決闘後にシュスイに教えられるのだった。

けど、そんなことは知らないもんだから、

大ごとになっちゃった。どうしよう!

と後悔しても遅かった。

出るわ、出るわ、お年寄りから子供まで、果てにはヂュランも「頑張ってね」と応援する始末。

えーい、やるっきゃない!!!こんなんで怯んでたら女王が務まらないわ。もう女としての意地である。

対戦相手はガルシアという男だった。まだ若い男衆というらしいけど、ゴツゴツした手や顔も逞しくて、うーん武骨そうな人に見える。要は老けて見えた。

「ガルシア、準備運動は早く終わらせとけよ」

「おう、こんなの余裕だぜ」

む。この人たち私が弱いと思ってるわね。みてなさい、私がレイに何十年も鍛えられたんだから。

「それでは、両者剣、剣を構えて。始め!!!」

カーンと岩に固棒で鳴らすと決闘が始まった。

相手は余裕そうに構えてニヤニヤしている。早く終わらせてみんなに私のこと証明させてやる。

シーラはすぐさま相手まで駆けていき、剣を振りかざし、相手からの剣を受け止めた。しかし、そのまま受け流しながら移動し、相手の身体の脇に剣を素早く離して突いた。

が、一瞬で相手もシーラから距離を取り、体制を整えてまた剣を振りかざしてきた。観衆がオオオと騒いでる声が遠くから聞える。シーラはその剣を受け止め、一瞬剣が離れた時にシーラの身体がヒュンとさがり、相手の視界からいなくなるとすぐに横から剣を振りかざす。相手も剣を振りかざすが、シーラは飛んで相手の頭上めがけて剣を向けていた。

「そこまで!!!!」

ヂュランの声だった。声がしたと同時にシーラの剣はガルシアの頭スレスレで止まっていた。

「貴方が強いのは十分わかりました。この勝負、観衆全員一致でシーラの勝ちとします」

ヂュランは大きくこの少女の勝利を高らかに宣言した。

わあああああああああああ!!!!!

観衆からは大きい声が上がり、皆この若き乙女の勝利に沸き、総立ちとなっていた。

「シーラだったけ、お前、強いな。完璧に負けたよ」

「貴方もなかなか強かったわよ」

ニコっとお互いに笑いながら戦いを終えた。だが、ここの若い衆は血の気が多いのか、

「次はおれだ!!俺と対戦してくれ!」

「じゃあ、その次は俺だな。絶対勝ってやる」

次々と対戦相手が出てきてシーラは対戦する羽目になったが、なにしろシーラの剣の師匠はレイである。

ハチャメチャに強かったレイに鍛えられていたのであるから、ついには戦いに挑む者に全勝して、遂には戦いを挑む者はいなくなっていた。

けれど、かえってそれが良かった。

「お願いだ。俺たちに剣の稽古つけてくれ」と志願してくる若い衆が多く、剣の師として教えることになった。すっかり洞窟の人たちから信頼されて、カスペルからは「あいつらを手懐けるなんてすげーな」と言われたもんだから、私もちょっと自慢したくなって「まあ、これでも実力で認めさせてきたからね」と鼻高々に言った。

女王候補はだてじゃないのよ。

「うん、すげーよ。迷いネコのミーちゃん以来だぜアイツら手懐けたの」

「、、、、、ミーちゃん?」

「ああ。こーんな小さい子猫が迷い込んだんだけど、あいつら、若い衆が最初に見つけたもんだから世話してたんだ」

「、、、、子猫。」

カスペルにとって、私は子猫と同格、、?

「ま、外の異常な環境で、動物が巨大化して、洞窟内より外で飼ってんだけどな。」

ここの世界は、植物、動物は巨大化し、植物が生えてこないところはー私達が最初に拾われた場所は砂だけの嵐が吹き付ける場所が多くあるという。

手腕を褒められてなかったことにガックリしながらも、こうしてシーラ達は幾日か洞窟内で暮らした。



ある日、シーラ、リスのシンはしゅすい、ヂュランに呼び出されていた。いよいよ明日、王宮、バビロンの塔に突撃する日だった。

シーラ達は、この前とは違う一室に案内されていた。

「お前たちはユーデン国からきたと言っていたよな?水晶は無事、無くさず持っているか?」

懐かしい響き、、。ああ、はやく帰りたい母国、、。

「ああ、首にかけている布の中にある。たしかにユーデン国からきたが?」

レイから渡された水晶は、ここに初めて来た初日に布をもらって、リスであるシンの首にかけていた。

「そうか……。じつは、シーラが、お前とヂュランがあまりにも似すぎているし、レイも何か思惑があって寄こしたんだろうと思ってな。」

わ、調べてくれてたんだ。

「何かわかりましたか?」シンがきいてみた。

「王宮の書庫じゃないから、正確なことはわからないけれど、ユシュフェル国家の言語が変わって貴方たちのユーデン国になったんじゃないかと思うの」

それって、つまり、、、

「貴方と私、祖先と子孫にあたるわね!」

「まあそう思うのが妥当ですよね。レイも送る前に何か言ってたしな」

頷くシン。

「未来の我が国もここと同じように大変なことになっているらしいが、シーラは何か悩みを抱えたまま帰っても大丈夫か?」

う、バレてる、、、。すごい、この人。私が帰る国で悩み抱えてるって、なんでわかっちゃったんだろう?

「じつは、、カルディア剣山の大災害で、我が国が混乱してて、帰っても大変なんですけど、わたし一人でできるかなと思ってて、、。

わたし、まだ女王として即位してないけど、父である国王も倒れちゃったから、女王として皆を指揮しちゃいけなくて、、、。けど、それが不安で、、。」

シーラは、これまでの不安を吐露した。もうバレた以上暴露してスッキリしたかったのだ。すると、ヂュランが、

「シーラ、大丈夫よ。貴方だけじゃないわよ。リスのシンや、レイっていう人だっているじゃない。みんな、役目を持って生きているわ。貴方が国を引っ張て行くように、女王を支える人がいる」

「けど、弟のライディンは違うわ。ライディンはもう自分だけしか見えていない。ライディンの周りは支えてくれる人がいないのよ。それをわかってなくて、暴走してる、、、。だから、ライディンを止めなきゃいけない。姉として、選定者として」

シュスイは静かに聞いていた。

「だから、シーラ、貴方はもっと自信をもって?あなたがここへ来たのは何かしら理由があるのよ。それを私の隣で感じて欲しいの」

「ヂュラン、、、」

「それにわたし、神と対峙する前はこの世界消そうか悩んだことあるぐらいだしね!!!」

え、、、、。

「うそでしょ!何で!」

これにはシン、シュスイも驚いた顔をしていた。ヂュラン以外は聞き間違いかと思ったぐらい。

「ヂュ、ヂュラン、おまえほんとうに消すつもりだったのか?」

「なによう、シュスイ。だって国の天候は荒れて食べ物は生えにくいし、生き物はどんどん巨大化して狩りも難しいから生きるの大変じゃない。おまけに、内乱までおこるし。いいことなかったら消したい、リセットしたいと思うのは当たり前でしょ?」

ヂュランの言葉は続いた。

「結果どうりにはいかないけれど、信じて進めばきっと道は開けるわ。私はそうやって生きてきたんだから、子孫の貴方たちができないわけないじゃない」

進めば道はひらくー。シーラの心に言葉がふかくこだまする。

「ね?もう一度頑張ってみなさい」

ヂュランはそうほほ笑んだ。




4.決戦




決戦日はやはり満月の日が選ばれた。月の光によって手元が照らして闇夜の中でも行動しやすいだろうという理由だった。決戦前にはみんな団結して戦うから、洞窟の広間に集まるようになっていた。

そんな中、シーラ達は、みんなの表情が見える、ヂュランと同じ一番前にいた。ヂュランに「ここの方が次期女王としていい経験になるでしょ?」と言われたからだった。

たしかに、みんな見えるいい場所だけど、いいのかしら?ポットでの私達で.

「ヂュランが良いって言ったんだから、気軽に行こうぜ」

「そんな広い心持っていたら女王として悩んでないわよ」

二人で囁き合っていると、とうとう、ヂュランによる、この王座奪還による宣誓が行われた。

「まず、みんな、襲撃で追われた私についてきてくれてありがとう。ここまで、体制を整えることができたのは、間違いなくみんなのおかげだと思っている」

ヂュランの声は洞窟の中で良く響き渡り、みんなの心に届いていた。

「弟のライディンは、自分が神となる存在と言って、長年にわたりバベルの塔を建設中である。神に対峙するために民を強制労働とする行為は許せない」

ヂュランは月の光に防具の銀が照らされ、光り輝いていた。ヂュランは質素な暮らしを強いられて、頬がこけていたが光によって綺麗に見えた。

「この剣に誓って、我々は玉座を取り返し、偉大なるユシュフェル国再建へと突き進もう」

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!

男、女、小さな子供たちでさえもみんなヂュランを見ていた。そのヂュランが自分たちの王、女王に見えたから。このとき、シーラはやっと悟った。

レイは、この瞬間を、この牽引力を私に持ってほしくてこの世界へと移動させたのだ。私がユーデン国で、未曽有の大災害に見舞われて、できない。と泣いていたから。

わたし一人じゃない。みんないるのに、わたしは自信を無くしていたけど、私は、私のやるべきことをやるんだ。そこが、私が後継者として、選定者としている存在なんだ。

シーラは、自分の創成期の場所を静かに、洞窟の中の熱気は最高潮だったが、シーラの、緑の眼に焼き付けてみていた。


そのあと、計画では、各部隊から洞窟から外へと出て、隊列を組みなおしてから目的地へ行く予定だった。シーラ達はヂュランと一緒の部隊について、洞窟から外へと出たのであった。

「シン、絶対に帰ろうね」

「ああ」肩に乗るリスのシンが言う。

よーし、頑張るわよ!!

シーラ達が決意を新たにしていると、号令が鳴った。

「よーし、みんな洞窟から出たな。準備はいいか。じゃあ、ミーちゃん呼ぶぜえ。お前たちー、しっかり円陣くんどけよーーー!!」

え、ミーちゃん!?シーラには以前聞いた名前に驚いた。

「みぃーーーちゃあああああんんんんん。カムバッツクク!!!!!」

だって、ミーちゃんって、たしか、巨大化になったっていう、、、、シーラ達第一部隊の後方から砂煙を巻きなが大きな何かが向かってきた。

ドドドドドドドドド。

大きな音を立てながら、姿を現したのは、、、ねこーーーーーーーーー!!!!??

「ニャアアアア―――――――――ンンンンン♡♡♡」

巨大な白とブルーが混じった猫が、すごい勢いでやってきている。あの勢いじゃ何人かは吹っ飛ばされるわ。

「みーーちゃん、とまれええええ」

男たち若い衆がミーちゃんの前に円陣で対抗して抑え込もうとするが、ミーちゃんは呼ばれた喜びなのか、「にゃーん」と言っては頭をグリグリとこすりつける様に猛突進だった。実際、二~三人は弾き飛ばされていた。悪意はないのであろう、ミーちゃんは笑顔で飼い主に会えた喜んでいるように見えた。

「おお、おうよしよし。いい子にしとったかミーちゃん」

「ニャー―ーン♡」ゴロゴロ甘えた音がする。

「しーら、ここの世界は大きくなった動物が多いが、あの猫は他の猫よりデカいな」

肩にいるシンが呟く。

「う、うん」

それぐらい今いるミーちゃんは大きかった。この世界で、巨大化した猫は見かけたが、この猫は大の大人以上の大きさだった。

「お前たちは初めて見るか、あの猫」

「若手衆の男が育ての子猫なんだけど、大きくなったわねー」

大きい鳥を連れてきたシュスイとヂュランだった。シュスイは巨大な鳥を使って狩りをする鳥使いでもあったの。

「あの猫、巨大化すぎませんか?」

「ああ、あのデカさだと、ジャイアント猫だとみんな思っているぞ」

ジャイアントねこ??なにそれ。種類のネーミングになんでもジャイアントと付ければいいと思ってない?

「迷いネコだからよくわかってないけど、あの猫、まだ若いから元気過ぎて洞窟の壁とか壊したり、大きい肉のために狩りに出たら獲物を捕まえてくれるのよね」

たしかに、ミーちゃんに王宮内を暴れてもらうには適材でしょうね。あの巨体で王宮の壁より頑丈な強硬で狭い洞窟の中暴れられたらひとたまりもなかったらしいから。







200~300人の大移動は、朝から出発して時間がかかったが、なんとか夜が沈む前の王宮、バビロンの塔近くまできた。

そして、王宮の人たちが夕食を食べた終わったであろう時刻を合図に、一斉に第一部隊が王宮、バベルの塔に煙玉を投げた。

バアアアア―――――――ンンンンンン。バチバチ。

煙玉の音が急に激しくなる中、「キャー―――」「うわー――。なんだこれは」

王宮の人たちであろう声がいたる場所から聞えるのだった。

そして、それを合図に第二、第三部隊、第四部隊もと次々と潜入する。

「いけーーーーーーー!!!!!」

「ミーちゃん、暴れて良いぜええ!!ぶち壊せーーーー!!」

「ニャア―――――ンン♡♡」

王宮内に次々とくる武装した男たち、城壁を突き破って暴れる巨大猫に、王宮内は一気にパニックになっていた。

そいて、退路を断つように兵たちが入り口を封鎖する。

「ここからは、みんな個人で出てくる敵はぶっつぶせ!!いいな!!」

「りょうかーーーい!!」

私たちはヂュランと一緒にライディンがいるであろうバベルの塔の潜入して塔の王家の間という場所へと昇って行った。

「な、敵襲だーーー!!」

「打ち取らえヂュラン一味だ、手柄をあげよ!!!!」

あちこちから兵の声がするが、

「うるせえ、引っ込んでろ!!」

「シーラ、お前たちは早く行け!」

みんなが塔にいた兵たちと戦っているおかげで、私たちは目的の場所めがけてに真っすぐ向かっていた。

長いことは走って登っていたけれど、これまでいくつも通ってきた門とは違う、赤い大きな門が出てきた。その門はこれまでの門とは違い、両端には大きい花々が花瓶に生けられ、門の上には伝説の生き物と言い伝えられている竜という物も施されていて、あきらかに華美な装飾だった。

王家として教育されてきた者なら、この装飾が意味することがわかっていた。

王の間である。

ヂュラン、シーラ、シュスラン、カスベルはその大きい門を勢いよく開けた。

「おりゃあああ!!出てこい、ニセ国王!!!」

「潔く降参しろ」

カスペル、シュスランが叫びながら門を開くと、そこには、広い中に赤いじゅうたんが敷けれ、天井には無数に釣り下がった照明が室内を明るく照らしており、臣下であろう数人が衛兵と共にいた。しかし、4人の眼には、それよりも、その部屋の奥の、真ん中に陣取って座っている人物しか眼にに映っていなかった。

やはり、ライディンはバベルの塔にいた。

「貴様!生きていたとわ!」

「久しぶりねライディン。」

「この騒動はお前らの仕業というわけか、、!!」

「我が玉座、返してもらうわよ!!!」

ヂュランはそう叫ぶと、握っていた短剣を握り思いっきり玉座めがけて投げた。

血を分けた弟君であるヂュランに向かって。

剣は玉座の上に刺さり鈍い音が響いた。

ヒイイイイ。

従者たちはその光景を見て逃げる様に散らばった。

「チィ」

ライディンは護衛の兵たちに「お前たちこの反逆者たちをひっとらえよ」そう言って王の間から出ようとしていた。

「待て!!逃がすか!」

「ここは俺たちが片づけるから、弟をぶん殴ってこい!!」

「言われなくてもやるわよ!!私は右の兵相手するからシーラは反対側おねがい!!」

「任せといて!!」

ここで逃げられたら、今までの努力が水の泡よ!何としても捕まえてヂュランが女王になってもらわなきゃ!!!

シーラもすぐに応戦して、ヂュランと共に護衛の兵を倒しながらライディンの後を追いかけた。



ライディンの後を追いかけるのは簡単だった。ライディンは王の間の裏側の奥にある室内にいたからである。ヂュランは盾を前に出して守りの姿勢を固めたまま部屋へ入った。

「もう王宮も我々の管理下よ。」

「う、うるさい!!お前さえいなければ何もかも計画がうまくいったんだ!!」

弓が室内で飾られていたのか、ライディンは弓をヂュランに向けていた。

キリキリと狙いを定めているようだったが、修練を重ねた者にはすぐにわかった。

弓を弾きなれていない。もし引けたとしても、距離でヂュランに届くことはできないだろう。

弓をひくことぐらい成長した男であれば簡単なことなはずである。しかし、この男にはできていない理由が、シーラはこの目の前の男を細かく見ることで気がついた。

足が変形しているのである。長く垂らした服の衣装に見えずらいが、足の皮膚はブクブクと醜く気泡のようになっている。さらに足先は内側へと曲がり、足の裏さえも大きく皮膚が突き出ており立てたとしてもあの足では水平に立つのは難しい。現にこの男は、身体が斜めになっているのである。

これでは戦闘ど頃の話でないだろう。

王家の血筋に、欠陥品が生れていることはシーラの時代では撤廃され、できる限り平和に生活できるよう配慮されてきた。

しかし、この時代ではまだ身体に支障が出た者は動ける関係なしに死を意味していた。厳しい世界では生き残れないからである。例外なく殺されてきたのだが、この男は王家の血筋のためここまで生き残ってこれたのだろう。

「やめなさいライディン。貴方がしていることはわが国を弱小へと疲弊させているだけよ!なぜそれがわからないの」

「うるさい!俺は神になるんだ。こっちへくるな!!」

「お前を守るものもいない、空の王家など廃れるわ」

そう言ったときライディンの放った矢が解き放たれたが、ヂュランはかわして一気にライディンへと距離に近づいた。

「お前とは異母姉弟なだけで国王がいたときは全然話なかったわね。」

ヂュランはライディンの喉に剣の先をグッと向けて聞いた。

もう勝負は目に見えていた。

「なぜこのようなことをした。お前がこの反逆をしなくても、お父様であられる国王はお前にそれなりの地位は与えたはずよ。」

「地位だと?俺に与えられるのは粗末な土地と地位だけだ。」

ライディンはおかしそうに冷たく笑った。

「お前は王に気に入られ、可愛がられた。しかし、俺は、生まれた時から異形の者として生を受け、虐げられてきた。お前にわかるはずもないだろう。何もしていない自分が蔑まれ、小さな部屋でひっそりと母と暮らす俺たちが」

「お前たちが寂しい生活をしていたのは知っている。それでバベルの塔を建てたというの」

「そうだ。こんな完全な形でない俺をこの地上に産ませた神が憎い。俺が神に対峙して神に勝つことだけを夢みてきた。あと少しだった。お前が来るまでは……」

「お前の個人の考えで、民衆を労強制労働させ、無作為にバベルの塔を建てるのは間違っているわ。」

「お前に何がわかるというのだ!!王からも気に入られ、民衆からも支持されたお前に……。わかるはずがないのだ、お前には」

ヂュランは静かに、弟のライディンを見つめていた。

「ああ、お前にはわかるはずがないのだ。その瞳で、この世界を統治するがいい。俺は闇の世界で統治しよう。今しがたある柱を崩させたから、お前には邪魔はさせない!私の計画は完璧なのだあああ」

ライディンはそう言ったかと思うと、懐に隠していたのか短剣を出して自分の胸へと勢いよく刺した。

ヂュランは驚いたが、剣はライデインの細い身体、心臓を貫いておりもう虫の息だった。

そのときだった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

塔全体が揺れ始めた。

「キャ、な、なに、どうしたの?」

「ライディンはこの塔を自分と一緒に地面の底へと埋めるつもりだったのよ」

「それって、つまり、、」

「バベルの塔が崩れる!!!はやく、シーラ!!塔の頂上へ上って!!!帰れなくなるわよ!!!」

やっぱりー!!!!冗談じゃないわよーーーー!!!!

もうすでに泣きそうな状態だったけど、何とかライディンの遺体の先の階段へと全力で登っていく。けれど、その間にも塔の階段がピシッピシッと音を立てながら階段内部まで次々とヒビ割れが起こっていた。

「シーラ、はやく!!頂上についたら二人で水晶に念じるぞ!!」肩にいるシンが叫ぶ

「わかってるーーー!!」

シーラもレイのおかげで王女としては鍛えてきたが、古代の人の足の強さには舌を巻いていた。

なにせ恐ろしいほどの速さで階段を駆け上っているのだ。

今度からは剣技だけじゃなくて体力も鍛えとこう。そう誓うが、もうバベルの塔は全体にまで亀裂が入ってて来ている。

間に合ってーーーー!!!

少ない明かりの中を駆け上がり、シーラの目の前に強く照らす光が目の前に現れた。

やった!塔のてっぺん!!!

「シーラ、はやく!!」

渾身の力を振り絞って、シーラはその光へと飛び込んだ。

つ、着いたー!!

「シーラ、はやくその水晶をだして!天に掲げて!シュスイ!!」

ヂュランは先について、シーラが帰れるように鳥使いであり、選定者を見守っているシュスイを塔の頂上へと準備してくれていた。

「うん、遅くなってごめん」

シーラは袋に入れてた水晶を出して、レイが言った手順で言った。すると、シーラの足元から光が出てきた。

そのとき、「ヂュラン!!あなたはこっちに!!もう塔は崩れます!!早く!!」

大きな鳥の背中に乗ったシュスイだった。

「塔の中の兵はもうあらかた片づけた。あとはあなたたちだ!!」

「ヂュラン、ありがとう!!あなたたちが私に手伝ってくれたこと絶対に忘れないから!!」

光は、シーラの身体全体を覆い、地上から光と空からも光が射して塔の内部の窓、空洞、亀裂の内部から光が勢いよく流れ出てきた。光は地上、上空と、一体となった。

「シーラ、無事に、無事に帰ってね。私たちは国を再建するから」

ヂュランはシュスイが操る鳥に移り飛んだ。

「塔が、塔が崩れるぞーーーーー!!」

「シーラ達は無事にか!?」

若い男衆達は塔の頂上を見るが、まばゆい光でわからなかった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴピシッと音が大きく響き、塔から眩い光が辺り一面に光が走った。

シーラが光に消えると同時に、バベルの塔は大きな光と一緒に

ゴゴゴゴゴ――――――――――――ンンンンンン!!!!!!!!!!!

大きい地響きを揚げながら、空高くそびえていた塔は瓦礫が粉々になりながら地上へ崩れたのだった。


上空から巨大な鳥の背に乗っていたヂュランはシュスイに質問していた。

「ねえ、シュスイ、シーラ達は無事に帰ることができたかしら?」

シュスイは困った。選定者を守るものとはいえ、未来を見通す力までは持っていなかったのである。

「どうでしょうか。それこそ、”神のみぞ知る”でしょうな」

そう答えたのだった。




5.決意



「お嬢、お帰りなさい。」

私達が眼をあけると、そこにはレイがいつものドレス姿で立っていて、シンは小さいリスから普段の大きい大人のシンへと戻っていた。私たちは涙を流しながら時空を超える前と変わらない、小高い丘の遺跡の場所に横たわっていたのである。

「しん!私たち帰れたんだわ!!やったーーー!」

「よかった!!!リスじゃなくなってる!!やったな!!」

シーラ達は抱き合って喜んでいた。

帰って来たんだわ!ユーデン国に!!

「無事に帰ってこれたでしょ?シュスイは元気でした?」

私達は、レイがすぐそばでほほ笑んでいていて、私達はようやく近くに悪魔がいることに気がついた。

ドドドドドドド

「どうでした?頑張ってきたかしらって、、、もう、貴方たち、師匠でもある私に剣を向けちゃだ・め・よ!」

私とシンはいわずもがな、レイめがけて剣を向けて走っていたが、滅茶苦茶に強いレイは私たちの怒りの剣を軽々しく受け止めていた。

「れーい、今度こそは修行のレベルを超えて死にそうだったわーよー!!!」

「れーい、俺をリスに変えるとはどういうことだああああああ!!!」

「あちらにも選定者守る人がいたから、死なせるはずないわよ、お嬢。シン王子は、オマケと最初から言ったでしょ。あちらの場所で、どんな姿になったのかわ知らないけれど、本来ならばお嬢、ただ一人だけしか移動させることができないんだから、どんな生き物になっても傍にいられていいじゃないの。ここに残ったらで、シン王子心配してうるさいだろうしねえ」

ニコニコと説明するレイに、私達二人は怒りをの頂点だった。

「「それならそうと、説明してから行かせろーーーーーーーーーーー!!!!」」

「あら、息ピッタリ」

私達の怒りとは逆に、レイはどこまでもレイであった。


「ここって、バベルの塔があった場所だったんだね」

私達が瓦礫の山だと思っていたのは、はるか昔のバベルの塔の残骸であった。

結局、シュスイ達の考えが当たり、ユシュフェル国は文字が変わり、ユーデン国と名が変わったとレイから教えられた。

「お嬢、、歴史の授業で習ったじゃないですか!」

「え、そうだったの?」

「もう、ほんとに、お嬢は歴史が苦手でいらっしゃる」

わたし、どうも、覚えるの中心の暗記が苦手なのよねー。うーん、ごめん、レイ!

「ここで創始者の弟君は埋まっており、遺体は掘り起こさないようにと言い伝えが残っています」

たしかに弟君は地上深くそこに眠るのを望んでいたと思う。自分が建てた塔の地下で。

だからヂュランはせめて弟君が望んでいたことをしたのだと思う。すこしの日々だったけれど、シーラ達と話したあのヂュランならば、弟を静かに眠らせてあげたかったんだろうな。






「ところで、創設者の方たちとのお話はどうだったかしら」

レイは振り返りながらシーラに聞いてきた。

「すごかったわ。一からあんな大変なことをしていたなんて。」

「けど、レイ!!何も持たずに行かせるなんてひどいわよ!!」

事前に連れて行くとか言ってくれれば、準備とかできたのにぃ。

「オホホホ。ごめんなさい、お嬢に今見せるのが一番いいと思って。けど、お嬢の腹の内は決まったようね」

ドキッとした。もう見破られてるなんて。レイに隠し事は難しいなあ。

「ええ、決めたわ。このユーデン国の、世界の復興を、この世界を存続させるよう神に言うわ!!」

レイは瞼を静かに降ろして聞いていた。

「そうと決まれば、まず案内しましょう。お嬢、貴方様を神と対峙させるため、私が神から許されたただ一つのこと、神殿へご案内しまうすわ」

レイはそう言うと手を上えと掲げると、パチンと指を鳴らした。すると、古代の遺跡の丘にいたはずの場所が、一瞬にして白い、扉があるだけの、別の空間にシーラ達はいたのだった。

な、ここが神殿!?何もない、、。

「れい、ここは何もないわよ?」

「この扉の奥が神殿です。ここは入り口にすぎませんわ」

じゃあ、この先に、、、!!

「この扉の先に神が待っておられます。ここから奥は、選定者であるお嬢しかいけないわ。」

「俺は、、、!!」

シンが身を乗り出して一歩足を踏み出そうとするが、レイは、

「ダメよ。残念だけど、婚約者でも、もし夫でもここからは選定者ひとりのみ入ることになっているわ。もちろん、私の同伴もダメよ」

レイ、、、。

「私にできるのはここまでです。しっかりと、自分がこれまで感じてきたこと、学んだことを、あの偏屈に言ってきてらっしゃい」

「うん。案内してくれてありがとう。頑張ってくるわね」

ニッコリとレイに笑顔をみせて、私は、白い、下から上まで果てしなく細長い門を静かに近ずくと、自然と両方のドアが開かれた。。

そして、その部屋の中はシーラが一歩足を入れるとたちまち門は消え、暗闇に広がっていたのだった。




シーラは暗闇の中に、宙に浮かんでいるような感覚で立っていた。目が慣れてくるとあちこちに小さく煌めく星々があり、その空間はシーラにとって綺麗。と思えるものだった。

「ここは………」

「ここは、私が生み出した世界を管轄する場所」

どこからともなく声が聞こえてきた。しかし、その声は無機質で、感情がないような声で、明らかにレイといった人ではないような声だった。

「ようこそ。我が空間へ、第249番目の世界、シーラ王女よ。」

その番号はシーラ達がいる世界のことを指しているとシーラはすぐにわかった。

「貴方は、レイが言う神なんですか?」

「第249番目の世界では、確かに我はそう呼ばれている。しかし、この世界は選定者であるお前の判断を聞かずとも、この世界は消滅の道を選んでいる」

やっぱり。この声の人が神!

「ねえ、お願いです!この世界は大変なことになっているけど、消すのだけはやめてください!!」

そういうと、神は暗闇の、多くの星が煌めく中から、シーラ達の今の世界を映し出してきた。

「しかし、この映像のように、人は争いを始め、強奪まで起こっている。同じことの繰り返しである。この世界ではもう千年も同じ文化で発展をしていない。もうここまでの展望は望めない。」

「今は貴方の言う通りかもしれない。けど、私の周りの人たちが、どうにか打開しようと頑張っているの。だから、おねがい!まだこの世界を見捨てないでほしい!これは、選定者というあなたに託された役目として言うわ!!あの世界を消さないで!!」

「………もうあそこまで衰退した光景になったのであれば、今までの世界と同様に発展は望めないものだ……」

暗闇から静かに声が鳴り響いていた。それをシーラは黙って、息をのんで聞いていた。

「だが、世界の状況を判断するために選定者を置いたのも我である。そこまで、断言するのは、なにか思うことでもあるのか、シーラ王女よ」

「確かに、私一人の力じゃ乗り越えられないと思っています。けれど、この世界の、全人類に、私、ユーデン国の女王として、呼びかけ、皆と協力して乗り越えて見せると誓いました。もしこの偉業を達成することができたなら、世界をお創りになる貴方様への新たなる鍵となるでしょう」

シーラは、声がする方へハッキリと言った。

しばらく神からの返事がなかった。むしろ考慮しているようでもあった。

「……お前たちのいうことは、わかった。そこまで言うのであれば、やってみるがいい。」

シーラの心の闇に、急にまばゆい光が射した気分だった。

「しかし、500年後、また、再び我が選定者に第249番目の世界の存亡を聞くことは忘れぬことだ。以上だ。お前たちに光あれ」

そう言うと、自分の足元から急に強い光が射していた。

シーラの足元はかなりの数の光の玉のようなものが湧き上がっていたのである。そしてシーラの足元はもう光で見えなくなっており、身体全体が包まれるのは時間の問題だった。

これ、もしかして…………!!この場所にきた時と一緒の光!!

シーラが思ったときには、すでにシーラの身体は光に包まれ消えたのだった。



草の匂いがする……。

ざあ。風が吹いたのか、コウバチョウの花の匂いもほのかに薫ってきた。

ああ、もう少しで春なんだわ。コウバチョウの香りは春を呼ぶものだから。これからは暖かい陽射しで、たくさんの自然に感謝し祈る季節だわ。

日の光も、あかるい……

ん!!??明るい!?

眼を開くと、そこにはシンが心配そうに顔を知被けて見つめていた。

「シーラ!!!よかった。無事に帰ってこれたんだな!」

シンはそう言うと、シーラを胸に抱きよせ、嬉しそうだった。

「え、え、ここって!?」

「ここはユーデン国の森さ。俺たち、ずっとここに居たらしいんだ。」

「しばらくしたらお嬢は目覚めるって言うのに、シン王子ずーとまだか、まだかと言うんですから、もう少し早く帰ってきて欲しかったですわ、お嬢。」

「レイ!!」

シンの傍には、不敵の笑みを浮かべる美丈夫が立っていた。

「おめでとうございます、シーラ女王陛下。交渉は無事に済んだのですね」

そう言って、レイはうやうやしく地面に足を曲げて正式な(ポーズ)をとった。

そうだわ。私は先ほどまでこの世界を創った神に出会ったのだわ。そして、この世界を消さないでほしいと嘆願した。

「ええ、会ってきたわ。レイが言う神に。」

私は、レイ、シンに神と出会ってのやり取りを静かに話した。

「ユーデン国女王として皆と協力してこの世界を発展、復活させてみせると言ったら、500年後に、また存亡を問うと、言っていたわ。」

「シーラ……」

また、自分と同じ血が受け継いだものが、神と対峙するということ。それは自分がすでに経験したことだが、大変なものであった。

けど……!

「頑張ってやるっきゃないよね!この世界を蘇らせて、次こそは絶対に神に消えたほうがいいなんて言われないぐらい、立派な世界にしなきゃね!!」

明るく言うシーラに、意表をつかれたシンだったが、いつも通りのシーラの元気さに釣られて笑みをこぼしていた。

「ああ、そうだな。やることが山積みだ」

暖かく傍で見ていたレイは、

「そうですね、不死鳥のようにまた、いつか必ずこの世界は蘇りますわ」

「え、なにそれ。フシチョウ??」シーラがレイに問いた。

「死んでも、死んでも、また輝きを放ちながら生き返る、別の世界の、伝説の生き物のことですわ」

「へー、蘇るなんて今の私たちみたいね」

「目指せ不死鳥だな!」

野山をシーラ、シン、レイは笑い合いながら野山を降りて行った。まだまだ崩れた瓦礫も残っているが、3人が見つめるユーデン国、世界は輝いていた。

身を寄せ合う季節も終わりに近づいており、春の息吹が野山に垣間見えるのだった。





           おわり

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