どうにか逃げたい(願望)
続バッドフライデー。
まっとうに生きていたはずなのに、どこからこうなった。
これだから人生はわからない。真面目に生きてもろくなことがない。
最近の私はこんなことばかり考えていた。
「才南、彼氏出来たんだって?」
休み時間。友人が脳天気に、そしてわくわく顔で隣に座って尋ねてくる。
いいなあ、そんな楽しそうに物を尋ねられて。
私もその問いかけの期待に応えられるように、ニッコリと笑って答える。
「ビンタしていい?」
「え、なんで」
その顔がムカついたから。それに尽きた。
ビンタはしないけど疑問符を浮かべるヨリの頬を軽くつまんだ。
大人しくつままれてくれている、やさしい子め。
「彼氏、できたんでしょーなんでご機嫌斜め?」
「あんなもの彼氏なものか」
よほど私は怖い顔をしていたらしい。ヨリの顔が引き攣った。
つまんでいた頬から手を離す。そのまま机に突っ伏した。
……あの男。塚本憩から告白を受けたのはつい3日前のことだ。
首を絞められ、交際を強要され、キスで殺されかけた。
そしてその日のうちに、襲われた。
『やることは早いほうがいいよね、俺達恋人同士だし』
半ば拉致のように空き教室に連れ込まれたが、めちゃくちゃ暴れてかながら逃げ出した。
今度は動きを封じられる前に腹を蹴飛ばして逃げた。火事場の馬鹿力、人って本気出せばすごい力を発揮するもんだと再確認。
正直もう学校辞めようかなとも思ったが、あまり現実的ではなかった。
辞めてどうする。なんとか卒業しなくては。
「そう、例え頭のおかしいやつに付きまとわれようとも、卒業証書だけは手にしないと…」
「頭のおかしい奴なんているの?怖いね、だれ?」
突然頭上からかかる声に言葉が詰まった。
ああやばい、張本人が来た。
「………ツカモトクン」
「憩って呼んでっていってるのに」
恥ずかしがりだなあ、と控えめに笑う男。
そのやり取りを見てヨリが目を輝かせた。
「あーもしかしてこの人が彼氏なの?」
「ちが」
「ハイ。彼氏です」
私の否定の言葉をかき消すように肯定する塚本クン。
照れたような笑みを見せて、嬉しそうにしている。
なにそのキャラ。そんな性格してないでしょ。ドン引き。
その反応にヨリはすっかり騙されて、楽しげに私の腕をバシバシと叩く。
「やっだ、この初々しい反応かわいい!優しそうじゃん、いいなー」
「絶対オススメはしないけどいるならアンタにくれてやるわ…」
「そんな寂しいこと言わないで。俺は君が好きなのに」
そういいながら肩に手を置かれて、思わずビクリと震えてしまった。
…ちくしょう。体がちょっとビビってる。
頭上で小さく笑う気配がした。
「日和さんだよね。ヒヨリだからヨリ、なのか」
「そうそう、そう呼ぶのは才南だけだけどねー」
昔から仲良しだし、とふざけるように私の頬に頬をくっつけるヨリ。
その瞬間。反対側に置かれた手に力がこもった。
指先が肩に食い込む。いたい、地味に痛い。
「…妬けちゃうよな、羨ましい」
ああ、死亡フラグたったのかな。
私に。
前回名前が出ていなかったですが、不運な彼女は井坂才南です。
以後お見知りおきを。