13
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カイナはベッドに横たわったまま何度目かわからないため息をついた。
彼らと別れたあと、カイナは適当に宿をとって彼らの様子を伺っていた。白夜たちが町を出る時には、後を追わなくてはならないからだ。彼らが帝都を脱走したという情報を聞いてから帝都周辺を探し回り、やっと見つけた標的をこんなところで見失うわけにはいかない。
消耗品の買い付けを済ませて早々に宿に戻り、体を休めていたのだが、どうにも寝付けない。もう一度深いため息をついて、寝返りをうつ。
自由になるため、生きるために旅をしている───。
白夜の言葉が、耳に残って消えない。
未来永劫、私に従ってもらうわ───。
不意に脳裏をよぎる影がいつかの自分の腕を掴んだ。
ズキリと左腕が痛む。
「っ!」
咄嗟に左腕を掴んだ。包帯の下のそれが熱を持ち、ズキズキと痛む。
貴方は私のもの。逃がさない───。
弧を描いた赤い唇が迫る。それは幻だ。それでも逃げるように目を閉じた。
悪い記憶、悪い想像というのは一度考え出すと取り止めが無い。蝕むように、どんどん心も脳も侵していく。
とそのとき、周囲に気配を感じて、カイナは我に返った。
部屋の、扉の外……?いや、反対だ。カイナは静かにベッドから降りると、気配を消しながら窓辺に寄り、そっと窓の外を見やる。
すっかり日も暮れた時分、人気の無い裏通りから街の外へ歩いていくいくつかの姿が確認できた。幸い今夜は月夜だったおかげで、それらの身に纏う鎧などの服装から騎士団であることがわかった。さらに彼らはおそらく捕えられたのだと思われる、拘束された人間を二人引き連れ、その後ろをなにやらぐったりした人間を一人、肩に担いだ兵がついていく。
拘束された二人の、悔しそうに顔をゆがめているその顔に、カイナは見覚えがあった。
───テオとギルダーツ……?ということは、その後ろにいるのは……。
おそらく、白夜だろう。騎士団たちが、なぜこんなに早くここに……?目敏く予め当たりをつけていたということか……。なんという勘の鋭さと行動の早さだ。
ともかく追跡を。気配を消したまま素早く身支度を済ませ、宿を出て騎士団たちのあとを追う。
辿りついたのは町から二キロほど離れた───白夜たちと出会った森とは逆方向にある───森。茂みや木々をかき分けて歩いた先の拓けた場所に、森の草木に紛れるようにモスグリーンの大きなテントと燭台が点在していた。つまりは騎士団の駐屯地だ。無論、騎士兵たちの姿も多数。
草木に身を隠しながらしばし偵察に徹する。テオとギルダーツはいくつか立っている燭台のうちの一つの、その傍にある木に縄を括りつけられた。少しでも妙な動きをした場合に気づきやすいようにという配慮だろう。近くには周囲を見張る騎士兵たちが武器を手に鎧兜の向こうから目を光らせている。
白夜は点在するテントの中で一番大きなテントに運び込まれ、少しして彼を担いでいた二人の騎士兵が出てきた。言わずもがな、そこに白夜の姿は無い。理由はわからないが、テントの中に拘束されたのだろう。
このまま白夜が帝都に連れ戻されれば、きっと彼が二度と外に出ることは無い。そうなればおそらくは、もう二度と接触することも適わないだろう。そうなってはこちらは大いに困る。
───兵の数は少なく見積もっても二十……。さらに見張りの兵も含めれば三十といったところか……。
恐るるに足らぬ人数だが、囲まれると厳しい。
草木の影から目を忙しなく動かして兵やテント、燭台の配置を確認する。
ついでに警戒心が強い彼らの信頼を得られる大きなチャンスにもなるであろうこの救出劇を成功させるためには、さて、まずはどこから手をつけたものか。




