桃色レッドと未確認ヒーロー
無駄といえば何事も無駄なもの。
今更一つや二つ無駄が増えたところで構うことはないでしょう。
そんな無駄な物語。
人生を無駄にしたい人だけ読んでちょーらい。
「聞こえているか? まあ、聞こえていなくてもいい。 勝手に話すさ。 そのまま眠っている方が、おまえも辛くないだろう」
「びっくりしたさ、初めはな。 まさか俺を生んだ古代文明が滅びる所から始まるとは思わないだろう? 目が覚めたら一面の火の海。 ブチ撒けた生ゴミみたいに散らばった古代人の死体の山。 一言も交わす事なく、この世界での俺の生みの親たちは灰になった。 別段、悲しくもなかったし、あんまりな事態に笑うしかなかったよ。 パイロットがいないのに動けたのかって? そうさな。 せいぜいぼんやり光ってたくらいじゃないか? 自分じゃわからねえよ。 だが、目だけはよく見えた。 まさに神の目だ。 おまえの入浴シーンも毎回バッチリ見てたこの形のない眼でヤツラの姿は全て捉えた。 恨み? 怒り? さあな。 わかんねえよ。 ただ、予感はあったのかも知れねえ。 ヤツラはまた、同じ事をしにここに来るんじゃねえかってな」
「覚えてるか? おまえが最初に俺を足蹴にしやがった日の事を。こちとら前の名前を忘れるほど寝てたってのに、おまえは『鉄クズ』だの『粗大ゴミ』だのと口汚なく罵ってくれやがって。 ひでえ顔だったぜ、あの時のおまえは。ぐしゃぐしゃに泣き濡れて、目ぇ真っ赤に腫らしてよ。 絞り出すように言いやがったんだよなぁ。 『助けて』ってよぉ」
「すまねえな。わりぃ。 なんて言って謝ればいいのか、見当もつかねえ。 俺はただ巨大ロボが好きなだけのバカな男でよ。 生まれ変わったら巨大ロボになりたいっつってこのザマだ。大変な事を忘れてた。巨大ロボはかっこいいけどよ。 巨大ロボがデカイのは、たくさんの命を背負って戦うためなんだよな。 ここまで。いくつも取りこぼしてきたけどよ。 せめて、最初に会ったおまえくらいは、守り切ってみせるよ」
※※※
少女が眠っている。
レッド・カーマインという名だ。実に赤い。
年は15くらい。髪は桃色〔本人は赤と言い張る〕。 褐色肌でややエルフ耳。 身長155cm、体重38kg、スリーサイズは上から8
「ぴぎゅあ!」
変な声が出た。 元々変な声しか出ない体だが特に変な声が出た。痛い。
「シャンビィ。 また変な事考えたろ」
俺の頭にめり込んだ踵を上げながら、レッドはめんどくさそうに呟いた。
「言葉がわからなくても私にはわかるんだぞ。 おまえの出すハレンチの臭いは」
くさいって言った!
「言ってない」
通じた!??
「♩〜〜♫〜〜〔口笛〕」
本当はどこまでわかってるんだ、この女。
呼び鈴の音がした。
エマージェンシーじゃない。 訪問者だ。 レッドが扉を開けると一人の青年が立っていた。 あの忌々しい爽やかさには見覚えがある。 国家防衛特務部隊のたしか……イケメンクソ野郎!
「リンド・エバーハート…だっけ? なにか用?」
ああ、そんな名前だったか。 中二くせえ名前だ。ぺっ!
「やあ、レッド。 実は君じゃなくて、そっちの彼に用があるんだ」
「おい、ピンクのセクハラマスコット! 客だぞ」
なんてえ呼び方しやがるんだ、あの情熱的な肉体。 ここに少女たちがいたらあらぬ風評被害で閑古鳥が鳴くとこだ。いや、マスコットモードの俺ならセクハラすらワンチャン愛嬌になるはず……!
「ぴぎゅああ!?」
「レ、レッド? そんな事して大丈夫かい??」
「おまえも踏んでみるか? けっこう踏み心地はいいんだ」
あふぅうううぅぅぅん!
「いや……僕は遠慮しておこう」
「それで、このチンチクリンになんの用があるんだ?」
「……なぜかと思ってね」
「?」
「なぜ君は選ばれ、僕は選ばれなかったのか。 それを確かめたかった」
「おいおい、こいつがシャンバラのキーだなんて話を信じてるのか?」
「そのピンクの獣……シャンビィに類する生物は歴史上他にいない。 見つかったのは巨神が初めて起動したその日、その場所という話だろう?」
「シャンビィと出会ったのは私がシャンバラを動かした後だよ。 起動時にはいなかった」
「気づかなかっただけで近くに居たのかも」
「それは……居たかもしれないけど」
「……なぜシャンビィと?」
「シャンバラのそばに居たから」
「…………」
やるな、レッド。 あの爽やか地獄男爵から爽やかさを削ぎ落とすとは。 さすがは俺の見込んだ女!
「ありがとう。 今日はこれで失礼するよ」
「もういいのか? こいつ腰のあたりをわしゃわしゃすると変な声で鳴くぞ?」
やめて! 男にあれさせないで! でもカワイイ男の娘なら可!
「ははは、それはまたの機会にしよう。 急ぎの用があるんだ」
「"ヤツら"絡みか……?」
!
「そうだけど、戦闘はないよ。 遺跡の調査だ。 シャンバラと同年代の遺跡から使えそうなものが出たらしい」
俺と同年代!? まさかお仲間が居たのか?? いや、パワーアップパーツって線も……サポート合体メカとかだったら燃えるな! おい、レッド!俺たちも行こう! ついて行こう! 行きたい!
「シャンビィはどうしたんだい? 急に騒いで」
「あー……ついて行きたいんじゃないかな?」
「わかるの?」
「なんとなくな」
「へぇ……僕も嫌われてるわけじゃないのかな?」
おまえは嫌いだよ! バッドキングナイスガイめ! ぺっ!
※※※
シャンバラ。
名前の意味は不明。 俺の元居た世界じゃ理想郷……みたいな意味だったと思うが、こっちの古代人のつけた意図まではわからない。なにせ連中ときたら俺と一言も対話することもなく"ヤツら"に滅ぼされちまったわけで。俺自身は千里眼みたいな機能のおかげで動けずともこの星のほとんど全ての場所を見れるんだが、言語は読めない。 こういうのって読み書きや言葉に不自由しないもんじゃないのかね。 それとも目覚める前にどっか機能がイカれてるのか。なんにせよ、自分の体の動かし方さえ満足に分からない状況だ。 何かが掴めそうな時はなんとなく……手がかり的なものを見つけられるんだが。 そう、ピンクの小動物を外部端末として生成したりな。 あの時は……なにがきっかけだったんだか。
爽快グッドフェイス魔神の用意した大型輸送機に乗り目的地へ飛ぶかたわら、ぼんやりと考え事などしている俺だった。 あの野郎、やる事にソツがない。 快適すぎる空の旅についついうたた寝をしてしまうってもんだぜ。
シャンバラで飛んでいけたら楽なんだろうけどなー。
体動かすのメッチャ大変なんだよなー。
まずレッドの気合が充分じゃないと起動もできないし、起動できてもすこし動くだけですごい腹減るんだよなー。胃もないのになにが減ってるんだろう、あれ。 そもそも俺、動力源なんなんだろう。リビドー?
「魄動力」
!? あのファッキン顔面ジュエリスト、俺の言うことがわかって……!?
「魂と肉体を繋ぐものを動かす力のことです。 今風に言うとスピリットフォースというそうです」
「なんだいそりゃ?」
「シャンバラの動力源についての現時点での有力な仮説です。 君が操るあの白銀の巨人が放つエネルギーは今知られるどんなものとも異なっている。 完全に異質なんです」
「魔法でも使うっての?」
「近いものです。 古代人にまつわる記録には彼らが法力を駆使していたという逸話もある」
「へえ、そいつは初耳だ」
「本当に?」
「…………」
「レッド、君はシャンバラの発掘ポイント近くに住んでいたんだろう? 先日の戦闘で壊滅した集落の中には古代人の血を引く者たちのものもあった。 君はそこの住人だったのでは?」
「違うよ。 言ったろ? 私は発掘作業員目当てで立ち寄ったキャラバンの一員で、"ヤツら"に襲われ仲間を失い、逃げまどった挙句にあのデカブツに泣きついただけの一般人だよ。 まさかあんな形で助かるとは思わなかったさ」
「……これは、あまり言いたくなかったんだけど」
? 善度百%イケメソ野郎にしては暗い調子だな? なんだ?
「あそこの集落には忌み子を……
「そこまでだ。 意味は……わかるよな?」
レッドまじおこかよ。 クソいけ面次郎ざまあ。 なにあの顔ぷぷーw
いや、しかし怒ると怖いなレッド。 泣き顔はまあ置いといて、ずっとすまし顔だったしな。 そっか、あんな顔もするんだ。 そっかー。 こわ。 怖いな、まじこわ。 ちびりそう。
「特別な子には体のどこかに印が浮かぶと言う話だ」
「へえ、そう」
「どこへ行くんだい?」
「疲れた。 部屋で休む。 目的地までは、まだかかるんだろ」
……レッドのヤツ、出て行っちまった。ついてきゃ良かったかな。ま、問題あるめえ。
しかし、印、ねえ。 どれ、ちょっと確かめてみっか。 千里眼……と。…………ん? あれ? 見えねえな?マスコットモードだとあの機能使えねえのかな? そんなまさか。 ん、むむむむむ…………!
……ま、いっか。 そのウチ機会もあるだろ。 あるよな? ……体を張ればワンチャンあると思いたい。
「すまないシャンビィ。 ご主人様を怒らせてしまったようだ」
クソイケメンが。 爽やかをこじらせやがったな。誰も見てない時に謎の小動物に詫び入れてんじゃねえぞ。 いいヤツ臭が濃いんだよ! つーか、レッドはご主人様じゃねえし! アレはなんつーかそのー……、なんだ。 現地人1号?
「襲われた遺跡なんだがね。 あの遺跡の調査隊の中には僕の幼馴染が居たんだ。 かわいい子でね。 小さいくせに男勝りで、大人相手にも気迫で負けない勇敢さも持っていた。 憧れだったよ。 彼女のようになりたい一心で後を追い特務隊にまでなったのに、彼女は既に隊をやめてシャンバラの解明に踏み出していた。 凄い人だったんだ。 きっと、"ヤツら"のことも……こうなることも分かっていたんだ」
お、おう……。
え、なに? やめて? 唐突な自分語りとフラグしかない恋バナやめて? 好感度上がっちゃうじゃん? 同情票集まっちゃうじゃん? 初登板から罵り倒してきた俺の守護神人気が音を立てて下落してんじゃん??
「実はね、彼女が今回の遺跡調査を終えたら、プロポーズするつもりだったん……」
やめろおおおおおおおお! こっちの世界で恐らく初のフラグ立てんのやめろおおお!
俺はお涙頂戴とかそんなんが欲しくて巨神転生したんじゃないんだよ! 勧善懲悪の正義の守護神として無双するべくこの世界に来たの! 映画なら笑って楽しめたフラグもリアルだと笑えねえんだよおおおお!!
「急に勢いよく吠えるね。 もしかして慰めてくれてるのかな?」
ちげええええよおおおお!! 作画崩壊しろ、スタイリッシュヒーローおおお!!
「気合を入れてくれてありがとう、シャンビィ。 実はね、少しだけ彼女を……レッドの事を恨んでいたんだ。 彼女がもっと早く、シャンバラを動かしてさえいれば、ディアナは死なずに済んだんじゃないかって。 もうどうしようもないのにね」
わかりみがすぎるううううう!アニメとかでいっぱい見たああああああ!!
「せめて今はできる事をするよ。 シャンバラと……君たちを全力でサポートする! この世界を"ヤツら"から守るために!!」
うおおおおおおおおおおおお!!!
「おい」
お??
「レッド? どうしたんだい」
「おまえらウルサイ」
大型輸送機に揺られる事数時間、俺たちは目的の遺跡に到着した。
いや、正確には遺跡だった場所か。 今やあるのはバカでかいクレーターだけだが。
「どういう事だ、これは!?」
フラグイケメンが取り乱している。 無理もない。 遺跡跡とも言えないほどに跡形もない状況だ。 大きな……そして異質な力に襲われたのは明白。"ヤツら"の仕業に間違いないだろう。 恐ろしいのはこの事態が音もなく、俺たちの見ている目の前で起きた事だ。
「物知リンド、こういった自然現象はここいらじゃよくあるのか?」
「さっきの事は謝る。 レッド・カーマイン、機嫌を直して力を貸してくれ」
「別に怒ってないよ。 力だって貸してやるさ。 敵が"ヤツら"ならな」
おっと、レッド一人で行ってもシャンバラは動かねえだろ。 俺もいくぜ!
「なんだ、来るのかシャンビィ。 遅れるなよ…ってコラ! なにしやがる!?」
ふ、マスコットたるもの、主人の体を駆け上り肩に登るのはもはや義務よ!
「ったく、しっかり掴まってろよ」
ふんすふんす! うおおお、いいニオイじゃああ! むぐっ!
「また変なこと考えたろ。 次やったらコクピットから放り投げるぞ」
タ、タップタップ! わかったから口と鼻を同時に塞がんといてえ!
「わかればよし」
俺のこの体、肺呼吸だったんだなあ……
「これで二度目か……動いてくれよ、シャンバラ」
ああ、戻ってきたな。なんていうんだろ、コレ。ルンバが充電器に戻る時ってこんな気分なのかね。 実家のような安心感? 違うな。 俺も俺だし、こいつも俺で。 んん? なんかよく分からねえ。 そもそもどうやって分離したんだ俺? わかんねえ。 わかんねえけど……なんだか眠くなって…きた………
「くそ! ダメだ! 動……い! な…で………」
レッドの声が段々遠くに行く気がする。 同時に鼓膜と一緒に音が歪むような奇妙な感触。 不快じゃねえが、気色悪いっつーか慣れねえっつーか。 視界が開ける感触があるのにレッドの周り以外真っ暗に見えるな。 なんだっけコレ。 ピントがあってない? ああ、そうだ。 大昔に千里眼使った時にこんな感じが……あの時より視界がせまいような……ん? 端で何か動いた。 でかい。 レッドよりは何十……いや、何百倍もでかい。 こいつ……生きているな? しかも、なんだ……こいつ……近い!?
「動け!シャンバラアアアアア!!」
うおおおおおおおお!?
脳天にクソ重たい衝撃が響いた!? クソッタレが! レッドの踵と違って敵意MAXじゃねえか! ドタマぐらぐらしやがる! チックショウ!?なんだ?? 何が起こった!? おっ!?
光が……戻ってきやがった!
「よし、動いた! 動いてくれた!!」
目の前になんかいやがる。 つーか、なんだ? 俺の頭の上で重量を感じるぞ? 手応えもだ。 ああ、そうか。 そういうことか。 今、俺は、敵の攻撃を受け止めたんだな? くっそ重てえ。 なんだコリャ。 落ちた影から見て俺よりでかいじゃねえか! だが、受け止められる! 力負けしてねえ! なら、次は……!
「とりあえず……離れろぉっっっっ!!」
ぶち飛ばしてやるっっっっっっ!!!
思い切り大地を踏みしめ上へ向かってリキを入れる。 足元がバキバキ鳴ってるようだがお大地様なら耐えてくれるだろ。 このまま……撥ね! のける!!
「うおおおおおおおおお!!!」
っっっっっしゃああ!!
「こいつが……ここを潰したヤツか」
ああ、見える。よく見える。それに、覚えがあるぞ。 眠る前にこいつの姿は見た覚えがある。 随分ずんぐりとした姿だが、間違いない。 俺にはこいつの核が見える。 気味の悪い紫色の光を放つ八面体のクリスタル。 燃える古代人の街の中で煌々と輝いていたのを覚えている!
「なあ、シャンバラ。 あいつ、どうやって遺跡を潰したと思う? ……なんて、聞いてもしょうがないな」
そうさな。 見るからに重力系だし、局所的に巨大な負荷をかけれるとかじゃねえか?
「ったく、この巨体で今までどこに隠れてたのか……」
聞いちゃいねえ。 わかりゃしねえか。 シャンバラの時の俺が喋っても、せいぜい操作盤が光るくらいだしな。 けど、感知したものを共有するくらいはなんとかなるんだぜ!
「! なにか感知したのか、シャンバラ!? ……これは?」
目の前の敵の姿に重なるようにコアの位置を投影して見せた。 こういうのは感覚的にわかるんだがなぁ。
「またこの反応……! これはヤツの核……? おまえ、やっぱりわかるんだな!?」
おうともさ。 どうやらこの身はヤツらを倒すために作られてるらしいからな。
しかしまあ、ヤツのあの分厚い表皮の破り方まではわからねえ。 さっき触れた感触じゃそうとう硬いぞ、アレ。 武器でもありゃいいんだが、あいにく俺はまだこの身の力の全てを知らねえ。 うまく性能を引き出してくれるのを期待するぜ。 動力くらいは絞り出すからよぉ! ……うんっ? なんの光だ!?
目の前の敵に何かがぶつかり爆炎をあげた。 これは……
「! 砲撃……!?」
「撃て! 撃てえ! シャンバラには当てるなよ!!」
未亡人紳士! 援護射撃とはありがたいが……たぶん、こいつにゃ効いてねえ! レッド!
「やったか!?」
やれてねえよ! 衝撃でコアの反応拾えてねえだけだ! あの巨体が軋む音が聞こえねえのか!? 聞こえねえか! 人間の耳じゃよ! けどよぉ、あいつは跳ぶ気だぜ、砲撃地点めがけてな! 気づけ! 予兆を拾え! そら! 肉眼でもわずかに動く影ぐらい拾えんだろう!? まだ、間に合う! ……ああ、くそ!!
「…? シャンバラ!?」
お!?なんだ??ほんのわずかだが、レッドの操作を無視して動けたような…!?
「っ! そういう事か! 間に合えよ……!」
気づいたか! おら、急げ!! ドタドタ走っってたら間に合わねえ……敵の方が出が早い! こういう時、ブースター的なもので加速できたらカッコいいんだけどよお! あんのか? ねえのか? 確かめる時間もないし思い出す方法も分からねえ! けど、こうすりゃ一か八か、間に合うかもしれねえ! これしかねえっていうんなら! やるしかねえだろうよ!! 全身に感じてるこの、なんかわからねえ俺のエネルギーを! 脚に!!
「出力が上がった…! イケるか…!?」
行くしかねえだろおおおお!!! 全力で踏み切って! 体当たりだ!!
「うおおおおおおおおおっ!!!!」
ガツンと来た!
かぁあああ! 重てえ音がしやがる!! 生身だったら鼓膜が弾け飛んでるぜ! 肩だって砕けたに違いねえ! だがそこは俺! 今や人類守る巨神様よ! この程度、なんともなーし! はっはっはあ!
「リンド! 聞こえるか! 援護はいらない、下がってろ!!」
「しかし! 君一人では……!!」
「今の大砲以上の武器を持ってきてるのかよ!?」
「……くっ!」
「それに……一人じゃない。 なあ、シャンビィ!」
「ぴっきゅあ!」
あれ?マスコットモードの俺動いてる?? 向こうにも俺の意識あるのか? それともオートモード的な???
「しかし、全力タックルでぶちかましてもロクにダメージないみたいだな。 やっぱ反応のあるあの部分を狙うしかないのか? でもこの反応、敵の体内だよな。 いくら巨人でも徒手空拳じゃ無理があるな。 武器とかなにかないのかよ……!?」
無い事はないと思うんだがなぁ。 なんでそういうのは自然にわからねえんだ? こういう時は不思議な直感とか閃きで新武器が覚醒したりするのがお約束だろう? いや待て。 この物語は古代兵器系巨大メカのお話だ。そういう場合、新たな力をもたらすのはなんだ? 先見の明のある考古学者? 神の言葉を賜りし預言者? それとも……ああ、畜生! 早乙女博士は居ないのか!?
「!? なんだ……敵の様子が??」
嫌な予感のするセリフだな、レッド! このタイミングでそういうのは……ああ、もう……さっきの予想が的中しやがったじゃねえか。 なんだよ、アレ。
敵さんの周りに黒い渦のようなものが現れた。 渦の周囲の景色が歪んで見える。俺の体の計器類は中々上等らしいな。 こういう肌で観測できるものはよく分かるぞ。 アレは引力場だ。 カタカナで言うとブラックホール。 極小の上にひしゃげた球状か。 目の前の怪物が故意に発生させてるんだからデタラメだ。 サッカーのスタジアムくらいはあったここの遺跡をアレでペシャンコに押し潰したわけだろうからなぁ。 さすがに直撃は……まずい。 そう遠くには飛ばせないだろうが、有効範囲はそこそこあるはずだ…… むっ!?
「………来る!」
反応が早いな、レッド。勘がいい。 これなら……かわせる!!
…っしゃあ! 見てから余裕だ! あの技、予備動作が遅い。 かわすのは簡単だ。 レッドも落ち着いてる。 問題は、かわし続けても被害が広がるだけってことと、倒す手段が見つからないことだな。 ……いや、ないわけでもない。
「ヤツの体……鎧みたいになってる部分……もしかして」
鎧っつーか、亀みたいなんだよな。 二足歩行の大亀だ。 手足を引っ込める隙間はなさそうだが。 硬い表皮はさながら皮膚に貼り付いた鎖かたびらみたいに見える。 武器こそないが、俺には敵さんのあの巨体を打ち上げるだけのパワーがある。 もしかしたら……
「剥げるかもしれない……」
硬い殻の下には柔らかい肉が……ってのはこの世界でもあることらしい。 確実じゃないが試す価値はある。 問題は……
「大丈夫、やれる……私ならできるさ……!」
俺も主役機だ。 ヤベー攻撃食らってもしばらく持つはずさ。 さすがにブラックホールに突っ込むってのはドキドキするがな。 今の俺には心臓もねえはずなのに。
「行くぞ! シャンバラ!!」
おう!!
レッドの握る操縦桿の動きが伝わって来る。 まるであの女と一心同体になったみたいじゃねえか。 今の俺は黒鉄ならぬ白銀の巨人だが、こいつは存外気分がいい。 乗り手を気に入ってるからか? まあ、そんな事はどうでもいいか。 とにかく言えるのは守護神サイコーってことだ! さあ、敵の攻撃が来やがるぞ! 黒い渦には当たるなよ!!
「遅い……!!」
お見事! かわし……待て!! さらに極小の引力場の反応が正面に現れた! いや! さっきからあったがダメージになり得ない規模だから見逃していた! それが! その質量が急速に増大して……かわせない!!
「っっっっ!!!」
直撃! 直撃した!
ガツンと殴られたような痛みを覚悟していたが、違う。 こいつはまるで全身くまなく握りつぶされてるみたいだ。 小鳥が人間に握り潰され殺されるんならこんな感触なんじゃねえかってえ感じの閉塞感。 くそキモチワリイ。 内臓が口から飛び出そうだ。 内臓なんて今詰まってないけどよ!
「シャンバラ!? くそ! 動けないのか!?」
おうおう、俺の中身はまだ無事らしい。 少しは安心したが時間の問題だな。 外が潰れりゃ中も間も無く、だ。 しかしこりゃあ、力づくで出るのは無理そうだな。 がっちり全身が力場に押さえつけられてる。 バルカンみたいなのがあればそれで敵の気をそらして逃げたりするのがセオリーだろうが、何度も言うが武器がない。 人類軍の用意してる兵器は……無理か。 俺が捕まると同時に砲撃を開始したらしいが、敵さん身じろぎもしやがらねえ。 こっちを先に潰す気なんだ。
もしかしてこれ、詰んでんじゃねえか。
主役機に転生したと思ってたが敗北エピソード枠だったわけか。 まあ、異世界転生なんて言っても当事者にすりゃ紛れも無い現実なわけで現実なんてものはいつだって世知辛い。 一度死んだ身としてはさして恐怖もないしな。 短い間だったが、楽しかったさ。 さて、今度こそ本当に死……かね。
「諦めんな……」
? レッド?
「私は……諦めないぞ……!!」
自分に言ってるのか。 しかし、諦めねえったってどうする。 力場にはパワー負けしてるし、敵の技を解除できる味方もいない。 こんな時、ロボットアニメで頼りになるとしたら、それは……やっぱ有能な味方の学者キャラか。 しかし、ここまでにそんな登場人物は……
「レッド! 聞こえるか!?」
ああ、この声は。 あいつからの通信か。 こんな時でも爽やかな響きの声だ。 人の良さが滲み出てやがる。 忌々しい。 あんな有能ハイスペックボーイの声なんて今際の際に聞きたかないんだが。
「リンド!? どうした!?」
「武器を使え!」
「あったらやってるよ!」
「あるんだ! シャンバラには! ヴァルヴァナと戦うための武装が!!」
「ヴァルヴァナ? それに……武器がある、だと!?」
本当かよ。 冗談が笑える局面じゃねえぞ。
「急がせていたシャンバラの武装に関する研究の成果が出たと報告が入った! まだほんの一部だが、今すぐ使えそうなもののデータを送った! 使ってくれ!!」
お。 おお? おおおおおお! ? こ、これは! こいつは! マジかよ!!
本物だ!
しかもすごいぞ! この局面……これ一つで片がつく!! こいつを使え! レッド!!
「これは………槍?」
そうだ! 槍さ! 主役の武器なら剣が映えるが槍もいい! しかもこいつはただの槍じゃねえ! ああ、もう! とにかく使え、レッド!! この槍の名は!!
「重槍……ヴァーミリオン!!!」
うおお! なんか体が勝手に動くぜ! この槍は! こうやって出すのか!!
俺の右手が輝きながら宙空を掴んだ。 相変わらず敵の圧力は衰えるどころか強さを増してるが関係ねえ。 これくらいは動ける! 確かに手応えがある。 既にここになにかがある。 それを覆っている薄皮を剥ぎ取るように、まっすぐ腕を振り下ろすと……!!
「これが……シャンバラの武器!」
これが重槍ヴァーミリオン! 名前ほど重くは無いんだな。 だが、長い。 両手で扱う方が良さそうだ。 穂先はまるで矢じりみたいな形だな。 サイズだけは突撃槍並だがよ。
「!? 重力場が消えてる……!!」
そう、それだ! それがこの槍の力! ヴァーミリオンが敵の力を相殺している! つまりこの槍には……
「ヤツと同じ力がある……!!」
素手のパワーじゃこっちが上で!
「能力が同じなら!」
思い切り目の前の敵を蹴り飛ばす。 さすが重量級の相手だ吹っ飛びはしない。 だが姿勢を崩せば十分だ。 間合いも上等、申し分なし。 俺たちは、重槍ヴァーミリオンを大上段に振り上げた。 赤く輝く粒子が渦を巻き、刃を包んで高速で振動する。 敵に体勢を立て直す暇はない。 朱い刃が、流星のように振り降ろされた……!!
「重槍洸断! ヴァーミリオン・デヴァステイト!!」
刃は敵のコア、その中心を見事に両断した。
「ハァ……ハァ……。 …………やった。 また一つ、ヤツらを……倒した」
おう、お疲れさん、レッド・カーマイン。 見事だったぜ。 ところでよ、一個聞きたいんだが……
最後のシャウト、なに??
※※※
敵の攻撃でメッタメタにペシャンコになってしまった遺跡跡だが、わずかな望みをかけて再度掘り起こすことにしたらしい。 ヤリ手んイケメソが言うには「シャンバラがこれだけ頑丈なら望みはある」だそうだ。
本当かどうか確認しようと千里眼を使ってみたが、ダメだな。 見えねえ。 というか、千里眼自体が機能してないようだ。 大昔に使ったきりだから寝てる間にダメになっちまったのかも知れねえ。 未だ我が身は謎が多い。 ま、人類の叡智を結集してシャンバラの謎に当たってるわけだから、研究が進めばいずれは全機能を取り戻せるだろう。 この身に関する情報も全てな。先は長そうだし気長にやるしかあるめえ。
それはそうと、敵の正体が少しだけ明らかになった。
ヴァルヴァナ。
それがこの世界の人類の敵の名前だ。
俺自身の宿命の相手でもある。
未だ資料の解析は途中であり、わかったのは名前と、『星を食む者』とかいう二つ名だけだそうだ。
資料っていうのはシャンバラ……俺が出土した遺跡に残っていたものらしい。 調査隊の残した成果であり、リンド・エバーハートの想い人の形見でもあるその資料によって、俺たちは窮地を救われたというわけだ。
「ありがとう、レッド・カーマイン。 君の働きに感謝する」
「いらないよ、礼なんて。 言ったろ? ヤツらは私の……仇だってさ」
「……ああ、そうだったね」
本当にそれだけかい? って聞きたそうなツラしてやがんな、イケメンダイナマイト。 だがまあ、さすがに飲み込んだか。 直球で聞いたところで答やしないだろうさ。 あの時突然叫んだ技名といい、俺もレッド・カーマインって女に前より興味が湧いてきたところだ。 差し当たってワンダーナイスくそガイが言ってた印とかいうのがレッドにあるのか確認しよう、そうしよう。 ちょうどレッドが大型輸送機内にシャワーを浴びにいったところだ。 ピンクの小動物が飼い主のシャワーに同伴しても止める人間なんかいやしねえ。完全に合法にピチピチした美少女の左右の合わせ目をナマで正面から堪能できる身分なのだ、今の俺様は。 ぐへへ。 ぐへへへへへ。 待ってろ、レッド! 過酷な状況に疲弊しきっているおまえのナイーブなメンタルをアニマルセラピーしてやるぜ! 実にアニマルな方法でな!! うっほほほーーーーい!!
「ぴっぎゅう??」
あれ? 突然のブラックアウト。 デジャヴ。 巨神モードになる瞬間に見覚えが。 しかし遠くならないシャワーの水音。 ふっしぎー。 あと、力強い何かに顔面を掴まれているのも既視感ある。 まさかさっき倒したヴァルヴァナに小型機がいたのか!? やっべえぞ、レッド! 今すぐ臨戦態勢に……
「性獣ぅぅううう〜〜〜〜〜……んなトコ臨戦態勢にしてナニする気だったんだ? ええ!?」
え!? なんのこと!? といいつつピコピコ動いているな、俺の重槍ヴァーミリオン。 なんでマスコットキャラにこんな下ネタついてるの! 巨神メカ転生じゃなくてエロゲ転生だったのか!? だったら優しくお願いします!!
「サカってんじゃねええええええええええ!!!」
ああ…………弧を描き空を切る我が身…………そして、性槍ヴァーミリオン。 二度目の生も振るう事なく……ぽふっと着地。
「……シャンビィ? どこから飛んできたんだい?? ……あ」
あ。
「ああ…………なるほど。 レッドがシャワー中なのか。 そうか……へぇ…………」
あ、ああ、ああああ……。
「オスの本能というやつかな。 うん……立派だね……」
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
「いいメスが見つかるといいね。 君の仲間を、僕たちで探してあげるよ」
うわああああああああああああ!うわあああああああああああああああああ!!!!
うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
「あ、いた! なんで!? なんで噛むんだい!? 興奮してるのかな!? いたっ! 痛いよ! ちょ、レッド! レッド!? シャンビィが興奮してるんだ! どうしたらいい!?」
ジャワワワワワーッ!!
「うわぁ!?」
つめったい!!
「落ち着いたか?」
………………。
「……あ、うん。 落ち着いたみたいだね………………泣いてるみたいに見えるけど」
う、うう…………見られた。 俺のフルスロットル……悪魔イケメン大帝に…………う、う……。
「ふ、拭いてあげるよ。向こうにいこうか、シャンビィ?」
しくしくしくしく…………。
俺はこの世界に来て初めて、さめざめと泣いた。
※※※
ヴァルヴァナ。
それがどうやら俺の倒すべき相手の名前らしい。
それがどんなものなのか、なぜこの星の人々の生活を脅かすのか。
そういった情報を、俺は一切持っていない。 なぜって、言われても困るんだが。 なにせ俺はこの世界に来る前に神的なものの声を聞いたわけでも助けを呼ぶ誰かに引かれたわけでもない。 気づいたら巨神だった。 というのが正直なところだ。 まあ、普段から異世界転生するなら巨大メカになりたい!と思ってるような人間ではあったが、そう思ったくらいで異世界転生するんなら今の時代多くの人間が異世界転生してるだろう。 だからこんなのは決定的な理由とは言えない。だろ? ただ、まあ。 瀕死の重傷を負った人間が、事が起こった前後の記憶を失った……なんて話も世の中あることを考えると、今の俺はまさに異世界転生した瞬間の記憶をごっそり失ってるだけ、ってのはありえそうな話ではある。
気になるのはなんとなくで理解できる情報に偏りがあることだ。 俺が太古に生み出された巨神シャンバラである事は間違いないと確信できる。 古代文明が滅ぶところをシャンバラの目で見た記憶がある。 しかし、シャンバラを生み出したものが巨神の内に遺したであろう情報は引き出せない。 これはどういう事なんだ? 体は覚えているが、意識的には引き出せない。 そういう事? であれば外部的要因で引き出すしかない。 この世界の住人の力が必要だ。 俺はこの世界の文字を読めないし、今のところレッド以外とはロクに意思の疎通も出来ない。 いや、レッドだって俺のやらしい視線に気づくくらいなもんだが。
……改めて考えるとかなり絶望的に情報がねえな?
できる事と言ったらマスコットモードでの徘徊とセクハラと情報収集。 シャンバラモードではパイロットがいなきゃ基本身動き一つ取れねえ。 この世界の隅々まで見渡せたはずの千里眼機能が使えなくなってた今、戦闘では気合入れたり踏ん張ったり操縦者と息を合わせるくらいしかできない。 発掘される巨人ってのも不自由なもんだな。
とはいえ、俺もまだ新人巨神メカだ。 レベルを上げれば超能力でパイロットに神器を授けたり、夢枕に立って予知夢を見せたり出来るようになるかもしれない。 そう考えるとワクワクするな!
元の世界……に戻れるかどうかもわからん以上、現状を楽しむのが正解だろう。 今、ここを全力で生き抜けば次の手も見えて来るかもしれねえしな。 ダメな時はそれまでよ。 既に夢みたいな事態の連続だ。 ままよ。 なにより、巨大メカ視点での実戦は、怖さもあったがイイもんだった! これが世界を救う巨神の視点なんだな! ふはは! ふはははは!!
「……なに気味悪い笑顔で寝てんだ、シャンビィ」
ん?おお、現地妻1号! よいアングルだな! 寝てたわけじゃないがイイもん見れた!
「ピッギュァァァァ!!」
カカトが眉間にめり込んだぁぁ!!
てめ、こら!! なにしやがんだぁぁぁ!!?
「私をやらしい目でみるんじゃないっつったろ。それとちょっとそこに座れ。 プレゼントだ」
え? なんだ、改まって? レッドが? 俺に? プレゼント?? それは紳士として受け取らねばなるまい。 さ、よこせ。
「お、エライぞ。 やっぱおまえ、言う事わかるみたいだな。 賢い奴は好きだぞ」
ふふん。
「ほら、プレゼントだ。 じっとしてろ」
ふ…ふは……、く、くすぐったい……!
「よ〜しできた。 うん、なかなか似合ってる」
んん? なんだ? 首輪? おいおい、俺は犬猫じゃないぞ。いや外見はまさに犬猫と大差ないけど。 しかしまあ、美少女から貢がれるのはイイ気分だな。 うむうむ。 レッドの趣味に付き合ってやるか。
「それ、外すなよ。 調査に必要なんだとさ」
は?
「こないだの遺跡跡での戦闘の時、おまえ光ってただろ? 大槍手に入れた時に。 その事リンドに話したら興奮した様子でそいつを用意してきたんだ。 シャンバラの謎を調べるのに役に立つらしいから、外すんじゃないぞ。 ま、その手じゃ無理だろうけどな」
え? 光ってた? 俺が? マジで? え? っていうか、この首輪って? え? レッドからじゃないの? え? え??
「じゃ、行くぞ」
え? どこに? え?
「ヴァルヴァナが出た」
※※※
蝉。
蝉だよな、あれ。
それもミンミンなく方じゃなくて八年間土の中にいる方。 幼虫。
バカでかい蝉の幼虫がモリモリ地面を掘り進んでる……
「アレがヴァルヴァナか?」
「だと思うよ。この間のとは形状こそ違うけど、どことなく似た雰囲気がある」
んーーー、まあ、確かに。 似てるっちゃ似てる。 しかし、大昔に見た連中の中にいたっけな、あのフォルム? ん、んん、んんんんんんん???
うん、いた。 いたわ、アレ。 なんか記憶の端の方にひたすら土を掘ってる目の前のアレと似たシルエットがいる。 うん。 ヴァルヴァナで間違いないっぽい。 しかし……なあ?
「なんで土掘ってるんだ??」
ですよねー、レッドさん。 気になりますよねー。 おい、ハニーフェイス大明神! 説明しやがれ!
「この地の者曰く、大地の気を啜っているらしい」
気ぃぃ〜〜〜〜???
「魄動力を覚えているかい?」
「シャンバラの動力かも知れないっていう、この前おまえが言ってたヤツだな」
「そう。 魄動力……スピリットフォースは魂と体を繋ぐものを動かす力」
「それ即ち気である。 気は形ある眼で見えぬ血のようなもの。 故に我らはかの力をこう呼んでおる。 気血……とな」
……誰だ、この偉そうな褐色童女は。
「リンド、知り合いか」
「ああ、この方は……
「よいよい、名乗りくらい自分で出来る。 そこな褐色少女が巨人の導き手じゃの。 初めまして、旧き友。
我輩はここな地の先住民。 故あってこの地で暮らしておったのじゃがな、近所に厄介者が現れて困っておったのじゃ。 なんで先日キャラバンからせしめた通信機器で国に苦情をいれた次第じゃて」
「名前は?」
「名乗るほどの者ではないよ。 協力者Aで十分じゃ」
「ふーん……」
ムチャクチャ胡散臭いのが来たな。 見た目10歳くらいなのに異様に年季の入った喋り方しやがる。 声高いくせに変な重みがある。 間違いない、重要人物だ。今後も度々絡んでくるに違いない。
「ほう、珍しい獣じゃな」
んん、なんだ? 俺に興味があるのか? 見てくれは悪くないがちょっと幼すぎるな。 俺は出るとこ出てる方が好みだ。
「おぬしのペットかや?」
「まあ、そんなトコだよ」
違えよ! 首輪ついてるけどな!
「さて、本題なんじゃがな。 アレ、なんとかしてくれ。 土地が死ぬ」
「土地が死ぬ?」
「アレが吸っておるのは気血じゃ。 物理的な実体の無いエネルギーじゃが存在の土台になる重要な力でな。 気血を抜かれた土地は干からびて死ぬ。 今どんなに豊かに見えても確実に先細っていく。それはちと困る。 妾はここが気に入っておるでな」
一人称がブレブレなの気になるな。
「妾はここが気に入っておるでな」
二回言った!
「ま、追い払うにさほど苦労はせんはずじゃよ。 シュノーケルはヴァルヴァナの中でも戦闘向けではない、収集機じゃからな」
重要そうな用語がまとめて来た!
「シュノーケル? それに戦闘向けでない、だと? おい、リンド。 このコ、何者なんだ?」
「協力者Aだというておろう」
「胡散臭いんだよ、おまえは。 リンド、どうなんだ?」
「それが……僕らにも詳しいことは。 ただ、彼女は機密事項である先の二つの戦闘の詳細を言い当てた。 知っての通り、最初の戦闘では生き残ったのはレッドとシャンビィだけ、先日の戦闘に居合わせたのは軍関係者のみ。 情報は統制されているのに、こんな辺鄙な場所に一人住む少女に漏れ届いたとは考えにくい。 だが、彼女は知っているんだ。 ヴァルヴァナの事を。 これは無視できないと来てみれば……」
本当にヴァルヴァナがいたってわけか。
ますます怪しいな。 こんな人も寄り付かない山岳地帯のど真ん中でそいつは一人暮らしてたってんだろ。 ヴァルヴァナの仲間だったりするんじゃないか?
「……はぁ、まあいいや。 後でゆっくり聞かせてもらう。 まずはヴァルヴァナをなんとかしよう」
「追い払うだけでよいぞ」
「は? アイツはこの土地をダメにしようとしてるんだろ?」
「ちっと食い過ぎとるだけじゃ。 軽く痛い目にあえば当分寄り付かんよ」
「?? なんだ、それ。 ヴァルヴァナは私の仲間の仇だ。 全部倒す……!」
「まあ、それでも構わんがの」
おっと、レッドのヤツ、走って行っちまった。 俺も後を追わねえと……!
「よろしくの〜〜」
「重槍洸断! ヴァーミリオン・デヴァステイト!!」
「お疲れさんなのじゃ〜」
「…………」
「ん? どうかしたかの、お嬢ちゃん。 ケガでもしたか?」
「は」
「は?」
「張り合いがなああああああいい!!」
「ほっはっは! そうじゃろうとも。 シュノーケルはそも戦闘向けではないし、あやつ食い過ぎで動きも鈍かったしのう。 ま、礼をいっとくぞ、お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんはヤメろ。 私の方が年上だろ。 ……えっと」
「協力者Aじゃ」
「それもうっとうしい。 ちゃんと名乗れ。 呼びにくい」
「そうじゃの。 世話になったしそれくらい答えてもよいか。 ん〜〜、そうじゃな。 A……Z……うむ。 ワシのことは『アズール』と呼ぶがよいぞ」
一人称ブレッブレだな、このロリッ娘。
「しかし……良かったのかい、アズールちゃん。 君はヴァルヴァナを追い払えと言っていたのに、倒してしまって」
「構わんよ。 おかげで少し気血も戻って来たようじゃし」
「それで、アズール。 おまえは一体なんなんだ? この場所でいったい何をしていた?」
「疑り深い娘じゃな。 我輩はここを気に入ってると言うたじゃろ。 二回言うたじゃろ」
二回言ってたな。 ……そんなに重要か?
「我輩はここに住んどるのじゃ。 重要じゃ」
「こんな道もロクにない場所でちびっ子が一人で住んでるのか? 一番近い街までどれだけ離れてると思ってるんだ」
「ワシは疲れた。 帰って寝るとしよう」
「聞けよ!」
「桃いの。 お主もたっぷり寝ておけ。 これからますます忙しくなるぞ」
「はあ? 何言ってんだ? っていうか、何を知ってるんだ、おまえ?」
「そういう話はまた今度の。 ワシは今のうちにゆっくり寝ておきたい。じゃあの」
「待って貰おう。 僕らとしても君をこのまま返すわけにはいかない。 機密情報をどうやって掴んだか、教えて貰おう」
「ほっはっは! 線の細い優男かと思えば、そんな顔もできるのじゃな。 しかし、ワシに構っておる余裕があるのかの??」
「それはどういう……?」
ん? なんだ? なんの音だ? なんか……虫の羽音みたいなのが聞こえて来るぞ? 一匹じゃねえな? 二、三、四………何匹いやがんだこれ? いや、っていうかコレ……音からしてサイズ……でかくね??
「未確認飛行物体、多数接近!!」
輸送機に陣取っていたファイナルイケメンの部下が叫び声をあげる。 とっさに周囲に目を配る俺たち。 いち早く音がする方を見ていた俺に気づいたレッドが顔を上げると、つられて全員が彼方の空を見上げた。
「ヴァルヴァナか!?」
「レッド! あれだ!! あの、黒い影……!!」
う、、、、そだろ?
見た目と大きさはさっきの蝉とそっくりだ。 けど、翅があるし、飛んでやがる。 それも煙みたいに見えるほど複数いやがるぞ……!!
「ちっ、冗談きついな! アレ全部、そうか!」
「レッド!? どうするつもりだ!?」
「やるしかないだろ! 行くぞ、シャンビィ!!」
お、おう……!!
「うむうむ、頑張れよ。 ここは我輩の大事な場所じゃてな。 じゃ、ワシはこの辺で……」
「どこへ行くと言うのですか、アズール殿」
「おやおや。シャンバラの援護はいいのかの」
「こうする事が援護になると考えます。 悪いが無理矢理にでも拘束させていただく」
「それは困る。 ヴァルヴァナの対応が思ったよりずっと早い。 しばらくは寝ずの行軍になりそうじゃて、付き合ってはやれん。 手元の資料でもよく目を通しておくのじゃな。 では、さらばじゃ……!!」
「ま………うわぁっ!!」
おいおい、本当になにもんだ、あのジャリガール。 走りながら音だけ拾ってたから具体的なアクションはわからねえが、煙幕的なもので逃げた感じだな。 アズール、つったか。 古代人連中についても知ってそうだし、シャンバラの機能拡張の鍵を握ってそうだ。
「急げ、シャンビィ!!」
おっと、愛しのパイロット様がお待ちだ! 行くぜ!!
「……よし、乗ったな! いくぜ、シャンバラ! 今日こそすんなり動いてくれよ!!」
あ、そうか。 シャンバラ起動するんならまたあの筆舌に尽くしにくい妙なトリップ決めなきゃいけねえのか。 うーん、気が重いぜ。 SFとかの義手とかの神経接続ってあんな感触なのかねえ。
「ちっ! またかよ! どうしておまえはすぐに動かないんだ!? 今! おまえが必要なんだよ!!」
嬉しいこと言ってくれるねえ。 しかし、どうしたもんかな。 前回はよくわからんうちにシャンバラモードになってたし、切り替え方がイマイチわからねえ。 ホントに不便だな、この体! 説明書なしでチャレンジャブルなインディーズゲームやってるようなもんだ! 難易度高いよ!
「このまま虫のエサになるのはゴメンだぞ! おまえだってそうだろ、シャンバラ!? だったら動け! 動いてヴァルヴァナをやっつけるんだよぉ!!」
……俺自身はヴァルヴァナに誰を殺されたわけでもないから、もう一つピンとこねえがよ、レッド。 おまえが失くした仲間ってのは、そんな必死になれるくらいに大事なものだったんだな。 しかし、応えてやりたくてもどうすりゃいいのか……
「な〜〜にやっとんじゃ、二人して」
!? アズール!??
「さっさとシャンバラ動かさんかい。 さっきはできとったじゃろ」
「こいつ、起動が安定しないんだ!」
「鍵使えばイッパツじゃろうに」
「鍵なんてもってない」
「カンタンじゃよ。 コイツの起動はテンションでやるもんじゃて。 大事なのはノリじゃな」
「ノ、ノリィ??」
「そうじゃ。 うまくノせるのが鍵じゃ。 なんでもいいぞ。 勢いのあるセリフとか、おだてるとか、とにかくシャンバラをやる気にしてやることじゃな」
「さっきは必要なかったぞ」
「調子の悪いテレビでもスッとつくことくらいあろう」
テレビ扱いかよ、俺。 世界の命運を背負ってる巨神のはずなんだが。
「ほれほれ、もう虫達はそこまで来ておるぞ。 ヤツらに気血を吸われればシャンバラとて朽ちゆくから気ぃつけえよ。 じゃあの」
「お、おい! 結局鍵ってのはどうすればいいんだよ!?」
「意外と小難しく考えるヤツじゃな。 なんも思いつかんなら、とりあえず自分がテンション上がることしてみればいいんじゃないかの」
「あ、こら! 待て!!」
……行っちまった。いよいよもって只者じゃねえな、あいつ。しかし、テンション上がること、ねえ。 レッドの復讐心みたいなもんは中々だと思うが、あれじゃ足りないってことか。 もしくは俺の方にも問題がある? テンション上がる起動方法か。 そうだな。 やっぱアレじゃないか、レッド?
「な、なんだよ、シャンビィ。 なにか言いたそうにしてるな?」
こないだ叫んでたアレ、いいんじゃないか。 いいと思うよ、あれ。 ああいうの好きだぞ、俺。 さっきもやってたやつの延長だよ、レッド。やっちゃおうぜ。
「う、うう、、、わ、わかったよ。 やるよ。 やればいいんだろう! やってやる!!」
よし、俺も一緒にやろう!
「この星に生きる全ての命を脅かすもの、ヴァルヴァナよ!
今ここに、あまねく命の光を背負い立ち上がる我が名は、シャンバラ!!
この血の一滴まで! 全てが輝く刃と知るがいい!!
行くぞ!! フォルティーーース!!!」
おお! 意味はわからんが熱い! 熱いぞ、レッド!! その振り付けも最高にイカしてるぜ!!
「………〜〜〜!!」
技名を叫んでた時とは打って変わって耳まで真っ赤だ! なんで!? 今のポージングめちゃくちゃ堂にいってたから玄人だと思うんだけど!! ……お? おお?? きたきたきたきたああああああ!!
「ホントに起動した!?」
1,2,3,4,…………666匹か? 嫌な数字だな、おい。 しかしなるほど、この一瞬は千里眼の機能の一部が生きてるらしい。 今、この瞬間、この惑星の上にヴァルヴァナは目の前にいる分だけ。 でもそれって……どういうことなんだ……ああ、考えてる時間はねえか……もう……切り替わる!!
「行くぞ、シャンバラ!! 皆殺しだああああ!!」
さっきの口上と真逆なセリフだ! だが、その意気やよし!! やってやろうぜ、レッド!!
「重槍ヴァーミリオン!!」
槍を取り出しざま、振り抜き、返す刃で一気に三匹を両断した! なんだかノっていやがるぜ!!
「レッド! 聞こえるか!?」
「無事か、リンド!?」
「ああ、こいつらには手持ちの武器が通用する! 自分の身は自分で守れそうだ!」
「そいつはいいや! 敵の動きはわかるか!?」
「どうやら狙いは我々だけらしい! 離れて行く気配はない!」
「ならちょうどいい! 囮になってくれ! 敵を一箇所に集めるんだ!!」
「考えがあるんだな?」
「当然だろ。 私におまえらの命、預けてくれ」
「了解した」
カッコイー! なにこの女、カッコイー!! さっき真っ赤になりながら口上叫んでたコと同一人物とは思えない!! 痛い! いや、痛くはなかった。 体内から突然の床ドンにビックリした! レッドのヤツ、勘がいいな!! しかし、どうする気なんだ? いやまあ、察しはつく。 気になるのは、できるかどうか、だ。
「やってやるさ。 おまえならできるだろ、シャンバラ……!!」
………へ。 なるほど。 こういう場面のメカの気持ちって、こんなんだったんだなぁ。
リンド達が乗り込んだ輸送機が虫どもを弾きながら飛び出した。 いかにも逃げるってていだ。 ヴァルヴァナの群れが輸送機めがけて殺到する。 いい塩梅だ。 分かりやすくひとまとまりになった! 後は俺たち次第ってわけだ。 一掃するには相当な出力がいるのは間違いない。 重槍ヴァーミリオンをただ振るっても倒しきれないだろう。 エネルギーを高める必要がある。 まあ、つまり、そういうわけだ。
「リンド! そのまままっすぐ飛べ! 後はこっちで引き受ける!!」
旋回しながら敵を集めて来たリンドの輸送機を正面に捉え、俺たちは地を豪快に駆け抜ける。 このまま真っすぐ走れば輸送機と交差した直後、ヴァルヴァナの群れは一直線に並ぶはずだ。
さてレッド。 技の名前は決まってんのか?
「黒き渦、光飲み込む無間の地獄! この先に一切の道無きと知れ!!」
ヒュウ! 力が充実していくのがわかるぜ! デタラメだな、シャンバラ! 俺の体だけど!
槍の穂先に一つの小さな黒い渦があらわれた。 極小のブラックホール……みたいなアレだ。 俺たちがこの間のヴァルヴァナにやられたように、こいつを連中の群れの鼻先から思いっきり……叩きつける!!
「うおおおおおおおお!!!」
地を思い切り踏みつけた。 地軸がズレるんじゃないかってくらい踏みこんだ。 シャンバラは……俺の体は、一個の弾丸のように地上から射出された。 輸送機の真下をかすめたような感触を頭に感じた直後、視界に飛び込むひらけた青空、……そして、セミっぽいヴァルヴァナの群れ!! って、ちょっと高くねえか!? 勢い余って、このままじゃ群れの上を飛び越しちまうぞ!?
「ちぃ! このまま行くしかない!! すくい……上げる!!」
う、おおおおおおおおおおおお!!?
「重槍洸鎚! ヴァーミリオン・ネガドライブ!!」
槍の穂先に溜めた力場が急激に展開、拡大して金魚すくいのあの紙みてえにヴァルヴァナの群れを飲み込んで行く。600,610,620,……もうひと息! あっ!?
外した! 輸送機の方に……!!
「逃すか……!」
え!? おい、レッド! 本気か!? 無理だろ!?
「おおおおおおおおおおおおっっっっっっ!!!」
投げたああああ!!! ムチャクチャだな、おまえ!! 不安定な空中で振り向きざま槍投げなんて! 当たるわけねえだるぉおおおおおお!??
ざんっ
あ。
当た……った?
嘘だろ、マジか!? レッド、おまえすげえな!? ああ、それともあれか? 俺が気づいてねえだけで、シャンバラの優秀なセンサーがオートで照準を補正した、とかそういうアレか! ま、なんにせよ結果オーライ! 世はなべてことも無しってか! 腐れイケメンの輸送機も大した被害はないみたいだしな! はっはっは!
その後、ミスターハニーフェイスが調査をさせた。 なにをって? あの謎ののじゃロリッ娘のアズールに関する調査だ。 国家防衛特務隊はアズールが連絡を寄越した地点へ調査隊を送り込み、家宅捜査を強硬した。 しかし、通信の発信地点に家は無かった。 小屋と呼べるものも無く、およそ人間が住んでいるとは思えない状態だったらしい。 周囲も広範に渡り走査したがやはり隠れ家らしきものもなかったそうだ。
「だが、全く収穫が無かった訳でもないんだ」
そう言ってファッキンナイスガイがレッドに見せたのは一枚の写真。 アズールが通信してきた地点にあったという家屋ではないなにか。 黒い柱にみえるそれは、モノリスってヤツなのだろうか。
「シャンバラの遺跡には見られなかったものだ。 関連性も追って調べる必要があるね」
わからないことが増えただけってのが今回の収穫ってわけだ。
わからないこと、といえば大きな事が一つある。
「お? なんだ、シャンビィ? 珍しく真剣な顔して。 メシでも食い過ぎたか?」
………白!
「ぴっぎゅああああ!!」
「ったく、おまえはなんだって人間の女にサカるんだ??」
うう……いてて。 下着の色はわかっても、わからない事はあるもんだ。
レッド・カーマイン。
なんだか一緒にいて落ち着くから忘れがちだが…………俺はこいつの事をなにも知らないんだよなぁ。
「? 強く踏みすぎたか? しょうがないな……」
首根っこを掴まれた。 俺は猫か?
「なあ、シャンビィ……。 おまえっていったいなんなんだ?」
俺が犬か猫か、か? 難問だな。 こっちが聞きたいぜ。
「やあ、レッド。 もう寝る時間かな?」
「? なんかようか、リンド・エバーハート?」
「いや、大した用じゃないんだけどね。 アズール嬢関連でゴタゴタしていたから聞きそびれていた事を確かめたくて」
「? なんだ??」
「君はもしかして『超洸神シャングリラ』のファンなのかな?」
「!!!」
なに? 超洸……なんだって??
「シャンバラを起動する時、何事か叫んでいただろう? あの口上、どこかで聞き覚えがあったんだが、似た文句がシャングリラの中で出てきたのを思い出してね。 とても懐かしく思ったんだ。 僕も好きで良く読んでいたよ、あれ」
「あ、あれは……その……っていうか! き、きき、聞いてたのか!? 全部!?」
「回線はオープンだったし……」
ってことは、あの時近くを通りかかったヤツがいたらそいつらにも丸聞こえだったわけか。
「原作の口上をいい感じにアレンジしてあったね。 君の気持ちが上乗せされていることが伝わる、いい文句だったよ。 技の名前も素敵だと思う」
「あ、ああ……あ…」
「じゃあ、それだけ伝えたかったんだ。 おやすみ、レッド、シャンビィ」
ディレイ付きダイナマイトの起爆スイッチだけ押して行きやがったな、あいつ……。 他人の感情の機微に敏いヤツかと思ったが天然鈍感系かよ。 この後被害に遭うのは誰だと思ってんだ。 こっちは首根っこ掴まれてんだよぉ!!
「あああああああああああああああ!!!」
えっと……その……ご愁傷様? レッドさん? あの、小動物を抱えてるんで、ね? お手柔らかに……お手柔らかにお願いしま……あ、あーーーーーーーーっ!!!
※※※
終わるのか?これは終わるのか?
終わらせない限り終わらない物語。
そもそも筆者にその技量があるかどうかも甚だ疑問。
しかし出さずに終わるのももったいない。
一稿書いてからこのあとがきまでに半年くらい空いてるのよ。
なのでもう出す。出しちゃう。さらけ出す。秘部を。恥ずかしい部分を。
のんびりやっていくんで、うっかり楽しんじゃった人はのんびり待っててつかあさい。