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なんちゃってミステリ

作者: 安藤ナツ

 昨日。私の通う私立星条女学園で一人の少女が自らその命を断った。私とは面識のない先輩であったけど、同じ学び舎に毎日いた人間が死んだと言う現実は中々にショッキングだ。けど、クラスメイトの中には休んでいる人もいるし、顔色が青い人もいて、私が受けたダメージは相対的に見れば少ない方なのだろう。

 いつもとは違う雰囲気の中、私達は緊急全校集会の為に体育館まで移動をさせられた。女子高生の群れが廊下を歩けばお喋りに華が咲く物だけど、今日はひそひそとした囁き声が蠢くように広がるだけで笑い声はない。当然だ。

 体育館に整列し、ひんやりとする床に座り、校長先生の話しを聴く。六〇代も半ばのふくよかな体形の校長の話しは大別すると三つ。

 まず、自殺した彼女に対すること。遺書が見つかっておらず、心当たりがないかとも訊ねていた。

 次に、明日から心理カウンセラーが来るとのこと。事件のことを相談しても良いし、自分のことを相談しても良いと言っていた。

 最後に、命を大切にしましょうと涙ながらにいった。

 利人は【命を危険に晒せ】と私に教えてくれたことがあったが、アレはどう言う意味だったけ? それが多分恐らくニーチェの言葉だとはわかるけど、どんな時に、どうして言ったかが思いだせない。

 この集会が終わったら今日は休校のようだから、利人にもう一回聴いてみよう。

 そんなことを考えながら、私は次にステージに上がった警察官の話を聞き流していた。




「利人、今、大丈夫?」

 教室で友人達と少し言葉を交わした後、帰宅した私は自室のベッドの上でスマートフォンを取り出し、利人に電話した。時刻は十二時を少し回っており、多分授業は終わっているはずだ。

「『ん? 授業中だけど大丈夫だぞ。自習中』」

 終わっていませんでした。電話の奥からは「『自由ヶ丘!』」と若い女性の怒鳴り声が聴こえて来る。間違いなく大丈夫ではなさそうだ。が、かけ直すのも面倒臭いから私は話を続けた。

「今朝の話し何だけど」

 自殺と言う言葉を口にするのが嫌で、私は今朝とだけ言った。

 事件? が起きたのが昨日の夕方、職員室にいた教師の一人が落下する瞬間を偶然目撃した。一緒にいた二人の教師と共に彼女の姿を確認し、近くの病院へと通報した。次の日の朝にはニュースになっていて、スマホには友達から色々と情報が届いており、利人からも『知り合いか?』とメッセージがあった。私は簡単に成り行きを説明して学校に行き、今に至るわけだ。

「『ああ。その話しか』」

 利人は“今朝”だけでしっかりと話を理解してくれたみたいで声を潜めて、しかし聴き取りやすい低い声でこう続けた。

「『考え過ぎかもしれないが、自殺じゃあないかもしれない。教師か警察にそう言っとけ』」

「え?」

 自殺じゃない? 彼女は確かに亡くなったのに?

 いや、違うか。利人が言いたいのはそう言う事じゃあない。

 殺人事件だと言っているのだ。

 しかし、何を根拠に? 原稿用紙一枚にも満たない情報で、殺人事件だとどうして思う? 幾ら利人の言葉と言えど、素直には頷けない。探偵ごっこのつもりかもしれないが、流石に時と場合を選ぶべきじゃないの?

 そんな私の気持ちをまったく考慮することなく利人は更に言った。

「『もし俺の考えが正しければだが、犯人は落下を見たって言う教師だ。間違っても絶対に近づくなよ?』」

 一体、この男は何を言っているんだ? 私が反論しようとすると、「『自由ヶ丘! テストの点数だけが人生じゃないぞ!』」と更に語気を荒くした教師の声が届く。「『流石は先生。二十数年を生きただけで人生について語るとは、俺には出来ないなぁ。その図々しさは尊敬しますよ』」なんてふざけた台詞も耳朶を打った。

 その後、ヒステリックな叫びと共に電話は切れてしまった。

 結局、利人から電話が架かって来たのは五時間も経った後のことだった。

 その時には利人が言った通りに、第一発見者の教師が警察に掴まっていて、私は最初に電話をかけた理由をすっかりと忘れてしまっていた。




「さて、じゃあ、解決編をお願いしても大丈夫かな?」

「『大した理由じゃあない。外れる公算の方が大きいくらいだった』

「勘ってこと?」

「『理由はあるさ。三階から飛び降りたとして、高さ一〇メートル程度だろ? 落下時間は単純計算で一秒あるかないか。偶々に外を見て人が落ちている瞬間を見ることが出来る可能性は低い。あと、他の教師、しかも二人も連れて見に行くのが如何にもアリバイ作りっぽくて胡散臭い』」

「それだけ?」

「『それだけ』」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 岡目八目とはよく言ったもので概要を聞いた第三者が真相に辿り着く様を端的に表してますね。 [一言] とりあえず利人君は周りの邪魔になるから電話切ろうか。
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