プロローグ
―――ああ、死んでしまうとは情けない
そんな声と共に俺は目を覚ました。
そして、目の前の光景を数秒間呆けたように見てしまっていた。
どんなに芸術的な絵画と比べても、いや……絵画と比べるのもおこがましいほどの輝きと美を放つ女性は、こちらに陽だまりのような温かい光と共に俺を見つめていた。
「……ここはどこなのでしょうか?」
自然と言葉遣いも丁寧になり、言葉を放った唇は微かに乾いていく。
「死後の世界に似たような場所ですよ」
説明する目の前の女性は嘘をついているようには見えなかった。
俺は一つの予測をした。それは多分当たっているだろう。
「ということは神様かなにかですか?」
「私はライア。亡くなったあなたをここに呼んだ美しき光の女神です」
その言葉を受け入れた俺はもう一つ質問をした。
「あの、俺の死因は?」
それを聞いた瞬間、女神様は気まずそうに顔を横にそらした。
「あなたは、両親からお年玉を貰えなかった腹いせに、自宅にあったお餅を食べ喉に詰まらせて窒息死しました」
……やっぱりあれで死んだのか。
辛いわぁ、なにが辛いって可愛そうにと憐れんでくる女神様の視線が心にグサグサ刺さってくる。でも、俺の死因を知っていて笑わずに悲しんでくれるのは、素直にうれしかったしかった。
「そ、それでですね」
慌ててこの空気をどうにかしようと頑張る可愛い女神様を見れたことだしチャラだな。
「あれですよね、転生させてくれるとか、その類の奴ですよね」
生前見ていたアニメや小説によくある設定だと、ここでチートアイテムを貰えるはずだが。
「はい!そうです。反則級の肉体や伝説の武器を持って魔王討伐して勇者になるなんてどうですか?ハーレムもおもうがままですよ!」
確かに生前、女子と関わることも運動神経も良くなかった俺は楽しかったとは言うことはできなかった。
インチキな力を貰ってあっちで一生楽するのも一つの選択だろう。
「だが断る!」
言ってやったぜ! これ、一度はやってみたかったんだよなぁ。
女神様は口をポカンと開け、思考停止状態にあった。
そして、さらに追い打ちをかけるように俺はこう言った。
「女神様に惚れました。俺と結婚して下さい」
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「えっと、何度も言いますけど女神と人間は結婚なんて出来ません」
あれから、何度も説明はされた。
困った顔で少し照れながら俺に反論してくるが勿論納得なんて簡単にはしない。
魂の本質が違うことや、女神の使命や、環境の違いなどの説明は確かにされたが、俺の聞きたいことはそういうことではない。
「俺はライアのことが好きです。ライアは俺のことどう思っていますか」
「……いきなりの名前呼びで親しい感じを出そうとしていますが、そうはいかないんですからね。はぁ……なんで今日によってこんな人が」
「こうなることは運命だったんですよ。神様によって導かれた……そう、あなたの深層意識が俺をここに呼び出したんですよ」
女神様は頭を押さえながら、どこか決意したように俺を見つめる。
「仕方ありません」
―――迷える旅人よ、その身に生まれしは善、その身に宿りしは悪。汝の魂は果てを求め、やがてたどり着くであろう
詠唱らしきものを終えると俺に微笑を浮かべ安心したように息を吐いた。
「ではお気をつけて、斎藤翔太さん。良いお旅を」
放たれた光の間から見えたとびっきりな笑顔で告げられた言葉は、生涯忘れることはないだろう。




