柘榴
同性愛的要素を含みます。
いつも通る度に 気になっていたお屋敷があった。
そのお屋敷には柘榴の木があり、皆柘榴はおいしいと云うが私は食べたことが無かった。
ある時、私は決心し、そのお屋敷の庭に潜入した。
「ふっ・・・あっ」
その拍子に着物の裾が少し破けてしまった。
さて、柘榴の木を探そうと、庭に生えている木を見回していると、お屋敷の縁側が見えた。
そこに、とても美しい少女が座っていたのだ。
はっと私は手で口を覆い、木の陰からその少女を観察した。カプリ、カプリと何かを食べている。唇が赤く濡れて光っていて、つい目がそちらにいってしまう。
あれが、柘榴だ。
私は、そろそろとそちらに向かっていった。
「其れ・・・おいしいの?」
怪しまれないかと思いつつ訊ねると、
「おいしいわよ。」
と云う普通な答えが返ってきた。
食べたい・・・
ゴクリと喉を鳴らすと、
「貴女も食べてみる?」
と其の少女が言ったので、私は遠慮なく、少女の元へと向かって歩いた。
「隣にお座りなさいよ。」
そう言われ、私は頷き少女の隣へ座った。
(なんて美しい子だろう・・・)
近くで見てみると、先程感じたよりさらに、その少女が美しく見えた。白い顔、黒く切れ長の瞳、長い睫毛、そして柘榴によって赤く濡れた唇。
「ほら、お取りなさいよ。」
しかし私は、ぷちぷちとしたその実が詰まった果実を前にして戸惑ってしまった。
私は本当に此れが食べたかったのだろうか…。
困って、顔をあげると、少女の顔が、触れそうなほど近くにあった。その顔、唇を見て、
ああ…私はこの唇が欲しかったのではないか
という自分に気付いた。
ぼーっと、少女の唇に魅入っていた。するといきなり「柘榴、食べさせてあげようか?」
と言われ、私は聞き違えたのかと思い、眼を見開くと、少女はにこりと微笑んだ。
こくり・・・と私は頷いた。もちろん私は口のきけない子ではなかったが、緊張しすぎた所為か、その少女を前にして、一言も喋れなかったのだ。
少女は柘榴をぽいといくつか口に放り込み、縁側に手をついた。ギシと板が軋む。
「眼を閉じて・・・」
私は言われるままに眼を瞑った。其の瞬間、冷たくて柔らかいものが唇に触れた。
「あっ・・・」
私はあまりの気分のよさにぶるっと全身を震わせた。
すると、唇が押し開かれ、濡れてぬるとした柔らかいものが私の口へ入ってきた。
「はっ・・・ふ・・・」
其れは私の舌をくすぐり、そして私はまた体を震わせた。
「あっ・・・はぁ・・・んん」
私と彼女の舌は絡み合い、其の締め付けが心地よくて、私は何だか悲しくないのに涙が出てしまいそうな気になった。
プチッ
と音がし、彼女の舌と私の舌の間にあった柘榴が割れた。じわーと甘酸っぱい味が染みて、私は、これが彼女の味なのだ、と思った。
おもむろに、ツツーと背中から腰にかけて着物の上からなぞられ、私はぷはっと唇を離し、縁側の上に横たわった。心臓が、大きな音で鳴っていた。
どれくらい寝ていたのだろう・・・
ぱたぱたと音がし、はっと眼を開けると、少女がうちわで私を扇いでいた。
「柘榴の味は、どうだった?」
そう言い、なまめかしく笑う。
「・・・おいしかった。とても。」
私はとても小さな声でそう言った。
「そう、また食べにいらっしゃい。」
私は何故かぱっと駆け出していた。
後ろからの視線を感じながらも、私は振り向かなかった。
外に出て、私は、いけない事をしてしまった後のような気持ちになった。
風が、ぴゅうと吹いた。
(終)
初の百合です。
時代としては大正終〜昭和初期というところでしょうか。
少女の大人への一歩、というテーマを頭に入れながら創りました。
主人公は13,4歳という感じです。読んでくださった方のイメージで、いいのですが。
なので、話の進め方や表現としても、主人公目線で書きました。少し幼く、しかし幼すぎず。難しいですね。
ちなみに相手は16,7。まだ、少女とも言える歳でしょうか。
少女が何より好きです。




