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逆行の治癒魔術師  作者: 下木ハク
2/6

到着

 あれから数時間もしないうちに俺達は荒野の先にある町に着いていた。

 なぜここまで早く来れたのかというと、セレーナの力を使ったからである。


 セレーナの力は自分自身や物を一瞬で転移させることができるというものだ。

 しかも視界に入っているものなら、触れずに空間転移させることもできるという。


 ただ、一度に複数のものを転移させることはできないらしく、始めに俺を空間転移させてから、自分も空間転移するということを何回か繰り返してここまで来た。


 そのような欠点はあるが十分便利な力だ。

 そんな妹の力を俺は羨ましく思っていた。

 もちろん自分の力が不満というわけではない。

 ただ、妹の力は日常生活にも使えるというだけでなく、戦闘にも使えるという。


 荒野を歩いている途中、魔物に襲われることがあった。

 その時の戦闘だってほとんど妹が片付けてしまったのだ。


 セレーナは、襲いかかる狼型の魔物の頭を空中に空間転移させ、胴体から切り離したりすることで簡単に五匹のモンスターを倒してしまった。

 自分はといえば腰に差していた片刃の剣で、魔物に噛みつかれながらチマチマと斬っているだけ。

 怪我をしても勝手に力が発動するので傷はすぐに治ったが、それでも倒せたのはたった二匹だけだった。

 

 自分はセレーナの兄なのに守るどころか守られている。

 そんな情けない自分に腹が立ったし、悲しくなった。

 そもそも、始めからセレーナの力を使って移動することを考え付けば魔物に襲われずに済んだのだ。


 いや、最初からセレーナは考え付いていたのか。


 自分の力が役に立つと張り切っていた俺には言い出しづらかったのだろう。

 

 俺は本当に情けない兄だな……。


 こんなだから、セレーナに兄さんと呼んでもらえないのだ。


ーーーーーーーーーーーー


 カイロスはかなり落ち込んだ様子で人々で賑わっている町の通りを歩いていた。


 そんなカイロスのすぐ後ろを、セレーナがはぐれないようについてきており、落ち込んだ様子のカイロスを、心配そうに見ている。


 カイロスが、ここは自分の力の出番だとかなり張り切っていたのは分かっていた。

 だが、あの時はもう日が落ちそうだったので、カイロスには悪いが自分の力を使うことを提案したのだ。


 ……カイロスの話に聞き入ってしまったのが遅くなった原因なのだが。


 夜になると魔物が活発になり数が増える。

 そうすると、自分だけではカイロスを守ることができなくなってしまうのだ。


 この前は運悪く魔物の群れに遭遇してしまい、戦闘になってしまった。

 カイロスが四匹の魔物に噛みつかれ、血を流しながら戦っている姿を見たときには気がおかしくなりそうになった。

 怪我は力を使えばすぐに治るとはいっても、カイロスが傷つくのは許せる事ではない。

 カイロスは自分のすべてなのだから。

 

 カイロスを傷つけていた四匹の魔物のうち、二匹はバラバラにしてやった。

 手足を落としてからゆっくりと。

 カイロスに怪我を負わせた罰として。


 カイロスはずっと私が守ってあげないと。


 セレーナは何度目になるかわからない決意を固めた。

 

 しかし、まさかここまで落ち込むとは思ってなかった。

 カイロスにとってそれほどまでに、自分の力を使って旅をするというのは大事なことだったのだろうか。

 おそらくそうなのだろう。

 でなければあんなに落ち込むはずがない。


 セレーナは少し後悔していた。

 自分があんなことを言わなければ、と。

 だが、あのまま旅をしていたらまたモンスターと遭遇してしまっていただろう。


 そうしたらこの前のように、カイロスを守りきれず怪我をさせてしまうかもしれない。

 それだけは避けたかった。

 だからカイロスには悪いと思いつつ、自分の力を使って移動することを伝えたのだ。


「……」


 そうした結果がこれだ。

 カイロスは町に着いてから一言も話していない。

 それに、全体的に暗い雰囲気を出していた。


 いつものような甘い会話が無い。

 

 セレーナにとって、カイロスとの会話は何よりも楽しいものだ。

 一番幸せな時間といってもいい。


 ただ、カイロスが一方的に話していることがほとんどなのだが。


 やっぱりカイロスの声が無いと寂しい。

 

 セレーナは、いつものように明るいカイロスに戻ってもらいたかった。

 

「あの、カイロス」


 セレーナはカイロスに話しかけた。


「……」


 しかし反応は無い。


「兄さん?」


 この呼び方なら反応するだろう。

 そう思い様子を見てみるが、


「………」


 やはりさっきとおなじ無反応だ。

 

 ……しかたない。


 セレーナはカイロスの横に近づくと、小さな手で脇腹を掴んでグリッと力をいれた。

 

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