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第8話 ティース市の事情











「おお!あれがティース市か!?」


目の前にあるのは、なかなか立派な城塞都市。人口三千人足らずの小都市ということで、大した規模ではないだろうと思っていたのが、結構立派な都市だ。外周の塀の高さは、結構高く造ってあって、5メートル近い。

また、塀の所為で街の中は見れないのだが、中心部付近には尖塔が幾つかそびえ立っていて、それらの高層建築は塀の外側からでも窺い知ることが出来る。


また、街には、かなり活気があるようだ。引っ切り無しに、人の出入りがある。明らかに過積載と思しき大きな荷物を載せた馬車や、身の丈よりも大きな荷物を背負った人々が、次々と城門を出ては東に東にと進んで行く。


また、西への物流も中々だ。

剣や槍、弓などで武装している歩兵が、次々と東から都市に入って行く。その一方で、都市は歩兵を大量に吐き出している、西へと向かって。

それらの兵隊達たちは、武装にいまいち統一感が無い。また、鎧を着ている者はほとんど存在しない。


そんな歩兵たちの先頭には、指揮官らしき騎馬兵がいる。騎馬兵の装備は、中々きらびやかだ。きっと、歩兵が平民で、騎馬兵が貴族とか、そういうものなんだろう。


また、兵隊たちの間を縫って、多数の馬車が西へも進む。大量の物資を満載して。




戦争でもあるんだろうか?

現代日本人な俺は、呑気にそう考える。


ん?


そう言えば、魔王が西から侵攻してるんだったな。

ということは、あの兵隊の群れは、魔王と交戦するために行軍してるのか。兵隊さんたちには、頑張ってほしい。魔王には勝てないにしても、せめて、俺が逃げる間くらいの時間は稼いでもらわないと困る。


そう思いながら、マップ画面を操作。兵隊たちのレベルやスキルを調べる。


「へ?」

思わず声が漏れる。

何これ?

弱すぎなんですけど?

兵隊さん頑張ってー。


信じがたいことに、兵隊たちのレベルは5以下。


歩兵のレベルはほとんど、1ないし3と言うところ。まあ、これは仕方がないと言える。歩兵たちはほとんど防具を着ていない。そうして。歩兵たちが手にしている武器の統一感の無さを考えれば、恐らく、慌てて徴兵された一般人と言うところだろう。そんな元一般人に、高レベルを求めるほど、俺は人でなしではない。


問題なのは、騎馬兵たちの方。どう見ても、職業軍人風な豪奢な軍装を身に纏っているのに、そのレベルは2から5。確かに、歩兵たちよりは高レベルだけど……もうちょっと何とかならなかったのか。お前ら職業軍人じゃないのかよと、突っ込みを入れたい。


西から侵入して来ている魔王は71レベル。さらに、その配下の上級魔族たちは、50レベル以上。魔王軍に何千と居る普通の下級魔族ですら、最低20レベルはある。


その一方、5レベル以下の兵隊しかいない人類軍。

また、兵隊さんのほとんどは、スキルらしいスキルを持っていない。たまに、スキルを持っている兵隊もいるが、そう言った人物が所持してるのは『調理』とか『裁縫』、『詐欺』など。どう見ても、戦闘系スキルではない。


素人目にも、全然勝負にならない気がする。


どうすんだ?

これ?









そんなことを呑気に考えながらも、馬車は城門に近づく。ちなみに、ティース市南部の街道にもチラホラと人の流れがあって、大体みんなティース市へと向かっている。

人通りが少ないせいで、南の城門には比較的人がいない。

別段、南の城門から出て東に逃げても良さそうな気がするけど、そう言ったモノはほとんどいない。


なんでだ?

そういう規則でもあるのか?


城門に近づくと、門番をしているらしい兵隊たちが馬車に近づいてくる。


そうして、隊長らしき人物が近づくと、開口一番、


「商人殿。申し訳ございませんが、現在アメダス辺境伯爵領では非常事態が宣言され、馬車は徴発の対象になっております」


「へ?」

徴発なんて聞いてないんですけど?











何ということでしょう。

街に着いたら、いきなり馬車を国家権力に奪われてしまった。ついでに、積荷も多数奪われた。大赤字だ。断固抗議する(キリッ!)


なーんて。

そんな面倒なことはしない。あの馬車も積荷も、元々他人の者だったから、赤字と言う訳でもないしね。



しかし……

これから、どうしよう。

魔王からは逃げる方向で行動する予定なので、東に向かう必要がある。だけど、どうやって?


馬車は無い。

徒歩で?


まあ、歩いても良いけど……問題は魔王なんだよなあ。

どう考えても、魔王軍の侵攻スピードが速すぎて、途中で追いつかれるだろ。


むむむむむ。

むむむむむ。

むむむむむ。


ダメだ。サッパリ分からん。

どこかに名案でも落ちてないかな?


首を巡らす。

へ?

何処だここ?

いや、まあ、ティース市だ。それは分かってる。それは分かってるんだが、どうやら考え事をしながら歩いていたせいで、変な区画に迷い込んでしまったらしい。


俺の視線の先にあるもの。それは檻に入れられた人間達だ。それも、四方八方何処を見ても、檻に入れられた人間が眼に入る。


刑務所かな?刑務所だといいな?そうだと言ってよ。


と、軽く現実逃避してみる。

まあ、答えは分かっている。あの人間達は奴隷だ。ここは、奴隷商館が集まっている区画のようだ。

よりにもよって、何でこんなところに来てしまうのか?


考え事を止めるとわかる。

アミナの視線が冷たいことが。

そして、村で買った少女が震えていることが。多分、少女は俺が奴隷を転売すると思っているんだろう。それで、自分がどんな相手に売られるのかが分からなくて、怖がっているんだろう。



うーん。

どうしようか?


元々、この子はここで売り払うつもりだった。食糧は元から多かった訳ではなかったし、その上、今では大量に食料を徴発されている。正直、現在手元にある食品だけでは、俺一人だけでも心もとない。

また、戦争が始まり、物資の徴発までされている以上、追加の食糧調達には、かなりの困難が予想される。市場に行っても、どうせ売り切れているだろう。


一方で、人が一人多ければその分食料の消費量が大きくなる。

要するに、この子をこのまま所有していることに対するメリットは、全く存在しない。むしろ、デメリットしかない。

だけど、こうも怖がっているのでは、いきなり売りに出すというのは、少々後味が悪い。


むむむむむ。

どうしよう?

取り敢えず、店に入るかな。そこがまともそうな奴隷商人に経営されていれば、売っても問題ないだろう。












「毎度ありがとうございましたあ!」

店員が俺に頭を下げてくる。


どうしてこうなった?!

頭を抱えたくなる。

店を出る俺の後を付いてくる足音は、四人分。奴隷少女を売却するはずだったのに……むしろ増えている。


まあ、しょうがないと言えば、しょうがないのだが。先ず、奴隷商館は、奴隷の新規購入を拒否してきた。

魔王が進行してきたせいで、現在、ティース市経済は壊滅的な状況の模様。売却は丁重に断られた。


一方、奴隷を新規購入した理由だが、これはトト村での出来事とほぼ同じ。

まず、領主が戦奴隷として、肉体奴隷を徴発したため、商館の財政は火の車だったらしい。さらに、それに加えて、領主が多量の食糧を購入したり徴発したりするせいで、食糧価格が高騰。奴隷たちを食わせるのが大変になったらしい。


そんな訳で、売れ残りの奴隷たちは商品価値の低いものから順に、解体され食肉になっていた模様。

昨日まで同じ檻にいた仲間が、次の日には肉団子にされているということもあって、奴隷たちのアピールはすさまじかった。


そのPRに負けて、こっちはこっちで食糧事情が厳しいにもかかわらず、二人も奴隷を新規購入してしまった。


購入した奴隷は、二人とも女の子。10代後半くらい。中々容姿が整っていて、胸のサイズも俺好み。二人合わせての購入価格は、金貨20枚。店員の説明によると、この年頃の性奴隷(しかも容姿が整っている)が、この価格で売られることはまずないとのことだけど……こっちの物価水準が分からないので、高かったのか安かったのかは不明。


まあ、でも、いい買い物のだった。


購入した少女の一人は金髪碧眼。元々はどこかの下級貴族。実家がお家争いに負けてしまったせいで、奴隷として売りに出された模様。中々教養がりそうな感じだし、この世界について知るのに役立つだろう。


もう一人は黒髪黒目。ミドリとかいう名前で、二ホンという国出身らしい。出身がニホンで名前がミドリとか、どう考えても同郷の人である。

同郷のよしみ?的な理由で購入した。ちなみに、二人とも病気で弱っていたので、明日か明後日には、解体されて肉団子ルートに直行するところだったらしい。


二人とも、レベルは1。スキルも何も持っていない。


ちなみに二人の病気だが、最下級ポーションで普通に完治した。ポーションって、病気も治るもの何だっけ?まあ……便利だからいいけど。


それにしても、幾ら食糧が足りないからと言っても、人肉食とか……。まあ、日本人でも、食糧が無くなったときは、割と最近までそう言ったことをやっていたらしいけど。






と、あれこれ考えていると、声を掛けられる。


「どちらに行かれるんですか?ご主人様」


ん?

そう言えば、また何も考えずに適当に歩いていたな。

イカン、イカン。

この調子じゃ、無計画に奴隷がどんどん増えてしまう。


嘆息して、気分を切り替えると、現実に意識を戻す。


声を掛けてきた少女を見ると、それは最初の村で購入した子だ。名前は確か……ミリーだっけ?

多分そんな名前だった気がする。


最初は、情が移ったりしたらやりにくくなると思って、奴隷少女の名前を憶えていなかった。名前を知らないというのは不便だけど、どっちみち最初の街で売っぱらう予定だったわけで、問題ないと踏んでいたんだが……。


だけど、状況が変わり、暫くは売却できそうにない。


「はあ」


ため息が出る。

憂鬱だ。

俺の奴隷と言うことは、俺が世話しないといけないんだろうなあ……。







「ご主人様?」


再度の問いかけ。

やれやれ。

落ち込んでいる場合でもないか。


「取り敢えず、この街で一泊する。だから、これから宿を取る」


俺は、今後のざっとした方針を口にする。


「アミナ。宿の確保は任せた」


「了解いたしました。ユート様」


うん。頼もしい返事だ。今度は、新規購入した二人の奴隷に顔を向ける。


「ミドリと金髪は、アミナと一緒に行動。宿を取った後は休息をとるように。病み上がりなんだから」


「あ、ありがとうございます。ご、ご主人様」

「承りました」


二人が同時に返事をする。ちなみに、舌を噛んでいる方がミドリだ。まあ、現代日本人で、「ご主人様」何て言うことはまずないから、恥ずかしいんだろう。


金髪は元貴族だというのに、俺に命令されても嫌な顔一つしない。貴族といえば傲慢だというイメージがあるんだけど、俺の偏見だったのかな?


「アミナ。二人を任せたぞ」


「了解いたしました」


完璧な返事。アミナは88レベルだから、二人を任せても大丈夫だろう。というか、もし暴漢が襲ったりしたら、暴漢の方を心配しないといけない。



「ミリー。君は俺と一緒に買い物だ。色々と買い込まないといけないからね」


「はい。ご主人様」


買い物かあ。

実際どうなんだろう?

食糧とかは、まだ市場に出回ってるといいんだが……。




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