第3話 宝物庫にて
“古代ロミュラス帝國の隠し宝物庫”
目の前には、そこに入るための穴があった。
荒野のど真ん中で巧妙に隠されたそれは、事前に入口がそこにあると知らなければ、見つけ出すことは不可能だろう。チートスキル様様だ。
炎天下の中、ここまで歩くことでいくつかスキルが手に入った。まあ、スキルと言っても全てコモンスキルだけど。
『歩行Lv1』『暑さ耐性Lv2』それに、『水属性魔法Lv1』だ。水属性魔法は、喉が渇いて水を飲もうとしたときに手に入れたスキルだ。
我ながらチートである。
というか、暑さ耐性が地味に2レベルなのが気になる。レベルアップしたということはそれだけの暑さに晒されていたという訳で、俺が気付いてなかっただけで結構危なかったんだろうか。
何も無い状態で放り出されていたかと思うと、今更ながらに冷や汗が出る。
今度からは妹に足を向けて寝れないな。
と。そんなことよりも早く入るか。
未盗掘なら、お宝がザックザックと眠ってるだろう。盗掘済みなら無駄骨だけど……。
いや。いや。
俺は頭を振って、邪念を振りほどく。これだけ巧妙に隠されているんだし、たぶん未発見。そうに違いない。
入口の中に一歩入ると、いきなり半透明の板が出現する。
ステータスなんて呼び出してないのに、なんで急に出てくるんだ?
疑問に思ってよく見てみると、それは宝物庫内の地図だった。
さらに、アメダス辺境伯爵領の地図が表示から消えていて、再表示させることが出来ない。
「うーむ」
これは恐らく、宝物庫内は別マップということなんだろう。
宝物庫内は三つの階層に分かれていて、一番下の階層に金銀財宝が大量に収蔵されている。半面、俺がいる一番上の階層は迷路のように入り組んでいる。そして、迷路の中では赤い光点がウジャウジャ蠢いている。真ん中の階層には一体だけの赤い光点。恐らく、この光点がボスキャラ的な立ち位置なんだろう。
これって、拡大できるんだろうか?
そんなふうに思うと、自動的にボスキャラ周辺の地図が拡大される。
あれ?
ボスキャラの横に文字が表示された。
“死者の王 レベル69“
おいおい、これって。
『オール・オート・マッピング』って地味なスキルだとばかり思ってたんだが。意外に凄いな。単に地図を作るだけじゃなくて、財宝の場所や、生物(死者の王は生物じゃないけど)の配置もわかる。それに、その生物の種類やレベルまで。と言うか、これをマッピングと呼ぶのは変だろ?日本語が崩壊してるぞ。妹よ。
まあ、そんなことはともかくとして、面白くなった俺は、マップ内にいる他の光点も拡大。
どうやら他の光点も、スケルトンやゾンビといった不死族系のようだ。また、迷路内には無数の罠も仕掛けられていたらしく、こちらも赤色で表示されている。
危なかった。詰んでたな、罠が表示されてなかったら。と言うか、モンスターと罠がどちらも赤色だとやり辛い。これではどっちがどっちなのか、イザトいう時に判らなくなってと困る。
そう考えていると、罠の表示が変化する。今度は桃色だ。これは良い。色も任意に変更できるのか。
ゲームみたいで面白くなってきた。色んな機能があるんだな、これ。
どんどんマップを拡大していく。すると、小動物や微生物まで表示されるようになった。いや、微生物の配置なんていらないよ。……ていうか、俺の体内で表示される多数の表示は大丈夫なんだろうか?
まあ、多分大丈夫だろ。腸内細菌とかは、気にしたら負けだ。
それはそうと、ここにはゴブリンみたいなファンタジーの定番生物はいないようだ。地味に期待していたんだが。
え?ゴブリンなんて、趣味が変?
そんなことないさ。
ファンタジーと言えばゴブリンだろ?
異論は認めない。
まあ、そうは言ってもこんな地下だと不死族や小動物しか存在しないというのも、ある意味当然か。ボス以外のモンスターはボスほどは高くないも。尤も、それでも最低30レベルはある。最高だと40レベル。平均値はその中間の35レベルと言ったところ。
俺がレベル1に過ぎないことを考えれば破格の強さだ。
普通にやったのでは、手も足も出ずに殺されるだろう。
そう、普通にやったのなら。
ステータス画面を呼び出す。そこには、先程から使ってみたくてウズウズしていた『全マップ蹂躙 666/666』の文字。
先程まではマップが伯爵領ということで、これを使用すると人間を大量虐殺する可能性があった。でも、ここは無人。不死族はいるけど、これは気にしなくていいだろう。
一体どれほど強力な範囲攻撃スキルなんだろうか?ここで一回使ったとしても、使用回数はまだまだ何百回分も有るんだし、余り気にするほどのこともあるまい。そんなことよりも威力の検証をしないとな。いざという時に、使えないかもしれないから。
という訳で、ポチッとな。
好奇心の赴くままに、『全マップ蹂躙 666/666』をタップする。
効果は劇的だった。
レベルが69もある、死者の王も含めて全てのモンスターが一瞬で消滅。
そう、消滅したのだ。地図画面からモンスターを示していた赤い光点が、全て消えた。
「え?」
余りの事態に、思わず言葉が漏れる。たったの一回でボスも含めた全てのモンスターが消滅するなんて冗談だろう?何で、そんなものの使用回数が数百回分も有るんだ?明らかにゲームバランス的に拙いだろうに……。
まあ、いいか。これで取り敢えず、70レベル位の敵はどうとでもなることが分かった。他の連中がどれ位のレベルなのか分からないから、油断は禁物だが……。
と、そんなことを考えていると、視界の中に新しいウィンドウが浮かぶ。
―死者の王Lv69を倒した。
―スケルトンLv41を倒した。
―スケルトンLv41を倒した。
―スケルトンLv40を倒した。
―スケルトンLv40を倒した。
―
―
こんな感じで、モンスターを倒したとの表示がずらりと並んでいる。
そうして、討伐表示の後にはレベルアップの文字。
―レベルが上がりました。
―レベルが上がりました。
―レベルが上がりました。
―レベルが上がりました。
こんな表示が20個ほど並んでいる。行動のログも表示できるなんて便利だ。
自分より相当レベルの高いモンスターを、あれだけ倒したんだし、レベルアップは当然だ。寧ろ、あれだけ倒してレベルアップしてなければ、抗議するところだ。
それはそうと、ステータス画面を確認。
名前:ミネユキ・ユート(峰雪 勇人)
レベル:25
称号:“異世界人”“虐殺者”“墓荒らし”
スキル一覧
アウタースキル:『全マップ制覇 666/666』『オール・オート・マッピング』『何だか鑑定』『ナンデモ・スキル』『おまけ』『オマケ?』
コモンスキル:『魔法Lv1』『属性魔法Lv1』『火属性魔法Lv1』『水属性魔法Lv1』『詠唱Lv1』『歩行Lv1』『暑さ耐性Lv2』『鑑定Lv1』
アイテム:“封じの首輪”×1、“最下級ポーション”×10、“最下級マナポーション”×10
随分レベルアップしている。けど、69レベルのボスを殺し、さらに35レベルのモンスター集団を大量に殺しているにしては、伸びが小さい。元々レベルアップしにくい設定なのだろうか?或は、スキルを使ってインチキじみた虐殺をしたから、こういう結果になっているんだろうか?疑問は尽きないが、今は無視。
ついでに、称号欄についている、虐殺者と墓荒らしも無視。
異世界に来てからというもの、疑問点が多すぎる。一々全部まともに検証することは不可能。という訳で、華麗にスルー。
こんなことしてたら、後々拙いことになりそうな気もするけど……。
「さてと、先へ行きますか」
俺は、誰も居なくなった迷宮を奥へと進む。
だが、そこに早くも障害が発生。入り口付近は太陽光があるから明るいけど、ある程度奥の方に行くと、暗くなる。まあ、当たり前だけど。
「何て不親切な」
これは八つ当たりだ。侵入者の為に照明を点けている、親切設計のダンジョンなんて物はゲームの中にしかないということだろう。
取り敢えず、暗闇を凝視しておく。これまでの経緯から言って、すぐに何らかのスキルが手に入る筈だ。
「っと」
俺がそう考えている間に、ステータス画面に情報が追加される。
―コモンスキル“闇視Lv1”を手に入れた。
スキルの御陰か、先程よりもかなり明るくなった感じがする。
この調子で闇を凝視していく。
―コモンスキル“闇視Lv1”は“闇視Lv2”にレベルアップしました。
先程よりもさらに視界がクリアになる。よし、この調子で行こう。
俺はまだまだ先へは進まず、ジッと闇を凝視し続ける。安全策だ。トラップがどこにあるかわかっても、人間は闇を恐れるものだし、第一階段に蹴躓いて転んだりしたら恥ずかしいからな。
―コモンスキル“闇視Lv2”は“闇視Lv3”にレベルアップしました。
この調子で闇視のレベルを上げていき、レベルが5になった辺りで止める。このレベルになると、普通の昼間の屋外と殆ど変化ない。
安心した俺は、迷宮探索へと向かう。
罠を避けるのは簡単。何せ地図上に、普通に表示されているから。
一度、どう見ても何もない通路なのに、本当に罠が仕掛けられているんだろうかと疑問に思って注意して観察していたら、コモンスキル『罠感知Lv1』が手に入った。相変わらず激甘スキルゲットだ。
その御陰で俺は楽なんだけど。
敵の居ない、罠の位置が露見した迷宮には、俺の前進を阻むものがほとんど存在しない。ドンドン先に進む。
通路には所々骸骨や腐乱死体が転がっているが、どういう訳だか、何とも思わない。元は人間だっただろうそれらの死体は、明らかにグロテスクな外見をしているんだが……。異世界物の定番として、精神操作でもされてるんじゃないかと疑いたくなる。
でもまあ、今は都合が良いからそれでよしとする。
迷宮を進みながら、宝探しもやった。どういう原理なのか、この迷宮にはゲームのダンジョンのように、通路内に普通に宝箱が設置されていたのだ。
マップを見れば、罠があるかどうかや、どういう種類の罠が仕掛けられているのかは丸分かりだから、サクサク開けていく。
そんな訳で、かなりアイテムの数が増えた。
アイテム:“封じの首輪”×1、“中級ポーション”×6、“中級マナポーション”×4 、“下級ポーション”×16、“下級マナポーション”×18 、“最下級ポーション”×56、“最下級マナポーション”×18
宝箱には、ポーション系のアイテムしか入っていない。なぜそうなっているのかは謎だ。脅威の存在しない現在、怪我をすることもないため、普通のポーションは出番が無くドンドン貯まっていく。
反面、マナポーションには助けられている。スキルのレベル上げを兼ねて、先程から魔法の練習をしているからだ。魔力や体力はステータスで表示されないが、魔法を使っていると体の中から何かが抜けていく感覚がある。恐らく、それが魔力なんだろう。そして、魔力がある程度抜けていくと、虚脱感がある。そういう時にマナポーションを服用すると、瞬時に脱感が消えてなくなる。マナポーション、マジでスゲエ。でもこれって、麻薬的な奴じゃないよね?ちょっと心配なんだが……。
まあ、でも……ステータスにも変化はないし、多分大丈夫だろう。
という訳で、
魔法使用→虚脱感→マナポーション使用→虚脱感回復→魔法使用→(以下続く)
というのが、現在のルーチンワークになっている。
その甲斐あって、魔法のレベルが随分上がった。また、色々練習した結果、新しい属性魔法も手に入った。
「楽ちん。楽チン」
ピクニック気分で迷宮を進む。
「おっと。もうボス部屋か」
ここは、第二階層。
マップを見ながら進んでいたから、あっと言う間にボスの間に、到着してしまった。マップで確認する限り、行き止りなんかもかなりあるから、普通に進入したら、ここに来るまでの間に随分疲労しているんだろう。俺はチートスキルで簡単だったけど。
目の前にある無駄に重厚な扉を押し開け、中へと入って行く。と言うか、この扉、厚さが30センチ以上もあるんだが。何でこんなに厚くしてるんだ?御陰で、矢鱈と重い。地球にいたころの俺なら、絶対開けられなかったに違いない。
レベルが上がって、筋力値も上がってるんだろうなあ。
そんな取り止めの無いことを考えながら、部屋に入る。ボス部屋は100メートル四方の正方形。
その中心部分には、黒いローブを着た骸骨が倒れている。恐らく、こいつが死者の王だったんだろう。
こいつは一体何のために、ここに居たのか?無論、普通に考えると、財宝を守るための門番だ。その筈なんだが……何だか違和感がある。何だ?
と、唐突に、倒れている骸骨周辺の床が光り輝き、魔法陣のように幾何学的な模様を描く。
「綺麗だ」
思わず感嘆の言葉が出る。光の渦が、まるで生き物であるかのようにその姿を次々と変え、幻想的な光景を作り出す。
そうして、そんな光の乱舞が終わると、そこには一人の女が立っていた。
漆黒のレオタードに身を包み、紫色の髪を腰のあたりまで伸ばしている。出るところが出て、引っ込むところが引っ込んでいるその姿は、露出過剰な服装とあいまって中々エロイ。顔の造形も美術品のように整っていて、かなりの美人。そんな美女が、傲然とした表情で俺を睨んでくる。
「レベル25?たったの?ハズレね。ここのボスが倒されてたから、どんな強者かと思って来てみたのに……」
女は勝手に落胆し、独り言を呟く。
内容から言って、ここのボスはこの女が強者を見つけるための罠として利用されていたようだ。ということは、この女はレベル69の死者の王よりも、強いことになる。
一体どの位の強者なんだろうか?
俺のそんな疑問に答えるように、鑑定画面が出現。
真名:アミナ・ル・ローガット・デ・キシャール
特記:エロイ恰好をしたおねーちゃん!!真名を唱え、是非とも捕獲を!!
レベル:88
種族:魔族(上級)
称号:“狩人”“虐殺者”“殺戮者”“嗜虐趣味”“オッパイ魔族”
スキル一覧
レアスキル:『ステータス喝破Lv2』『ステータス隠蔽Lv3』『時空魔法Lv4』『転移魔法Lv4』『武器創造Lv2』
アンコモンスキル:『拷問Lv12』『精技Lv15』『詠唱破棄Lv15』『闇眼Lv11』
コモンスキル:『魔法Lv68』『属性魔法Lv66』『火属性魔法Lv69』『闇属性魔法Lv68』『詠唱Lv25』『肉体強化Lv58』『飛行Lv55』『高速移動Lv57』『鑑定Lv45』
なんか俺のステータスとは表示の仕方が違う。と言うか、特記事項がオヤジ臭い。そもそも、寝てたんじゃなかったのか?『なんでも鑑定』?
エロ美女が出てきたから覚醒したとか?……あり得るな。なんせ気紛れスキルだし。
と言うか、真名を唱えて捕獲?
と、俺が自分のスキルに呆れていた間に、女の方は攻撃態勢を取っていたらしい。何処から取り出したのか、剣を構えている。
「死になさい。人間」
あ!これはヤバイ。ヤバイ奴だ。
焦って俺は、『全マップ蹂躙 665/666』をタップする。
だが、何も起こらない。
何でだよ!!
再度タップ。
何も起きない。
クソッ!!
タップしまくる。
だが何も起きない。
焦って、頭がまともに働かない。思考が空転し、頭の中が真っ白になる。だが、そこに天啓の閃きが下りる。
まさか!?
ゴクリと唾をのむ。
再使用不能時間か!?
終わった。無理だポ。『全マップ蹂躙』以外ではどうしようもない。全てをあきらめた俺は、その場にへたり込む。
「何絶望してんのよ?面白くないわね」
女が呆れた声を向けてくる。
「コモンスキルにある『鑑定Lv1』は飾り?それであたしの真名が分かれば、挽回できるかもしれないわよ?」
☆☆☆ ☆☆☆
詰まらない。
ここの死者の王は、かなりの強者だった。それが倒されたからどんな強者が現れたんだろうと思って来てみたのに、そこにいたのは唯の人間。まあ、25レベルと言うのは人間としては規格外に強いし、コモンスキルの数も人間にしてはかなり多い。普通の人間はコモンスキルですら一つも持っていないことが多いし、それと比べれば中々のもの。
でも、あたしの遊び相手としては、全然不足。せめて、50レベルはあれば良いのに。
しかもこの人間。あたしが態態出向いてやったというのに、へたり込んで呆然としている。
ツマラナイ。
全く持って詰まらない。
「コモンスキルにある『鑑定Lv1』は飾り?それであたしの真名が分かれば、挽回できるかもしれないわよ?」
そう言って挑発してみる。
真名と言うのは、神に付けられた特別な名前だ。遠い昔に神様が作った法則で、これを唱えられると相手に従属し、逆らうことが出来なくなる。このため、この男にも勝ち目がない訳ではない。
尤も、レベル差がありすぎて、鑑定ではどうにもならないけど。
そもそも、真名は見え透いた弱点だ。だから、互いに相手の名前を知られないよう、そして相手の真名を知ることが出来るよう、『鑑定』や『隠蔽』系のスキルを優先的に挙げるものだから……。
油断してそんなことを考えていたら、
「アミナ・ル・ローガット・デ・キシャール! 」
そんな声が聞こえてくる。
「え?」
意味が分からない。
あたしの真名が!?
そんな?
どうして?
「俺に従え!!」
「ひぎゃあアあああああああああああああああああぁああアアああああ!!!」
痛い!!イタイ!!いたい!!頭がああああああああ!!イタイいいいイい!!!!死ぬ!!死んじゃう!
!!いタいいいイイイ!!