エピローグ
「お兄ちゃん。トラックに気を付けてね。第三中学校前」
それは朝の一コマ。
目覚まし時計に叩き起こされた俺が、いつも通りに顔を洗い、朝食をとるべくダイニングに向かうと、そこには何故か妹がいた。室内なのに、灰褐色のローブを身に纏い、目深にフードを被っている。そんな妹は、一見すると魔導士のコスプレをしているようにも見える。
だが。
この妹、この格好がデフォである。
極度の恥ずかしがり屋で、肌を出すこと自体嫌いらしい。小学校の時には、この恰好でもちゃんと通学していたのだが(毎年秋にある運動会にもこの格好で参加していた。プールや普段の体育をどうしていたのかは、学年が違うから分からん。)、中学に進学した一年前からは引きこもりが続いている。ついでに言うと、一年前からは自室から出ることもなくなっていたので、俺もこの一年間、妹の姿を見たことはなかった。
そんな妹が珍しく、部屋から出てダイニングで朝食をとっていた。
しかも、話しかけてきてる。
こいつが俺に話しかけるなんて、何年振りだろう? 10年ぶりぐらいだろうか? というか、妹の声自体、ここ数年ずっと聞いていなかったような気がする
それがどんな心変わりだ? 一体全体、何を企んでいるのか?
むむむむむ。
むむむむむ。
分からん。妹の行動の真意を巡って、色々考えてみたのだがサッパリ分からん。
となると、本人に聞くのが一番だろう。
「どういう意味だよ?トラックに気を付けろって?」
だが、そこにはもう妹はいなかった。
代わりにそこにいたのは、母。
「何言ってるの? 早く食べなさい。また、遅刻するわよ」
「え? あやめは?」
さっきまで其処にいた筈なのに、いつの間に居なくなったんだ?
「何言ってんの? あやめちゃんなら、もう部屋に帰っちゃったわよ。勇人が『むむむむ』と唸っている間に」
馬鹿な!
一年ぶりの生あやめ。それも声まで掛けてくれてたのに!
アレコレ考え事をしている間に、居なくなっていただと!
「おのれ! これも孔明の罠か! この敵、絶対返すからな!」
俺は気炎を上げる。
パポ、パポ、パポ、パポ、パポ、パポ、パポ、パポ。
そんな感じで俺が馬鹿をやっている間にも、時間は進む。そして、鳩時計が間の抜けた音を出す。
それも八回。
背筋を冷や汗が流れ出る。恐怖に慄く俺は、恐る恐る時計を見る。そこでは予想通りの事態が進行していた。そう、鳩時計の針は、今が8時であることを示していたのだ。
「遅刻するうううううう!!!」
流石に拙い。今日も遅刻したら、1カ月連続遅刻記録を達成してしまう!それだけは避けなければ!
バタバタと食パンを口の中に振り込むと、鞄を引っ掴んで全力疾走!
「まずいいいいいいいい!!!」
そう。これは拙い。頭の中に、ニヤニヤ笑いを浮かべる朱音の顔が浮かぶ。
先月、あいつとは賭けをしたのだ。
もし、来月一カ月間連続で遅刻をし続けるようなら、駅前のパフェキングでパフェ食べ放題―お値段2,160円也―を奢ると。
「やばいいいいいいいいいい!!!」
悲鳴を残いながらも、俺は疾走する。
という訳で、完結です。このような駄作に付き合ってくれた読者の皆様、どうもありがとうございました。
何だか最後のほうが物凄く駆け足になっていて、申し訳ない気持ちで一杯なんですが、この辺が作者の筆力の限界でして……。
今後とも精進を重ねる予定ですので、次回作も宜しくお願いいたします。




