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転生迷宮 ―リバイバルラビリンス―  作者: 梅雨ゼンセン
第二章 ―遺跡の神と転生―
9/118

秘密

 翌日。

 二人はクエストにあった『ウィル遺跡』に向かって町を出発した。

 時刻は昼前。

「しかし今思っても不思議だよな……」

 のどかな開けた道を歩きながら、北条は独り言のように言う。

「何が?」

「最初は足払いだっけ?」

「足払い? なんの」

「さあ、お前の罪を数えろ」

 彼女の言葉を遮り、北条は振り向き、ポキポキと拳の関節を鳴らす。

 そこでエムバは笑って誤魔化し、

「アハハ、冗談冗談」

 ったく、と北条はため息を吐く。

 いきなりそんなことを話し出した彼に疑問を抱き、エムバは小首を傾げる。

「急にどうしたの?」

「いや。お前ってなんとなく誰にでも突っかかっていくイメージがあったからな。そうでもないんだなと思って」

「ん? 言ってる意味が分からないんだけど?」

 話がかみ合っていないのではないかとエムバは思う。しかし、北条はそうは思っていないように見える。

「つまりな……なんて言っていいか分からないんだが……」

 妙に言葉を濁す。いつもなら迷うことすらせず、言いたいことをズバッと言ってくるのだが、いったい何を考えているのだろう。

 彼は足を止めてエムバの方に向き直ると、



「お前……どこかで俺と会ったりしたか?」



「……」

 その言葉に、エムバは一瞬目を見開いて硬直し、次に俯き、

「(やっぱり覚えてないよね)……」

「ん? 悪い、聞き取れなかった」

 北条が少し申し訳なさげにそう言うと、彼女は顔を上げて、

「私はあるわ」

「やっぱりな」

「どうしてそう思ったの?」

 それを聞くエムバの顔はどことなくだが、何か、特定の答えを待っているように見えた。

 北条はそれに気づかないまま自分の根拠を話し始める。

「まずハザドに行った時、最初お前は俺を躊躇わず蹴ってきた」

「失礼ね! 迷ったわよ!」

「どこがだよ! というかまず迷ったならやめろよ!」

 ったく、と北条は呆れてため息を吐き、

「んで、今度は瀬戸に会った時だ。お前は俺の時とは違い、他人としてある程度の距離を取っていた。そして最後はギルドに登録した日だ。お前は知らない奴らに囲まれてアタフタとしていた。初対面の奴相手に迷っても蹴りを繰り出すやつがあんな社交力なはずがない」

「失礼ね! 私は普通よ!」

「第一声の代わりに蹴る奴は異常っていうんだよ! だから俺のことを知っているんじゃないかって仮説を立てたんだ。結果は見事命中ってところか?」

 北条は自信ありといった表情で彼女を見る。それにエムバは少し迷ってから、

「……私としては『当たりはした』ってところね」

 それだけ言うとエムバはスタスタと北条を追い越して歩いていく。北条はそのあとを追う形で歩く。

「どういうことだ? まだ何かあるのか?」

「さあね。あったかどうかは自分で思い出してね」

 彼女はツンと顔を逸らす。その態度に北条は怒らせてしまったなと、覚えていない自分を反省する。しかし彼は顔を逸らしたことによって、赤くなった耳が見やすくなったことに気づかなかった。



 お昼が過ぎたころ。

 二人は途中の休憩のために街に入った。

 目的としては水分補給と食料調達だ。出るときに問題ないようにしてきたが、こまめに補給しておくに越したことはない。

 お昼過ぎの繁華街。ピークが過ぎたとはいえ、人通りは中々多い。

 適当に店を見て回り、買い物を済ませる。この世界での金額の単位はコインで統一されている。1コイン1円である。100コインから紙幣に変わり、一桁ずつ10000コインまである。なんと適当な世界だろう。

 出来立てのパンにかじりつき、満足げなエムバ。

「んん~♪」

「太るぞ」

「そういうのセクハラになるよ」

「それはどうも」 

 北条のことをじろりと睨むが、何気に半分まで食べて切り上げる。

 ここから遺跡までは一日といった具合だ。

 街を出ようと大通りを歩く。

 と、

「……ホウジョウ。あれ……」

 広場が見えたところでエムバが何かに気づいた。

 見ると、一人の女の子が広場のベンチに座っていた。歳は5~6歳くらいだろう。何か考え事をしているようだ。

 そこまでは普通だ。が、その纏っている雰囲気がおかしい。その深々と何かを考えている様子は大人さながらである。

 ああなるほど、と北条は呟くと、彼は進路を変更して迷わずその幼女のところに歩いていく。その行動に少し戸惑いながらエムバもそのあとについていく。

 そしてその幼女の近くまで来ると、彼はいたって普通に声をかける。

「よお。何してんの?」

 その様子はまるで、

「ナンパッ!?」

「んなわけねえだろ! 普通に考えろや!」

「その動揺の仕方……怪しい……」

 目を細め疑惑の視線を向けるエムバに溜め息を吐く。と、

「あのー……」

 ほったらかしにされて困ったようで、向こうから声をかけてきた。

 気を取り直し、北条は幼女と話そうとする。と、

「ちょっとどいて! ホウジョウじゃ無理よ」

「はあ!? あ、ちょ、てめぇ!」

 北条をどかし、強引にエムバが入ってくる。

 そして優しく微笑むと、その子の前にしゃがみ、

「どうしたのこんな所で? 一人じゃ危ないよ?」

 柔らかいトーンで話しかける。が、幼女は少し気まずそうに顔を背けてしまう。

 あれ? と思うエムバの後ろで北条はため息を吐く。そしてその場から幼女を見て、

「おい。親は近くにいるのか?」

「ちょっと! 乱暴な言い方したら可哀想じゃない!」

 エムバは思わず反発するが、幼女の方は逆に北条の方に注目し、そしてコクンと頷いた。

 よし、と彼は周りの視線を確認すると、エムバと幼女以外に聞こえない声で、

「お前、転生者だろ?」

「……―――はッんぐッ―――!!」

 その口を慌てて押さえたのは幼女だった。

 しかし前から押さえつけるようにしたので、身長的に拘束は簡単に解けてしまう。

「な、何するのよ!」

「黙れよ!」

「……へ?」

 そんな抜けた声を出してしまった。今の言葉はいったい誰が……。辺りを見回すが北条の声ではない。かといってほかの誰かが声を出した様子もない。

 そしてまさか、と最後に視線を目の前の幼女に戻す。

 幼女は地面で腕を組んで、

「ったく……」

 ため息を吐く。その表情はとても鬱陶しげで、しかし諦めたようにも見えた。

 迷っているようで視線を逸らしてしばらくした後、またため息を吐いて頭を掻く。

「隠しても無駄か……お前らもか?」

「いや、俺はそうだがこいつは地元出身だ」

「まあ反応的にそうだろうな。ったく、本当に今日は厄日だな……」

 そう言ってまた面倒くさそうにため息を吐く幼女。この状況に頭が追いつかない残念なエムバちゃんは、ポカンとして、続いてあたふたとし始める。

「え、あ、えぇっとぉ……んん!?」

「……おいなんだこの妙にかわいい生物は?」

「幼女が鼻息荒くしてそう言うと中々引くな。おまえちょっと風下行ってくれ」

「ならこの子を風上に」

「???」

 幼女に背中を叩かれ、疑問符を浮かべるエムバ。

 北条は面倒くさそうにため息を吐き、

「理解力ないのな」

「異常すぎるわよ! いったいどういうことなの!?」

 理不尽に責められ、怒りを露わにする。

「だからつまりな……」

 そう言って彼は幼女をエムバの目線のあたりまで抱き上げると、

「こいつは転生者。んで中身は男だ」

「……へ?」

 エムバの思考が一瞬、完全に停止した。

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