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転生迷宮 ―リバイバルラビリンス―  作者: 梅雨ゼンセン
第二章 ―遺跡の神と転生―
7/118

ギルド

 ゴポゴポ―――――


 透き通った視界。

 

 その奥の方は揺らめいている。

 

 意識が朦朧している……


 ああ、これが……―――――――――――――――――――――



  

      ・・・ 



鳥のさえずりが聞こえる。

 朝の訪れを告げる柔らかい日の光が窓から入ってくる。

「ん……」

 その光に少し顔をしかめ、北条黒山は目を覚ます。

 ベッドから起き上がると、うんと伸びをし、辺りを見回す。

 木造の部屋。中にはクローゼットがあり、ベッドがあり、洗面台とトイレがある。

 ここはギルドの寮だ。

 北条黒山とエムバは依頼を受けたあのギルド『リート・レルム』に登録したのだ。

 彼は一度大きく欠伸すると、ベッドから降り、身支度を始める。

 クローゼットを開くと自分の服と愛用の剣が入っている。それを身に着けると、もう一度大きく欠伸をし、ベッドに腰掛ける。

「あ~、仕事したくねぇー」

「おはようホウジョウ! 起きてる!?」

 バタンといきなりドアを開けて、エムバが入ってくる。それに北条はため息を吐き、

「ノックくらい……ってこういうパターンは言っても無駄だよな」

「なに一人でぶつぶつ言ってるのよ?」

 彼女は彼の前に立つと、不思議そうにその顔を覗き込んでくる。

「まあいいわ。準備はできてる?」

 そう言うエムバの顔を、北条はチラリと彼女の顔を見る。そこには「やる気十分!」と書いてあった。

 はぁ、とめんどくさそうにため息を吐き、

「働くのめんどくせえなぁ」

「はあ!? お金入らないじゃない!」

「困った時に働けばいいだろ」

 今更ながら、なぜギルドに登録したのかと後悔しながらベッドに横になる北条。



 昨日のことだ。彼ら、新入り二人が入ったということで紹介されたのだ。

 ステージの上に上がり、自己紹介をするというだけのものだったが、エムバはあまり経験がないのかもじもじとしていた。

 学校という小社会で幾度も経験してきた北条は適当に済ませる。もちろん、転生者でチートということは伏せて。

 彼的にはそれで終わりの予定だった。

 が、終わってステージを下りた後、

「ねねね! 二人は付き合ってるの?」

「はい!?」

 一人の女性が話しかけてきて、気が付くとワッと人に囲まれていた。

「趣味とかなにしてるの?」「今夜歓迎会開くから来てね!」「今度勝負してよ!」

 ワイワイと質問などが飛んでくる。

 まるで転校生に対する反応だ。

(テンプレじゃねえか……)

 なんてことを思いながら一人一人応答し、さばいていく。

 が、応答すると次がくる。結局無限質問責めになり、北条はストレスから匙を投げそうになる。

 そこに、割り込むように一人の女性が入ってくる。

「はいはーいその辺にしといてあげなよー!」

 二人と大勢の間に入って、彼女は皆を説得する。少しすると段々と少なくなっているのが分かるまでになり、最終的に皆自分の仕事に戻った。

 それを見てホッと北条は胸をなで下ろす。

「ありがとうございます」

 北条は素直に感謝し、その女性に頭を下げる。それに彼女はいやいやと笑うと、

「私はカエデ。よろしくね、クロ・・くん!」

 

 というわけでその時はカエデのおかげで難を逃れたのだが、結局そのあとの歓迎会で酒を飲んで深夜まで盛り上がり、今に至る。

 ちなみにもう分かっていると思うが、クロというのは転生者であることを隠すための名前である。チートであることはできる限り隠しておきたい。

「チートじゃなくてニートね」

 エムバは溜め息混じりに嘲笑する。その言葉に北条の眉がピクリと動く。

「お前、今言ってはならないことを言ってしまった自覚はあるか?」

「あ、自覚あったんだ」

 ほほぅ、と北条は立ち上がると自分の掌に魔力を集中する。そして彼女に見えないように幾つか氷を作ると、

「くらえッ!」

「きゃッ!?」

 いきなり襟首を後ろに引っ張られ、驚く。そしてその空いた背中に北条は氷を入れる。

「ひゃああああああああッ!!?」

 ビクッと体を痙攣させて、悲鳴をあげるエムバ。

「まいったかあほ」

 今度は北条が溜め息を吐く。が、彼女から反応が返ってこないことに気づく。

 ちらりと見てみると、俯いて顔を押さえているではないか。

(……ちょっとやり過ぎたか)

 彼女の様子を見て、少々大人気ないことをしてしまったと反省する。

「……おい」

 ……反応が返ってこない。

 かなり不機嫌な状態かもしれないと、自分の行いを半分後悔し始める。

「おい」

「……」

 また返事がない。

 しかし。

 ここで彼はある疑問を抱く。

(もしかして……俺に謝らせる魂胆か……)

 彼女の性格上それは十二分にありえる。

 真偽を確かめるために北条は彼女の表情を……正確には口元を確かめようと、チラリと覗いてみる。

 と、口元に笑みはない。かわりに何かをボソボソと呟いている。

 それに気付いた瞬間、

「おまッ!!」

「『氷刺アイスニードル』!」

 北条はとっさに某ハンティングゲームの緊急回避の要領でベッドから前に転がるように飛び退く。その背中の上スレスレを氷の針が通過し、トトトトトトトトトトトトトッ、と木の壁に突き刺さる。

「あっぶな! お前マジでふざけんなよ!」

「油断大敵! 私の毎日は戦いなのよ!」

「ああ? お前が勝てるわけないだろ? 普通に考えろよ」

「やってみないと分からないこともあるものよ? 勝てる戦いばっかり選んでたから脳みそ退化しちゃったんじゃないの?」

 それを聞いた北条はゆっくりと立ち上がると、手に魔力を集める。

「やけに食いついてくるな。手加減しないぞ?」

「油断してるあなたに言われたくないわ」

 エムバもワンドを構え、詠唱の準備を始める。

 二人の間に一時の沈黙が舞い降りる。

 そして――――――、




「うるせえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!!」




 バンッ! とドアが蹴破られ、二人の前に横たわる。

 驚いて入口の方に目を向けると、そこには寝起きなのか、寝間着姿の明るい茶髪の女性がいた。寝癖だらけの髪からは少し間抜けさを感じるが、その目は血走っており、放つ気迫はまるで猛獣を思わせる。

 北条は初対面だった。エムバの方の知り合いかと思い、見てみるが、首を横に振った。どうやら二人とも初対面のようだ。

「誰だ!」

 彼が無神経に放ったその言葉に、寝癖の彼女は「ああ!?」と声を荒げ、

「隣人だよ!」

 と右を指さす。どうやら右隣の部屋の人のようだ。

 彼女はズカズカと中に入り、二人の間まで来ると、部屋を見回す。そして何かを見つけたようで、

「おい。部屋の持ち主は誰だ?」

「……俺ですが?」

 北条が返事をすると、彼女は彼の方に向き直り、

「なあ。これは新手の壁ドンか?」

 親指である場所を指さす。北条がその先に視線を向けると、そこには大量の氷の針で剣山のようになった壁があった。

「あ……」

「あ?」

 それを見て声を漏らしたのはエムバだった。それを彼女は聞き逃さなかった。

 鬼の形相が彼女の方に向く。その串刺すような視線に、硬直してしまうエムバ。

「え、ええーっとぉ……」

 体は硬直したまま目を逸らし大量の汗を流す。

 そんな彼女に女性はゆっくりと詰め寄り、低い声で一言。

「言い残すことは?」

「あ……」

 次の瞬間、

「ぎゃああああああああああああああああああああッッッ!!」

 エムバのガマガエルのような悲鳴。

 そしてそれがあって少しした後、

「……なにやってるの?」

 来るのが遅かったので見にきたカエデの目の前には、正座をさせられている二人と、その前で文字通り仁王のような闘気を放って立っている女性が映っていた。

 それだけ把握すると、彼女は大まかな状況は察したようで、溜め息を吐いて女性のところに歩いて行く。

「こんな早くに起きてるなんて珍しいね」

「こいつらに起こされたんだよ。新入りか?」

「そうそう。あの時あなた起きてこなかったから。紹介する?」

 その一言に彼女はハッと鼻で笑い、あの壁を指差す。

「もう十分な挨拶をもらったよ。朝に起こしてくれるなんて優しいじゃないか。なぁ?」

 彼女の怒りに満ちた目が爛とギラつき、ビクリと体を震わす北条とエムバ。

 その様子を見て、カエデは呆れたように顔を押さえると、

「私の不注意だったわ。しっかり言っておくからそのくらいにしてあげて」

 それに女性はチッと舌打ちすると、踵を返して部屋を出て行った。

 バタンと隣の部屋のドアが閉まる音を聞いて、二人は我に返る。そして二人顔を見合わせると、今度はカエデの方を向き、

「な、なんだあれ!? 隣りにあんなのがいるのかよ!!」

「誰なんですかあの人!?」

「まあまあ落ち着いて」

 血相を変えて詰め寄ってくる二人をなんとか落ち着かせ、「向かいながら話そう」とドアを適当に修理し、部屋をあとにする。

「彼女の名前はアン。普段はまあ普通なんだけど……寝起きは最悪に機嫌が悪いの」

「ホントに最悪でしたよ。俺明日から鬼の横で暮らさなくちゃいけないなんて」

 やっと安眠できる場所を見つけた思ったのに……、と北条は肩を落とし、ため息を吐く。それにカエデはクスクスと笑い、

「静かにしてれば何もしてこないわよ。むしろ安眠できるんじゃない?」

「冗談きついっすよ」

「なら毎日私が遊びに行ってあげよっか?」

「お前は二度と来るな」

 と話していると寮との渡り廊下を抜け、エントランスホールに出る。

 そこは相変わらずの人混みで、今日も様々な声が飛び交っている。

「さて、クエスト板には何があるかな?」

「カエデさんもついて来るんですか?」

「いやいや。それはまたの機会にするよ。私はもう決めちゃったしね。まあ出発まで時間はあるし、暇つぶしに……あ! あれなんか面白そうじゃない?」

 そう言って彼女が指さしたところを二人も見る。そこにあったのは、

「『薬草探し』っすか……どこが面白いんですか?」

「……あれ? でもランクが高い」

 クエストのランクは依頼書に書いてある。

 最高が『SSS+』。最低は『D』だ。

 ただの薬草集めなら高くて『C』だ。が、あのクエストは

「『B-』ね」

 エムバは首を傾げる。Bランクからは『B-』→『B』→『B+』→『A-』→『A』→『A+』→『S』→『SS』→『SSS』→『SSS+』

という風になっている。

「場所のせいよ」

「場所?」

 そう言われ北条らは場所が記載されている部分を見る。

『ウィル遺跡』

「北の方にある遺跡よね」

「何かあるのか?」

「あそこは最近強い魔物がでるようになったの」

「最近?」

 カエデの言葉に、北条は疑問を抱く。最近、ということは急激に強くなったということ。つまり何か異常が起きたということだ。それは自然現象の一つかもしれないし、もしくはハザドの洞窟のように人が手を加えたということもあり得る。

 もし後者なら……そう考えるだけであの凄惨な光景が脳裏に蘇る。

 彼の質問に、彼女は頷く。

「そう。前はそうでもなかったんだけどね、急に。まあ奥の方の話だけど」

「なるほど……」

 急に、という言葉に、ハザドと同じの可能性を強く感じる北条。

「薬草っていうなら……『グラール草』かしら?」

 そんな彼とは打って変わって、エムバはそのことに気づいていない様子だ。

 その単語が出てきたことにカエデは関心の眼差しを向ける。

「よく知ってるわね」

「『グラール草』?」

 北条はそれを聞くのは初めてだった。

 エムバは「え~っとぉ……」と記憶を探り、

「万病に効くと言われる薬草の一つよ。生えてる場所が限定されてるから高価なん……でしたよね?」

「そう。だからよくギルドに依頼が来るの」

「へぇ。じゃあまあ、とりあえずそれでいいか。ランクも前より低いし、まずまずの報酬だしな」

「私もそれでいいよ」

「なら受付に行ってね。ギルドメンバーは専用にカウンターが使えるから混雑しなくて済むよ」

「なんかそんなこと言ってたような……」

「最初の説明で言ってたじゃない。寝てたの?」

「よせよ。俺の隣部屋にいるやつじゃないんだから」

「アハハ。アンに聞かれないところで話しなよ?」

「「了解です!」」

 カエデの助言に二人は即時に反応する。よほどトラウマになっているようだ。

 受付で資料等をもらい、とりあえず荷造りをするため、町に出ることにする。

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