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転生迷宮 ―リバイバルラビリンス―  作者: 梅雨ゼンセン
第七章 ―運命が交差する街―
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さあ、駒を取り返しに行こうか!

 さっきの穴のところでカエデとミセバヤは、エントンたちの帰りを待っていた。

「エントン大丈夫かな……」

 樹を背もたれに座っている二人。カエデは足を抱えて不安を顔に浮かべる。

 それはミセバヤも同じだ。

 大丈夫だとは言っていたが、本当に彼らは大丈夫なのか。上手く町に入れても敵に見つかって襲われたりしていないだろうか。

 敵、といっても現状、周りのほぼ全員が敵なのだが。

「……」

 いや、ここで自分が不安になってどうするのだ。エントンから言われたのだ。

 カエデを頼む、と。

 ミセバヤは軽く自分の頬を叩くと、

「大丈夫ですよ! エントンさんなら絶対無傷で……」

 いや、違うかな?

「生傷だらけでも嬉しそうにして帰ってきますって!」

「確かにその通りなのかもだけど、言い方よね! 確かにエントンはそうだけども!」

「それにエントンさんだってカエデさんのところに帰ってきたいでしょうし」

「そ、それは……うぅ……人から言われるとやっぱり恥ずかしいわね」

 なんてさっきまで少し顔色が悪かった彼女だが、今度はほんのり頬を赤くする。

 その様子にミセバヤは安堵も含めてクスッと笑いを零す。彼女にとってカエデは先輩だったので、こういった表情を見るとどこかおかしく思ってしまう。

 笑みを零したミセバヤに、カエデは口を尖らせて、半眼で睨み、無言の抗議をする。それにミセバヤはやっぱり笑いながら「すみません」と謝る。

 

 


 と、―――――――




「どういうことだよ!?」

「「?」」

 聞き覚えのある声に、彼女たちはその方を見る。

 さっきエントンたちが潜っていった穴の方。

「だからごめんて言ってるでしょ!」

「ふざけるなよ! 何であんなことをしたんだよ! あの人たち命の恩人だぞ!?」

「でも……しょうがなかったのよ!」

「もうやめて……やめてよぉ……」

 そっとバレないように顔を出してみると、さっきの穴の前に三人。

 アランとアイビーが言い合っていて、その横で泣いて蹲っている。

 何か喧嘩をしているようだが、そこでミセバヤもカエデも気が付く。

 それを確かめるために、カエデは木陰から姿を出し、子供たちの前に姿を見せる。

「……ねえ」

「「「ッ!!??」」」

 彼女の声を聞いて、三人はビクッと驚き、彼女の方を見る。その様子は、まるで化け物か、何かに会ったような反応だった。

 それだけでも嫌な予感はした。

 まさか……まさか、と。カエデは何度も浮かぶその黒い靄を払いつつ、

「ねえ。エントンたちは、どこ?」

 そう笑顔を作ったつもりだったが、自分でもギコチナクなってしまっているのが分かる。

 子供たちは、答えない。

「ねえ。一緒に行ったよね? 帰ってきたんじゃないの?」

「「「……」」」

 再度問うが、子供たちは目を伏せ、口を噤む。

「ねえ……ねえ? ……何で何も言ってくれないの?」

「「「……」」」

 沈黙。

 それだけで十分に肯定だった。

 それでも、何か言ってほしかった。

 何か事故があったなら、事故があったと。

 何かに襲われたなら、襲われたと。

 自分たちは何もしていない、と。

 些細でもいいから、そう一言、言ってほしかった。









「…………ごめんなさい」









 ベーネが、言った。

 身を絞るように出てきた言葉は、最も聞きたくない言葉だった。

「ッ!!」

 その瞬間、カエデは血が出るかと思うくらい口を硬く引き結び、下を向いて拳を硬く握る。

 心が許容しきれないほどに、沸騰する感情の嵐。

 悲しくて、悔しくて、怒りたくて、泣きたい。

 そんな感情がないまぜになって、心が破裂しそうだった。

 壊れてしまいそうだった。

 酷い。

 ひどいよ。


 裏切られた。


 騙された。


 ああ。全部、芝居だったのか。


 そのことを思うと、怒りが押し寄せてくる。

 張り裂けそうなほどの悲しみに呑まれそうになる。

 皆きっと、捕まってしまったのだろう。

 エムバも、アンも。

 ……エントン、も。


 全部、最初から仕組まれていたんだ。

 最初から、私たちと接触した時から、ずっと嘲笑っていたんでしょ?

 盗賊って言うのもきっと嘘。

 あなたたちは安全地帯で、怯えるフリをして、私たちの心に隙を作って、

 全部計算の内だったんでしょ?


 そう、なんでしょ?


 だから、―――――――




「―――あなたたちが、泣かないでよ……」

 



 顔をあげたカエデの顔は、ぐしゃぐしゃだった。

 涙で、ではない。

 謝りながら泣く、少年少女たちを目の前に、感情の表し方が分からず、どんな顔をしていいか分からなかったのだ。


 彼らのそれが、一番酷いと思った。


 そんな悲しい顔で泣かれたら、こっちだって怒れないじゃない……

 

 泣きたいのはこっちだっていうのに。

 

 ほんと、酷いやつら。


「ッ!」

 バンッ、と。隣にあった樹を殴りつける。それに子供たちはまたビクッとして黙る。

 が、そこからカエデは子供たちに何もせず、

「……」

 歩き出す。

 一歩一歩と。明らかに街に向かって。

「カエデさん!」

 それを慌ててミセバヤが止める。

「待ってカエデさん! 一人で行ってどうするんですか!?」

 ミセバヤの制止を無視して、暴れるカエデを必死で抑える。

「離して! 早くしないとエントンが! エムバもアンも捕まってるのよ!」

「だからって一人で行くのは危険です! 考えなしで動いたら私たちも二の舞です!」

「だったらどうしろっていうのよ! 離して! 離してよ!」

「嫌です! 行かせたらカエデさんまで捕まります!」

「行かせてよッ!」

「嫌です! 絶対に離ししません!」

「……」

 カエデに、冷静な判断力はなかった。完全に欠如していた。

 カエデはいつまでも離さないミセバヤを睨み付ける。いい加減に鬱陶しい、と。

「離せって、言ってるでしょ!」

「ッ!!?」




 振るわれたのは、拳。

 ミセバヤの顔を、カエデは払うように殴りつける。



「キャッ―――!!」

 それにより彼女は手を離してしまい、地面に倒れる。

「あ……」

 そんなか細い声が漏れたのは、殴った後。

 さっきまでの怒りは一気に氷点下まで冷め、カエデは今自分が何をしたか、何をしてしまったかを理解する。

 仲間を殴ってしまった。

 大切な仲間を、殴ってしまった。

 傷つけてしまった。

「あ、ああ……」

 その事実に、心の最後の支えが砂のように壊れた。

 彼女は膝から崩れ落ち、頭を抱えて震える。

 呼吸が乱れ、全身からは氷水のように冷たい汗が吹き出し、しかし脳だけは溶けそうなほど熱くなっているのが分かった。

 口の中が乾燥し、瞬きをしないので眼球が乾燥し、頭を抱えていた手は髪の毛を毟るように掴む。

 早く乱れる呼吸も遠く、そのせいか視界もぼやけてくる。でも瞬きはしていない。ただ脳の中に靄がかかった様に意識が灰色の闇に呑まれていく。

 もう嫌だ。

 もう嫌だ。

 もうイヤだ。

「もう………イヤ」

「なら前を向きたまえ」

 そんな気だるげな声が聞こえて、彼女は顔をあげる。

 その瞬間。

「これはお返しだよ」

 パシンッ、と。左頬に衝撃があった。

 それにカエデは紙のようにふらりと倒れてしまう。

 冷たい地面の感触と、今のがビンタだということをそこでようやく理解し、意識が戻ってくる。

「パニックは解けたかい?」

 なら次だ、と立っている少女はいう。


 冷静に。

 かつ堂々と。


 回復したカエデは、地面から天を仰ぐように彼女を見る。

 そして不遜に笑う彼女に、心からの礼を言う。

「ありがとう。後藤」

「礼が言えるなら上々。どういたしまして。後でちゃんとミセバヤに謝っておくんだね」

「うん」

 そうカエデの返事を聞いて、顔色を見て、後藤はいつものように「さて」と嗤う。

 そして子供たちの方を見て、

「見事だった、と言っておこう。私たちは完全に君たちに負けた」

 そう地面に蹲る彼らに上から讃美の言葉を送る。

 しかし次いで、

「だが、爪が甘かったね。これじゃあ君たちは逃げられない」

「「「ッ!!」」」 

 その獲物を前にした狼のように、ニヤリと口角を歪める後藤に、子供たちは嫌な予感を覚える。

 殺されるかもしれない、と。

 しかし、後藤はそれに「まった」をかけ、

「別に君たちを殺そうなんて気はないよ。そんな寝覚めの悪いこと、私だってしたくないしね」

 それに、と。

「君たちにだって動機があるはずだ。私たちを捕まえなければいけない動機が。まずはそれを聞きたいねぇ。あああと、とりあえず正座ね。石は乗せないであげるけど」

 なんて、嫌味な笑みを浮かべつつ、彼女は三人に動機の説明を求める。

 それに三人は話し出す。

 アイビーとベーネはカイと同じように自分の家の改修を優先してほしいがためだった。

 しかしアランは違い、本当に盗賊を止めるつもりでいたようだ。

 そして、

「俺の父さんは、この町の町長なんだ。だから俺に家の改修だとか、そんな動機はなかった」

「ほぅ……」

 アランの言葉に、後藤は眉を上げる。

「じゃあ君は、この作戦自体を知らなかったということだね?」

「はい。知ったのは町の広場に着いたときで、エントンさんたちが穴から出た直後に蓋が閉まって、それから二人とも逃げ出すから俺も何が起きたのかさっぱり分からなくて、一緒に逃げて……それで……」

「なるほど」

 一応全員の話を聞き終わって、後藤は一息吐く。

 カエデもそれを後ろで聞いていて、思う。

 家。帰ることができる場所。

 ギルドを追われた今なら、それを痛いほど理解できる。

 その痛みが、理解できる。

「なるほどなるほど」

 後藤は頷く。そして何かが浮かんだようで、その口元には邪まな笑みが浮かんでいる。

 彼女の後ろで、カエデは思う。

 嫌な予感がする、と。

 さて、と彼女はカエデの方に振り返る。

「それじゃあカエデ。君の望みを叶えに行くとしよう」

「え?」

 その言葉の意味が一瞬理解できず、そんな抜けた声を出してしまう。

 後藤はそれに「声が裏返ってるよ」と嗤い、

「君の、だらしのない夫を助けに行くんだよ」

 そう、愉し気に、

「さあ、取られた駒を取り返しに行こうか!」

 胸を張った。

 


      ・・・



「ッつぅ……」

 エムバの魔法によって町から放り出されたアンは、痛む頭部を抑える。

 どうやら気絶していたようだ。

 かなりの高さから落下した故、当然だ。

「ったく、あんなやり方あるかよ」

 むちゃくちゃだろ、と誰にでもなく文句を零す。

 が、そのおかげで少し頭が冷えた。

 ここは町からかなり離れた所。遠くに小さくあの町が見え、落下地点はそこへ続く道のど真ん中。

 誰にも見られなかったことが幸いか。いや、見られて無視されたのかもしれないが。

 とにかく今は合流だ。カエデとミセバヤにこのことを知らせなければ。

 そう思って歩き出そうとした時。

「あ! みーつけた!」

「ッ!?」

 そんな声があった。

 突然の声にアンは辺りを見回す。

 右かからか? 左からか? 前か後ろか?

 しかしどこにも人影らしきものはない。すると、

「はい時間切れー。正解は……こっちでしたーっと!」

 刹那。



 ドオォォォン、と――――――――



 前方に何かが、否。何者か・・・が落下してきた。

 土埃が爆発し、いくらか地面がひっくり返る。

 その姿を見て驚くアンに、彼女・・はニヤリと笑う。



「おっひさー☆ さーてと、仕事なんでちゃっちゃと終わらせますかね!」


 

 そう構えた彼女―――『ユキ・・』に「またお前か……」と、アンはうんざりした顔でため息を吐いた。

ツイッター @baiu46727788

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