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転生迷宮 ―リバイバルラビリンス―  作者: 梅雨ゼンセン
第七章 ―運命が交差する街―
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窮鼠猫抉り

 ……ドア越しに、盗賊たちの声が聞こえる。何か慌てているようだ。

 蹴られた腹の痛みは少しずつ引いてきている。とりあえずアランは体を起こして壁に凭れる。

 ずいぶんとドタバタしている。一体外で何が起こっているのだろうか。

 ……もしかして、あいつらが助けに来てくれたのか?

 街に戻って、作戦は失敗したって、大人たちを連れてきてくれたのか?

「……」

 いや、それはきっとない。

 はず第一に早すぎるし。それに……お父さんはきっと、

「……僕は……『アラン』だ」

 僕はアランだ。そう彼は自分の名をもう一度繰り返す。

 これは自分の名前だ。僕を指し示すものだ。

 ギリッと奥歯を食いしばって、恐怖心を懸命に噛み殺す。そして部屋を見回す。改めて見ると、ここは薪を置いておく小さな物置のようで、部屋の脇には森から集められた木の枝が置かれていた。

 それを見て、ゴクリと唾を飲む。 

 何をやっても『村長の息子だから』と言われた。

 『アラン』と名前を呼ばれるのは叱られる時だけ。

 だから彼は強くなろうと決めた。大人たちに認めてもらえるように、誰もが自分の名前を口にするくらいに強くなろうと。

 そして、あいつに負けないくらいに……

 だから、この計画を企て、実行した。

 そして彼は一人勇気ある囮になることで強さをアピールした。

 そして捕まった。囮になってから先の考えがなかったからだ。

 でも、

「ここで……終わらない」

 戦争。そうアランは始め、皆に言った。

 戦争。戦争を始める気構えでやる。

 だからまだ、止まれない。

 勝って帰るまでは、止まってなんていられない!

 そう自らを奮い立たせ、アランは木の枝を一本、手に取った。



      ・・・



「おい! どうすんだよ!」

「どうするって、逃げるしかねえだろがよ!」

「た、たすけて……」

「うっせえ! 勝手に死んでろ!」

「ひど……」

「お、おらぁ死にたくない!」

「お前も向こうで死んどけ! 大体なんでお前らこっちに逃げてきたんだよ! その場で死んどけや役立たず!」

「んだとてめえ!」

 洞窟内のアジトはエントンたちのせいで慌ただしくなっていた。

 賞金首を呼び寄せたはいいが、実力を見誤ったのだ。

「だから俺は反対したんだ! かなうはずないだろチート相手なんて!」

「今更何言ってやがる!! 決定の時に反対しなかった腰抜けがほざくな!」

「お、俺は嫌だって言ったぞ! 俺は言ってたからな! お前らだって聞いてただろ? お、追い払うなら賛成したやつらだけでやれよな! お、俺は、嫌だからな!」

「ざけんな豚が! お前が一番最初に死んでこいクズ!」

「も、もうダメだ。おしまいだぁ……」

「ハメられたんだ……俺ら全員あいつにハメられたんだ!! 畜生!」

「お、俺は逃げるからな! こんなところに居られるかよ!」

「おい! 待てゴミクズ!」

 まるで世界の終焉が訪れたかのように、洞窟内に居た盗賊たちのほとんどが逃げ出す準備をしようとする。戦おうと考えるのは極少数だ。

 だが、

「……ったくよぉ」

 阿鼻驚嘆の中、誰かが小さくそう零した。

 刹那。裏の逃げ道に流れる人の波の中に、銀色がギラリと光り、

「ぐぎゃあッ!?」

 紅い飛沫が舞う。

 その潰れたヒキガエルのような声が響くと同時に、全員が立ち止まってその方を見る。そこには声とは真逆の、枯れ木のように痩せた男の死体が転がっており、切りつけた男、アランに暴行をしていたあの男は血に濡れた剣を逃げようとしている奴らに向ける。

「とりあえず黙れ。勝機はまだある」

 その言葉に全員が目を丸くする。

 全員が聞き入っているのを確認すると、その頭領らしき男は剣先をとあるドアの方を向けて、

「お前ら忘れてねえか? あの部屋に居るガキ。あれは町長のところの息子だぞ?」

 そう。そのドアの向こうに居るのは他でもない、アランである。

「なら人質にしているこっちに手をだせると思うか? そのちっせえ脳で考えてみろトンチンカンども」

(なるほど、あのドアのところに居るのね……)

 『た、たすけて……』と力尽きた盗賊のフリをして倒れていたエムバはその部屋を確認する。

 じゃんけんで負けたエムバはアンがとってきた……というか剥いできた盗賊の服を来て潜入していた。服にはべっとりと持ち主の血と、年季の入った汚れが着いており、不衛生極まりない。正直臭う。

 また洞窟内も同じような服の輩が集まっているので、

(く、臭い……もう死にそう)

 作戦自体が倒れて情報を聞く、というものだったが、正直この酸っぱい臭いで本当に意識も持っていかれそうだ。部屋の隅とかは雑菌まみれだろう。いや、下手をしたらトイレがないから排泄物も……

(うえぇ……吐きそう)

 とにかくこの場所に長いしてはいけない。臭いもそうだが、帰って皆に情報を渡さないと。

 そう思って彼女はゆっくりと這うように後退する。ほふく前進ではなく、ほふく後進だ。見た目的には第5ほふくだ。

「分かったかお前ら! 分かったなら動け! 賞金は山分けだ!」

 その声とともにざわざわと洞窟内がまた慌ただしくなってくる。エムバはそれでもバレないように、と少しずつ少しずつ後ろに下がっていき、地道に後ろに下がる。

 あと頭一個分くらい入口に続く通路の壁に隠れることができる。そこまでの辛抱だ。



 もう少し。



 もう少しで……



 あと気持ち数センチ……



「おい! そこのお前!」

「!?」

 その声を聞いてエムバの筋肉は硬直する。

 バレたか……!? 足音はどれがどれか分からない。気づかれてるかもしれないけど、そうじゃないかもしれないし、顔をあげるわけには……

 と、冷や汗タラタラで思っていると、男はもう一回「お前だクズ!」と声を荒げて呼ぶ。すると別の方から返事が来て、男のもとに駆け寄っていく足音が聞こえた。この足音は分かった。

 そして頭領らしき男はその男に、

「あのガキを連れてこい」

 アランを連れてくるように指示をしているようだ。良かった。自分のことはバレていないようだ。

 そのことを確認してホッと一息を吐くエムバ。





「それと――――――――そこの死体を捕えろ・・・・・・・・・





「ッ!!」

 その瞬間、エムバは気が付く。背後に三人、男が立って圧し掛かってこようとしていることに。

 彼女は慌てて横に転がって三人を躱すと、ワンドを取り出して距離をとる。

 その慌てた様子に頭領らしき男は鼻で笑い、

「バレないと思っていたのか? おめでたい奴だ」

「あなたぐらいだったらバレないと思ってたんだけどね」

 負けじとエムバも言い返し、詠唱を始める。

 が、

「下手な真似をするな」 

 途中で周りから弓を構えられて、脅しをかけられる。弓兵の数は八人。魔法が使えないエムバに避ける術はない。

「ぐぬぅ……」

 彼女はワンドを手放し、両手を上にあげる。

 その様子に男は満足げに「それでいい」と鼻を鳴らし、「縄で縛っとけ」と他のやつに命令する。徐々にだが、その男のせいで士気が戻ってきているし、統率もとれてきている。エムバたち的には好ましくない状況だ。

(なーんて)

 本当は今向かっていた入口付近でアンたちがスタンバイしているのだ。合図は魔法でするはずだったが、さっきの声が届いているはずだし、助けに来てくれるだろう。

 それよりも、

「私を人質にするならあの男の子は解放してあげてよ!」

「は? 何のためにだよ」

 エムバの提案を男は一蹴して、

「人質は多いに越したことはないから。これでお前らの仲間も手を出してこないだろう」

「卑怯よ!」

「今更。それに死体のふりしてたやつに言われたくないな」

「人の揚げ足をとらない」

「どこの母親だお前」

 そう話している間にエムバは縛られてしまい、後ろから別の男に「立てよガキ」と蹴られる。

「痛い!」

「躾だクソガキ」

「ガキじゃないから!」

「うるせえぞガキ。青臭くて鼻が腐っちまう」

 ケケケ、と笑われて、彼女は顔を真っ赤にしてその男の腹を蹴飛ばし返す。突然の反撃に男は「うおっ!?」と驚きの声を漏らして尻餅をついてしまう。それに見ていたやつらが笑い、今度は蹴られた男が真っ赤になって怒る。

「こ、このクソガキがあ!」

 そう立ち上がって、手を振り上げる。

 その時だった、




「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、あああああっっ―――――――ああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!」





 悲鳴が洞窟内に響いたのは。

 その声が聞こえた方に、全員が視線を向ける。

 それはあのドアの向こう。

 アランの居る部屋からだった。

『……』









 しん、―――――――――――――――――――――――










 ぞっとするほど冷たい沈黙。

 ドアは閉まったまま。

 悲鳴を聞いた誰もが身を硬直させ、そのしまったドアを、閉ざされた部屋を凝視する。

 そして、








 きぃ、―――――――――――――――







  

 小さな軋みを上げて、ドアは開く。

 部屋の中が露わになる。

 真っ赤な部屋転がった、両目に穴が開いた死体が露わになる。

 そして部屋から出てきた少年……アランは、同じく真っ赤になった身を拭こうともせず、握られた木の枝を持って疾走する。

 誰もが狼狽していた。その一瞬に、突進。そして目の前にいた男をそのまま倒すと、その目に思い切り木の枝を突き刺す。

 ぐちゃっ、と。男の目玉が真っ赤に潰れる。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「……」

 そのままアランは両手で枝を持って、ゴリゴリと掻き混ぜる。

 突き刺した目から、脳を掻き混ぜる様に。頭蓋の裏を擦るようにぐちゃぐちゃに。

「ああああああああああ、あああ、あああ……あ、あぁ………ぁ――――――――」

 男は徐々に声を発しなくなっていき、やがて全身から力が抜けて、動かなくなる。

 それを確認したアランは、木の枝を引き抜こうとする。が、乱暴に扱っているせいで折れてしまい、短くなる。

「……」

 短くなったなら要らない、とでもいうかのように、アランはその残った枝を死んだ男のもう片方の目に突き刺し、腰から新しい枝を抜く。

 彼の武器はこれしかない。

「強くならなきゃ……」

 小さな体に、小さな枝。鎧も刃物も持っていない。

「強くならなきゃ……」

 しかしその存在に一瞬、盗賊たちは身を強張らせた。

「強くならなきゃ……」

 こいつは危ない、と。

 だがエムバには違って見えた。

 それはまるで、追い込まれた鼠のように……怯えを孕んだ目をしていて、

「ガキが……」

 硬直も一瞬。

 頭領らしき男は自分の剣を抜き、彼の方に投擲する。

 回転する刃物はそのままアランの方の直進していき、彼は避ける間もなく眼前まで迫る。

「魔力よ集え 我らを守る盾となれ! 『シールド』! っと間に合った!」

 間一髪のところでエムバは魔法を使い、その剣は弾かれて地面に落ちる。

 男はチッと舌打ちをし、

「弓を放て」

 もはや人質として使えないと判断したのだろう。エムバ側の八人にそう合図を出す。が、アランの登場に狼狽していた弓兵たちは矢を下ろし、構え直すまでにワンテンポ遅れる。

 その隙に、

「穏やかなる風よ 我らを包み込むその慈愛を刃に変え、我が眼前の敵を切り伏せ給え 『風切ウィンドスライス』!」

 風の刃で自分の縄と周りにいた弓兵たちの弓を攻撃し、破壊する。ついでに弓兵たちにも少し切り傷を付けるておく。

 解放されたエムバは足元にあったワンドを拾い、

「空腹魔女っ娘エムバちゃん、復活!☆」

 キラッ☆ と言ってみたりする。

 が、それにもはや誰も構わず、キレた頭領の号令で、

「その女を殺せ!」

 あっという間に囲まれてしまう。

 そこに、

狙撃(ダイナミック変態)!」

「ばっちこおおおおおおおおおおおおおおおおい!」

 入口の方から一発の弾丸が……というか想像通りエントンが飛んできて、さっきのごとく構えていた弓兵を弾き飛ばす。そしてそのまま一緒に部屋の端に吹っ飛ばされて、

「ストライクッ!」

「あれは8ピンなのでは……?」

 なんて少し遅れて投げた本人のアンと、後藤と交代したミセバヤが入ってくる。その奥から恐る恐るカイたち出てきて、

「アラン!」

「カイ……お前ら……」

 彼らの顔を見た瞬間、アランの目に光が戻る。

 しかし同時に安心した彼は、力が抜けて地面にぺたりとへたり込んでしまう。

「さて、と。感動の再会もすんだところで……」

 パキパキとアンは残りの盗賊たちを睨み、指をならす。それに怯えた盗賊たちは後退るように一歩ずつ後ろに下がっていく。

 その隙にカイたちはアランのところへ行き、彼の安否を確認する。

「血だらけ……」

「大丈夫、アラン?」

「ああ……うん……あれ、誰だ?」

 アランはエムバたちを見て不思議そうにする。それにアイビーが一言、

「私たちの、助っ人よ」

 その声が耳に届いたアンとミセバヤはクスリと笑って、

「助っ人らしいですね」

「助っ人らしいな」

 剣を構える。

「さて、掃除だぞ。起きろ! そこの変態!」

「……」

「……死んだか?」

「そんな、エントンさん……お墓はドロップの缶でいいですか?」

「……流石に俺でも泣くぞ?」

 盗賊たちとともに倒れていたエントンも起き上がって、盗賊たちを見る。

 その敵意を孕んだ、睨むような視線に彼らはまた一歩下がってしまう。

 盗賊たちから見れば、敵の数はたったの三人。こちらは三十人以上。数の上では圧倒的に有利なのだ。

 しかし、本能は警鐘を鳴らしていた。

 逃げろ、と。

 かなわない、と。

「……ひっ―――――――――――」

 小さな悲鳴が一つ漏れた。

 とたん、硬い壁にヒビが広がるように彼らは一斉に向きを変えて、逃げていく。おそらく別の出入口があるのだろう。

 その中にはあの頭領の姿もあり、

「糞が! 覚えてろよ!」

 なんて吠えて逃げていく。さっきまでの大物風はどこへやら。

 その後ろ姿を三人は鼻で笑い、追うことはしなかった。

「さて、私たちも出ましょう」

 盗賊が去ったのを確認すると、ミセバヤはそう皆に言う。

 それに異を唱える者はなく、一行は洞窟をあとにした。



















「くそが! 話が違うぞ!」

 そう頭領は岩かげから彼らを見て、唾を吐き捨てた。

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