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転生迷宮 ―リバイバルラビリンス―  作者: 梅雨ゼンセン
第一章 ―花と水と毒―
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到着

 翌日、一行は目的の村、『ハザド』に到着した。

 時刻は昼。

 北条らが村に入ると、見慣れない者に村の視線が集まる。

「おい」

 コソッと北条は瀬戸に耳打ちする。

「何?」

「『チート』だってことは隠しとけ。ばれたら面倒なことになるかもしれないからな」

「え、なんで?」

「詳しいことは後で話す」

 話しているうちに村長の家の前に着く。

 ノックをすると中から白いひげを蓄えたおじいさんが出てくる。

 彼は北条らの姿を見ると、クエストのことだと察し、

「おお来てくださったか! ……しかし、人数が少ないような気がするのだが」

「大人数で押しかけても迷惑かと思いまして。残りは依頼にあった洞窟の前にいます」

「おおそうでしたか! 仕事が早いですな」

「明日か明後日には片付くと思いますので、その時はまた顔を出します」

「分かりました。おもてなしなどはできませんが、何かあれば遠慮なく言ってくださいよろしくお願いします」

「ありがとうございます。なら食料を二日分ほど」

 というわけでそれぞれ二日分の食料をもらい、村を出る。

 しばらく歩いて村が小さくなった頃に、

「なあ。さっきのはどういうことだ?」

 休憩をとることにして、瀬戸は荷物を下ろしながら北条に尋ねる。

 彼はさっきもらったパンを噛み千切りながら、

「言っただろ。『転生者』は優遇もされれば迫害もされる」

「ああ。でもそれと『チート』と何の関係があるんだよ?」

「『チート』は畏怖と恐怖の対象になる時があるの」

 そこで口を開けたのはエムバだった。

 彼女はパンと千切りながら口に運ぶ。

「歴史の中で『チート』と呼ばれた人たち、つまりチートの中のチートな人たちは『勇者』にも『魔王』にもなっているわ。そして数々の魔王が勇者によって倒された。でもそのあと勇者はその力の大きさから人々から恐れられ、魔王になる」

「そしてまた新しい勇者によって倒される」

 北条は淡々と言う。

「これはあくまで代表例だ。最近はは魔物初見でビビッて死んだり、ダンジョンに潜って罠にかかって死んだりってのが多い」

「魔王と呼ばれる人たちもずいぶん減ったし、今残ってるのは歴戦を勝ち残ってきた三人くらいね」

「え、いるの?」

「もちろんよ。誰だって地位と権力は欲するわ」

「それが叶うだけの力を手に入れれば尚更な」

 そういう北条はどこか冷めたような態度である。

 ふ~ん、と瀬戸は何度か頷くが、

「で、実際さっき止めたのはなんでなの?」

「つまり、この世界で『チート』はある程度危険視されてるってことだ」

「え! なんで!」

「お前話聞いてたか!?」

 北条はため息を吐き、

「あ~……超高火力のねずみ花火みたいな感じなんだよ。どこに行くか分からないし、爆発したらその威力は計り知れない」

「おお~。昨日の吐息の感じより断然分かりやすい」

「うるさい! あれは……」

 そこまで言って北条は片手で顔を覆う。恥ずかしさに頬が紅潮していることが分かる。

「照れてるし」

「照れてはねえよ!」

 エムバの嫌味な笑みに突っ込みを入れると、北条は立ち上がる。

「さ、目的の場所に行くぞ。さっさと仕事終わらしてふかふかのベッドで寝たいし」

 そして一人目的の洞窟までスタスタと歩いて行ってしまう。それにエムバと瀬戸はついていく。

 

 

 夕方、よりは少し前。時間で言うと四時くらいだろうか。

 ようやく目的の場所に着いた。一行の前には土の大穴が口を開けていた。

「やっと着いたぁ……」

 エムバはぺたんと地面に座り込んでしまう。それを見て北条はため息を吐く。

「お前本当に戦えるのか?」

「失礼ね! あなたより……は無理だろうけど、心配されるほどじゃないわ!」

「それは頼もしいことで」

「む~か~つ~く~!」

 フゥーッ! と怒っている彼女を無視して北条は近くにあった手ごろな木の枝を三つ取り、それぞれに渡す。

「たいまつだ」

「火はどうすんだよ?」

「エムバ。頼む」

 その言葉に彼女は「ふーん!」とそっぽを向いて腕を組む。

 それに北条は面倒くさそうに舌打ちし、頭を掻くと、

「お願いします。火をつけてください」

「嫌」

「はあ!?」

「もう一声欲しいなあ」

 そう言って彼女はにやりと口の端を吊り上げる。

 北条はカチンときそうになるが、ここは大人の対応が求められるところだ、と自分に言い聞かせ、

「……がいします」

「ええ? なんてぇ?」

 何ともワザとらしい。しかし火がないことには視界が確保できない。

 北条は屈辱に耐えながら、絞り出すように彼女の求めていた言葉を吐き出した。

「……お願いします!」

「はいはい」

「いい加減にしろ」

 ゴン! とついに彼女にゲンコツが振り下ろされた。「うげ!」と潰れたカエルのような声をだし、頭を抱えてその場に蹲る。

 そして涙目で彼を見上げ、

「理不尽でしょ!」

「理に適ってるよ! いいから早く点けろよ! 瀬戸が暇すぎてブリッジし始めただろ!」

「え、してないけど」

「ほんとだ。木を引き抜いてジャーマンスープレックスの練習を!」

「だからしてないって! なに!? 俺をどんなキャラにしたいの!?」

 と、いうわけで彼女は渋々北条の言う通りにすることにしたが、

「ふっふっふ」

「おい。このくだり長いぞ」

「う、うるさいわね! もっといい手を紹介してやろうって言おうとしたのに!」

「だから長いって。ほら、あんまり長いから瀬戸が」

「だから何にもしてないって!」

「ほんとだ! 今度は」

「だから何もしてないって言ってるだろ!」

「で、今度はなんだよ」

「今度は極端にドライに……」

 ため息を吐く瀬戸を放っておいて、北条は話を進める。

 彼女あるようでないような胸を張り、

「実は松明を使わなくても私は明りの魔法を使えるのだ!」

「じゃあ早く使ってくれよ」

「ええ? なん」

「いいから早くしろ!」

 再びゲンコツ。今度は謝る素振りすらなかった。

 というわけで鉄拳制裁の末、彼女は懐からワンドを取り出し、魔法を唱える。

「火の精よ 柔らかな光を我に与えたまえ 『柔和な光源ライト』」

 ワンドを軽く振るとその先端に小さな光の玉が出現する。

 それを見て瀬戸は首をかしげる。

「あれ? 昨日北条は名前を言うだけで唱えてなかった?」

「ああ。詠唱なしで唱えられるんだ。まあ水系の魔法だけだけどな」

「それでも十分ずるいわよ」

 彼女は頬を膨らませ、羨ましそうに彼を見る。

 それに北条はにやりと笑みを返し一言。

「『チート』ですから」

「うっっざ!」

「ほらほら早くいくぞ」

「分かってるわよ!」

 ようやく一行は足を進める。

 

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