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転生迷宮 ―リバイバルラビリンス―  作者: 梅雨ゼンセン
第五章 ―二人の出会い、追われる出発―
42/118

過去 二人の出会い―5

 ……意識の覚醒とともに、顔に硬い感触が覚える。

「よう。やっと起きたか」

「……グレドか」

 そうエレナは彼の顔を見て、確認するように呟いてから起き上がろうとする。腕と足は縄で縛られており、少々手間取るがなんとかなんとか起き上がって辺りを見回す。

 ほぼ真っ暗な空間。奥には小さな灯りが見え、空気は冷たく、なんとなく重く感じる。

「山賊のアジトか? どのくらい眠っていた?」

「さあな。俺も同じくらいだ」

「リックは?」

「別で捕まってんだろ。おそらく村長と娘さんと依頼の子もだ」

 武器は当然取られている。とにかくこの縄を外さないことには何も始まらない。

 エレナとグレドは近くに鋭利な窪みがないか探す。が、暗いせいもあってか探しても見つけることができなかった。

 仕方ない、と彼女は探すのを諦めると、

「グレド。お前の腕って着脱可能だろ? さっさととれよ」

「いきなりボケんな! 空気読めよ」

「こういう時こそだろう? それともお前が噛み切ってくれるのか? この誰のどこを縛ったかも分からない未知に満ち満ちた麻縄を」

「そう言われると遠慮するしかないだろうが! 何? お前ほんとに脱出したいの!?」

「うるさい。声がでかいぞ」

「誰のせいだと……」

 そう言いあっていると、案の定バレていたようで奥から足音が近づいてくる。数は三人だ。

「……よお。起きたのか」

 その中の一人がエレナたちに声をかける。

「ああ。最高の寝起きをありがとう」

 その男にエレナは不遜気に鼻で笑う。それに男の方も鼻で笑い返し、

「獣も魚も、捕れたてで活きがいいのはいいことだ」

 エレナの籠をクイッと持ち上げる。その指はガサガサに荒れていて、硬い。顔には無精髭を蓄え、吐く息は生肉の腐った臭いがする。あまり衛生的な生活を送っていないのは明白だ。

 汚いな、とエレナはニヤリと口角を歪めると、

「とりあえずその雑草の生えたグラウンドみたいな顎をどうにかしてから来いよ」

「……」

 それを聞いた後ろの二人の男たちはクスクスと笑いだし、グレドも「うわぁ」と小さく零す。

 エレナの前に居た男は彼女の顎から手を離す。そして思い切り彼女の顔面を蹴り飛ばす。

 男の履いている靴と彼女の肌が衝突したくぐもった鈍い音、次いでエレナが地面に倒れる音が空洞内に響いてその場が沈黙する。

「エレナ!」

 グレドは叫び彼女に近づこうとする。が、そこに男の蹴りが入り、顎を蹴り上げられてグレドは後ろに倒れる。

「ぐあっ!」

「そこで蛙みたいにひっくり返ってろ」

 そう男は言って唾を吐き捨てると、きびすを返してその場を立ち去る。彼の通るところを開けるようにして残り二人の男は左右に退き、男の後についていく形で去っていく。どうやら今のやつが山賊の中心人物らしい。

「いっつぅ……おい、大丈夫か?」

 顎を蹴られたグレドはクラクラする頭をなんとか振って覚醒させ、エレナの安否を確認する。

 それに彼女は何も返答せず、ムクリと起き上がると、

「……」

 プッと何かを吐き出す。次いでカチンカチンと硬い音がしたのできっと折れた歯を吐き出したのだろう。彼女はその折れた部分を確かめるように舌で内頬を撫でると、

「……顔を蹴ったな、あのやろう……」

 そう、ぽつりと呟き、静かに言葉を零す。

「……ブチコロス」

「お、おう……」

 それは同じく蹴られた身であるグレドでさえ引いてしまうような剣幕で、彼女の目はまるでこの暗闇で光っているのではないかと思うほどにワイヤーのように細く、静かな殺意で爛々としている。それが解放された時、彼女はどうなってしまうのだろうか。そっちの方が心配になってくる。

 しかしそれも手足を縛られていてはどうしようもないこと。そして今一番の心配はここに居ない者たちのことだ。一応リックが彼らの傍にいるなら多少は安心できるのだがその確かめようもない。

「……さっき聞いとけばよかった……」

 なんて少しだけ後悔する。まあ最も、聞く前にエレナが挑発していたので意味ないのだが。スカウトする前にすでに怒り状態だったのだ。しもふりにくは常備しておくべし。

(さて、どうすっかな……)

 と……



      ・・・



「……」

 リックは明りのあるところから少し離れたところに居た。

 彼も同じく両手両足を縛られている。

 そしてその横には未だ目覚めず横たわっているマリーナと、依頼にあった少女と思われる子供に、

「……」

 もう一つ、まるでボロ雑巾のように地面に打ち捨てられた老人の―――あの村長の姿を見て少し顔をしかめる。息はしている。が、その体や衣服は傷や汚れでボロボロになっており、指も全て折られている。暴行を受けたのは明白だ。

「あいよ。8切って10捨てで上がりだ」

「お! 俺も次いで上がりっと」

 明りのそばのテーブルでは5人の山賊と思われる男たちがトランプを広げ、大富豪をしていた。

「はあ! マジか!?」

「あと三人か」

「見張り+1時間とか俺やだぜ」

「好むやついねえだろ。さあさあ続き続き」

 どうやら二人上がって、残り三人になったようだ。が、少しして、

「……まえ、…とにだ……」

 彼らの奥にある通路から微かに声が聞こえてきた。声を抑えているがおそらくこれはグレドのツッコミだろう。ということは必然、相方があるはずだ。というかあの二人は向こうで何をやってるんだか。安堵の息と混ざってクスリと笑いが込みあがてくる。

「んあ?」

 その声に一番初めに上がった偉そうなやつが反応し、

「よっしゃ上がり!」

 同時に手前の三人の内一人が上がる。残り二人、トランプ勝負は何事も二人からが真剣勝負だ。

 それを見た偉そうなやつはその上がった方の二人を連れて、奥の方へ歩いていった。声のもとを確かめに行ったのだろう。

 さて、監視の目が減ったことはいいことだが、どうしたものか。

「(……おーい。マリーナさーん)」

 そう音を殺して彼女に近づき揺するが、起きる気配は一向に無い。村長は……戦力外。

 となると残りは、

「(おーい。君は大丈夫かい?)」

「ぇ……」

 その呼び掛けに、少女は少しだけ目を丸くして、コクリと頷く。

「(ケガとか、体に何かされてない?)」

「……」

 それに少女は重苦しく黙ってしまい、俯く。そして暗いながらも、その目から涙が落ちるのが見えた。

 外傷があるようには見えない。もしかしたら服の下にあるのかもしれないが、それよりも先に考え付いた可能性にリックは舌打ちをしたい衝動に駆られる。まあだいたい想像できていたが、やはり胸糞が悪い。

 しかし、今はそれよりも脱出を考えなければ。が、状況を変えるためのものが何もないのに変わりはない。

 と、そうひそひそと話していると、それに気づいた山賊の一人がこちらを向き、

「おい、何をこそこそしている!」

「ひみつー」

「そうか。なら仕方ないな」

「どうしても教えてほしかったら………え?」

 それだけでまたトランプに戻ってしまう。そしてその横顔は本当にトランプに集中しているもので、こちらのことなどまるで眼中にない。殴られるか蹴られるくらいの覚悟はしていたのに、それだけ何だか……寂しくなってくる。

(は! まさかこれが狙いか!?)

 なんてわけもなく、とりあえずリックは安堵か失望か判断の難しいため息を吐き、

「あのさあ、いいのお二人さん?」

 そう、問いかけた。

 その突然の声に二人の山賊は「あ?」と意外そうに彼の方に目を向ける。

「いいって何がだよ」

「ん? 分からないならやってみようか?」

 そう言うとリックは立ち上がり、

「『滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧き上がり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる……』」

 その瞬間、二人の山賊は慌てて立ち上がる。

「こいつ魔法が!」

「…………何……だと……ってやってる場合じゃねえ! 取り押さえろ!」

 そう二人が飛び出したときにはすでに遅く、リックは高らかに言霊を紡ぐ。

「破道の九十『く○棺』! なんてね☆」

 そう、リックが舌を出したところで、男二人の背中にポンと手が当たる。

「「あ?」」

 そう二人が振り向いた瞬間、

「『凍結フリーズ』」

 カチンッ、と二人の体が局所的に一瞬で凍り付く。詳しく言うと各関節と口だ。これで息はできるが言葉は発せないし、動くこともできない。

 その凍らせた二人とそっと地面に置くと、北条は安堵のため息を吐く。

「「んんんー(離せー)!!」」

「大丈夫?」

「ベストタイミング! 魔法も選択もばっちりだよ」

「「んんんんんー(無視するなー)!!」」

 そんな山賊たちを完全無視して北条はリックの縄を解く。そして奥に居た少女とまだ眠っているマリーナの縄も解いてあげる。

「大丈夫か?」

「う、うん……」

 そう少女は状況がつかめていないのか、驚いているのか、たどたどしく頷く。動くのに支障は無いようだ。

「二人は?」

「あっち。今さっき別の三人が向こうに向かったからそろそろ戻ってくるはずなんだけど……」

 そう言っていると、奥から「エレナ!」というグレドの声が聞こえた。それに二人は通路の方を向き、奥の様子を伺うために通路口の壁に貼りつき、そっと覗き込む。

 奥は真っ暗でほとんど何も見えないが、影が五つ、二つは此方から見て少し手前で立っていて、一つは少し前にいる。そして地面に倒れる影が二つ。

((うわぁ……))

 その様子を見て、二人は思った。

 あの倒れているのはおそらくグレドとエレナだ。おそらく蹴られたか殴られたか。観察していたところこの山賊たちは全員丸腰だ。ということは致命傷はないだろう。

 ということは……

「(エレナ、絶対怒ってる……)」

「(これ、山賊たちより八つ当たりされる俺たちの方がマズいんじゃ……)」

 そこで二人は「はぁ……」と思わずため息を零してしまう。仲間なのに、山賊の方がまだマシと思えてしまう。

 と、しばらくすると気が済んだのか、山賊たちはきびすを返してこちらに帰ってくる。

 そこで二人は一端そこから離れ、初めの二人のように捕縛するべく奇襲の態勢に切り替える。

「(僕今ワンドないし、クロがお願い)」

「(了解)」

 北条の返答後、リックはすぐに詠唱を始める。それに合わせて北条も魔力をためて準備する。

 そしてコツコツと迫ってくる足音に耳を澄ませ……



 コツンッ―――――――――



「今!」

 そうクロがまず躍り出て、無詠唱で彼らに水をかける。

「なんだ!」

 そう驚いている間に詠唱を済ませたリックが手を翳し、

「『凍結フリーズ』」

 その瞬間、彼らの浴びせた水が凍りつき、山賊たちの身動きを封じる。

「く、くそ!」

 そう呻くがもう遅い。拘束は完了した。

 ふう、と二人は安堵の息を零し、

「拘束完了。あ、一応噛まれるとやだから口も凍らしといて」

「了解」

 そうリックから言われ、北条はさらに彼らの口も凍らせる。

「ふざッ―――――んんんんんんっっ!!!」

「っと、これでホントに終わりだな」

 そう一息吐いた。

 

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