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転生迷宮 ―リバイバルラビリンス―  作者: 梅雨ゼンセン
第一章 ―花と水と毒―
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チート

 この世界における『転生者』とは、元の世界で死んでこの世界にやってきた者のことを示す。

 死に方は病気でも事故でもなんでも関係ない。

 おそらく死人からランダムで選ばれるのだろう。今のところ規則性が見られるなんて情報は聞かない。

「ふーん。なら俺は運がいいほうだったんだな」

「そういうことになるな」

 青年は『瀬戸勝良せとまさよし』という名前だそうだ。

 大分落ち着いたようだ。今は三人で山の中を歩いている。

 ちなみにこの世界での『転生者』の立ち位置は国や地域によって疎らだ。 

 あるところでは新たな知識を取り入れようと優遇したり、

 またあるところでは異端者として迫害したり、

 しかしほとんどのところが普通に接してくれる。

「じゃあ俺がここに来たことに意味はないってことか?」

「そういうことだ」

「北条も?」

「……ああ」

 一瞬、少し表情を曇らせる。が、後ろから聞こえてくる喘ぎ声を聞いてすぐにため息を吐き、振り返る。

「エムバ、大丈夫か?」

「しぬ~」

「なら死んだら教えてくれ」

「人でなし!」

 待って~、ときびすを返したところで声が飛んできたので、少し足を止めることにする。

 本当にどうしてこいつとクエストに向かうことになったんだろう、と今更ながら後悔する。

 そんなこんなで夜になり、結局夜の山で野宿することになった。

 火を囲んで非常食のカンパンを食べる。

「まずいし硬い」

「ならペースあげろよな」

 両手でカンパンをもってモクモクと食べる彼女に呆れを漏らし、北条は地面に横になる。

 彼女は少し涙目になりながらカンパンを食べる。それに瀬戸が笑いかける。

「大丈夫? 北条は冷たいね」

「……はい」

 彼女はそれだけ言うとカンパンをさっさと食べてしまい、ふてくされたようで横になってしまう。

「あれ? 俺嫌われてる?」

 ただ単に彼女が人見知りなだけかもしれないが、少し傷つく瀬戸。

 こうして簡素な夕食を終え、全員が眠りにつこうとしたとき、

「……」

 チッと北条は舌打ちし、起き上がる。

 それに気づいたエムバも起きる。寝る寸前だったらしく、目を擦ってしばしばしている。しかし北条の面倒くさそうな表情を見て状況を察する。

「……魔物?」

「囲まれてる」

「彼を起こす?」

「そうしてくれ」

 北条は森の中を睨みつけ、置いてあった広刃剣を取り、ゆっくりとした動作で柄を握る。

「ん……なに?」

 瀬戸がのんきに目を覚ました瞬間、北条は抜刀し、森の中に駆け出す。

 同時に森の闇の中から彼と同じくらいの大きさのサルの魔物『アッフェ』の群れが姿を現す。

 数は全部で六匹。

 北条と対面しているのは三匹。その反対からエムバらに襲い掛かるのが三匹。

 北条は正面の一体の突き出した拳をかわすと、懐に潜り込み右脇から剣を通して、横に一刀両断する。そして左から来ているもう一匹に向かって左手を翳し、

「『白氷の槍アイシクルスピア』」

 そう呟いた瞬間、手のひらから氷の槍が三本飛び出し、標的を串刺しにする。そしてそれをもって彼は大きく回転し、残りの一匹にぶつけ、ひるんだところを死体ごと切り伏せる。

 一瞬。

 瞬殺だった。

 自分の分を片づけ、彼は振り返りエムバらの方を見る。

 すると、

「おぅらッ!」

 ボゴンッ、という音の後にミシミシミシと音を立てて木が倒れる。吹っ飛んだアッフェが木に当たり、折れたのだ。

 その原因は瀬戸が突き出した拳だ。

 彼は左右から同時に襲い掛かってくる二匹を、飛び上がり、右は拳で叩き伏せ、左はその回転力を使って踵で蹴り上げる。

 一匹は地面に顔面から叩きつけられ、もう一匹は後ろに反り返るように倒れる。

 エムバはその戦闘を唖然として見ていた。

「おお! 映画みたいにできた!」

「さすが転生者」

 北条は安堵の息を吐き、鞘を拾って剣を戻す。

 戦闘が終わり、瀬戸は自分の手を見て笑み零す。

「これが俺の……力」

 わあぁ、と子供のように喜ぶ瀬戸。その姿を北条は懐かしむように、

 そして悔やむように見ていた。

「あなた、『チート』なの?」

「『チート』?」

「そのままの意味だ」

 『チート』。それは転生者たちによって広まった俗語の一つだといわれている。

 意味はそのまま。規格外の強さを持った者のことを指す。

 転生者には大きく分けて二つの種類がある。

 『ノーマル』と『チート』だ。

 考え方は『チート』でなければ『ノーマル』という大雑把な感じだ。これは時代によって変わる。前までは『チート』と呼ばれていたのに、より強者が現れて層が上にずれるということはよくある話だ。

「おそらくお前の場合は筋力のパラメータがカンストしてるんだろう」

 マジか! と彼は目を輝かせる。そして体を低く沈めると、バネを開放して天高く飛び上がる。その高さは周りの木々なんて軽く越してしまっている。ざっと見て五十メートルといったところか。

「ほんとだ! すっげえ!」

 『筋力カンスト』は『チート』の中でも一般的な能力だ。

 着地時にしゃがんで衝撃を殺し、静かに地面に立つ。

 それを見た後に、エムバは北条の方を見て、

「あなたも『チート』なの?」

「ああ。俺に場合は水属性の全魔法が使用可能だ」

「はッ!? ……使用可能って、どのくらいなの?」

 それにエムバが食いつく。彼は「ん~」と腕を組んで唸ると、

「その魔法を……というか水を、だな。意識するだけで使えるんだ。魔力を使うだけで自由自在に。しいて例えるなら……息を吹きかけるようにって感じかな」「ごめんちょっと無理……生理的に」

「はあッ!?」

「ちなみに私はこっちの世界側の人間よ」

 あっそ、と北条は地面に座り、

「今日は俺が警戒するからお前らは寝とけ」

 肩に剣をかけると森の方を見る。

「おう! サンキューな!」

「私の出番が……」

 二人は横になり、眠りについた。

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