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転生迷宮 ―リバイバルラビリンス―  作者: 梅雨ゼンセン
第四章 ―それぞれの救いを求めて―
23/118

過去 物語の始まり―2

「……」

 状況説明してほしいか?

 不当逮捕。

 もしくは、不当捕獲された。以上。

「どうしてこうなった……」

「アッハハ……まあそんな不満そうな顔するなよ」

 グレドは笑顔でそう言うが、この状況――――縄で胴をしばられ彼にリードを持たれているこの状況に、不満を抱かない者などいるのだろうか。

「まああれだ。ポジションに考えるんだ。これは連行される囚人の気分を味わえる絶好の機会だと」

「……捕まるようなことはしてないつもりなんですけどね」

「ほらキビキビ歩け囚人番号2番!」

「誰が2番だ! っていうか1番誰なんだよ!?」

 ニシシ、と笑ってくるリック。

 それに捕えられている北条はため息を吐くしかない。

 なぜこうなったか。

 具体的な説明をすると、あの後北条に剣を向けてきたあの女『エレナ』(本名:エレーナ)が、

「こいつは偽物かもしれない。一応捕えておこう」

 と言いだしたからだ。そして北条は状況がつかめず、狼狽しているうちに捕えられてしまったのだ。

 そのエレナを先頭に森の中を歩く一行。ちょくちょく北条を弄ってくるが、様子を見ていると何かを探しているようである。

 そして緩んだ雰囲気の中にどことなく緊張の糸が視える。

「……なあ。いったい何しにきたの?」

 と、反応してくれるかどうか、半分くらい期待してエレナに投げてみる。

 すると彼女はチラリとこちらに一瞥し、再び前を向いてから、

「『鬼の討伐依頼』よ」

 その反応してくれたことに内心少し喜ぶが、この雰囲気を壊さないように落ち着いたトーンで言葉を出す。 

「『鬼』?」

 おかしな大蛇もいたのだ。鬼という名はむしろ普通に感じる。

 が、物騒度はグッと増した気がするぞ……

「やつらは変身能力を持っている。だからお前を捕えたんだ…………悪く思わないでくれ」

 そう彼女は、少し申し訳なさそうに付け足した。

 案外素直に謝ってくれた……のかな?

 しかし、今ので好感度は少し上がったぞ。そんなに悪い人たちではないようだ。

 と、北条の後ろでリックとグレドがひそひそと、

「ま、このパーティーの鬼は……なぁ」

「疑う余地なs」

「よろしい。ならばここでやり合うか?」

 エレナは自身の長剣を少し抜き、二人を見る。

「すいませんでした!!」

 それにグレドは流れるように地面に頭を下げる。きっといつもやっているのだろう。その自然な動作を見て、北条はそう思った。

「おい! これに懲りたらエレナ様に二度とそんな口を利くなよ!」

 そしてリックはその前に立ってぶふんぞり返る。

「あ、お前もだろう! ズリーぞ!」

「何のことかな~。僕はいつだってエレナの……エレナ様の味方さ! ね、エレナさマトリックスッ!!」

 尊敬(笑)の顔をして振り向いた瞬間、パシンッとデコピンを喰らい、仰け反るリック。

 そして反ったときに、腰がぺキッ、と変な声を上げ、「あっ……」と漏らしてリックは固まってしまう。

 そのオブジェのような状態を見て、グレドは「ププ~」と指さし、

「マトリクス(笑)」

「こ、腰が……」

「100いくつだったか? すまないおばあちゃん。もっと労わるべきだった」

「え、エルフだとまだ若い、というか幼い方だよ! それにエレナの方がもういいとs」

「反っているのだから、反対に押したら戻るんじゃないか? 試していいか?」

「やめて! 切実にやめて! これ以上ひどい状態にしないでお願いだから!」

 ポキポキと指を鳴らす彼女に、リックは顔を青くして懇願する。どうやら年齢関係は禁句らしい。

 ……ちなみにいくつなんだろう。そんなに歳は変わらないように感じるのだが。

 と、


 カサカサ―――――――――――――――――


「「「……」」」

 草が揺れた。

 騒いでいた一行が静まる。

 ……

 沈黙する。

 違和感。

 なんだろう。

 まるで森が沈黙しているような……

(怯えている……?)

 なぜそう感じたのか、自分でも分からない。

 もしかしたら、その怯え、恐怖は自分が無意識に感じていたものなのかもしれない。


 カサカサ―――――――――――


 エレナは長剣に手をかけ、

 グレドは巨剣を抜刀し、

 リックは……ブリッジで忙しいようだ。

 北条は両手を縛られ、戦闘不能。

「……」

 エレナは辺りを見回し……そして、剣を構え、

「そこだ!」

 踏み込み、草むらを居合で切り裂く。

 そこに居たのは、

「……ウサギ?」

 北条はそう、疑問形で言った。

 なぜならそのウサギには小さな翼が生えていたからだ。

「『フライビット』だな」

 そう言いグレドは巨剣をしまう。

「ち、ちなみにあの翼に飛行能力はない、よ」

 と、リックは固まったまま解説する。

「そ、そうなんだ」

 それよりもその体制に目が行ってしまう北条。頭に血が溜まっているのか、顔を真っ赤にしている。大丈夫なのだろうか。

 と、それを確認したエレナも長剣をしまい、

「……行くぞ」

 ときびすを返す。

 それに全員賛成し、方向転換する。

 リックはそのままグレドにそっと運ばれる。

「運ぶなよ!」

「なら置いてくか?」

「うぅ……我慢するよ。後で体と服を洗わないと」

「お前最低だな……」

 なんて会話をしてとりあえず別の道を行こうとする一行。

 その背を、フライビットはじっと見る。

 そして身を縮め、体にバネをためると、

 ――――――伸びた・・・

 バネを開放して跳躍する代わりに、バネを伸ばしたように。

 頭の先から変化した。変身した。

 いや、これはもとに戻ったのか。

『ヴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっっっ!!!!』

「ッ!!」

 おぞましい叫び声に、北条は反射的に振り返った。

 そこにはさっきまでの可笑しな可愛らしいウサギの姿はなく、代わりに飛びかかってきている、真っ赤な巨体―――――ギラリした獰猛な眼、大きく裂けた大口、闘牛のような角の生えた生き物がいた。

 『鬼』だ。

 これが鬼なのだ。

 鬼は最後尾を歩いていたエレナに向って飛びかかる。

「あ、――――――」

 声が出なかった。

 さっきまでの大蛇とは迫力が、生物としての凄みが違った。

 別格。

 その醜悪な姿、邪悪な雰囲気に気圧され、体が思うように動いてくれなかった。

 鬼はその頬まで裂けた口を目いっぱいに広げ、不潔な唾液を撒き散らしながら彼女を飲み込もうとする。

 が、

「……汚い涎だ」

 エレナは振り返りざまに剣の柄を鬼の顎に打ち付け、口を閉じさせる。

 そしてそのまま素早く宙に浮く相手の下に潜り込むと、抜刀し、その巨体を両断する。

『ガ……』

 鬼は、そんな掠れた声しか漏らせず、そのまま二つの肉塊となって地面に落下し、絶命する。

 エレナは血振りをし、剣をしまうと、「ふ~」と髪を撫でて一息吐く。

 彼女は始めからあれが鬼だと気づいていたのだ。

 それを分かった上で隙を見せ、相手の攻撃を誘った。

(いや、それにしても……)

 一瞬。

 瞬殺だった。

 相手が弱すぎたのではないか、そんな可愛く見えてしまうほどに圧倒的だった。

 ……が、体は覚えている。

 あの鬼を見た瞬間の、恐れを。

 自分ではかなわない、そう思った。

 だが、それを彼女は簡単に倒してしまった。

 いとも容易く。

 そして……美しく。

 思わず恐怖を忘れ、一瞬見入ってしまうほどに、洗練された動きは武術の枠を超えて芸術へと昇華している。

 と、完全に素人目からだけれど。

 生前、というか向こうの世界に居た頃と言った方がいいのか? まあ、芸術にそれほど関心はなかったそんな北条でさえ、綺麗だと思えるほどだった。

 と、彼女は辺りを見回す。

「まだ終わりじゃねえな」

 グレドが剣を抜き、笑う。

 それに腰をなんとか戻したリックもワンドを取り出し、

「やっと治った。っと、囲まれてるね。一、二、三、四、……」

「三十匹だ」

 エレナは再び剣を納め、居合の構えをとる。誰も、討伐対象の『鬼』は一匹とは言ってない。

 と、そこで彼女は北条が未だ拘束されていることを思い出す。

 彼女は剣から手を離すと、彼の縄を解き、開放する。

 そして、

「拘束なんてして悪かったな。これで動けるだろう。さあ、どこに行ってもいいぞ」

 なんて、すがすがしい顔で言う。

「いや困るんですけど! この囲まれた状況でそんなやり切った顔されても困るんですけど!? 私はどうやって帰ればいいんですのん!?」

「ん? 帰る? 何か勘違いしていないか?」

 北条の抗議の声に、彼女はポカンとした顔で首を傾げる。そして、鬼の群れを指さし、

「あの中のどこに行ってもいいということだ。そもそも勝たないと帰れないだろうが」

「はい!? た、戦うって……」

「さて、始めるぞ」

 そう言って彼女たちはそれぞれ背中合わせになり、武器を構える。

「木が邪魔だな……」

「自然破壊はダメですよグレドさん」

「生き物殺してる時点で十二分に自然破壊な気はするが……まあ触れないでおこう!」

「そうそう! 世の中金ですよ!」

「リック。お前本当に最低な奴だな」

「コラお前ら集中しろ! あの……なんだ。新入りを見習え! もうあんなに倒しているぞ!」

「本当だ! 卍固めして嗤ってる!」

「あ、そのまま筋力で全身の締め上げて、肉を潰し千切ってやがる!」

「え、僕何もしてませんけど……ていうか新入り!?」

「よし新入り! その肉片はお前の明日の朝食だ!」

「いらない! 切実にいらない! そして僕はまだ何もしてませんよ! ていうか本当に僕も戦うんですか!?」

「さあ準備は整った。行くぞグラド、リック、新入り!」

「おう!」

「了解!」

「あぁ……もうどうにでもなれ!」

 そして四人は背中合わせで構え、それぞれが群れに突撃する。

 三人は次々と鬼を倒していく。

 剣を扱う二人でも、エレナを技の剣士とするなら、グレドは力の剣士だ。

「うぉらよっとッ!」

 彼は獲物である、自分の身の丈ほどある巨剣を豪快に振り下ろし、振り回し、敵をなぎ倒していく。

 そしてリックは、

「『穏やかなる風よ 我らを包み込むその慈愛を刃に変え、我が眼前の敵を切り伏せ給え 風切ウィンドスライス』!」

 ワンドを向けると、その先から無数の風の刃が渦を巻くように射出される。

 それにより、直線上に居た鬼たちの体は両断こそいかないものの、ズタズタに切り裂かれる。

 が、深手を負いながらもそれを逃れた鬼がリックに襲い掛かる。

 リックはそれに正面から立ち向かい、

「『形成せよ(create) その血(This blood) (will be) 強靭な刃に(the weapon)

 相手の大ぶりな横凪をひらりと跳んでかわすと、そのまま傷口にワンドの先を深く差し込み、引き抜く。

 同時に、ワンドに着いた血が、相手の傷口から巨大な刃となって引き抜かれる。それは相手の血を使った『武器生成の魔法』。

 彼女はそれにより、その個体の血を全て抜き取ると、一振りし、二体を横に両断する。

「うん。十分だね。さて、いくよ!」

 そして北条も、

「んにゃろめが!」

 鬼の襲い来る剛腕にフルパワーの拳をぶつけて相殺……というか粉砕する。北条の方が何倍も力があるようだ。

 が、肉を砕く、生々しい感覚に背中がぞわりと冷たくなる。

「うえぇ……気持ち悪い」

 なんて言っていると背後からもう一匹が襲い掛かってきて、腕を振り下ろそうとしてくる。

 が、足音で気づいた北条は、引き付けてから鬼の顔の位置まで跳び上がって、その顔面を蹴り飛ばす。もちろん、千切れないように優しくだ。

 それでも蹴られた鬼の巨体は少し宙に浮き、地面に落下する。意識は確実に刈り取られている。

「お、これならいいかも!」

 感覚的にはサッカーでパスを出す感じだ。決してシュートではない。コマンドで言えば×ボタンだな。

 しなやかに蹴る。そんな感覚で相手を蹴り倒す。

 そんな感じで彼は彼なりの感覚を掴み、なんとか敵を倒していく。

 

 




「えー、コホン。それでは結果発表をする」






 森の入口で、エレナは三人に向ってそう言う。

「グレド8体、私9体、新入り3体、リック10体でリックの勝ちだ」

「やったね☆」

「お前毎回思うけど範囲魔法はズリーだろ。あれで一気に狩れるじゃねえか」

「ま、才能の差かな」

「扱う武器の差だな」

「俺のグレートソードだって範囲なら負けてねえだろ!」

「……ってことは本当に差ってことにならない?」

「ハッ!? しまったあああああ!」

「……」

 そんな光景を、北条は黙って温かい目で見ていた。

 結局あの後、何だかんだで外まで連れてきてもらったが……

「さて新入り。まだ名前を聞いてなかったな」

「あ? そう言えばまだ聞いてなかったな」

「え、そうだっけ? 僕はもう聞いた気がするけど……ね☆ 囚人番号2番さん☆」

「まだ引きずるのかそれを!」

 まったく、いきなり転生して、いきなり魔物に会ったり、いきなり意味不明なパーティーに出会ったり……

 いったいどうなっているんだ俺の異世界ライフ……

 ―――――――しかし、なんだかんだでいいやつらみたいだしな。

 それに当てもなくって言うのもなぁ……

(ん~……)

「ん? どうした新入り? 新入りの方がいいか?」

「……俺の名前は『北条黒山』だ」

 北条は結局、渋々といった様子で名前を言う。

 それにエレナは満足げに頷き、

「うむ。それならよろしくな。クロ」

 そしていきなりニックネーム。

「お、さっそくニックネームか!」

 それにグレドは何だか嬉しそうに笑い、

「うわ、犬みたい」

 それにリックはクスクスと少し悪戯気に笑ってくる。

 もう面倒くさくなってきた。

「……もう、それでいいよ」

 北条はため息を吐く。

 当てもなく歩くよりは良いだろう。しばらく厄介になろう。

 エレナは「よし!」と言うと、きびすを返し、

「なら、さっさと帰ろう! 新たなパーティーメンバーの歓迎会といこうじゃないか!」

「おうよ!」

「お酒だお酒ー!」

「リックは見た目はアウトだろう」

「……この前一人で行ったら年齢確認されたよ」

「ご愁傷様だな」

 なんて、もう夜の食事会の話に移る一行。

(おい、本当は俺よりそっちがメインなんじゃないか?)

 なんて思いながら、少し後ろでその賑やかさにクスリと苦笑う。

 それにふと振り返り、それに気づいたエレナ。

「おい何やってる。おいてくぞ主役」

 と、言ってくる。

 北条はその言葉に少し驚く。が、何だかくすぐったくなって、咳をする真似をして笑いを隠すと、

「……今行く」

 みんなのところに駆けて行った。

 こうして、北条黒山はエレナ、グレド、リック、三人の仲間になった。

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