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転生迷宮 ―リバイバルラビリンス―  作者: 梅雨ゼンセン
第一章 ―花と水と毒―
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初対面の対応

 彼『北条ほうじょう 黒山くろやま』は道を歩いている。

 年齢は十九。どこかのRPGに出てきそうな旅人の服を着て、背中には広刃剣ブロードソードを背負っている。

 そして片手にはパンを。

「んが! かた、」

 そう文句を言いながらも北条はパンをかじり、たいらげたのち、手に着いた残りをぺろりと舐める。

 と、しばらくすると丘の上にたどり着く。

 その先には町が見えた。

「やっと……町か」

 もはや疲労で喜ぶ元気もない。

 が、体は正直で、ふかふかのベッドと食事と考えた瞬間、活力が湧いてきて、丘をダッシュで下りて町に向かう。

 と、

 その途中で突然足を止める。そして懐を探り、財布を取り出す。

 残金……五コイン

「まじかぁ……」

 北条はその場に力なく崩れ落ちる。

 この額では宿は愚か、今日の飯すら危うい。

 原因は前の町で大食いにチャレンジし、失敗したことだった。

 時間内に完食で無料だったが、完食できなかった。

 結局全額払い、無一文同前。

 北条はゆらりと軟体動物のような動きで立ち上がると、

「働きたくねえなぁ……」

 涙を浮かべで町に入っていった。

 そしてそんな一文無しが向かった先。

 彼はその大きな建物を見て、深いため息を吐く。

『ギルド』

 冒険者たちが仕事を求めて集うところだ。

 各種様々依頼を取り揃えている。

 狩猟、駆逐、採取に護衛。

 場所によってはベビーシッターもやっている。

 三階建ての大きな木造の建物。

 彼は重い足取りでその扉から中に入る。

 中は自分と同じく、職……正確には金をを求めてきたたくさんの冒険者で賑わっていた。

 さて、と見回し、掲示板を見つける。そこに行くと各地から集められた依頼が貼り出されている。

 当然そこには人だかりができている。北条はその間から顔を出したり、飛び跳ねたりしながらなんとか掲示板を見ようとする。

 そして一件の依頼を見つける。

 彼は跳ぶのをやめると、一度その場で腕を組んで唸ると、

「……仕方ないよな」

 ため息を吐いて、面倒臭そうにカウンターの方に歩いていく。彼の姿を確認した受付の女性は笑顔で頭を下げて挨拶を済ませる。

 彼は人だかりのできている掲示板を指さすと、

「あそこの一番上に貼ってあるクエストを受けたいんですけど」

「え……」

 受付の女性がそんな声を漏らしたのも無理はない。彼女は彼の指先の方を見て一瞬固まると、「少々お待ちを」と言って奥に行ってしまう。

『ダンジョン内のモンスターの駆逐』

 ランク『A』

 北条が指さしていたクエストだ。

 ダンジョンとは……という詳しい説明は省こう。ゲームに登場する洞窟や塔や魔城と同じ意味、ということだけ押えておけば問題ない。北条もその程度の認識だ。

 しばらくして彼女が戻って来る。その手には一枚の紙がある。

「お待たせしました」

 彼女は彼の前にそれを置くと、

「そのクエストを受ける場合は、この契約書にサインをお願いします」

「契約書?」

 北条は今までこの制度に出会ったことがなかった。彼は物珍しそうにその契約書を手に取り、内容に目を通す。

 それは簡単かつ明快、単純であり簡潔な内容だった。



『死んでしまっても本ギルドは責任を一切負いません』



「こちらの内容に同意できない場合はクエストを受けることができませんので」

 彼女はにこりと笑って小首を傾げる。

 北条は面倒臭そうに頭を掻き、そこにサインをして彼女に渡す。

 彼女はそれを確認し、

「では依頼書を持って隣のカウンターで資料等を受け取ってください」

 そう促され、順路に沿って移動する。そこでダンジョンの資料を貰い、入り口に向かいながらそれに目を通す。

 依頼:モンスターの殲滅

 場所:ハザド

 報酬:二万コイン+α(ただし、成果によって追加報酬は異なる)


 大まかな情報はこのくらいだ。あとはモンスターの種類や洞窟の状態、生息している生き物は狩るな! といった注意書きなどだ。例えるなら簡単な攻略本だ。

 北条は大体の内容を確認すると、エントランスにある机の上に置き、出て行こうとする。

「ちょっとあんた!」

 そんな彼の背中に声が飛んでくる。が、それに彼自身は気付いていなかった。

「さーて、飯と寝床のために頑張るかな」

「ちょっと止まんなさいよ!」

 うんと伸びをし、一歩踏み出した瞬間、軸にしていた足を蹴られ、背中から床に激突する。

「かはッ!」

「ふん! 無視するのが悪いのよ」

 仰向けに寝転がっている北条を見下ろすように一人の少女が立っていた。

 薄桃色のツインテールに気の強そうな印象を受けるツンとした顔立ち。

「……誰?」

 初対面だった。

「……」

 彼は起き上がりながら彼女を見る。中肉中背で軽めの防具を着ている。某ゲームのシーフを想像すると分かりやすい。年は自分より下だ。高二、十五、六歳くらいだろうか。

 しかしやはり顔は見たことがない。

北条は首を傾げながら、

「どこかで会いましたっけ?」

「……初対面よ」

 やはり彼の記憶違いではなさそうだ。

 それなら、と北条は「ん~」と伸びをし、手を下すときに彼女の頭にチョップを繰り出す。いきなりの攻撃に反応できず、手刀は彼女の頭に振り下ろされ、くらった本人はその場にうずくまる。

「い、いったぁあいっ! 何するのよ!」

「ふざけんな! 不意打ちで転んで後頭部打ち付けるのがどれだけ痛いと思ってんだ!」

 彼女は半場涙目でこちらを睨んでくるが、痛かったのは彼も同じだ。

 北条はため息をつき、

「これでチャラだ。まったく。今回は大事に至らなかったからよかったものを」

 そう言って彼はきびすを返す。が、その服を引っ張られ、立ち止まる。

 見るといまだ涙目の彼女がこちらを上目づかいで睨んでいた。それはまるで子猫の威嚇のようだ。

 何? と北条はそれに関して特に動揺もなく、いつも通りの口調で聞く。それに彼女は押し付けるように持っていた紙の束を出す。それはさっき彼が置いた資料だった。

「資料は持っておくべきよ! クエスト中に何があるか分からないから!」

「……もしかして……それだけのために俺を殺そうとしたの?」

「人聞きの悪いこと言わないで! あなたが呼んでも無視するから強行手段に出たのよ!」

「どんな教育を受けてきたんだお前は! もうちょっと世の中の常識というものを学びなさい!」

「うるさいわね! けたぐりぐらいですっころんだあんたこそ脆すぎるんじゃないの!? クエスト受ける前に一から出直してきたら?」

 大体何のクエスト受けるのよ、と彼女はその資料に目を通す。そして、プッと吹き出したのをきっかけに、腹を抱えて大笑いし始める。

「アハハハハハハッ!! あんたこれ受けるの!? 無理無理無理! 袋叩きにされるのがオチだって!」

 床に再びうずくまり、今度はヒーヒー言い始める彼女。それを見て果てしなく面倒くさくなった北条は小さくため息を吐き、

(もう放っておこう……)

 と彼女をその場に放置し、さっさと入口の方に歩いていく。

 が、それに気づいた彼女が立ち上がり、駆け寄ってくる。

「ちょっと待ちなさいよ!」

「ゲッ、見つかった」

「ゲッて何よゲッて!」

 と怒った後、腕を組んで見下ろすように自慢げな表情をし、

「付いて行ってあげようか?」

「は?」

 だーかーら、と彼女は自分のさほどない胸に握り拳を当て、

「私が仲間になってあげるって言ってるの! まあいやって言ってもついていくけどね!」

「はあ!? なんでだよ!」

「報酬よ」

「正直なのはいいことだ。だが断る!」

「よろしく~」

 と言って彼女は北条の横を抜けて入口を出る。

「おい! 無視して怒ったくせに自分は無視かよ!」

「小さいことで怒らないの。惨めよ」

「ひでぇ……」

 彼はもう本当に面倒くさくなり、ため息をついた後。

「……もう好きにしろ。死んでも俺は責任を取らないからな」

「はいはーい!」

 軽い返事が返ってきた。本当に大丈夫なのかという疑問が膨らむ。そしてその途中で彼女の名前をまだ知らないことを思い出した。

「お前、名前は?」

「ああ、そうだったわね」

 彼女もどうやら忘れていたらしく、出ていこうとしていた足をくるりと北条の方に向けると、

「私は『エムバ』。魔法が得意よ。よろしくね!」

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