モブ
ギルドを出て四日が経った。
目的地まではあと三日ほど。
全部で一週間だ。
北条らは途中にある小さな町で休憩をとっていた。
飲食店に入り、壁側に北条、エムバ、ミセバヤ。反対にカエデ、エントンという感じで椅子に腰かけ料理を待つ。
「しかし、クロ君はすごいね。あんな強い氷の魔法を使えるなんて」
「いえ。逆に得意なのはあれしかなくて」
賞賛するカエデに、北条は少し謙虚な笑み張りつけ、返す。
ここに来る前にちょっとした戦闘があった。
相手は食虫、食獣植物系の魔物だった。
まあそれ自体はそんなに苦労もせず倒したのだが。
戦闘のことを思い出し、北条はチラッとエントンの方を見る。
彼はこの話題に特に何の反応もせず、退屈そうに料理を待っている。
が、
「ああそこは! ってお前、本当に救えないな……」
「あ?」
北条の言葉に反応するエントン。
「なんだ? 俺の戦い方に不満があるってか?」
「……お前、もっかいあの戦闘振り返ってみろ」
振り返り☆
エントン、
「先手必勝!」
先陣切って突撃!
エントンの拳が敵の子房らしき部分に命中!
効果なし☆
「え……」
そのまま相手の蔓に捕えられる。
ついでにエムバも。
「なんでえぇ!?」
エントン、蔓に締め付けられてダメージ。
「くっ、あ、ちょ、そこダメなやつ! あ、待って! そんな太いの無理だって! 入んないってああああああああッッッ!!!」
「え、ちょ! 隣りでエントンさんが大変なことになってるんだけど!!?」
北条:「あいつはもう助からん……」
カエデ:「まあまあそう言わずに、パーティだし一緒に助けようよ」
ミセバヤ:「そうですよクロさん! それにもしかしたらエムバだって……その……じゅ、蹂り」
カエデ:「それ以上いけない」
北条:「それは見栄え悪いから助けよう」
エムバ:「ちょ、見栄えが悪いってなに!? ていうか地上組落ち着き過ぎじゃない!?」
エントン:「おおおぅ!! 深いぃ! ぎぼじわるぐで吐ぎぞう……」
もはやモザイク状態のエントンと、納得がいかず文句を言うエムバを放っておき、北条はチートであることをバレないように、詠唱っぽいことをして剣を突き刺し、相手を氷漬けにする。
「ちょっと待って! 俺これ、入った状態で凍らしたら! うごっ―――――ぐっはぁ!!!」
その隙にカエデが凍った蔓を切って二人を救出。
それを確認してから北条は相手を砕く。
戦闘終了!
「お前の戦闘を初めて見たが……戦闘後、『痔になる……』って言って傷薬持って草むら入っていくやつは初めて見たぞ?」
北条はじとーっと何とも言えない視線を向ける。
それにエントンは、
「な、なんだよ……」
ちょっと嬉しそうに赤くなる。
「なるなよ!」
「う、うるせえ! もう条件反射なんだよ!」
フン、とそっぽを向くエントン。
条件反射。この単語に「これはひどい」と思ったのは自分だけではないだろう。カエデは困ったように笑っているが、あの戦闘でこの人の苦労が身に染みて分かった気がした。
と、
「まったく! 私への心配はないわけ!? 下手したらエントンさんと同じ状態になってたかもしれないんだよ!?」
「お前は需要がないからな」
「グサッ!!」
北条の言葉が彼女の小さな胸を貫き、テーブルに突っ伏してしくしくと泣き始める。
そこに丁度料理が運ばれてくる。エムバはテーブルに置かれた料理を見ると、野獣のように奪い去り、
「もうやけ食いじゃあ!」
がつがつと食べ始める。
その阿修羅と化したような状態を見て、北条も少しやりすぎたかなと心の中で反省し、全員の分が来たところで、料理を食べえ始める。
と、
「全員動くな!!」
『!!?』
ドンと蹴破る様に入口のドアが開き、そこからゾロゾロと顔つきの悪い男たちが入ってくる。数は十数人。
そして全員が刃物を持っている。おそらく山賊か何かだろう。
男たちは客たちが驚いている間にそのテーブルのところに行き、刃物を突き付ける。
そしてリーダーと思われる赤バンダナはその様子を見てカウンターに行く。
「金と食料。ありったけだ」
客の命が惜しかったらな、と付け加える。
店員はそれに恐怖し首を何度も縦に振る。リーダーは「行け」と言い、後ろにいた子分二人を奥に同行させる。
それに北条は小さくため息を吐き、小声でエムバに指示を出す。
「(水蒸気出しとけ)」
「(え? あ、分かった)」
と彼女は小声で詠唱を始める。
「(水よ 砕け散り 舞い 余すところなく満たせ 『無霧』)」
机の下にワンドを構え、魔法を発動する。
特に白くなったりはないが、陽炎のようなゆらゆらしたものがうっすらと発生する。注視しないと分からないレベルだ。
それに北条は目を閉じ、自分の魔力を注いでいく。
これでこの霧が充満すれば、部屋の占拠権は自分にくる。
あとはじっと待つだけ。
が、
「へへ、お前ら人数多いな」
このテーブルについていた山賊がそんなことを言った。
それにビクッと反応する……エントン。
(もう知らん……)
と北条は片目を開けて、そわそわするエントンを見て心の中でため息を吐き、魔力を注ぐことに集中する。
もう少しで完了する。そして完了した瞬間、敵を一掃する。
男は卑猥な笑みを浮かべ、品定めするように女三人を見、
「お前だ!」
手を引く。
おそらくカエデ辺りだろう。もしくは大人しそうなミセバヤか?
そう思っていたら……
「きゃっ!」
「!?」
北条の隣、ミセバヤとは反対側で声がした。
最も聞き慣れた声。
驚き目を開けると、男に乱暴に腕を掴まれ、引っ張られるエムバが目に入った。
「や、やめて!」
「へへ、こりゃあ活きがいい」
嫌がる彼女を男は乱暴に連れて行こうとする。
それに北条は、
「……フ」
「……あ?」
思わず笑ってしまい、それに相手は足を止め、振り返る。その表情はとてもご機嫌と言えるものではない。
「てめえ、笑ったな?」
「プッ! あ、ああ笑ったな。いやあすまんすまん」
と彼は大きく息をし、気持ちを落ち着けると、
「ほら、さっさと行けよロリコン。変態の相手はそこの一人で手いっぱいなんだよ」
ああ!? と男が声を荒げた瞬間、その大きく開いた口を下から突き上げられ、同時に足を払われ、男は後ろに勢いよく倒れる。その拍子に、その手からエムバが解放される。
突き上げた拳をお手拭きで拭きながら、エントンは立ち上がると、その男をキッと睨み、
「仲間に手を出してんじゃねえよ! 尻味噌どもが!」
「お、やればできるんだなエントン!」
「あ? 褒められても生理的に嬉しくないんだが?」
そんな言葉初めて言聞いた、と思いつつ北条は適当にまた詠唱っぽいのをする。
「ま、エムバならいいけどな(笑)」
「どういう意味よ!」
冗談だ、と彼は笑い、魔法を発動する。
「『氷樹木』」
次の瞬間、山賊たちの持っている刃が凍り付き、その刃と彼らの足元から氷の針が現れ、彼らにその矛先を向ける。
「さて、そっくりそのまま返してやる。全員動くな」
山賊たちは拘束し、町に引き渡した。
もちろんお礼はしっかりもらって☆
あの店からは食料をもらい、さらに料金は払わなくていいと言われた。
「さて、いろいろあったが、そろそろ町を出るか」
カエデの声に、皆異論はなく、スムーズに町を出ることができ
「私は異論ありよ! 今回私の扱い雑じゃない!?」
町を出てしばらくのところで、エムバが騒ぐ。
それに北条は「ん?」と反応し、
「そうか? 俺はよくやったと思ってるけど?」
「ふあッ!? そ、そう?」
彼に褒められて、少し赤くなるエムバ。
もう一声欲しいな、と彼の方を見ると、
「あのコンボは使えるな……でも時間がかかるし、普通の戦闘じゃあ難しそうだな……」
褒めたのは一瞬で、すぐに自分の考えに入ってしまう北条。それにエムバはまたムッとし「フーンだ!」とそっぽを向く。それを見ていたミセバヤはクスッと笑い、そして、
「どうでもいいけどね。最近私の出番少なくないかな?」
後藤はそう不満げに北条に言う。
入れ替わったことに気づいた彼は、ため息を吐き、
「後藤……お前、植物との戦闘があった後。『激しいプレイだったね~』から始まって、テレビだったら規制が入るほどのことを平気で吹きまくってたじゃねえか」
「う……」
「そのせいでミセバヤまで『ちょっと危ない子』登録されそうになってたからな? 見てただろお前も」
それを言われ、彼女は気まずそうに目をそらし、
「まあ、あれはあれ。これはこれとしてだね……」
「なら俺の剣貸すから、今度魔物と出会ったら戦ってみるか?」
「女の子の後ろに隠れてやり過ごすなんてサイテー」
「この野郎……」
と、言った具合で一行は町をあとにした。
(……しかし)
と北条は思う。
(あの光景……どこかで見たような……)
・・・
「というわけでけしかけた山賊どもは失敗しました」
「まあモブ中のモブだからな」
「アニメのエンディングでのキャスト紹介で、『山賊(赤バンダナ)』もしくは『山賊A』とかしか表示されないようなやつらだったし」
「ならなんでそんな奴らを使った! もっと何かいただろうが!」
「いや、その……その前に仕掛けた食獣植物系の魔物で……ちょっと……」
「は?」
「あれは……うん。見たら魔物を使うか考えるレベルだったよね……」
「お前ら……何を見たんだ?」
「聞くな……」
「聞かないでください……うげぇ……」
「???」




