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転生迷宮 ―リバイバルラビリンス―  作者: 梅雨ゼンセン
第二章 ―遺跡の神と転生―
15/118

転生の仕組み―2

 あれから一週間が経った。

 北条は完全に回復し、仕事に復帰できるようになった。

 行く当てのないミセバヤは、何かの縁ということもあり、彼らと同じギルドに入ることになった。もちろんパーティは北条のところである。

 それに対し周りからは両手に華という言葉が飛んできた。確かに見た目はそうだろう。

 しかし実際には、片手に面倒な魔法使い、片手に得体の知れない自称神を持っている……否、神の方は持たされている感じになっているのだ。

 ……加えてエムバには蠱毒がある。あの後ミセバヤ、後藤と話し、エムバには蠱毒の話をしないでおこうということになった。下手に精神に負荷をかけて暴発するのを懸念してのことだ。 



 と、いうわけで、




「ねえクロ。あっちの魔法屋に行ってみようよ! あのネックレスが見たい!」

「クロさん。私こっちの本屋に行きたいです! この時代のことをもっと知りたいです!」

 街中、

 エムバは左手を、

 ミセバヤは右手を掴んで、

 互いに反対の方向を指さす。

(なんだろう、俺の体を引き裂こうとでもいうのだろうか……)

 北条ら三人は買い出しのついでに町を歩いて回っていた。 

 クエストや怪我もあり、街に来るのは久しぶりな感じがした。

 そしてなぜこの状況が出来上がったかというと、それは北条が発した言葉にある。

 それは町に入ってすぐのことだ。

「お前らなんか欲しいものあったらいっていいぞ」

「「……え?」」

「いやそんな耳を疑うことか?」

「だって……あのケチなホウジョウが奢るって……」

「エムバさん。こんなことは言いたくないんですが……やっぱりあなたの」

「やめて! 私は悪く、ない……私は悪くないのよ!!」

「罪を認めてください! 考えられる原因はあなたのヒップドロップしか……って北条さんおいていかないでくださいよ! ちょっと悪ノリしただけじゃないですか!」

「そうよホウジョウ! 今まで医務室の薬品くさい雰囲気ばっかりだったから気分転換にしただけじゃない!」

「そうか。ならいい気分転換になった。おかげで微々たるものだったお前らへの感謝の気持ちも転換できたよ。さ、買い物を済ませよう」

「待ってよ!」「待ってくださいよ!」

 これがことの発端だ。 そして必要最低限の買い物を済ませ、仕方なく二人の要望を聞くことにしたらこのざまだ。

 北条はうんざりした表情でため息を吐く。「じゃあジャンケンて勝った方からな」

 というわけで、二人は北条の手から離れ、互いににらみ合う。

 そして、

「……悪いけど、手加減しないからね」

「それはこっちも同じです。負けても知りませんよ?」

 そして、

「「最初はグー……」」

 二人の魔力の量が一気に跳ね上がる。ブワッ、と大気が揺れる。

「「ジャンケン……」」

 腰を落とし、その巨大に膨らんだ魔力を全て己の拳に集約する。

 そして、

「「ポン!」」

 二人の拳が突き出される。巨大な魔力同士がぶつかり、カッ、と眩い閃光とともに発生した衝撃波が彼女らを中心とした辺りの全てを吹き飛ばす。

 そして勝敗は……



「やったー! 勝ちました!」

「ま、負けた……」



 両手を上げて勝利を喜ぶミセバヤ。そして地面に四つん這いになってうなだれているエムバ。

 そこに北条が近づいてくる。それに気づいたエムバは顔を上げる。

「うう……」

 最後のダメもとで涙目で彼に無言で訴える。最後まであきらめない根性と言えばまともなように聞こえるが、実際あくどく、ズルい。

 北条はそんな彼女の前に座ると、その頭に手を伸ばし、

「なんだあの演出は」

 ピシッ! と額にデコピンを入れる。

「ッ――――――――――――!!」

 シュゥ、と額から煙を出して蹲るエムバ。そしてそれをなぜか羨ましそうに見るミセバヤ。もちろんそれに北条は気づいていない。

「ううう……ひどい……」

 本格的に泣きそうになっていた。彼と一緒に町を回ってお店とかを見て回りたかったのに、じゃんけんで負けてその上彼からデコピンまで受ける。

 泣いてもいいよねこの状況。

 と、エムバの涙腺が決壊しそうになったところで、ポンと彼女の頭の上に手がのせられた。

 そのまま北条は彼女の頭を撫でる。

「泣くな。後で行くだろ?」

「……うん」

 くしゃくしゃと撫でる手に、エムバは少し顔を赤らめる。

「……ズルい」

 それを見ていたミセバヤはムッと頬を膨らますと、彼の空いている腕に抱きつき、

「私が勝ったんですよ! さ、早く行きましょう!」

「おい引っ張るなよ! おい!」

 北条の腕を引っ張り、目的の本屋の中に入っていくミセバヤ。その顔は少し不機嫌そうに見える。

 中に入ると紙独特の柔らかい香りが漂う空間が広がっていた。天井まである本棚が整列しており、古い本も多い。

「クロさん。どの本にしますか?」

「どの本って……」

 ずいぶんと困った質問だ。自分が読みたい本を選ぶのが普通ではないのか。

 と、思いはすれど口には出さず、「うーん」と唸って店内を一通り見回した後、

「……これかな」

 気になった一冊を手にとる。それにミセバヤは素早く反応し、

「これは魔物の図鑑ですか?」

「ああ、一応こういう仕事だからな。ある程度は詳しくないと」

 北条は図鑑をペラペラと適当にめくっていく。中にはこれまで倒してきた魔物やまだ出会ったことのない魔物がたくさん書かれている。「昔の魔物なら詳しいんですけどね」

 図鑑を覗き込んで、ポツリとミセバヤは呟く。

「今と昔は違うのか?」

「あくまで私の感じたことですけど、新しいものが増えているように感じます」

 ふーん、と少し興味を抱く北条。

 と、しばらく二人で図鑑を見ているとミセバヤはチラリと外を見て、クスリと笑い、

「そろそろ本を選びましょう」

 と、小さく外を指差す。その先に目をやると、頬をパンパンに膨らまし、ムッとしてこちらを睨むエムバの姿があった。

 彼女は北条の視線に気づくと、「ふんっ!」とそっぽを向いてしまう。ご機嫌斜めのようだ。

 北条はため息を吐き、

「ミセバヤ。本は決まったか?」

「はい!」

「早いな」

 いつのまに、と思って彼女の方を見ると、そこに彼女の姿はなく、縦に積まれた本のタワーがあった。

「は……?」

「これ全部お願いします」

「三冊までだ」

「えー」

 というわけでお会計。それでも現財産の三分の一が飛んでいった。本とはいい値段をするものだ。あなどれない。

 十冊以上あった本は三冊まで減ってしまったが、それでも彼女は嬉しそうにそれを抱きしめる。

「ありがとうございます! また機会があったらお願いしますね」

「あったらな」

 そして店を出て、次はエムバの買い物である。

「遅い! 遅刻よ!」

「もとから時間は設定してないだろ」

「そんなことはいいから早く行こ!」

 と、彼の腕を引っ張り店の中に入っていく。

 店内には装飾品の形をした魔法道具が多い。専門に扱っているのだろうか。

 エムバは目を輝かせ、店の中を見回す。

「あんまりハシャいでもの壊すなよ」

「言われなくても分かってるわよ」

 言われてまたムッとするが、それでも楽しそうな彼女を見て、ため息の後に頬が綻ぶ。

「で、何が望みだ? ……言っとくけど高いのはダメだからな」

「え……」

 その瞬間、彼女は北条の方を向いてフリーズする。彼女の進路の先には、見るからに高価そうなものばかり扱っているコーナーがある。

 えぇーっとー……、とエムバは辺りを見回し、

「……ダメ?」

「NO」

「んぇえーッ! 買ってよ!」

「ガキか!」

 買ってよ買ってよ! と子供みたいに駄々をこねるエムバにため息を吐く。とりあえず辺りを見回し、近くにあったイヤリングをとる。

「ほら。こういうのはダメか?」

「……」

 口はへの字に曲げ、目には涙をためているが、とりあえず泣き止んてイヤリングを受け取る。そして袖で涙を拭い、

「……北条は……これがいいの?」

「経済的にはな」

 そう言われて彼女は「うう……」とまた泣き出しそうになる。

「待て待て待てっ!」

 慌てて北条はその泣き顔にストップをかけ、ため息を吐く。

「……これがいいよ」

 その一言を聞いた瞬間、彼女の顔はパァッと明るくなり、

「分かった」

 嬉しそうに頷いた。

 というわけで会計を済ませ、店を出ると、

「クロさーん!」

 出た途端にミセバヤが腕に抱きついてきた。

「今度はあっちに行きましょう!」

 ぐいぐいと引っ張り、連れて行こうとする。

「ちょ、待てよミセバヤ!」

「そうよ待ちなさい!」

 と、今度は反対の手をエムバが掴み、引っ張る。

「クロ。今度はあっちに行こう?」

「おいちょ! おまえも落ち着けって!」

「私のこれまでの人生の中で一番落ち着いてるわ!」

「鏡見て顔洗ってこい!」

 んにゃあぁ~!! と互いに譲らない引っ張る女子二名。

 もう面倒くさくなり、北条はため息を吐く。と、それに「んにゃッ!」と気づいたエムバが、

「嫁がこんなにがんばってるのに何でため息!?」

「ああ悪かったよ。ったく。お前ら俺を引きちぎるつもりか?」

 と言った矢先、またため息を吐く北条。

 が……

「「ん?」」

 吐いた直後、北条とミセバヤが同時に反応した。その拍子にミセバヤの掴んでいた手がゆるみ、体がエムバの方に引っ張られる。

「つっかまーえたー♪」

 そのまま彼の体を抱き寄せ、満足そうに顔を擦り付けてくるネコエムバ。

 何が何で、何がなんだか分からなくなる北条。

「え、え、えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ…………………………」




      ・・・




「ハアッ!?」

 そんな意味の分からない悲鳴を上げて覚醒する意識。

 変な汗を全身に掻き、鼓動が激しくなっている。

 北条は自分の腕を見る。右腕はもうすっかり治ったが、左腕は階段のときに変な突き方をしたらしく、一週間経った今でもまだ包帯のままである。もちろん買い物なんて行っていない。ミセバヤがギルドに入ったのは本当だが。

「なんて夢だ……」

 悪夢にもほどがある……。

 思わず頭を抱える。と、

「良い夢見れたようだね」

「……そう見えるか?」

「ああ」

 入口近くの壁に寄りかかり、後藤は皮肉った笑みを向けてくる。

 北条はため息を吐く。

「で、なんでここに居るんだ? ミセバヤはさっき寝るって自分の部屋に行っただろ」

「彼女は寝てるよ。起きてるのは私」

「便利だな。夜はなんでもしほうだいか」

「誤解を招くようなことを言わないでくれるかな。私はそんな気はない。だいたい体は一緒なんだから疲れは彼女にも出るんだ。それは私の望むところじゃない」

「なら寝ろよ」

 北条は彼女からそっぽを向く形で寝返りを打ち、目を閉じる。生憎今は寝覚めが悪い。寝ていたのになぜ疲れているのだ。

 速く眠って無駄に使った体力を取り戻したいという気持ちでいっぱいだった。

 しかし……

(……嫁……?)

 その単語が一瞬頭に浮かんだ。我ながら欲求不満にもほどがある。自分ではあまり感じていないが、やはり男ということでそういったものが潜在的にあるのだろうか。

「冷たいなあ」

 と後藤は彼の背中側のベッドに腰掛ける。

「いきなりで悪いんだけど、ちょっと君のことを教えてくれないかい?」

「……俺のこと?」

 予想外の言葉に北条はちらりと彼女の方をチラリと振り返る。後藤の表情にふざけたものはなく、真剣なものだった。

「何故?」

 いきなりそんな質問をしてくるなんて、何かあったのだろうか。

 後藤は少し迷い、

「……まだ仮説の段階なんだ。それに君はまだ神だと信じてないんだろ?」

 言いにくそうに俯く。

 それに北条はため息を吐き、

「あのな。俺はなにもお前のことを否定したわけじゃないぞ? あくまで可能性の話であって、現状ではそれが低いって言っただけだ」

「ん? ああいやいや。それについて落ち込んでたわけじゃないんだ」

 後藤は特に落ち込んだ様子もなくケロッと返してくる。逆に北条はめんどくさそうな顔になる。

「……そうですか」

 溜め息混じりに言う。

 後藤はそれにクスリと笑い、

「何だい? 心配してくれたのかい?」

「うるせえ。話聞かねーぞ?」

 ごめんごめん、と機嫌を悪くした彼にそれでも笑いながら謝り、

「ありがとね」

 さらりとそう付け足し、話に入る。

「で、さっきのことだけど。君の話を聞いてからこちらが話せそうなら話すってのはダメかな?」

 そんなに危ないことなのだろうか。しかしこれだけ言って聞かないのだ。北条は少し迷ってから、

「……分かった。とりあえずそれでいこう」

「ありがとう。ならさっそく」

「って言ってもなぁ……質問が漠然としすぎだ」

「それもそうだね。ふむ……なら『君が死んだときのこと』を教えてほしいね」

 なぜ? と言おうとして出かかった言葉を飲み込む。とりあえず話す。自分はそう約束したのだ。が、少し気が進まない。

「溺死だ」

 彼は寝転がったまま、振り向かずに言う。

「16歳、高一の夏に川で溺れて死んだ。今でもたまに夢に出てくるよ」

「高一の夏に溺死……その歳のまま転生?」

「ああ。その時にチートとして転生した」

「それまでは普通の高校生だった?」

「ああ。少なくてもこんな魔法を使ったりはできなかった」

「てことはこっちには三年いるってことだね」

「……そうだな」

 もう三年も経ってしまっていたのだ。

(……あいつらが死んで二年か)

 パーティの顔を思い出す。一年間旅をした仲間たち。

 死んでいった仲間たち。

 その時俺は、何もできずに、

 ただ、逃げることしかできなかった。

 逃げたのだ。

 背を向けて……

 拳に力が入る。爪が、食い込むほどに。

「大丈夫かい?」

 後藤の声で正気に戻る。彼女の顔を見ると、柄にもなく心配しているようだった。

 北条はしばらくそのまま呆け、くすっと笑うと、

「お前に心配されるとはな。神様だけに世も末だな」

「それってうまいの?」

 さあな、と適当に返事し、自分の気持ちを落ち着ける。さすがに後藤も彼の様子を見て、事情については聞く気にならなかった。

「で、質問はそれだけか?」

「まあ……いまのところはね。今度はこっちの番かな。まだ推測、仮定の域は出ないけど、まあ話してくれたしね」

 と、彼女は短く息を吐くと、

「転生のシステムが奪われた可能性がある」

「はあ!?」

 思わずそんな声を上げて起き上がる。彼女の表情から察するに、冗談を言っているわけではないようだ。

「……どういうことだ? 根拠は?」

「……うろ覚えなんたけどね。転生は私が電源であり、コントローラーだったはずなんだ。しかし私はここに……彼女の中に存在している。なのに動いてる。現に君は転生している。しかも三年前に、だ。私はあの遺跡ができたころから封印されていた。まあ、適当に百年はあそこに居たことになる」

 つまり百年以上得体の知れない何者かが転生のシステムを操っている。

 その話が本当なら、突拍子もないことだ。この一週間内に事態が猛スピードで進行していく。

「……仮定の域は出ないんだろ?」

「まあ……ね」

 後藤は考えを巡らせながら、迷いのある反応をする。正直北条にはスケールが大き過ぎるせいか、あまりことの重大さが伝わってこない。

 生命のその後を操っているやつがいるかもしれない。それはすごいことだ。

 その程度の認識しか持つことができない。

 しかし後藤は違う。彼女は爪を噛み、苦い表情をしている。彼女にはことの重大さが理解できているのだ。

「なあ。転生が乗っ取られたらどうなるんだ?」

「さあね。それは私にも分からない。でもそいつは相当な力を持っているってことは確かだね。それこそ神に匹敵するほど……」

「おいおい。神さまはいつからそんなに安くなったんだ?」

 北条はそこで少しお道化て見せる。それに後藤はポカンとして一拍間を置き、

「ハハ! ほんとにね」

 さっきまでの悩んだ表情は消え、笑顔が浮かんだ。北条もそれを見て少し安心する。

「考えることはいいことだが、考え過ぎはよくない」

「……確かに今はどうしようもないことだからね。うん。なんか話したら楽になった気がするよ」

 そういう彼女の顔は、確かに話している最中よりも明るくなったように見えた。

「それはよかったよかった」

 と彼は再び横になり、布団を被る。

「今日はもう寝とけ」

「そうだね。おやすみ」

「おやすみー……」

 と目を瞑ったところで、背後に違和感を覚える。

「……おい」

「ん?」

「ん? じゃねえよ!」

 バッと振り返ると、案の定添い寝のポジションをとっている後藤。彼女は北条の使っていた布団を奪っていき、

「おやすみー」

 と完全に居座る気満々である。カチンときた北条は彼女の包まっている布団を持つと、

「どけ!」

 バサッと引っぺがす。

「あ~れ~ゲフン!」

 ベッドの上をくるくると転がり、後藤は地面に落下する。そしてどうやら顔面で着地したらしく、赤くなった鼻を押さえて、

「い、痛いじゃないか! これはミセバヤの体なんだぞ!」

「ならもっと気を遣ってやれよ! 早く自分の部屋に帰って寝ろよ!」

「さ~み~し~い~」

「死ね」

「ひど!」

「おやすみ」

「おやすみー」

「だから入ってくんなって!」

 というやり取りは夜の2時現在から小一時間ほど続いた。

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