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転生迷宮 ―リバイバルラビリンス―  作者: 梅雨ゼンセン
第二章 ―遺跡の神と転生―
13/118

神、命名

「右腕骨折に肉離れ寸前のハムストリング、ついでに全身打撲っと……」

 薬品の匂いが充満している。

 薬や様々な器具が並ぶ部屋の中、命からがらギルドに帰ってきた北条は一人の女性と向き合っていた。

 彼女は彼の症状を記したメモを見て、うん、と頷き、

「一回死んだほうがいいんじゃない?」

「医者の言うことじゃねえ!」

「冗談よ」

「おいちょっと表出ろ」

「嫌よ」

 銀の長髪を手で撫で、ふん、と鼻を鳴らすメガネの女性。彼女の名は『サラ』。このギルドでの医務係だ。

「まあとりあえず回復魔法で腕と大半はさっき治したし、あとはこの回復薬と気合でなんとかしてね」

「気合って、あんたホントに医者か?」

「病は気からって言うじゃない。安心しなさい。私も意味のない薬は出さないわ」

(出されてたまるか……)

 薬を受け取り、そう心の中で突っ込んで北条は医務室を出る。と、廊下の端にに一人の少女が座っていた。

 暗い表情をしている彼女。北条はため息を吐き、なるべく普通に話しかける。

「ようミセバヤ」

 そう声をかけると彼女はボーッとしていたせいで少し驚いたように反応し、それから気まずそうに目を泳がし心配そうな顔をする。

「あ、その……大丈夫でしたか?」

「ああ。ほとんど魔法で治ったからな」

「そうですか!」

 よかった、と胸をなで下ろすミセバヤ。この優しい雰囲気は本物のミセバヤのものだろう。

 彼女は改まって真剣な顔で北条の方に向き直ると、頭を下げる。

「あ、あの……本当にすいませんでした!」

「もういいよ、終わったことだし……」

 彼女の態度に北条はなんだか少し申し訳なくなる。

 ここに帰ってくる途中、彼女と話す機会があった。

 彼女は長い間あの遺跡の中に閉じこめられていたそうだ。

 それは彼女の中にいるあの『自称〈神(笑)〉』を封じ込める為だという。

「あ? 誰が自称〈神(笑)〉だって?」

「こいつ直接脳内に!」

 というのは置いといて、そこで当然の疑問が生じた。

 一体何歳なのだと。

 いつの時代から生きている?

 帰りに北条がその質問をすると、彼女は困ったような迷っているような表情をし、

「……帰ったらお話します」

 と言った。

 北条はそれに従った。理由は下記の通りである。

「……エムバさんは大丈夫でしょうか……」

 ミセバヤは心配そうに俯く。

 エムバはあれから目を覚まさないのだ。ミセバヤの話を聞くならあいつも一緒の方が効率が良い。

「体のどこにも異常はないらしい……呪いを除いて」

「心配です」

「そうだな」

「……」

「……」

 ………

 静かな廊下。少し遠くのエントランスホールから人の声が聞こえてくるが、廊下自体に音を出すものはない。

 二人の間に微妙な沈黙が流れる。

(なんだろう……初対面だから気まずい……)

(ど、どうしよう! 私のせいで空気が重たく……何か話した方がいいのかな? でも疲れてるみたいだし黙ってたほうが……でも余計に気を遣わせちゃったら……)

 俯いて目を焦り気味に泳がせるミセバヤ。なんとなく彼女の反対の方を見て頭を掻く北条。

「あー……ミセバヤ」

「ひゃい! 何でしょうか!」

「いやそんなにかしこまる必要はないんだが……まあいい」

 いきなり声を抱えられてピンと背筋を伸ばす彼女を北条は少し不思議に思ったが、特に触れることはせず話題に入る。

 彼は真剣な顔になり、ミセバヤの方を見る。

「蠱毒って何なんだ?」

「……エムバさんのことでしょうか?」

 ああ、と彼は視線を外し、両ひざに肘を突き、ため息を吐く。

「あれはなんなんだ?」

「あなたの知ってる蠱毒って、虫とか蛙とかを使うやつですよね?」

「ああ。にわか知識しかないが、ずいぶん強い呪いらしいということは知っている」

 虫や蛙、百足に蛇に蜥蜴にその他もろもろをツボに閉じ込めて食い合いをさせる。そしてその中で最後の一匹になったものを使って発動する呪い。

 細かいところは分からないが、これが彼が持っている蠱毒の知識だ。

 ミセバヤは小さく息を吐くと、

「ちょっと彼女・・に変わりますね」

「頼む」

 彼女は目を閉じる―――――――そして開ける。

 神はにぃっと嫌味な笑みを浮かべると、北条の顔を覗き込み、

「傷の具合はどうかな?」

「ぼちぼちだ」

「まあ中から覗いてたから分かってたけどね」

「てことは今はミセバヤが中から話を聞いてるってことか?」

「そうだね。バッチリまる聞こえだね」

 つまり窓を通して聞いてるって感じか。

「なんか卑怯だな」

「アハハ、中で彼女反論してるよ。で、蠱毒の話だっけ?」

「ああ。あれは普通の……って言っていいか分からないが、俺の知識にある蠱毒とは違うのか?」

「まあそうだね」

 彼女の声音に変化は見られない。まるで興味がないような印象を受ける。

「あの『蠱毒』は魔法だね」

「なんだか軽々しく聞こえるな」

「それは価値観の問題だし置いておこうか」

「なるほど」

「君が知りたいのはアレの効果だろ?」

「まあそうだな。とりあえずは」

「OKOK。あれは成長する魔法だね。生きてる魔法だよ」

「……」

「おや。あんまり驚かないんだね」

「まああんなもの見たらな。生きてるって言われれば確かにとしか言いようがないだろう」

 巨人の体を貪り喰らう『黒の物質』。

 あの姿を見たら誰だって生きているという印象を受けるだろう。

 神は「ふ~ん」と少し感心したように彼を見て、

「その余裕は抑え込めるっていう自信からかな? だったら甘いね」

「成長するからか?」

 自慢げにしていた彼女の表情がピタリと固まる。そして次にジトぉ~とした視線を彼に向け、

「……人の言葉を取らないでもらえるかな?」

「悪い」

 そう返すも、彼は自分の手を見て何かを考えているようだった。

 しかし彼は疑問に思っていた。

 成長するなら巨人を食った直後のやつは前よりも強くなっていたはずだ。なのに自分はあのふらふらの状態でも元に戻すことができた。

「蠱毒は温かい感情に弱いんだ」

 彼の疑問を見透かしたように神はその言葉を放った。

「使用者の精神とかに関わってくるものは、その人の心の影響を受けやすいんだよ」

 それに北条は舌打ちし、

「また茶番の効果を使って脳内に侵入したのか。さすが自称神(笑)」

「そんなことしなくても顔に書いてあったよ。ていうかその呼び方いい加減やめてもらえないかな? いい加減キレるよ?」

「胴体が?」

「堪忍袋の緒がね。起こった瞬間胴体が飛ぶってどれだけキチガイなんだい。それとももう頭が逝ってらっしゃるのかな?」

「常時沸点なやつに言われたくないな」

「ジョージ沸点www」

「あ? 殺すぞ?」

「なら呼び方を改めてほしいんですけどね」

 めんどくせぇ、と北条は天井を仰ぎ、しばらく思考を巡らす。

 そして、

「……後藤ごとう

「はあッ!? ちょちょちょっと待て!」

 さすがの神も大慌てで突っ込む。

「どこから!? 私のどの辺りから『後藤』感が出てるの?! 意味わかんない意味わかんないあっはっはっはっはっ! センス? それセンス有りなの? アハハハハ!!」

「Godから鈍って後藤だ。お前これで決定な」

「ちょ本当に!? マジでそれはいや! なら前の自称神(笑)の方がまだマシなんだけど!」

「呼びづらい」

「自覚あったなら呼ぶな!」

「話を戻すぞ後藤」

「さらりと戻るなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



命名:『後藤ごとう  じん



「……もう疲れた」

 後藤は言ったとおり疲労感を含んだため息を吐く。

「彼女はもうすぐで目を覚ますと思うよ」

「……!?」

 何の前触れもなく放たれた言葉に彼は一拍遅れで反応する。

 どういうことか、本当のことかを聞こうとすると、その前に彼女は目をつむってしまい、ミセバヤと交代しようする。

「おい!」

 慌て肩を掴む。再び目を開けたあと、彼女はにこりと穏やかに笑う。ミセバヤのようだ。

「大丈夫です。言葉のままですよ」

「いやそうじゃなくてだな……何で分かるんだ?」

「当然体力と魔力が回復したからですよ。彼女の話だと、蠱毒じたいはあなたによって押さえられたので、気絶したのは使用時の激しい疲労せいみたいです」

 さ、行きましょう、と彼女の北条の背中に回ると押して階段に向かう。

「おい!」

「さあさあ早く行きましょう! 彼女が起きてたら待たせることになってしまいますよ」

 そういってぐいぐいと背中を押すミセバヤ。北条はため息を吐くと、仕方なく彼女の指示に従うことにした。

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