草津
「軽井沢だって?」
「そう。日本が誇る避暑地、軽井沢。ここが今回の旅行先。交通の便の良さだけで、選んだ」
「千葉も候補だったじゃないか。どうして、落選したんだい?」
「千葉は、途中合流・途中離脱組、つまり電車だと、意外に面倒なんだ。例えば、館山だと東京駅から特急で1時間半もかかる」
「JRに捨てられた土地か。…だから軽井沢なんだね」
「そうだ。あそこなら新幹線で1時間、30分くに1本はあるからな」
「でもほんとは京都か九州の予定で、目星もついてたんだろ?」
「俺は少人数ならばと、旅をしたかったんだ。曲がり道ひとつひとつで広がる知らない土地、想像を超えた絶景、地産地蛸の素晴らしさ、一期一会の奇跡、そういうものを欲しているんだよ。その点、前回の琵琶湖は完璧だった」
「九州なんていいね。阿蘇なんて行ってみたい」
「紀州ってのもあったんだ。…なんかぱっとしないんだよな」
「そんな君に一言」
「なんだ?」
「集まることに意味がある。どこかのひねくれの言葉だよ」
「…」
「それで、わざわざこんな小説にしてまで、なにが言いたいんだい?」
「俺は…草津に行きたい」
「なんだって!(バックトゥーザフューチャーのドク風)」
「泊まる家は、どちらかというと軽井沢というより、嬬恋なんだ。北へ20キロ、日本ロマンティック街道をひた駈ければ群馬の巨大税収源、日本1の温泉街、草津だ」
「しかし...それは」
「そうだ。大きな弊害がある」
「僕は背筋が凍りそうだよ」
「俺もだ。こんな風にネタにして、あとで怒られたらどうしようかと思っている」
「独裁国家E組との唯一のパイプであり、その強いカリスマ性で学級委員長を歴任。学力、運動、酒量ともに申し分なく、我らB組きっての強硬派と知られる…」
「酒井…篤司!!!」
「…」
「…」
「そもそもどーして彼は、草津が嫌なんだい?」
「同月、行くらしい」
「それは...黄金風呂として知られる伊香保じゃ駄目なのか?」
「実は、伊香保は湯量の問題から、全てのところで黄金風呂じゃないんだ。それに...」
「ん?なんだい?」
「赤線の名残であり、今も人身売買が行われている、真っ黒の街。俺のイメージが最悪なんだ。ニュース観たろ?大学生」
「皮肉かよ、中退君」
「長野業正も大したことないんだな」
「おいおい、時代が関係ないだろう。それに、草津に行きたいって話だったじゃないか」
「草津案。しかし、それは自分がやりたいことだけをやる。それじゃ、まるであの時のままだな」
「それを君が言えたことかい。それに、君達の冷戦は終わったんだろ?」
「確かに俺たちの冷戦は終わった。しかし、所詮は20そこらの未熟同士。いつどうなるかわからない。昨日の友は今日の敵。特に俺みたいな未熟の塊はな、火種が多すぎる」
「...今日はやけに自虐的だね。おとなしく軽井沢観光でもしているんだね」
「ジョンレノンになるのも悪くないな。しかし、どこかSTARSHIPエッセンスに欠ける」
「出たよそれ。…いつまでやり続ける気だい?その設定。君は虚しくならないか?」
「…不満を言えばキリがないが、結局俺は、誰でもない俺の意志でやっていることだ。辞めるときは辞める」
「意志か…」
「とにもかくにも草津から話が流れすぎだ。こんなに長くやる気なかったんだぞ、このコーナー」
「いいじゃないか、分厚いパンフになって。内容もパンフ同様の分厚くしよう」
「嫌でも分厚くなる。人数じゃない、積み重ねた年月だからな」
「加藤が誕生日なんだって?誕生日旅行とは、オイシイところ持っていくな、あいつ」
「馬鹿野郎、これ以上長くするな。店を変えよう、そこで続きをしよう」
「よし、良いだろう」
友と酒を交わす、素晴らしい時間だ。それは、言わなかった。いや、言えなかった。
「鶏だな」
「さすがは盟友、俺もそう思っていたよ」




