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 その時、『僕の手を握って』とどうして自分が言ったのかもわからないんだ。大切な友達のライナやシュリモナやましてや僕と血を分けた兄様とだって、一度も一緒に空を飛ぶことはできなかったんだよ。一緒に飛びたくて、空を飛ぶ楽しさを知ってもらいたくて、何度も手を握って空に誘ってみたけど、手を握った瞬間僕自身も飛べなくなってしまっていた。

 誰一人として僕と一緒に空を飛ぶことはできない。

そして、誰かと一緒だと僕も飛べなくなる。

 それが事実だったはずなのに、どうしてだか僕は王子さんの手を掴んでいたんだ。王子さんとなら一緒に空を飛べる、そんな気がしていたんだ。不思議なことにね。



 王子さんと手が繋がった瞬間、体中に静電気のような電流が流れた。そして、僕の日常だった体に羽根の生えた感覚が僕を包んだ。


 いけるね!!きっといけるよ!!


 飛ぶことを前にした僕にはもう高揚感しかなかった。井戸の底から足が離れ、体が少しずつ浮いた。

「・・・これは一体・・・?」

 何が起こるのかと僕をじっと見つめていた王子さんが呟いた。僕に引っ張られるように王子さんの体も水面から少しずつ浮き上がってきていた。


 王子さんと手を繋いでいても体が浮いた。王子さんも一緒に空を飛べるよ!!


 僕は勢いのまま井戸の中を上昇した。王子さんも暴れることなく僕に従ってついてきてくれた。そのまま僕は一気に井戸を飛び出した。

「やったぁ!!出れたよ!!」

 喜びのまま僕は王子さんと雲まで急上昇した。その間、王子さんが驚いた表情で僕のことをずっと見ていたが、久し振りの浮遊感に僕は止まらなくなっていた。

「雲だよ!空だよ!風だよ!」

 僕は雲の近くまで来ると、目を閉じ、大好きなもの達を暫く味わった。


 ああ!最高!!


「君は一体・・・?」

 王子さんの声に目を開けた僕は、目が見開いたままの王子さんにとびきりの笑顔で言った。

「これが僕の秘密だよ。僕ね、空が飛べるの」

「空を飛ぶ・・・?」

「そうだよ。王子さんも今飛んでるよ」

「空を飛ぶことができる人間がいるなんて一度も聞いたことがありません・・・」

「うん、だから秘密にしないといけないんだって」

 そう言った後、急に体がブルブルと震え出した。


 うう、寒い・・・。


 暖かい季節のはずなのに、体中がずぶ濡れだったために風にあたることで体が冷えてきてしまったようだった。

「王子さん寒くない?早く着替えないと風邪をひいちゃうね」

「ええ、確かに・・・」

「ここはどこなんだろうね。学院の近くだったらいいんだけど」

 空に浮かんで見てはじめてわかったが僕達が落ちていた井戸はうっそうとした森の中にあったようだった。そのため今眼下には木々があるだけだった。僕はここがどこだかはっきりと確認するために再び急上昇した。すると王子さんがすぐに一ヶ所を指差して言った。

「あちらに城が見えますね」

 王子さんの指差す方に目をやると、朝もやの中に微かに虹国のお城が見えるのがわかった。

「ということはここはどこ?」

「西の森ですね。学院はあちらの方です」

 王子さんの指し示す方を見ても、今の場所からは学院の姿形を見ることはできなかった。虹国の土地勘のない僕は王子さんの示す方向に向かって飛んでいくことにした。


 学院からずいぶん離れた所に来ちゃっていたんだね。帰るのに時間はどれぐらいかかるの?


「王子さん、このまま学院まで飛んでいくね。服が濡れているから風が冷たく感じると思うけど大丈夫?」

「大丈夫ですよ」

 そう言うと王子さんは何かを唱えた。すると、泥水まみれだった僕の服が新品の時のようにきれいになった。

「あっ、魔法?」

「そうです」

「ありがとう」

「お礼はいりませんよ。君の力ですからね」

「そうだったけ?でも、これで寒くないや。それじゃあ、学院に向けて出発!!」

 僕は王子さんの手を握りしめ、学院に向かって飛びはじめたのだった。

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