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納得がいかず僕は言葉を続けた。
「でも、僕聞いたよ。王子さんが祝福の王子って呼ばれているって。王子さんが産まれたときに、大地は揺れて空から色々なものが降ってきたんでしょ?雷とか雹とか。人間以外の者達にも歓迎されて祝福されて産まれてきたから、祝福の王子って呼ばれているんだよね。友達が言っていたんだ。8番目に産まれた王子さんだけど、将来この国の王になるって」
「ええ、確かにそれであっています。私のことを皆、祝福の王子と呼びます。でも、その祝福の王子には魔法の力がなかったんです」
「それって本当に?」
「ええ、私自身には毛ほども魔法の力がないんです。私には兄弟が11人いますが、それは私だけです。兄弟だけではありませんよ。虹国の王家の者で私のような魔法なしの人間は初めてらしいです」
そんなことってあるんだね。なんだかちょっと、僕に似ている。
「王子さんて、僕と一緒だね」
そう言って同意を求めて王子さんに笑いかけると、王子さんは首をふった。
「いいえ、私と君とは正反対です。君の容姿は君の本質を隠すためにわざと特異なんですよ。現に君は魔法の力を持っています。随分濃いものをね。きっといつか大きく羽ばたくに違いありません。でも、私はどうです?ただのなりそこないです」
そこまで言うと王子さんは自分の耳に触れ、そして言葉を続けた。
「私は誰かから魔法の力を吸いとらないと、魔法を使うことができないのです。緋石があってはじめて魔法科最強となるのです。私自身には花咲くものは何ひとつない。私は空っぽなのです。私が産まれた日に、あらゆる場所で地震が起こり、多くの場所で異常気象が起こった。ただそのことだけによって私は祝福の王子を演じなくてはいけなくなったのです。こうやって、命を狙われながら。ただのなりそこないの王子なのに」
事実を知って、何て言っていいかわからず黙ったままの僕に王子さんは言った。
「君は決してなりそこないないではありませんよ。きっとね」
自分はなりそこないで僕はなりそこないじゃないって、なんだか切な過ぎるよ。
沈黙が少し続いた後、王子さんが再び口を開いた。
「そろそろ、呼吸がしづらくなってきませんか?」
「え?」
「私の背中に矢を放ち、この井戸に落とした人間は用意周到だったのかもしれませんね。放っておいても、いずれ力尽きて死にますがそれでは駄目だったようです。恐らく私の死体が必要なのでしょう」
「死体・・・何のこと?」
「私は次期王として、常に命を狙われているんです。私の側にはいつも5人の人間がいるのですが、彼らは護衛ですよ。緋石の原料でもありましたがね。昨日、私は君の正体を暴きたいがために、君に夢中になりすぎて警戒をおろそかにしてしまいました。そのために、私を亡き者にしたい人達の罠に嵌まってしまったんです。ほら、気付きました?」
亡き者って物騒な・・・。それに気付くって何に?
「水位が上がってきているのです。今は顎の下まで水がきています。鼻まで水がくるのももう間もなくですよ。お喋りももう出来なくなりますね。私と君は死ぬのです。君は私の巻き添えとなってね」
にっこりと笑った王子さんにあっけにとられていると王子さんは言葉を続けた。
「わかりましたか?私が秘密を話したもうひとつの理由が。秘密は死とともに消えるんですよ」




