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 王子さんが泥水に沈むのも慣れたものだと思うが、それ以上に泥水から王子さんを引き上げることに手慣れた僕は、重いながらもいとも簡単に王子さんを引き上げた。僕は王子さんに向かって言葉を投げかけた。

「王子さん、本当にやめてよ。心臓が止まるかと思ったんだから。それに一緒に考えよう?ここから出る方法を」

 王子さんは顔に付いた泥水を拭いながら、近くにあった僕の手をなぎはらうと、冷たい視線で僕をひと睨みしてそのまま黙りこんだ。井戸の中の僕と王子さんの間が何とも気まずい空気で満たされていくのがわかった。


 なに?その態度。何回命を助けたと思っているわけ!?温和な僕ももうプリプリですよ。しかも、目が覚めた後はペラペラと結構喋っていたのに、ここにきて、ムッツリって本当に嫌な感じ。脱出が上手くいかなかったからって、僕に八つ当たりしないでよね。


 王子さんの恩知らずの態度に僕は頬を膨らまして怒りを表したが、王子さんは僕のことなど見てはいなかった。


 もう、王子さんのことなんかしーらない!!明日の夜、僕がここを脱出したら王子さんのために助けは呼ぶけど、後は知らないんだから。僕はもう寝ます。僕が眠っている間に王子さんが泥水の中に沈んだとしても知らないんだからね!!


 僕は王子さんに背を向け壁にもたれかかると、体の力を抜かないように意識を保ったまま目を閉じた。


 目を覚ましたときが明日の夜だったらいいのに・・・。




 喉が渇いた・・・。


 喉の渇きで目を覚ますと、井戸の中がうっすらと明るかった。胸まで水に浸かり立った状態でそんなに長い時間眠ることはできなかったが、どうやら次の日にはなっていたようだった。近くにいた王子さんとすぐに目があった。王子さんは僕をじっと見つめた後、言った。

「私は誰です?」

「・・・・・・え?」


 王子さん、何言ってるの?『私は誰です?』って、もしかして記憶障害?疲れ過ぎて、自分が誰だかわからなくなっちゃったの?


「王子さんだよ。えっと、虹国の王子さんで名前はナシュイハルトだったと思うよ」

 僕の答えに王子さんは目を見開き驚いていた。


 ちょっと大丈夫?王子さん・・・。


 井戸の中に変な空気が生まれた。王子さんの様子がおかしいことと、水の中に長い時間使っていたせいで、体がブルッと震えた。僕は泥水をかき分け、表情が固まったままの王子さんを覗きこんだ。

「おーい、王子さん。大丈夫ですか?」

 僕の声に反応するように王子さんは瞼をパチパチと動かすと、僕の首筋に顔を埋めた。


 次は何?僕の首に顔を埋めて泣くつもりなの?


 訳がわからないままに、求められていることはこれかなぁとよしよしと王子さんの背中を撫でた。すると飛び上がるような感触を首筋が襲った。


 ゾゾゾゾ・・・・・・。


 見たくないものを僕は見てしまった。王子さんが僕の首筋を舐めていたのである。僕の口はワナワナと震え、声にならない叫び声をあげた。

「ひょぇーッ!!」


 ギャー!!

 王子さん、どうしちゃったんだよ!!

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