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目の前に浮かんだ血の玉はどんどん成長を続けると林檎ほどの大きさになった。血の玉は中が発光しているようで、その様は真っ赤に燃える太陽のようでもあった。目の前で繰り広げられる不思議な現象に、僕が目を奪われていると、血の玉が大きく瞬き王子さんの耳元に向かって飛んでいった。そして王子さんの金髪に吸い込まれ消滅した。
な、何が起こったの?
僕の血が空中で丸くなって、光って、それが王子さんのヘドロまみれの髪の毛の中に吸い込まれていっちゃって、消えて・・・。
答えを求めたくて王子さんを見ても、王子さんは血の玉が生まれた頃から目を閉じてしまっていて、聞くことができなかった。
意識がないわけではないと思うけど、力を使い果たしたって感じで意識がはっきりしてなさそうなんだよね。でも、試しに声をかけてみようかな。
「王子さん、今何が起こったの?」
予想通り、王子さんからは何の言葉も返ってこず、王子さんは静かに目を閉じたままだった。
王子さんの望み通りに血をあげたのに血の玉が誕生して消えただけで、他には何も起こらないのかな?
左手が痛くなっただけで何も起こらず、そして話し相手もいなくなり手持ちぶさたになった僕だった。まだ血の流れる左の手の平をじっと見つめると、僕は思わずため息が出た。
「はぁ・・・。この泥水でしょ?傷口からバイ菌が入りそう。膿んだりしたらどうする?ぱんぱんに腫れてしまうんじゃ・・・」
痛そうな未来を勝手に想像して顔をしかめると同時に、王子さんの背中の傷が思い浮かんできた。
「王子さんの傷口は僕の手とは比べ物にならないぐらい深そうだから、バイ菌が入ったら大変なことになってしまいそう・・・」
王子さんの痛そうな未来を想像してまたもや顔をしかめた僕は、目の前の王子さんに視線を向けた。
あーあ、ヘドロまみれの王子さんだよ。
頬と髪に付いたヘドロを取り除こうと指を近付けると、先程と王子さんの様子が違うことに気付いた。
ん?顔に赤みが射している?
王子さんの青ざめていた顔が今は血の通った健康的な顔に戻っていた。王子さんの変わりように驚きながらも頬に付いたヘドロを取り、髪に付いたヘドロを拭った。すると、金髪の間から赤く光るものがチラッと見えた。
何?
思わず髪を掻き分けると、王子さんの耳に赤く光るピアスが付いていた。
あれ?こんなに綺麗な石じゃなかったよね?石ころみたいなピアスだったはず・・・ん?待って。このピアスの色と光って僕の血の玉にそっくりだよね。サイズが違うだけで。
赤いピアスは光続け、その光に見惚けていると王子さんがゆっくりと目を開けた。
「やはり予想した通りでしたね」
王子さんはそう言うとニッコリと笑いながら、耳に手をやりピアスをなぞった。そして、僕や壁に助けられることなく、自分ひとりで立った。
王子さん、元気になった!?
「君は自信を持っていいと思いますよ。いい血です」
意味はわからないが、王子さんはどうやら僕の血を誉めてくれたようだった。
「僕の血?」
「そうですよ、私の知る限りS級ですね」
「S級?」
「私の傷をあっという間に治してくれたのですから当然ですね」
「えっ!背中の傷、治ったの!?」
「ええ。跡形もなく治っています」
王子さんの言葉を聞いて、確かめようと王子さんの背中に触れようとした僕だったが、王子さんに体を捩られて逃げられてしまった。その動きの素早さだけで、確かめなくても王子さんの傷が完治したことがわかった。
顔色もすごく良くなっているし、凄いね。王子さんは僕の血で治ったって言っているけど、それってどういうこと?
「どうやって怪我が治ったの?」
「シルバー・レイは魔力が強いと聞いていましたが、これほどとは。こうなると君がなぜ普通科にいるのか不思議になってきますね」
「ねぇねぇ、その王子さんの耳に付けているピアスに関係あるの?」
「左手を見せてください」
ここにきて会話が全く噛み合わない二人だった。僕の質問に答えてくれない王子さんの言う通りにはしたくなくて、手を出さなかった僕だったが僕の手は水中でいとも簡単に捕まってしまった。王子さんに水中で左手をきつく握られ、傷が潰れて痛くて顔をしかめた僕だったが、すぐに痛みが消えた。と、同時に王子さんは僕の手を放した。僕は大急ぎで自分の手を水の中から出して確認した。すると、傷が嘘のように消えていた。
えっ!?傷が跡形もなく、なくなってる!!
目を白黒させている僕にはお構いなしに王子さんは呟いた。
「脱出の時間です」




