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 この体勢、思っていたよりしんどい・・・。


 一番いい方法だと思って背中に王子さんを背負った僕だったが、体力が続きそうになかった。自分の胸あたりまで水があって体に抵抗がかかること、背負った王子さんの服が水分を含んでいて非常に重くなっていること、そして最大の理由が王子さんが気を失っているために自分から僕につかまることがなく、僕だけの力で王子さんの体を支えないといけないこと、この三つのことが僕の体力をどんどんと奪っていくのだった。


 王子さんが目を覚ましてくれたら、事態は好転するんだけどね。


 僕は首を少し捩り、すぐそばにある目を閉じたままの王子さんの顔をじっと見つめた。王子と呼ばれるに相応しい整った綺麗な顔は蒼白いままで目が覚める気配はなかった。僕は王子さんの背中に回した手に力を込め直し、王子さんが僕の背中から落ちることのないようにした。


 とりあえず、王子さんの服を出来る限り脱がそうかな。そうは言っても脱がせられるのは魔法科のフード付きローブぐらいだけど、それでもだいぶ軽くなるはず。


 僕はいったん王子さんを背中から下ろすと、自分の背中を壁に預けてバランスをとりながら、王子さんを正面から抱き抱えた。片手を王子さんの体に回し、もう一方の手でローブに手をかけた。


 濡れてるし片手だしやりにくいけど、肩口のボタンを外すだけだから頑張ったらどうにか取れそう。ジャケットとかじゃなくてよかったね。


 時間をかけながら片手でフードのボタンを外し終わると、あとは少し引っ張るだけでフードは泥水の中に沈んでいった。


 王子さんのフード、特注品とかじゃないよね?後で弁償とかってことにはならないよね?


 少し不安になりつつも、水を大量に含んだフードがなくなり、抱き抱えるのがとても楽になった。でも、お互いの顔が正面にくるこの体勢はいくら相手が気を失っていたとしてもずいぶん居心地が悪かった。僕は今までのように王子さんをおんぶするため、王子さんの体を動かした。その時、王子さんの背中に回した僕の手にヌメリと何かがまとわりついた。


 これ、何・・・?


 手を水からあげて目を凝らしてよく見ると、暗闇の中でもそれが赤色をしているのがわかった。


 血・・・?


 恐る恐る手を下げて鼻の近くにもってくると僕は確かめるように匂いを嗅いだ。


 この鉄の匂い・・・血だよ!


 腐ったどぶ水のような臭いが充満するこの井戸の中でも、血の独特の匂いは僕の鼻の奥までハッキリと届いた。


 王子さん、怪我しているの!?


 王子さんの背中をもう一度手で探ってみると、一部分の服が破れ、その下の皮膚に裂かれたかのような傷があるのがわかった。詳しいことはわからないが、浅い傷ではないようだった。その証拠に今までフードがあって気付かなかったが、その傷口からは血が流れ続けていた。


 何?この怪我は!?どこで?いつしたの!?ああ、それよりもまずいよ!!このままだったら、王子さん、死んでしまうよ!!顔がこんなに蒼白いのも目を覚まさないのも怪我をしていたからだったんだよ!!


「どうしよう・・・」


 僕がここから出られるのは腕輪の魔法が解ける明日の夜なんだよ。そんなの待っているうちに、王子さん死んじゃうよ。今も血が止まっていないのに、こんなに汚い水の中に怪我をした部分が浸かったままだなんて、今すぐにでもお医者さんに診てもらわないと駄目なのに!!でも、僕にはここから今すぐ出る方法がわからないんだ。だって、僕は空を飛ぶ以外の魔法が使えないシルバー・レイなんだから。


 自分の非力さに泣きそうになった僕だったが、何もしないよりはましだと、左手の腕輪を王子さんの傷の部分にあてた。


 本当は腕輪を外して王子さんに付けてあげたいんだけど、これは僕じゃ取れないようになっているからこれで我慢してね。僕の魔法を抑えている魔法の腕輪なんだから何か力はあるはず。だからお願い、腕輪さん。王子さんの傷を少しでも癒してあげて。腕輪さんとはこの学院に来ることになってからの出会いで短いのかもしれないけど、でも、いつも僕と一緒にいてくれたでしょ。僕だけシルバー・レイの寮に入れなくて、寂しくてひとりで泣いていた時もずっと一緒だった。僕にとって、呼吸をするのと同じぐらい日常だった飛ぶことが禁止されて、それでもどうしても欲求が抑えきれずに、屋上から飛び出してしまいそうになった時も一緒だった。そうここに来てからずっと一緒にいてくれたんだよね。お願いだよ、腕輪さん。力を貸して!!


 すると、僕の願いを腕輪が聞き入れてくれたかのように、腕輪がシャラランと音を奏でた。腕輪は水の中なので本来なら音が奏でられることはないのに僕の耳には届いた。それと同時に腕輪が発熱し、水面の上からもわかるぐらいの光を放った。僕は王子さんをおんぶすると、その熱と光が少しでも王子さんの怪我を治すようにと、王子さんの背中の傷をそっと撫で続けたのだった。

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