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「ああ、そうですか」
王子さんの驚く顔を想像していた僕は、笑みを崩さずそう言い放った王子さんに拍子抜けしてしまった。
『そ、そんな馬鹿な!?』って、王子さんに焦ってもらいたかったのにな・・・。
僕は何だか悔しくなって、黙ったまま王子さんをじっと睨み付けた。王子さんはそんな僕を見て、クスッと小さく笑うと再び口を開いた。
うう・・・今の笑い方、完全に僕のこと馬鹿にしたでしょ?
「先程、言ったはずですよ。君にかけた魔法は君の本質を暴くための魔法だと。拘束力は時間と共に弱まります。君が動けようが動けまいが、どちらにしても残念ながら、この魔法では人は殺せないんですよ」
え?そうなの?てっきり、雷に打たれたかのようなあの電流で殺すのかと思っていたんだけど・・・。僕、気を失いかけたし。
だったら、殺す、殺すってずっと言っているけど、脅かしていただけなの?もう、殺す、殺す詐欺だよ。
騙されていたことにちょっと頭にきた僕は強めの口調で王子さんに噛みついた。
「だったら、もういいでしょ?僕がシルバー・レイってことがわかったんだから!」
「ええ、なりそこないには驚きましたがスッキリしました」
王子さんの言葉にカチンときながらも、僕は少し痺れの残る体を奮い立たせ、王子さんの前から離れようとした。でも、王子さんが僕の前に立ちはだかった。
「退いてくれる?部屋に帰りたいんだけど」
僕の目の前にある王子さんの瞳の奥が笑みを携えたまま微かに光った気がした。
なんか、企んでる?怖いんですけど・・・。
「殺すと言ったはずです。こうやってね」
どこに隠し持っていたのかわからないが、王子さんの持ったナイフの切っ先が僕の目の前を掠めた。
ギャー!!
ナイフから逃げようとして体勢を崩した僕はその場に尻餅をついた。王子さんはその瞬間を見逃すことなく、僕の首もとにナイフを突きつけた。
ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!王子さん本気なの?これはまずいって!?
「呪いの魔法のために力を全部使ってしまいましたからね。こんな原始的な方法になります。でも、十分に殺せるんですよ」
そう言った至近距離の王子さんは相変わらず笑みを絶やさない。ナイフを押し付けられる冷たい感触が少しずつ強くなっていき、僕は生きた心地がしなかった。
僕、殺されちゃうの?てか、僕、王子さんに殺されるようなこと何かしたっけ?
殺される理由を見つけ出すため、僕の頭の中には王子さんと関わった時の場面の映像が次々と浮かんできた。
えっと、最初は図書館から盗み見た実技演習試験の時で、でもその時は僕だって気付かれていないし・・・次は、魔法科の寮の階段でぶつかった時だけど、その時も僕とは気付かれてないし、あっ、食堂で声をかけられたのが最初だよね。名前を聞かれたけどその時は良好な関係だったはず。その次は食堂に閉じ込められて、王子さんが変なことを始めようとしたから止めようとした時だけど、それも僕だってばれていないような・・・。最後はシルバー・レイのお姉さんを助けた時でしょ。その時は王子さん、敵対心むき出しだったけど。でも、僕、王子さんに殺されるほどのようなこと何もしてないよ!!こうなったら、聞いてやる!!
「僕、王子さんをそんなに怒らせるようなことした?」
王子さんは僕の質問に一瞬手を緩め、そして微笑んだ。
「ええ」
その瞬間、屋上に強い風が吹き付け、王子さんの金色の髪が強く揺れた。普段髪で隠れていた王子さんの耳があらわになり、そこにピアスがあるのが見えた。
ピアス?にしてもこの石は・・・?
ピアスの石は身に付けるには相応しくないようなひどく鈍い色をしていた。僕はなぜかそのピアスの石に惹き付けられ、思わず手を伸ばして触れた。
「何をする!!」
今まで笑顔だった王子さんが激昂し、それによって僕に押し当てられていたナイフが僕の首筋の表面を滑った。
「痛っ!!」
焼きつくような痛さとともに僕の首から血が流れ出た。
ちょっとでも切れたら痛い・・・。
痛さで顔をしかめていると、王子さんが僕の首筋を指でなぞった。王子さんの指には僕の切り口から流れ出た血がベットリとくっついた。王子さんは僕の血のついたその指を自分の口元に運び、そして小さく舐めた。
ギャー!!王子さん、血舐めたよっ!!怖すぎる!!
衝撃的な目の前の画に気が動転した僕だったが、次の瞬間、それ以上の衝撃が僕を襲った。




