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試験が中止になることもなく続けられているってことはさっきの誰だっけ?ナシュイハルトっていう王子さんの炎では誰も怪我しなかったってことなんだよね。
僕の眼下では次々に組み合わせが変わりながら、8個の台座の輪の中で実技演習が続けられていた。少しすると、再び王子さんが登場した。
「リーヤ、また王子さん出てきたよ!次は雨とか降らしてほしいよね」
「レテは発想が貧困だなぁ。もっとこうさ、雷鳴が轟くとかの方がかっこよくないか?」
「どっちでも、一緒だよ!それに、雷鳴て・・・それこそ、雷に打たれて誰か怪我しちゃうよ。魔法にかっこよさは必要ないと思うけど・・・」
「稲妻は?」
「だめ、それも危ないよ」
「そうは言ってもさ、さっきの炎もよっぽど危なかったと思うけどな」
「だから!ただ濡れるだけの雨が安全でいいでしょ」
「ふーん」
「うわぁ、なに?そのどうでもいいような返事は!」
僕とリーヤが当の本人の関係ないところで、次にくり出すであろう魔法について、なんやかんやと盛り上がっているうちに、王子さんは紫に近いような濃い青色の光を数秒出して終了した。
あれ?拍子抜けだよ・・・。
リーヤも僕と同じ思いだったようで、二人で顔を見合わせて苦笑いとなった。
てかさ、今気付いたんだけどね、これって試験なんだよね。しかも、台座上に二人の人間で戦うみたいな感じの。ということはさ、さっきからずっと見ているけど、一回王子さんが炎を出しただけで、あとの人は全員ずっと光を出しあっているだけでしょ?どうやって、勝敗とかつけているのかなぁ?
「あのね、これってどうしたらどっちが勝ち、とかあるのかなぁ?」
今、気付いた疑問をリーヤにぶつけると、リーヤは視線を左上に向けて少し考えるような仕草をした後、口を開いた。
「俺もさ、全くわからないけど、あれなんじゃない?光が出現している長さとか光の大きさとか・・・あと、色とか」
そっか・・・リーヤの言う通り、それを見て判断するしかないよね。
リーヤの言葉に納得した僕は期待を込めて言った。
「今回は12歳クラスだったけど、今度はもっと上のクラスを見に来ようね。17歳クラスとか」
「うわぁ、それって最上級じゃんか。なんか、隠れて見てるのもばれるような気がして怖い気がする」
「じゃあ、15歳ぐらいで手を打ちますか?」
「ああ、いいと思う!!」
「それで決まりね!あっ、忘れていたけど、今日の夕食ってハンバーグって知ってた?」
「え、うそ!?」
まだ下では実技演習試験が続けられていたが、僕とリーヤは次に見に来る予定のことや今日の夕食のメニューで盛り上がり、下で行われている実技演習試験への関心が薄れてなくなってしまっていた。
「そろそろ、帰ろっか?」
「うん」
僕が頷くと、リーヤが立ち上がった。僕もそれに続く。
「あ、リーヤの肘真っ赤になっているよ」
「本当だ。ずっと床に肘つけてたからな。そういうレテも真っ赤になってるけど」
「うわぁ、ほんとだ」
自分の肘をさすりつつ、なんとなく視線を再びガラスに戻した。すると、先程までと違い、ひとつの台座に一組の人間だけがいて、そのまわりに大勢の人が集まっていた。
「リーヤ、何か始まるみたいだよ」
僕の声にガラスを背に階段を上りかけていたリーヤが踵を返し、下を覗きこんでいる僕のすぐ横にきた。
あれは、教師と王子さん?
中央の台座にいるのは大人なのでおそらく教師と、そして王子さんであった。それを見て、リーヤが言った。
「王子ナシュイハルトは力があるから、教師とやってみるのかもしれないな」
「絶対、そうだよ。面白そうなのが見られるよ。最初の火は凄かったけど、後は手加減していたみたいだから、また見れそうだね」
喜ぶ僕の言葉が終わるとともに、王子さんと教師の戦いが始まった。すぐに教師が手を振り上げると王子さんと教師の頭上に薄気味悪い色の黒雲があらわれた。
「これはもしかして、雷雲?リーヤ」
「雷雲だよな!稲妻落としちゃえ!これぞ、本当の実技演習試験だな。王子ナシュイハルトはどうやって防ぐのか?」
僕もリーヤも何も見逃すことのないように王子さんの一挙一動に注目していた。王子さんをじっと見つめたその瞬間、僕は異変を感じた。
え?あれ?さっきまでは溢れるほどあった魔法の力が今は全く感じられない・・・。
教師とは対照的に王子さんは突っ立ったままで、体を全く動かさない。そんなことはお構いなしに、二人の頭上の雲の中で稲妻がひかりだした。
これって、危険なんじゃ!
「リーヤ、リーヤ、王子さん怪我しちゃうんじゃないの!?」
僕の慌てぶりにもリーヤは楽しそうな表情を変えることなく、答えた。
「何言ってんだか。さっきの火ぐらいにすごいやつを出すに決まってるじゃん。それで雷雲なんて消し飛ばしちゃうって」
「でも、王子さん、何もしないよ!きっと、出来ないんだよ!」
「大丈夫だって」
そうこうしている間に雷雲が稲妻を溜めて膨らみ、最初の1.5倍ほどの大きさになった。
あんな稲妻が落ちたら、王子さん死んじゃうよっ!
王子さんの魔法の力が今、全くないってこと誰も気付いてないの!?
ああ、もうどうなっても知らないからっ!!
雷雲の膨張が止まり、稲妻がいつ落ちてもおかしくない状況で僕の左手についている腕輪から音が奏でられた。
シャラララ・・・シャラララ・・・
それは乾いた鈴のような音であった。




