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僕に笑顔を向ける王子さんを見た瞬間から僕の頭の中では警告アラームが鳴りはじめた。
ものすごく、ものすごく嫌な予感がする。っていうか、嫌な予感しかしないよ。
それにね、この前の『殺してやる』発言はどこにいっちゃったわけ?僕はちゃんと覚えてますからね。
王子さんに負けじと僕もスマイルで対応した。
「ごめんね、僕ちょっと忙しいんだよね」
「ここのことですか?でも、今日は食堂はもう終わってますよね。先程、そう言われましたから」
「確かに今日の食堂はもうおしまいだけど、今から後片付けとかするんだよね。一時間二時間はかかると思うから、時間ないんだ」
僕の言葉を聞いて王子さんがわざとらしく小さく笑った。
なに?感じ悪いよ。
「一時間二時間とは随分時間が曖昧なんですね」
「え?」
「セラーレテ、君の仕事はこのあとテーブルの上を拭き、電気を消すだけのはずだと思いますが、一時間もかかりますかね?」
「ひとりでやるから意外と時間がかかるんだよ。ここの食堂広いしね。なんだったら、王子さんも手伝ってくれる?」
僕の嫌みにも王子さんは微笑みを一切崩さず、そして言った。
「全部のテーブルを拭く必要はないのでは?今日の食堂の利用者は全部で10人ほどだったと思います。使われたテーブルのみを拭けば業務は終了するはずです」
目から鱗。たしかに!!王子さん、賢いね。って、違うってば。王子さん、食堂に今来たばっかりなのにどうして、今日の利用者の人数とか知ってるんだよ。怖いんだけど。
負けじと僕も反論した。
「使ってないテーブルも拭くのがエチケットだと思うから全部拭くね。だから、やっぱり時間はないよ」
エチケット・・・って。僕、何言ってるんだか。
「譲れないと。ではわかりました。待ちましょう」
王子さんはそう言って、一番近くにあった椅子に座った。
うわぁ、最悪なんだけど・・・。王子さんに言ったのは嘘で、お客さんが二人だった時点で全部のテーブル拭き終わってるんだよね。王子さんに言った手前、もう一度拭く?でも、結局王子さんは僕のこと待ち続けるんだよね。ああ、もうどうしよう・・・。
テーブルを拭きながらいい案を考えようと、僕は布巾を持ってテーブルを拭きはじめた。その様子を監視するかのように王子さんがじっと見ていて、最高に居心地が悪かった。
はたから見たらこれっておかしい光景だよね。食堂でテーブルを拭く人とそれを監視する人。二人の間には一切の会話がなく、あえて言うなら何らかの緊張感が二人の間を漂っているってね。もうどう考えても、テーブル拭き検定の試験中にしか見えないよ。そんな試験も検定もないと思うけど。
居たたまれない居心地の悪さの中で僕は15分でテーブル拭きを終えてしまった。
うう、終わってしまった・・・。いい案はひとつも浮かんでないのに・・・。
僕の仕事の終了を見届け、王子さんが立ち上がった。もう僕は逃げられないようだった。
僕、殺されちゃうの?
僕は左手の腕輪をそっと撫でた。
今もね、腕輪が少し手首を締め付けているんだけど、王子さんが近くにいるといつもこうだね。最初は僕が魔法を使うかもしれないって腕輪が警戒してるんだと思っていたけど、今わかったような気がするよ。腕輪は王子さんを警戒していたんだね。きっと、そうだよ。
僕は腕輪をもう一度撫で、王子さんのもとへと歩み寄った。それを僕の肯定と判断したようで王子さんは微笑みを崩さないまま言った。
「君に来てもらいたい場所があるんです。空に近い場所ですよ。セラーレテ、好きですよね」
ちょ、ちょ、ちょっと待って!!僕のこと、どこまで知っているわけ!?もう、ほんと怖すぎる。




