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フードから顔を覗かせた王子さんは目の前の僕をきつく睨み、そして吐き捨てるように言った。
「手、放せよ」
「あ、うん、そうだね」
王子さんの王子らしからぬ剣幕に僕は思わず掴んだ腕を放した。王子さんはフン!と鼻を鳴らし、僕に背を向け歩き出した。
ん?ちょっと待ってよ。王子さん、怒っているみたいだけど、それ間違ってるよね?
「王子さん、ちょっと待ってよ。少し話をしたいんだけど」
僕の問いかけを王子さんは無視してどんどん僕から遠ざかっていく。
もうっ!!
僕は早足で王子さんとの間合いをつめ、そして言った。
「王子さん、何か知らない?さっきね、そこでシルバー・レイに魔法がかけられたんだよ。金目を無効にする魔法がね」
僕の言葉にも王子さんの足は止まらない。僕は王子さんの横にピッタリとくっつきながら引き続き言葉を投げかけた。
「王子さん、ねぇちょっと待ってよ。僕の話を聞いてよ」
それでも王子さんは僕のことなんか知らん顔。
もう、何様のつもりだよ、その態度は。みんなの前ではニコニコ優等生のふりなんかしてるくせにね。
僕を完全無視する王子さんの態度にカチンときた僕は思っていたことを直球で言った。
「王子さんでしょ?シルバー・レイのお姉さんに魔法をかけたのは?違うんだったら、違うって言ってよね。でもその時はこんな朝早くに人気のない散歩道で何をしていたか僕に説明してよね」
言葉を捲し立てても、王子さんは興味がないかのように涼しい顔で知らん顔。そうこうしているうちにいつの間にか、僕達は魔法科の敷地内に入る所まできてしまっていた。
もうっ!!
僕は再び王子さんの腕を掴んだ。これ以上逃げることができないように。すると、王子さんはやっと口を開いた。
「セラーレテでしたよね」
予想外に王子さんは丁寧な言葉遣いだったが、僕を見るその目は射殺すかのように冷たい眼差しであった。
「そうだけど」
「セラーレテ、あなたはよく私の腕を掴みますね。自由を束縛されるようでとても不快です。そして痛いです」
「ご、ごめん」
そんなに強く握っていたつもりではなかったが、王子さんに痛そうに顔をしかめられてしまい、僕は掴んだ手を緩めた。すると、王子さんはその瞬間を逃すことなく、僕からするりと逃げると、僕が踏み入れることのできない魔法科の敷地に入っていった。僕は王子さんの歩みを止めたくて、気を引くために敷地の外から色々と叫んだ。
「シルバー・レイの金目の呪いは本物なんだよ。信じていない人も過剰に反応する人もいるけど、事実なんだよ。だから、さっきのシルバー・レイのお姉さんが誰かの目を見ていたら、その人は死んでしまったんだよ。大変なことになってたんだ。だから、こんな酷いことをするのはやめてよ」
僕の叫びにも王子さんはやっぱり知らん顔。僕のことなんか見えていないかのようだった。僕の言葉が王子さんに届くことはなく、王子さんは魔法科敷地内をどんどん進んでいってしまった。僕は王子さんの背中に向かって大声で叫んだ。
「魔法の力、ないくせに!!」
今日は会った時から、王子さんから魔法の力を感じなかった。それは、実技演習試験の時と食堂閉じ込められ事件の時と同じであった。でもそれ以外の時には王子さんからは溢れるほどの魔法の力を感じる。だから僕には不思議でならなかった。その違和感から「魔法の力、ないくせに!!」の言葉が僕から飛び出したのだった。
すると、魔法科敷地内の森に入りかけていた王子さんが今まで決して止めることのなかった歩みを止めた。
あれ?王子さん、止まった?
王子さんは振り返り、魔法のフェンス越しに僕の目の前まで戻ってくると、汚いものを見るかのような目と憎しみのこもった声で僕に言った。
「殺してやる」
「え?」
聞きなれない言葉に思わず聞き返すと、王子さんは同じ言葉を口にすることはなく、別の言葉を残し、僕を睨み付けて魔法科の森へと消えていった。
「シルバー・レイの金目を見ても死なないお前は何者だ!」




