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 僕の右手が王子さんの手首を掴んだその瞬間、目が眩むほどの光が僕と王子さんとの間を駆け抜けた。


 もしかして間に合わなかった・・・?


 何かが起ころうとしていた。その時、僕の拘束から逃れようと王子さんが自分の腕を強く引いた。逃してなるものかと僕は右手により一層力を込めた。その間も太陽を直視したときのような眩しい光が走り続ける。僕は目を開けていられなくなり目を閉じた。

「手を放せ!!」

 王子さんの怒鳴るような声が耳元で聞こえた。僕は掴んだ手の力をより一層強くした。


 誰が放すもんか!

 

 手首をきつく掴んだまま僕は言った。

「王子さん、あんた何をしたの?みんなを助けてくれると思っていたのに・・・」

 咎めるように言った僕の言葉を鼻で笑うと、王子さんは言った。

「まだ意識がある人がいたとは思いませんでした。全員、気を失っていたはずですがね。あなたは一体誰なんです?」


 あれ?王子さん、隣で手を掴んでるのが僕だって知らないの?そっか、後ろから僕に手を捕まれたんだもんね。振り返って顔を見ようにもこの眩しさじゃ目が開けられないしね。王子さんと言葉を交わした後、僕も気を失ったと思っていたんだね。


 王子さんが僕だと知らない理由を考えていて言葉を発せずにいると、それを王子さんは黙秘ととらえたようで言葉を続けた。

「まぁ、誰でもいいですよ。血取りを見られたからには死んでもらうしかないのですからね」


 ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ。なに?その悪役臭い台詞は?王子さんってこの国の王子だったよね。今の口振りは完全に悪役なんだけど。もしかして何か悪いものでも食べた?それとも何かにとりつかれているわけ?


 悪役王子さんの登場に僕が驚いていると、僕らを取り巻く状況に変化が起こった。目を閉じていても感じていた眩しさが、瞼越しにもわかるほど弱まった。恐る恐る目を開くと、隣にいる王子さんも僕と同じように目を開こうとしていた。


 げっ!せっかくばれてなかったのに、ばれてしまう!!


 僕は掴んでいた手を大急ぎで放そうとした。しかし放そうとした瞬間、僕と王子さんの繋がった部分から光が溢れだした。それとともに息が止まるかのような爆音が響き渡り、鎌倉の天井が崩れるように落ちてきた。雪が粉塵のように舞い上がり、世界を前後の区別もつかないほどの白に染め上げた。そして、その後一瞬で全てが消えた。


 え?どういうこと!?


 鎌倉も雪も氷も見る影もなく全て消え、ただのいつもの食堂になっていた。僕の右手は気を失って崩れるように倒れている王子さんの手首を掴んだままで、少し離れた場所ではリーダーを含めたみんなが気を失って倒れたままだった。


 もしかして、僕、魔法を使っちゃたの?


 左手の腕輪を撫でて確認するが、腕輪は音を奏でることも締め付けることもなく、いつも通りすましていた。


 どういうこと?どうして食堂の魔法が消えたの?


 王子さんの腕を放すと、僕は大急ぎで倒れたみんなの状態を確認した。口元に耳を近付けると、みんなが規則正しい呼吸をしていた。最初に倒れた4人も含めて全員の顔や手足にはすでに赤みがさしていた。

「よかった・・・」

 ほっと胸を撫で下ろしていると、何人かの体がモゾモゾと動き出し目を開けた。駆け寄ろうとして、嫌な予感が浮かんだ。

 

 ま、まさか、死んだりしてないよね・・・。

 

 みんなとは少し離れた場所で倒れ込んだままの王子さんに恐る恐る近付き、こわごわ呼吸を確認した。


 よかった!生きてた。


 王子さんの胸は上下に動き、口元からは吐息が漏れていた。僕は心底安心した。

「俺達を助けるために力を使いきったんだな。王子ナシュイハルトは」

 僕の後ろにはいつの間にか、元気になったリーダーが立っていた。

「保健室に連れていこう」

 リーダーが王子さんを抱えるために持ち上げた。その瞬間、リーダーの掌に目が釘付けになった。


 切り裂かれた跡がない!


 掌には赤い池を作った痕跡の傷がなかったのである。

「こっちの手、見せて」

 もう一方の掌を見せてもらっても、どこにも跡はなかった。


 どういうこと?


 王子さん以外いつの間にか全員が目を覚まし、口々に言葉を交わして健闘を称えあっていた。僕は素早く視線を動かし、みんなの掌を確認したが残忍な跡が残る者は誰ひとりとしていなかった。


 どういうこと?


「あなたも無事で本当によかったわ」

 笑顔の3人のお姉さんに抱きしめられながらも、僕の心はここにあらずだった。

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