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雪合戦を20分ほど楽しんだところで、味方のお兄さんが急に地面へと倒れこんだ。とんできた雪玉がちょうど頭に当たった時だったので、わざとふざけて倒れたのかと思ってみんなで笑った。倒れたお兄さんもすぐに笑いながら起き上がってくるだろうと思っていたのに、一向に起きる気配が感じられなかった。何かおかしいなとみんなが思い始めたところで、悲鳴が起こった。それは完成した鎌倉の中から聞こえてきた。悲鳴の元へと走り出すリーダーに僕も付いていき、一緒に鎌倉へと足を踏み入れた。そこでは3人のお姉さんのうちのふたりが倒れていた。ふたりとも地面の雪と変わらないかのような白い顔をして突っ伏していた。
「何があった?」
リーダーの声に残ったお姉さんが口を震わせながら言った。
「急になの!何もしていないのに、この中でお喋りしていただけなのに、それなのに急にふたりが倒れたの。声をかけても擦っても、反応がないのよ。それに、体が冷たいの!」
まずいよ。お姉さんふたりの真っ青な唇と一切の生気のない体の様子。これは、どう見ても凍死寸前だよ。
リーダーは何かを確かめるように倒れたふたりに触れると表情を固くして言った。
「ガードが切れてるな」
「どうしてよ!ふたりとも十分に力が残っていたはずだわ!」
「それは間違いないはずだ。だが、予想外のことが起こった。おそらく、環境が変わりだしたんだろうな」
ん?どういうこと?
「部屋にかけられた魔法が加速しているってこと?ふたりはどうなるの?」
泣き出しそうになりながらお姉さんがリーダーに尋ねると、リーダーは凛として言った。
「これは、緊急事態だ。とりあえず、この部屋にいるみんなを集めるべきだな。この鎌倉に全員集まろう。声をかけてくる」
リーダーは鎌倉を出て、大声を出してみんなを集めはじめた。入り口付近にいた僕は倒れたお姉さんふたりのもとへと歩みより、そっと手に触れた。
氷よりも冷たいよ。お姉さん、死んじゃ駄目だよ。兄様にかけてもらったガードの魔法が少しでも、ふたりに届きますように・・・。
ふたりの手を片方ずつ握りしめると、淡い光が僕からふたりへと微かに流れ出した。目が覚めることはなかったが、少しだけふたりの体に熱が生まれたようだった。
このまま目を覚ましてよ、優しいお姉さん。
祈るような気持ちで僕は握った手に、より一層力を込めた。すると、プツンと聞こえるか聞こえないかのような小さな音と共に、お姉さん達へと向かっていっていた魔法の流れが止まってしまった。お姉さん達は目を閉じたままだった。
兄様の魔法が弱くなってきているよ。お姉さん達に魔法をわけてあげられなくなっちゃった。どうしよう。このままだったら、ふたりとも死んじゃうよ。そもそも、どうしてふたりのガードの魔法は切れてしまったわけ?閉じ込められた時も大丈夫って言ってたし、僕から見ても食堂にいた生徒たちはみんなある程度の力を持っていたはずなのに。
力の移行は出来なくなっても、目を閉じたままのふたりの手を握り続ける僕のもと、鎌倉の中へと、食堂に閉じ込められた全員が集まってきた。全員がフードをかぶり、頭には雪が積もっていた。
もしかして、外は吹雪なの?さっきまで、そんなことなかったのに・・・。
雪を払うことなくリーダーが中央に立ち、鎌倉内を見渡し言った。
「どうやらこの食堂にかけられた雪の魔法が急に加速してしまったらしい。外は猛吹雪で目も開けられないほどだ。気温がどんどん低下していき、今ではおそらく-40℃にはなっているだろう。そのせいで、ガードの魔法が切れた生徒がいる。今の時点で4人。力が余っている者はこの4人の周りに熱を作ってほしい。ただし、環境の変化は止まらないから、無茶はするな」
鎌倉の一番奥に4人が寝かされた。お姉さんふたりとお兄さんふたり。ふたりのお兄さんのうちのひとりは先ほど、雪合戦中に倒れたお兄さんだった。
さっき倒れたのは、ガードの魔法が切れて寒さに襲われたからだったんだね。
4人の周りには残りの全員が集まり、力を合わせて火を燃やし始めた。小さな火だったが、みんなが4人を助けるために一生懸命灯した火だった。
「試験終了までもう20分もないはずだ。その間だけ、4人には頑張ってもらうしかない。そこのセラーレテ、こっちに来い。ここで火に当たっておけ」
リーダーに呼ばれて近くにいくと、みんなが火で囲む4人の間に僕を入れてくれた。みんなが小さな僕のことも守ってくれようとしてくれていた。
「寒いだろうけど、大丈夫だからね」
僕を安心させようと、優しく言葉をかけてくれた近くのお姉さんの顔も段々青白くなっていく。そのお姉さんだけでなく、他のみんなも。そして、リーダーも。
ごめんね、僕だけ平気でごめんね。みんな寒いんでしょ。それなのに、僕のことも守ってくれようとしてくれるんだね。ありがとうね。でもね、でもね、このままだったら、みんな死んじゃうよ。あと20分も待ってられないよ。
『次に魔法を使ったら死ぬかもしれないよ』という兄様の言葉が頭を一瞬かすめたが、そんなことはかまわなかった。僕は左手の腕輪にそっと触れた。
僕の魔法の力、みんなの火に共鳴してね。
「シャラララ」
次の瞬間、腕輪が音を奏でた。だが、僕はまだ魔法を解放していなかった。腕輪はある人間の登場に音を奏でたのだった。鎌倉の入口付近にいつの間にか人が立っていたのだった。




