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「ちょっと来て!こんな所に子どもがいるわ。踞っているけど、まさか死んでないわよね?」

「この子、知ってる。昨日から食堂で働き始めた子だよ。カウンターにいた男の子」

「だったら、魔法科の生徒じゃないのね。こんな寒い場所にいて大丈夫なのかしら・・・」


 ああ、耳元でうるさいなぁ!もう、起きるってば!そんなに体をゆすらないでよ!


 擦りながら、目を開くと僕を見つめる3人の顔が目の前にあった。


 うわぁ!!


「君、大丈夫?」

 驚いて声を出せずにいると3人のうちのひとりが僕の体をさすり始めた。

「寒かったでしょ?でも、もう大丈夫よ。先生を呼んできてあげるわ」

 そう優しく微笑むお姉さんの背景に白い雪景色が広がるのを見て、僕は思い出した。


 うわぁ、僕寝ちゃってたんだ。宝探しを観戦している間に誰も来ないからつまらなさすぎて、寝ちゃっていたわけね。で、ここを訪れたお姉さん達に見つかって起こされたと。げっ、これは誰が見ても潜入大失敗ですね。


 寝起きということと、ばつの悪さから目をパチクリパチクリ瞬きしていると、お姉さんの心配そうな顔が近づいてきた。

「大丈夫?意識ある?今から先生を呼んでくるわ」


 そ、それは困る!!勝手に隠れて見ていたのも兄様に魔法をかけてもらっていたのも全部、ばれちゃうよ。それに魔法科の教師に顔を覚えられちゃったら、これから潜入しにくくなっちゃう。


「大丈夫です。ほらっ、この通り元気です」

 元気さをアピールするために踞った姿勢から僕は体を持ち上げ、そのまま体を上下左右に動かした。だが、3人は浮かない顔のままで言った。

「大丈夫って言っても、ここはこんなに寒いのよ。いつからいるのか知らないけれども、15分も普通の状態でここにいたら死んじゃうわ。げんに今も寒くて死にかけていたみたいだし」


 それ、違います。ただ、眠たかっただけ。食堂のお手伝いのために朝から早起きしたからね。


「私廊下に出て、先生呼んでくるわ」

 そう言って立ち上がったお姉さんの腕を反射的に掴んで僕は言った。

「本当に大丈夫なんです」

「大丈夫って言うけれども君、魔法科の生徒じゃないでしょ?魔法が使えないのにこんな所にいて大丈夫なわけないじゃない!・・・ん?あれ?この子の手、温かい・・・?」

 お姉さんは驚いたような表情で僕を見ると、自分の腕を掴む僕の手に自分の手のひらを重ねた。

「私よりも温かいわ。どうして?」

「あの、魔法をかけてもらってるんです。実は僕は普通科の生徒なんです。縁あって魔法科の食堂のお手伝いをしているんですけど、今日はこんなことが食堂で起こっているって知らなくて、来てみたら帰れなくなってしまったんです。あ、あそこらへんに普通科に通じるドアがあるんですけど、雪でなくなっちゃったんです。それで困っていたら、魔法科のお兄さんが僕に温かくなる魔法をかけてくれて、雪がなくなる試験終了時間までここにいたらいいよって言ってくれたんです」

「そういうことだったの」

 お姉さん3人は僕の説明を聞いて大きく頷いた。どうやら納得したようだった。

「どこも体は悪くないのよね?」

 それでもまだ僕を心配して、念を押すようにひとりのお姉さんが聞いてきた。

「はい!元気です!!心配してくださってありがとうございます」

 頭を下げてお礼を言う僕に3人はホッとしたような表情を見せた。

「あと、一時間ぐらいあるけどひとりで大丈夫?」

「はい、大丈夫です。ご心配おかけしました。試験中なのにお時間も取らせてしまってすみません。その代わりというわけではありませんが、あの、奥の方に見える池の中に宝物があるみたいですよ。サクサクッと、とっちゃってってください」

 そう言った僕の言葉にお姉さん3人は驚いたように顔を見合わせ、そしてすぐに笑いながら次々に言った。

「なんだか、宝物の番人みたいな口振りね」

「それでは、可愛らしい番人さんの言う通りに行ってみましょうか」

「それじゃあ、行ってくるわね」

 3人は手を振り、奥へと向かって行った。


 優しいお姉さん達だったね。兄様と同じか16歳クラスぐらいかなぁ?この-20℃の部屋でも平気でいられるってことは、学年が上の方なんだろうね。


 3人のお姉さん達が奥に向かって行った後、急に食堂が活気付いた。ここにきて、食堂の中に入ってくる生徒の数が増えたようだった。入ってきた生徒はお兄さん、お姉さん達ばかりだったが、唯一僕と同い年の生徒もひとり食堂の中に入ってきた。それは王子さんだった。食堂に入ってくるまでの入り口付近の王子さん達の会話を盗み聞きするに、王子さんの取り巻きさん達は寒さのガードができないようで、それができる彼だけが中に入ってきたようだった。王子さんには決して見つからないように、僕はカウンターだった雪の塊の下で今まで以上に身を縮めて息を潜め、王子さんが僕の前を通り過ぎるのを静かに待った。

 王子さんが通り過ぎてしばらくすると、僕を凍死寸前と間違って優しく接してくれたお姉さん3人が僕の前に笑顔で現れた。そして、手のひらを開いて、嬉しそうに銀の玉を僕に見せてくれた。

「ほら、見て。銀色は滅多にないのよ。高得点だわ。君に宝物があるのが池だって教えてもらわなかったら、見つけられなかったかも。とても、見つかりにくい場所にあったのよ。これ以上時間をかけたらガードの魔法も消えるところだったわ。本当にありがとうね」

 そう言ってお姉さん3人は笑顔で手を振り、食堂から出ていった。と、思ったが、食堂から出ていかなかった。ではなく、出ていけなくなってしまったようだった。出入り口付近から3人の声が聞こえてきた。

「あれ?確かここに扉があったわよね?」

「どうしてないの?」

「この雪の塊、もしかしてこれが扉だったの?扉まで雪になっちゃったなんて、出られないじゃない」


 出入り口の扉、もしかして雪になっちゃったの?


 3人の騒ぐ声を聞いて、食堂で雪と氷にまみれ宝探しをしていた他の生徒達が何事かと次々と集まってきたのだった。

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