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魔法科食堂お手伝いの一日目を終え、疲れた足を引きずりながら魔法科の寮の8階、シルバー・レイの寮へと向かった。到着すると、予想していた通り、質問攻めにあい、それを助けてくれたのはいつも通り、ライナであった。僕を呼ぶライナの声をきっかけにして、僕はみんなの中から逃げ出し、ライナとシュリモナが座るソファの横に腰かけた。でも、僕の顔はいつもと違い、少しふくめっ面。
ちょっと、怒っているんだからね。食堂で僕の満面の笑みを見て馬鹿にしたこと。
「レテ、はい」
そう言って、ライナが僕の前に差し出したのは、僕の大好物のミストランテお手製のマフィンだった。
「レテのためにとっておいたんだよ。あと、疲れたでしょ?はい、お茶」
シュリモナはにこやかに僕の好きなミルク多めのミルクティーを入れてくれた。
許す・・・。
「ありがと」
そう言って、僕はミルクティーを飲んで、マフィンをかじった。
「美味しい!幸せ」
「よかった」
マフィンとミルクティーと、それと僕を見る二人の笑顔に、ちょっと怒っていたこともお手伝いの疲れも全部吹き飛んだ。
ライナとシュリモナは僕のツボをよくわかっているなぁ。
僕の機嫌が良くなったところで、ライナとシュリモナが口を開いた。何を言われるか想像がついていた。
みんなにもう、さんざん聞かれたんだってば。『どうして、魔法科の食堂で働いているの?』って。だから『魔法科の敷地内に校則違反で何回も入っていたことがばれて、罰則として魔法科食堂でお手伝いをすることになったから』なんだよ。ああ、もう何回も答えすぎて、飽きちゃった。
でも、二人の口から出た質問は僕の予想とは違っていた。
「王子ナシュイハルトに話しかけられていたけどなんで?」
「どうして?」
「何て?」
「知り合いなの?」
「え?」
質問を畳み掛けられたので困惑していると、シュリモナが言葉を繰り返した。
「見間違いじゃないよね?食堂で王子ナシュイハルトと喋っていたよね」
「・・・うん」
どうしてこんな質問をされるのかわからないまま小さく頷くと、ライナとシュリモナの目が輝いた。
「どんなこと喋ったんだよ」
ライナに聞かれて、またもや意味のわからないまま答えた。
「普通科の生徒なのに、どうしてここで働いているの?って・・・てか、何?こんなこと聞いて何が面白いの?」
ライナはシュリモナと顔を見合わせ、そして言った。
「王子ナシュイハルトが自分から人に喋っているところ、見たことないんだ」
へ?
「それって、どういうこと?だって、ライナとシュリモナは同じクラスでしょ?」
「同じクラスだけど、俺もシュリモナもあんまり喋ったことないんだぜ、王子ナシュイハルトと」
へ?
「な、なんで?」
あんまり喋ったことがないってどういうこと?
「王子ナシュイハルトのまわりには、いつも5人の護衛がいるんだよな。同じクラスメイトだけど、王家の縁の5人の護衛らしくて、こいつらがぴったりガードしてるから、例えクラスメイトだとしても王子ナシュイハルトにはあんまり近づけないんだよな」
ライナの説明に今日の昼間の食堂での光景が目に浮かんだ。
確かに食堂に入ってきた王子さんのまわりには取り巻きのようにくっつく生徒が何人かいたっけ。
ライナが言葉を続けた。
「まぁ、秘密主義なのも、王子の宿命なのかもしれないけどな。本当は王子とか抜きにして、魔法科最強と言われるぐらいの力を持っている王子ナシュイハルトと、色々と喋ってみたいんだけどな」
そう呟いたライナはどこか寂しそうな表情をしていた。
寂しくなるのもわかるよ。クラスメイトなのにあんまり喋ったことがないって。まさか、あの王子さんにそんなことがあったとは。ん?あれ?護衛がぴったりガードって言うけど、階段でぶつかった時もさっきの食堂でも王子さん、ひとりじゃなかったっけ?
「でも、僕に話しかけてきた時、護衛さん?はいなかったような・・・」
「だから不思議なことが起こったんだよ。謎な部分が多い王子ナシュイハルトがひとりでレテに話しかけているっていう、さっきの絵はね。ライナと色々考えていたんだけど、知り合いとかじゃないよね?王子同士でとか」
「違うよ」
シュリモナの質問に僕は首を振った。それを聞いてシュリモナが首を傾げた。
「そっか・・・。何なんだろうね?」
「うん・・・聞かれたのはさっきも言ったけど、魔法科の生徒がどうしてここで働いているのかってことと、名前だけだよ」
「それって、レテってことは知っていたってことだよな。普通科の生徒だってことを知っているんだから」
すかさず聞いてきたライナにまたもや僕は首を振る。
「え、違うって。それも、聞かれたんだってば。普通科の生徒ですかって。だから、やっぱり僕のことは知らないんじゃないの?」
「うーん、わかんないね」
3人とも答えは出ず、頭を悩ますだけだった。名前が出たついでに僕は前から聞きたかったことを聞いてみた。
「王子さんって、どんな人なの?」
「一言で言えば、謎だな」
ライナの端的な言葉にシュリモナが続ける。
「そう、そう、いつも取り巻き達に厳重に守られているから、何もわかんないんだよね。ちょっと雲の上の存在って感じ。そして、いつもにこやかに微笑んでいるのが、また存在を神秘的にしちゃっているんだよね」
「そうなんだ・・・」
「あと、魔法の力が魔法科最強って言われてるな。今まで王子ナシュイハルトの魔法を何回も見てきたけど、凄いぜ。俺達とは規模が全然違うから。今日の実技演習試験2でも、部屋にいる全員が凍えそうなほどの、雪の魔法だったからな」
ライナの言葉にシュリモナが頷く。
つまり、王子さんは魔法の力が強くて、孤高の王子様って感じなんだね。
ふと、急に思い出したことがあり、僕は二人に尋ねた。
「そう言えば知らなかったんだけど、魔法科のテストって明日まであるんだね」
「え?前に言ったじゃん。銀国に帰る船が俺達のテストが終わってからになるから、だからそれまでレテは暇だなって話したじゃんか」
言い終わると少し呆れたような表情で僕を見るライナ。助けを求めるようにシュリモナを見ると、シュリモナの表情がライナに同意していた。
「そうだったっけ?」
二人が頷く。少しばつが悪くなりながら、僕は話を続けた。
「だったら、二人とも勉強しなくていいの?」
「大丈夫だよ。明日は遊びみたいな実技だから・・・」
笑顔で答えたシュリモナの表情が急に曇り、言葉が続いた。
「それより、レテ、食堂のお手伝いはいつまでなの?船は明後日に出るんだよ」
げっ!僕、銀国に帰れないの!?




